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双子の生い立ち


 太陽が沈み辺りが青く薄暗くなり始めた頃、ハーフエルフのリリルの双子の兄、マリルの救出を無事達成した俺は、ギルドに依頼の達成報告をするべく依頼者のリリル、救出対象マリル、そしてオマケに助けた小さな檻に入ったピンクの羽の生えたスライムを連れて歩いていた。


 ――スライムはまだ俺が抱えた檻の中だ。一応魔物だし色々相談してから檻から出す予定だ。


「ピィ、ピィ、ピィ」


『…スライムって鳴いたっけ?…どうだったかな〜』


『でもどっから見てもスライムだろ?日本人の俺でもわかるよ。羽生えてるけど』


『そうなんだけどね…』


 ──腐っても女神のミネルヴァが引っかかってるのは気にならないと言えば嘘になる。


『ちょっと調べとく』

『うい、頼むわ』


「――なあ、兄ちゃん」

 念話でミネルヴァと話していると徐に兄のマリルが話しかけてきた。


「なんだよ?」


「俺腹減って死にそうなんだよ。この町着いてから何も食べてないんだぜ!?」


 ――飯も食わずに海見に行くからだろうが。


「私もお腹が空きました」


 ――リリルは朝食べたんだよね?でももう夕飯の時間だもんな。腹も減るか。


「何か食わせてくれよ、俺たち金ないし」


「銅貨一枚でオマエを助けてさらに飯まで奢らせられるのか」


「クガさん、すみません。」


 依頼主のリリルは申し訳なさそうに謝る。


「まあ、俺も腹減ったし飯は食わせてやるけど、ギルドに達成報告してからな」


「やったぜ、あんがと兄ちゃん、案外イイ奴だな」

「マリル、クガさんに失礼よ。良い人だから破格の報酬で助けてくれたんじゃない!?」


 ──俺なりにハーフエルフの魔法という打算はあったわけだが、良い人だと思ってくれてるのなら、わざわざ否定はしない。


「オマエらどうせ宿も取ってないんだろ?今日は俺が泊まってる宿に泊まれ。金は出すし飯も美味いぞ」


「兄ちゃん神様かよ」

「何から何までありがとうございます、クガさん」


 ──神様は俺じゃないけどな。今頃神界で暇してる筈ハズ。


「子供が遠慮すんな」

 

 この言葉にリリルとマリルの双子は、満面の笑みを見せてくれた。


『お優しい事。それとも何か考えでもあるの?』


『そりゃ思う所はあるさ。いくら魔力が高くて魔法が強かろうが、こんな子供が2人で旅してるなんてワケありだろうしな』


『…』


『それにボードゲームの指示はパートナを得よだろ?可能性があるなら保護するべきだと思うし』


『何も考えてなさそうでちゃんと考えてるのね。少し安心したわ』


『とりあえず宿で詳しく聞いてみるさ』

『お願いね』


 そうしてようやく俺たちは冒険者ギルドに到着した。

 2人を連れて受注窓口へと歩いていくと、周りの冒険者達が驚いた様にざわつき始めた。


(あの女の子昼に頭下げまくってた子じゃないか?)

(もう1人いるって事は救出成功したのか!?)

(なんでアイツスライム檻に入れてんだ?)

(あんな報酬でよくやるよ)


 興味本位で冒険者たちは声を落として好き勝手話をしていた。彼らにしたら酒のつまみになればどんな話題でも良いのだろう。


 ――全部聞こえてるぞ。女神の祝福のせいか耳までよく聞こえる様になったからな。


 そんな声をあえて無視して窓口にギルドカードを提出する。


「依頼達成です。確認お願いします」


 確認と言っても、依頼者のリリルと救出対象のマリルがいるのだからスグに達成の確認が終わり、受注時とは違うスタンプの様な魔導具でギルドカードに判が押される。淡く小さな魔方陣が浮かびすぐさまカードに吸い込まれた。


「お疲れ様でした。今回の報酬の銅貨一枚です」

「ありがとう」


 そのやりとりにリリルが申し訳なさそうに俯く。その頭を気にすんなとばかりにグシャグシャと手荒く撫でてやる。その俯いた顔の頬はほんのり紅く染まっていた。


「それからクガ様はFランクながらCランククエストをクリアしたのと、問題になっていたならず者達の検挙に貢献したということでDランクに昇格となります。登録窓口で手続きをお願いします」


 なんと初の依頼で一発で2ランクも上がってしまった。


 またもやギルド内がざわつく。

 たまたまラッキーだっただけだろうと見下す者、羨望の眼差しを向ける者、嫉妬による猜疑心…そんな居心地の悪さを感じ、手続きをさっさと終わらせる為に、そそくさと登録窓口へ向かう。


「登録したその日にランク昇格した人なんてクガ様がはじめてかもしれないですよ」


 職員はそう笑顔で言いながらギルドカードに昇格の処理を施している。


「私はすぐランクアップするとは思ってましたが、初日に2ランクも上げてくるとは思いもよりませんでしたよ」


「たまたまですよ」


 ――どうでも良いから早く終わらせてくれ。居心地が悪くて仕方ないんだ。


 リリルとマリルも所在なさそうに、隅の方で小さくなっている。

 ――ようやっと手続きが終わると、俺は職員に簡単に挨拶を済ませ、双子を連れてギルドを足早に後にした。



「ふぃ〜居心地悪かった〜」


 首を鳴らし、肩を回しながら一息つく。


「兄ちゃん中々スゲェんだな」

「まさか冒険者になりたての方だとは思いませんでした」


 すっかり暗くなった夜の大通りを宿へと向かう途中で、双子は驚きを隠さず話しかけてきた。


「まぁ、2ランク上がったのはオマエらのお陰でもあるけどな。海賊崩れ達を仕留めたのオマエらだし」


「何言ってんだよ。その前に助けに来てくれただろ?登録初日の冒険者だってのに」

「そうですよ。誰も相手にしてくれなかったのにクガさんだけは優しく声を掛けくれて…崖から飛び降りたり1人で大立回りしたり…凄かったです」


 リリルは頬を染めながら、今日の出来事をマリルに言って聞かせている。

 するとマリルはニヤニヤしながら、冷やかしだす。


「リリル兄ちゃんに惚れたのか?顔真っ赤だぞ」


「マリルのバカ!」


 そう言うとリリルはソッポ向いてこちらを見ない。


 ――助け舟を出してやるか。


「──なぁ双子よ、俺の事よりさ、このスライムどうするよ?」


 小さな檻に入ったピンク色のスライムをどうするかだ。マリルに言われて連れてきたのはいいけど、一応魔物のこのスライムを街中で解き放つわけにもいかない。


「明日町の外で逃がしてあげましょうよ」


 機嫌を直したリリルがそう言うと、今度はマリルが機嫌を悪くする。


「俺はコイツに助けてやるって約束したんだからな。コイツの好きなようにさせてやりたい」


 真剣な顔つきでマリルは力強くそう言った。


 ──いっしょに捕まってて、妙な親近感持っちゃってるな。これも一種の吊り橋効果か?

 調べ物するって言ったミネルヴァもあれから音沙汰なしだし…何かわかったなら言ってくるだろうからなぁ…


 とりあえず飯食ってから考えよう。リリルとマリルの身の振り方も話さなきゃだしな。



 ドビウオ亭に戻った俺は女将に事情を話して、もう一部屋頼んだ。

 女将は二つ返事で了承してくれ、メルシーを部屋の準備に向かわせる。

 双子の部屋二泊分の料金銀貨8枚の支払いを済ませ、一旦部屋にスライムの檻を置きに行ってから、双子を連れてダイニングへと向かった。


 双子は余程腹が減っていたのか、ドビウオ亭自慢の夕食を次から次へと平らげて行く。


「落ち着いて食えよ」


「だってこんな美味いマトモな飯久しぶりだからさぁ」

「とっても美味しいです」


 リリルは朝屋台で飯食ったんだろう?マリルに負けず劣らず食べてるが…まぁいいか。


 二人の食べっぷりを見てるだけで腹が膨れてくる。


「もう食えね〜」

「ごちそうさまでした。」


 やっと満足したようだ。

 その満足気な顔を眺めながらお茶を啜る。

 二卵性双生児なのに、一卵性って言っても通じるほど瓜二つだな。見た目は恐ろしく整って可愛い。将来美男美女になるのが容易に想像できる。

 性格は真逆でむしろ妹のリリルのが、しっかりしてて姉の様に感じる。


 そんなこんなで楽しく食事を終え、俺の部屋で話す事にした。


2人をベッド座らせて俺は椅子に腰を掛ける。


「──さて、まずはお前らの話を聞く前に、スライムにも飯あげなきゃな。スライムって何食べるんだ!?」


 ゲームなんかで馴染みの深いスライムだが、いざ実部を見るとスライムの事を何も知らないことに気づく。


「食い物なら何でも食べるよ。個体によって好き嫌いはあるかもだけど」


 ――夕食に出たパンを一応数個持って来てはいるのだが、食べるかな?


「これ食うか?」

 檻の前でパンを振って見せてみた。


「ピイ!ピイ!」

 スライムは食べると言わんばかりに鳴くと、格子の隙間からニュルリンと滑り出てきた。


 ──!!え!?なんか勝手に出てきた!え?出れるの!?なら、なんで檻に入ったままだったんだ!?


「オマエ出れたのかよ!」


 マリルとリリルも目を丸くして驚く。


 そんな俺たち驚き様なぞどこ吹く風と言わんばかりにピンク色した羽根の生えたスライムは、俺のあげたパンを体内に取り込んでいた。


「ピュイ!ピュイッ!」


 パンを与えられて自分に害はないと判断したのか、スライムはポンポン跳ねたり、パタパタと飛んだりしながら俺や双子の膝や頭の上を行ったり来たりしていた。


 ――まぁ、敵意はない様だし、双子とセットで観ると凶悪なまでに可愛いし、少し放っておこう。


「じゃあ話を聞かせてくれるか?なんで子供2人だけで旅をしていたのか」


 そう聞くと2人は眉間に皺を寄せ、少しトーンダウンして話し出した。


「俺たちって2人一緒にいないと魔法が使えないだろ?そのせいで住んでた森を追い出されたんだ」


「私たちの母親が人間だったんですけど、1年ちょっと前に病気で死んじゃって…そしたらそれまで優しかった父が、忌み子の双子なんか育てるからだって言い出して…」


「俺たちの村では双子は忌み子と言われ、凶事の前触れとして恐れられてたんだ」


 寂しそうに話すマリルにスライムが慰めるかの様にすり寄った。


「双子だから、忌み子だから一緒じゃないと魔法が使えないんだと…このままだと村に災いが起こるからその前に出て行けと言われたんです」


 リリルの頬を涙が伝う。


 ──つまり…実の父親に捨てられたのか!?子供をなんだと思ってんだ!そりゃ日本とは価値観は違うのだろう…違うのだろうけど、実の子供にして良い事じゃないだろうよ。アカン…腹は立つけど、2人のこと考えると泣けてくる。俺こーゆー話弱いんだよ…て事はこの可愛い双子は、もう帰る場所がないってことか…


『…ぐすっ…』

 ──アンタもかい。


 俺も自然に流れ落ちる涙を拭きもせず話を聞き続けた。


「双子だから追い出されたんだけど、双子だから力を合わせて旅を続けられたんだ」


 そのマリルの言葉を聞いた時、俺の中では双子をどうするかすでに決まっていたのかもしれない。


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