絶壁の女神様、ご乱心
とりあえず様子見の1話投稿。よろしければ見てください。
さとり世代という言葉を知っているだろうか?
やれ、熱意が無いだの必死になれないやつだとか、ゆとり教育の負の遺産だとか、世間様の評価は最低最悪のダメ人間扱いだ。
思い出すだけで煮え湯を飲まされたような感覚になるので、個人的な見解として言わせてもらう。
それの何が悪い
足掻いてなんになる。
人の社会に正しさは問われておらず、悪意だらけのクソみたいな世の中に何故期待しなければならない。
悪意がある合理的な人間が大半以上を占めている時点で結果は決まりきっている。そんな世の中を悟り、誰かに期待せず、必要以上に頑張らないことの何が悪いのか俺には到底理解できない。
何でこんなバカみたいに愚痴をこぼしてるかと聞かれると、こう答えたくなる。
死んでいるはずなのに、意識があるからだ。
新社会人であるこの俺、拙斎拓真は自転車の走行中、不幸にも黒塗りの車に追突することなく、示談金は回避したかに思えたが、避けた先に圧倒的存在感を放つトラックに激突しあえなく死亡。
俺の代わりに全ての責任を背負い、残された遺族に言い渡された示談金については、多大な混乱を招くためコメントは差し控えさせていただきます。
まあ、そんなことはどうでもいい。重要なのは、何で俺がこんな所にいるのかだ。あの世では放置プレイがはやってんのかよ。失望しました神様を信仰するの止めます。
そんなどうでもいい思考をかなぐり捨てて、俺は周囲を確認した。
辺り一面、白黒のモノトーンが包み込んだ1LDKくらいの大きさの部屋で、前方には意味ありげなガラス細工みたいな玉座があるくらいで、それ以外にめぼしいものは存在していない。
「白が天国、黒が地獄と考えれば、俺の人生は随分と中途半端な生き方だったな」
「ふふ、身の程が分かっているじゃない。人間としては知能レベルは低くないようね」
「だっ、誰だ!?」
誰も存在しない部屋のはず。声の主を探そうと見渡すが、それらしく人物は見つからなかった。探し疲れて、偶然、玉座の方に目を向けるとホログラムが浮かび上がるかのように、人の形を何かが実体化しようとしていた。
始めに理解出来たのは、玉座に座っている人物は女性であるということだ。妖艶さを具現化したような桃色の髪は、遠目で見ても潤いや艶があり、よほど丁寧に髪を手入れしているのだろう。
その髪を損なわせることがない顔の造形は完璧で、幼さはあるものの絶世の美女と呼ばれても過言ではない。純白のフリルローブを身にまとい、スカートの裾にはヒラヒラとした白い小さな布がたくさんあって、より可憐さを引き立てていた。
女性の理想であるかのような、体の黄金比を体現したスタイルはまるで芸術品のようだ。 しかし、胸の大きさは断崖絶壁と言っても過言ではないくらい残念だ。そびえ立つ壁であることが、本当に残念だ。
「ちょっと!!あなた、私が心を読めることを知っててわざと言っているでしょう!? 」
「はははっ。意図的に言った訳ではなく偶然です。まさか心を読まれるとは・・・・・ 」
誰かは分からないが、綺麗な人であるというのは事実なので許してほしい。
「ご、ごほん。まあいいでしょう。先程の非礼、特別に許します」
彼女は咳払いをしてから品定めするように、俺の目を見つめてきた。プライバシーの秘匿すら認められずに、また心を読まれているのだろうか。
「すみません。あなたは一体誰なんですか?」
閻魔様にしては、物凄く威厳が足りていない。神様の使いである天使なんだろうか。とりあえず、相手のペースに乗せられたままなのは、面倒だ。主導権を貰って、現状を知ることが先決だろう。
するとその女性がおもむろに立ちあがり、名前を告げる。
「申し遅れました、私の名はディーナ。あなたの世界だと女神と呼ばれるものです」
はっ?え・・・・・め、女神って、様つけなあかんやん。
不敬罪やで、不敬罪はヤバイで。首ちょん切られて、神々の住まわれている神殿の柱とかに首を吊るされるかもしれんで。
「そんな悪趣味なことは悪魔しかしません。すぐに名乗らなかった私に責任があります」
「め、女神様~」
いや、本当に助かった。こんなことで地獄に叩き落とされたら、たまったものでない。死ぬときは天国でダラダラとさ死後を過ごせるようにと、生前ではよくご先祖の墓の前で祈ったものだ。
「ふむ、どうやら私が思っている通りの人物のようですね」
「と、言いますと?」
「俗物にまみれ、堕落の限りを尽くして死んだ最低の人間です」
「えっ!?」
女神様から冷ややかな目で見下されながら、罵倒されるのは精神的に辛いものがある。しかし、状況が状況のため心を押し殺し耐え忍び、冷静に思考にふける。
こいつはヤバイことになったかもしれない。女神様の心象が最低最悪のダメ評価で地獄に落ちたとしても何一つ文句が言えない。
くっ、こんなことなら、会社のサービス残業の五分や十分くらいやっておくべきだったか。いや、ダメだ。定時退社は俺の生きがいだ。そんなもののために時間を使うなんて普通じゃ考えられない。
考えれば考えるほど、女神様の視線はさらに冷たくなって、表情もより一層険しい顔になっていた。突然、背筋がゾクりとする感覚がしてきた。
「・・・・・本来なら地獄に叩き落とされてもおかしくはないのですが、特別に私の言うことを一つ聞けば、天国に連れていくことを一考してあげましょう」
「ほ、本当ですか?ところでその、私なんかに出来ることは限られてきますよ・・・・・」
焼きそばパン買ってこいよ的なノリで使い走りにさせるのであれば万々歳なんだが、神様の頼み事だ。うまい話には必ず裏があるわけで、無理難題の頼み事の可能性が非常に高い。
来世は荷馬のように何一つ文句を言わず働き続けろとか、 働くときは二十四時間フル稼働で手を抜くなとか、実験動物扱いにされてもそれを糾弾することは叶わず抗いようがない。
希望を与えてから、絶望に突き落とすことで、喜びを感じているのかもしれない。
「私はそこまで酷いことはしません!!なぜあなたは悲観的なことばかり想像するのですか!?」
「女神様がこんな虫けら以下の人間に慈悲を与えてくださるのが、にわかに信じられない出来事でしたので。きっと神々の遊戯の生贄に捧げられるのかと思っていました」
わりとありがちな話だからなあ。とある神様がお遊びだからといって人間同士でデスゲームさせるなんて、現代における話の題材にはゴロゴロと転がっている。
だいたい、神様と謁見できる時点で都合が良すぎる。もし俺が神様だとするならば、こんな矮小な人間に頼むよりも、古来より伝わりし偉人たちに頼んでるわ。
まさかり担いだ人物でもいい、あるいは第六天魔王と呼ばれた天下人の素質があった人物の方がよっぽどいい。
そうこう考えていると、女神様がうつ向いて、体を小刻みに震わせていた。よく見ると少し涙目になっている。
「何も好き好んで、貴方の魂呼び寄せたのでありません!この喚魂石でやって来たのが偏屈な貴方の魂だったんです!!」
涙を流しながら女神様が叫ぶとそれに反応するかのように、この部屋が激しく揺れ始めた。女神様が取り出した白く透き通った宝石のような物が、力強く握りしめたことによってバキリと音をたてて破片が床に散らばる。
はわわわ。これ絶対にあかんやつやで。なんか知らんけどめっさ嫌な予感がすんで。
その予感が的中したのか、この部屋の白黒の床が突如としてホログラムのようなデータ状の物に変化すると俺はボッシュートされる感じで落下した。
「貴方には私と共に世界を救ってもらいます!拒否権はありません!」
「そんなことより、何で落下してるんだ! たっ、助けてくれ~!! 」
ここから、俺と滅茶苦茶な女神様との波乱万丈の物語が幕を開けた。
ブクマ100、もしくは総合評価100円以上で続く。