久我、冒険者登録をする
『起き…さ……きな…い』
う〜ん…うるさいなぁ…疲れてるんだから、もう少し寝させてくれよ。
『起……さい。いい加減に起きなさい!!』
──ハッ!?朝か!?ビックリしたぁ…寝過ごしたかと思った…
『やっと起きたか。ったく世話の焼ける』
――ミネルヴァが起こしてくれたのか。この異世界ナビは目覚まし機能付きっと。
『ねぇ久我、また何か失礼な事考えなかった!?』
相変わらず女神センサーは感度良好っと。怖いわぁ。
『気にするな、大して失礼な事じゃない。事実だ』
『大してって事は、少なからず失礼な事なんじゃない。アンタあんまり馬鹿にしてると罰当てるわよ』
『ごめんなさい』
『分かれば良いのよ。で?今日はどうするの?』
『どうするも何も、パートナーを得よって言われても何したらいいかわかんないし、とりあえず街を見ながら冒険者ギルドにでも行ってみるよ』
金が無くなりそうなら依頼で稼げ言われたし、ご大層な剣を携えてる身としては、冒険者登録しといた方がなにかと都合が良いと思うんだよね。
『そうね。冒険者登録はしといた方がいいかもね。情報を集めやすくなるし、ミッションに絡みやすくなるかもしれないし』
――そこまでは考えてなかったわ。
とりあえず飯食べてこよっと。
一階のダイニングでパンとスープの簡単な朝食を済ませる。
そこにメルシーが通りかかったので話しかける。
「おはようメルシー」
「あ、おはようございますクガ様」
「様なんて言わないでよ。それより聞きたい事があるんだけど…」
「何でしょうか?」
「この町の冒険者ギルドってどこにあるの?」
異世界ナビに聞けば多分すぐにわかるんだろうけど、やっぱり現地人とコミュニケーションしとかないとね。
『オイ』
ミネルヴァからの抗議の念話を華麗にスルーする。
「冒険者ギルドですか?宿をでで港の方に大通りを進んでもらうと左側にある大きな建物がそうですよ。人が沢山出入りしてるのでスグわかると思います」
「ありがと、後で行ってみるよ。ご馳走さまでした。昨日の夕食でも思ったけど、ここのスープは本当に美味しいね」
「ありがとうございます。トビウオ亭の自慢の一品なんです」
「今日の夕食も楽しみにしておくよ」
そう言って一旦部屋に戻ってきた。
さて、マントを羽織ってバルムンクを腰に…
イヤ…前から一度試してみたかった事がある。
「来い!バルムンク!!」
………もう一度…
「来い!!神剣バルムンク!!」
………
俺は静かに腰にバルムンクを装着した。
『……バカなの?』
──!!恥ずかしい!!ヤダ!恥ずかしい!!
『か…勝手に見てんじゃねーよ!』
『基本的にはいつも見てるんだけど』
『…暇人なんだな』
『来い!!だって。笑っちゃう』
『うるさいうるさい!俺が知ってる聖剣や魔剣の類は使い手が呼ぶと離れたトコにあっても飛んで来たりするんだよ!』
――アニメやラノベの話だけどね
『ならバルムンクにまだ認められてないんじゃないの?認められたら飛んでくるかは知らないけど…ぷっ』
──穴があったらめり込みたい…
『暇して見てるだけなんて楽でいいなぁ羨ましいですわ』
『そ、本当に暇だから早くミッションクリアして一旦戻ってきなさい。それとなるだけ念話で話しかけて』
――このクソ女神がぁ…許すまじ。いつか絶対復讐してやる。
『久我、アンタまた…』
『じゃ、冒険者ギルドに行ってきまーす』
俺はミネルヴァの言葉を遮る様に部屋を飛び出した。
――――――――
…さて、大通りを港に向かって左側だったな。
昨日は夕暮れだったからあんまり気付かなかったけど、やっぱ港町だけあって賑わってんなぁ。
人通りも多いし、店や出店も多い。お?イカ焼き見たいの売ってる。いい匂いだ。朝食少なめだったし一本食べてみるか!
「オッチャン一本くれ!」
「毎度!銭貨5枚ね」
――イカ焼き一本50円か…安すぎだろ。出来立てのイカ焼きに齧り付きながら考える。港町だから仕入れが安いにしても安すぎる。宿代から考えればこんなものなのか?日本の屋台ならゲソで300円位取られるぞ。
しかしイカ焼き美味いな。
タレの味が絶妙だわ。
歩きながらイカ焼きを堪能した。
大通りを進むと遠くの方に大きな建物が見えてきた。ヤケに賑やかだし、冒険者っぽい奴らが出入りしてるし間違いなさそうだ。
ギルドの入り口を冒険者達を横目にすれ違いながら入る。さっきの人達はパーティーなのかな?今から依頼に向かうのかな?なんかオラ、ワクワクすっぞ。
──さすが冒険者ギルド。すごい喧騒だ。
人を縫う様に歩き登録窓口に向かう。
当たり前の様に文字が読める事に改めて驚く。
『感謝なさい』
──くっ…思考を読んできやがる
「あの…冒険者登録したいんですけど…」
依頼受付窓口とは違って登録窓口は暇そうだ。
そりゃそうだよな、基本的には一回登録したら用ないし、新人もそうしょっちゅう来るわけじゃないだろうし。
「新規のご登録ですね」
受付の女性が話を続ける
「こちらの用紙に必要事項を記入してください。」
ふむふむ、名前と年齢と職業ね。おお!文字もスラスラ書ける!俺的には日本語書いてるつもりなのに。便利スキルだなぁ本当に。
『感謝なさい』
華麗にスルーする。
このスキル絶対日本に持ち帰るぞ!俺は固く決意した。
「これで良いですか?」
そう言いながら記入した用紙を窓口の女性に渡す。
「登録料銀貨1枚お願いします」
――やっぱ金取られるんだな。お金持ってて良かった。
『感謝なさい』
華麗にスルー。俺は付き合ってやってる立場なんだぞ!
「では、こちらの魔導具に手を置いて下さい」
──おお!よくあるステータス調べるイベントか!
言われるままに水晶のような魔導具に手を置いた。
すると小さな魔法陣が浮かび上がり、俺の体を頭から足先までスキャンするかのように動いた。
この魔導具でスキャンしたデータがそのままギルドカードとなって出てくる仕組みみたいだ。
その出来上がったカードを窓口の女性が目を通して、
「え?何このステータス…」
──ヤベ、チート能力もわかっちゃうのかなぁ…なんとか誤魔化さないと
「アキトシ・クガさん。アナタ凄いですね、何者ですか?」
「え?ただの冒険者志望の旅人ですが…」
「全体的なステータスもかなり高いんですが、見たことないスキルがあるんですけど…まさかユニークスキル…」
「自分ではわからないんですけど、ユニークスキルだとすごいんですか?」
女性は驚いた顔をして
「凄いなんてものじゃないですよ。どんな効果かは別にしてもユニークスキル持ちなんて1万人に1人いるかいないかですから」
「そんな確率なんですか。ラッキーですね俺は。で、どんなスキルなんですか?」
「一番凄そうなのが女神の祝福ってやつです。どんな効果があるスキルなんでしょうか?」
──異世界言語自動翻訳に身体能力を数倍にするスキルです。それに四大魔法も使えるようになります。
「それに飛竜の加護」
──まだどんな効果があるかはわかりません。
「それから剣聖の魂。剣聖って邪神討伐のあの剣聖のことなんですかね?」
「ちょっとわからないですね」
──剣聖の魂?なんじゃそりゃ。ミネルヴァは何も言ってなかったけど…もしかしたらアレか?
バルムンクの前所持者が剣聖って言ってたもんな。バルムンクから声が聞こえる気がしたのも、急に剣の使い方や体捌きがわかったのも、このスキルのおかげか?
「ちょっと自分じゃわからないですね」
「そ、そうですよね」
そう言ってカードが手渡された。
「初めはFランクからのスタートになります。依頼に個別にポイントが決められていて、100ポイント貯まったらEランクに昇格になります。クガ様ならおそらくすぐ昇格出来ますよ」
「ははは…わかりました。とにかく依頼をこなせば良いんですよね?」
「そうなります。わからない事はいつでも相談においでください」
「ありがとうございました」
──ヨシ。依頼を受ける前に色々疑問がわいたから、女神と言う名の異世界ナビに聞こう。
謎の疲労感に包まれながらトビウオ亭へと帰る俺の足取りは、これ以上ないほど重かった…