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異世界ナビ


 ──天気は快晴。波は穏やか。

 そんな日の港町は、昼前ともなると活気で満ち溢れ、港で働く漁師達、魚を仕入れにくる商売人。新鮮な魚料理を目当てに集まる観光客、その観光客を目当てにした立ち並ぶ屋台の店員達。

 それからこの街を拠点とする冒険者。

 それら全てが絶えることの無い笑顔で、活き活きとしていた。


 ――そんな中、重い足取りで地面を見つめながら、宿へとトボトボと歩く新米冒険者が1人


「はぁ…疲れたわ〜」


 そう呟き、宿に入って軽く挨拶をする。手すりに体重を預けながらゆっくりと階段を昇り、突き当たりの部屋まで足を引きずる。


 ようやっと部屋に辿り着き、ベッドに身を投げ出した。


『──なぁ、ミネルヴァ』


『なんでそんなに疲れた声してるの?』


『なんでじゃねぇよ。ギルドの職員にメチャメチャ驚かれたわ。ステータスだけじゃなく所持スキルまでバレるんなら先に言っておいてくれよ』


『??別に不都合ないでしょう?』


『好都合不都合の話ではない。今日初登録しに来た新人が、女神の祝福やら飛竜の加護やら剣聖の魂やら、この世界の知識がない俺でも凄いとわかるスキル持っててみ?ステータスもバカ高いオマケ付きでな。ギルドからしたら、この小僧何者だ!?ってなるだろうがよ』


『──そりゃあなるでしょうね』


『何も知りませんわかりませんで押し通したけど、色々詮索されるのも面倒だろ?誤魔化すのホント疲れたわ』


『たかがそれくらいで情けない。久我はカイモンズを救うのよ!?たかがそれくらいサラッと切り抜けなさいよ』


 ――このクソ女神がぁ…他人事だと思って簡単に言いやがる――疲れ過ぎて今日一日食っちゃ寝して過ごしてやろうか。


『それで?聞きたい事は他にあるんでしょう?』


 本音の部分を見透かされる。頼りなく感じても、流石は神様というところか。


『ミネルヴァは全体的に説明不足なんだよ。俺が聞かない事は全部理解してるとでも思ってんのか?』


『一から十まで説明してたら、久我はまだ私の目の前にいるわよ。時間がどんだけ掛かるか考えなさい。わからない事をその都度聞けば済む話でしょ?不安な事は事前に聞いてくれればイイだけだし』


『事前に思いつかない事もあるだろ?』


『なら思いつく様に深く思考することをオススメするわ』


 ──ぐぬぬ…ああ言えばこう言いやがる。ダメだ…先に進まない…質問に切り替えていこう。


『じゃあ聞くから教えてくれ。この世界にレベルってあるのか?ゲームみたいに』

 ――ゲームならレベルアップでステータス向上と新スキル取得とかあるしな。


『ギルドカード見たらわかるでしょ!?ゲームじゃないんだから、レベルなんてないわよ。あくまでも経験による熟練度と、鍛錬によるステータスの向上、装備によるプラスα、それにスキルね。スキルはふとした時に身についたりスキルを突き詰めて新たに取得したりと色々よ』


『言い方!言い方に気をつけて!!』


『…飛竜の加護ってのは装備スキルだよな?効果は』


『そうね。装備スキルだから、装備してなきゃ意味ないわ。効果は着地の衝撃を和らげたり、跳躍時の滞空時間が長くなる事ね。一言で言えば飛び降り自殺は出来ないって事ね』


 ――厭な例え方しやがる


『つまり高所から落ちても死なないわけ?』


『そう言うことよ。使いこなせれば、スゴイ高さから飛び降りても死なないどころか、滑空して飛ぶことも可能よ』


 ――ふむ。使った事ないけど使える!使えるじゃないか!この飛竜のマントは大事にしよう。高い場所で戦闘になった時の命綱だ。


『剣聖の魂ってのは?』


『ああそれねぇ…イマイチ分かんない。バルムンクにそんな装備スキルなかった筈なんだけどね…』


『何それ怖い』


『悪いスキルではないとは思うけどねぇ…久我が剣は素人な筈なのに剣術を理解したって言ってたのが効果なのは間違いないと思うけど、こっちのデータにはそんな装備スキル書いてないのよね〜』


『つまりいつのまにやらスキルが付いてたと…』

『そうなるわね』


 ――何それ怖い…だいたい[剣聖の加護]じゃなくて[剣聖の魂]ってのも不気味だよなぁ、呪いの類じゃないことを祈ろう――


『そういやギルドで剣聖の魂の件で、邪神討伐のあの剣聖ですか?みたいなこと言われたけどバルムンクの前所持者て剣聖て言ってたよな?同一人物?』


『そうよ。物語に出て来る英雄ね。物語では[剣聖マナ・ブラックリーバ]という女性がバルムンクで邪神を討伐したって伝えられてるわね。』


 ――剣聖の名前はマナ・ブラックリーバか…


『ああ〜ミネルヴァも、よく知らないんだっけか?』


『そうなの…たかだか20年くらい前の話なんだけどね。邪神の件については創造神様も険しい顔するだけで詳しく教えてくださらなかったのよ。私達も幼かったしね』


 ──今サラッと聞き捨てならん事言ったぞ


『なぁ、20年前に幼かったってミネルヴァ今歳いくつ?』


 女性に年齢を聞くタブーを侵す。でも流すわけにいかなかった。


『言ってなかったっけ?24よ』


 ――若っ!俺と六つしか変わんないじゃん


『えーと…何でそんなに若いの神様なのに、この星の命運を、託されてんの?』


『言ったじゃない。創造神様が亡くなったからだって』

『いや、そう聞いたけれどもだな』


『これは私の考えなんだけど、おそらく創造神様はこんなに早く自分が亡くなる予定じゃなかったと思うんだ。私達がもっと力を付けて後継者として相応しくなったら、神の世代交代をする気だったと思うのよ』


『──想定外の事が起きた…と?』


『おそらくね…邪神討伐の際に星法器を使ったって教えたでしょ?

 想定外の事が起きて、寿命を縮めるくらいに力を消耗してしまったんだと思うわ』


 ――ふむ…物語に出てくる英雄マナ・ブラックリーバという名の剣聖と、剣聖の魂というスキル…そして想定外の消耗で寿命を縮めた創造神か…なるほど、分からん部分はあるが…

『その結果まだ若く未熟な神に星の命運を託すしかなかったという事か…』


『…』


『そして力不足の神のせいで星は衰退し始めて、異世界で平和に生きていた俺は巻き込まれてココに居る…と』


『力不足で巻き込んで悪かったわね…だからアナタとボードゲームに挑戦してるんでしょうが!

これはただの勘なんだけど、ミッションをクリアして星法器にエネルギーを貯めていくのは本当なんだけど、ミッションをクリアする事でプレイヤーと駒、アナタと私を成長させる目的なんだと思う』


『俺を成長させるのは星法器に効率よくエネルギーを貯めさせるため…ミネルヴァを成長させるのは星を守るため…なるほど…矛盾はしてないな』


 ――想定外の死期を悟った創造神の親心か…はたまた苦肉の策なのか…


『剣聖の魂ってのもその辺の事が関係してるっぽいな』


 もし、俺の予想が正しいのなら、邪神は本当に…


『ねぇ、女神の祝福については聞かないの?』


 俺の思考を遮って、話題を変えるかのようにミネルヴァは尋ねてきた。


『運動能力向上、異世界言語自動翻訳、初級四大魔法、それに異世界ナビ』

早口で捲したてる。


『アンタねぇ…』


『ちょっと1人で考えたいことあるから切るぞ』


『え?ちょ…待っ』プツッ


 ――これでヨシと…


『何勝手に切ってんのよ!?』


『ミネルヴァがさっき深く思考しろって言ったんだろ?だから今から思考の海にダイブするから切るぞ』


『待ち…』プツッ


 ――これで本当にヨシっと


 さっきの俺の考えが正しいのなら、いずれ面倒な事がゲームの指示に出る事になるだろう…なるほど…だからパートナーを得よか…辻褄は合うな。合うけど死ぬほど嫌だな。


 でもパートナーねぇ…どうやって探そうか…ギルドで仲間を募ってみるってのもありか。

 ベタな展開を期待すると、トラブルに巻き込まれてるとこや魔物に襲われてるところを助けたら、どこぞの貴族の令嬢やどこぞの王女だったてのが定番か。

 護衛依頼からの仲間入りとかもあるあるだし。



 ――ふむむ…とりあえず腹が減ってきたな。

腹が減っては戦はできぬ。深く思考するには脳に糖分が必要だ。

 昼飯食べがてらギルドに行ってみるか。


 そしてまた俺はギルドに向かって部屋を出た。




全然冒険してないな。

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