ACT.88 子供達の戦いと大人たちの事情
ベットに手錠を繋がれ、何も出ないまま約束の時間まで残り2時間
オレの監視役としてサングラスをかけた立花ってオッサン…いや、お爺さんっていい年配か?
こんなジジイすら張った押せない状況にイラつきを覚えて、手を強く握る、悔しさと、オレ自身の無力さを恨んで
「坊主、落ち着け。そんな気構えていてはな?こっちもやりづらいぞ?どうだ?リンゴでも食うか?」
立花のジジイはリンゴを器用に剥いて、カットして皿に盛りつけて差し出す
「…いりませんよ」
彼の差し出したリンゴを拒絶する、何を食べるとかそういう気分ではない
「だが坊主、お前さんロクに飯を食っていないだろう?いざという時に何も出来ないぞ?腹が減っては戦が出来ないってな?」
言われたとおり、確かにロクな食事をしていない。食べても吐き出してしまう程の精神状態だったからだ
奴らにコキ使われるようになったおかげで、だいぶ痩せた気もする
「いざって…一体オレに何が出来るんですか?いや、なにもさせる気もないでしょうが」
ベットに手錠に繋がられているのだから、立花のジジイの言葉に説得力はない
「確かに、オレたちは大人には出来ない、悲しいことにオレたちは立場のある大人…だがな坊主、腐らずに諦めるな、チャンスがあればその機を逃すな」
「一体どういうことです?」
「さあな…だがな、必ず機会は訪れる。あの娘を信じてろ」
市民会館地下 会議室
小柳指揮官の話の意図はなんとなくわかったが、どうにも腑に落ちな部分もある
救出をやるにしてもリスクが高いことと、こちらの損害は大きくなる…それに見合うようなことがあるというのか?
ヴィシュヌの構成員である外人二人の話から、今回の事件についてますます不可解な事がある
なぜヴィシュヌは前科持ちの窃盗犯をこの短期間で探し出せたのかという疑問
彼らの話から活動は約3か月前から、これはこちらが事件が把握してる時期と合致しているが、ただの犯罪組織とは言え小物クラスの窃盗犯の情報を得るには何かしらの情報ルートが考えられる
家族構成や、弱みまで知り得ている…そして、短期間であっても、ここまで大きい知名度のある犯罪組織が日本国内で動いてて、それが公安が把握していないのはあり得ないということ
「警察内部に…それも公安にヴィシュヌの協力者がいるだとしたら…」
可能性としてあり得るが…証拠も根拠もないのだが、もし小柳指揮官がそれに関して調べているのであれば手こずっているか、迂闊な発言も出来ない状況だとしたら
会議室の考察していると、携帯端末から着信が入る、相手は市民会館の責任者だ
〈風間さん、警察がそちらに伺いたいと来ています〉
「早いな…2時間後だと聞いていたが?」
〈それが…おそらく彼らはこの地区担当の警察ではありません〉
責任者もアルカディア機関の人間であり、ただの者ではない。地元警察、刑事の面識があるのだからわかる
「わかった、通せ」
島田と合流し、二人でエレベーターで待つ
「島田、どう思う?流石に早すぎないか?」
「なんというか、焦っているんじゃないか?いつものなら時間通りに来るはずなのにここまで前倒しなのは…」
「だよな…特務機動隊の秘匿性にも問題が出るから、約束通りの時間に来るはずなのだが」
エレベーターの扉が開き、3人のスーツを着た刑事…一人は背丈が低い小柄な中年とその部下という感じか
「ほうほうあなた方が特務機動隊ですか、噂はかねがね…」
「…貴方達は、公安か?」
「ほうほう、なら自己紹介は必要ありませんね?」
最初に名乗らないのと、初対面の印象と、先ほどの考察の先入観から公安の人間であること指摘した
「そうですね…私の事は"ピース"と呼んでいたたければ」
「ここの隊長の風間だ…それで、あなた方は一体何の用ですか?」
「おやおや?我々は窃盗犯3人の身柄をもらいに来たんですよ?」
「約束した時間より早いようですが?それはなぜ?」
「なにか不都合でも?」
ピースは慌ててるような様子はないが…どうにもこちらの組織の事情を分かっていないようである
「…ご案内します」
とりあえず、外人2名を拘束している部屋に案内しようとしたが
「ああ、まずは日本人男性の方をお願いしますね?」
先にそっちを案内するように言ってきたのだ。どうしてと聞きたいが、理由はない
言われたとおりに須田良輔を拘束している部屋に連れていくことにした
そしてその部屋の前の廊下で…彼は待ち構えていた、金色と翡翠色の瞳は力強く、意志を貫こうとする輝きすらあるように…真っ直ぐにオレたちを見る
「つくづくタイミングが悪いというか…時間がないというのに」
「神也…どういうつもりだ?」
神也の両手には特務機動隊が制圧目的で開発されていた格闘戦装備の為の、籠手…ガントレットが装備されていた
「僕は救いを求めるものを見捨てるようなことが出来ない。例え特務機動隊やアルカディア機関を敵に回してもね」
「…本気だな」
オレと島田は身構えるが…
「おやおや?特務機動隊というのはこんな子供もいるのかい?風間さん?」
神也の事をわからない者からすれば、彼はただの高校生の一年生だ。そんな反応になってもおかしくない
「ボウヤ、ここからは大人の世界だ。子供が首を出すようなことではない…実力行使をするというのなら…」
ピースの合図で部下2名が神也に近づく、目的は彼を取り押さえることだがろうが…
「少し痛い目を見てもらうことにな…」
ピースの部下2名が神也に近づいた瞬間、電撃の光が走り、二人とも泡を吹いて倒れこむ
神也に返り討ちされたのだ
「僕の邪魔をするのなら、痛い目をどころじゃ済まないぞ?」
ニヤついた余裕のある表情をしていたピースは驚きで見開き、感情を露わにして神也に銃口を向けた
「ガキが!」
オレと島田がピースを止める前に発砲され、銃弾が神也に向かっていく
間に合わないっと思っていたが、次の瞬間にオレと島田の間をすり抜け、ピースの頭上から、かかと落としを叩き込む神也の姿が映った…
奴は、撃ってきた弾丸に恐れることなく前進しながら避けて、ピースを向かっていったのだ
神也の身体能力、動体視力はオレが想像を遥かに超えていた、奴は見えていたのだ、音速クラスで向かってくる弾丸を
かかと落としを食らったピースはその場に倒れこむ
「オイオイマジかよ…あのオッサンマジで撃つとはな」
「相手が神也でよかったというべきか…だが」
こちらに振り向く神也に反応して、再び彼の前で身構える
「…通してくれませんか隊長、島田さん。僕はあなた方と戦うようなことはしたくない」
特務機動隊員二人がかりでも神也という化物には到底太刀打ちできないのはお互いにわかっている、だが責務は果たさなければならない、特務機動隊という組織の一員として
「…羨ましいよ神也、君の立場と決断力と行動力は…オレだって君に同じ立場なら、同じ行動をしていた、目の前に救える可能性があるなら、救いたい。だが組織の一員として、隊長として、秩序と命令と特務機動隊の役割は守らなければならない」
「こっちもだ神也、ここを通りたければ、オレたちを倒せ…これじゃ悪役側のセリフだな」
「いや、案外ヒーロー側にもそういうセリフがありますよ島田さん」
勢い良く、部屋の扉を開ける
「早かったなボウズ、随分バタバタしていたみたいだが?」
「ええ、ここで止めるとか言い出さないでくださいよ立花さん。流石に加減できるかどうか…」
「まさか、この老体でそこまで無理する気はない…連れて行くんだな?」
立花さんはなにかも察していた、いや、期待していたのか。すんなりとこちらの要求に応じる
「おいおい!?一体なんだよ!?さっきの銃声とか!?」
さっきの騒ぎで驚く須田の手錠を解く
「これから須田莉々を救出に向かう、お前にも協力してもらうぞ須田良輔」
「!!?ホントか!?」
「ああ、詳しい話は移動しながらだ。時間も惜しいし、装備ともう一人連れ行く奴がいる」
電子ロックしてる扉の鍵が、解除ではなく、あきらかに破壊されたような音とも扉が開く
「随分騒がしいわね、まさかアンタ相手に隊長達が銃を撃つなんてね」
扉をこじ開けた待ち人は無傷でいたものの、心配を込めて尋ねる
「いや、撃ってきたのは隊長達じゃない。刑事らしき連中だ」
「刑事?須田達を迎えに来たのかしら?それにしては随分早すぎるんじゃない?」
「まあ、隊長達ともに気を失っているがな…それよりも加奈、よくもやってくれたな。人を騙して使おうとするとは悪い奴だ」
言葉はあれだが、表情はニヤついてとても不服とは思えない
「…んで神也、私をどうしたいのかしら?」
察してくれるように神也に問いかけ、彼は私に拳銃の銃口を向ける。それが例え建前であっても
「協力してもらうぞ加奈、須田莉々の救出及び窃盗団のヴィシュヌのアジト潰す為にな」
「脅されては仕方ないわね、行きましょうか」
ベットから事前に用意した装備、武器一式入ったバックを出して立ち上がる
「加奈、これを返すぞ。大切な物なんだろ?」
神也に渡されたのは、GT-Rヴャルキリに差し込んだ徹也のUSBメモリー
「オウガを乗っとるAIとはな…そのおかげでこの状況に気付けたんだが…悔しいというか、複雑だ。オウガはオレにとっても自信作だったんだがな」
「天才にも、悔しがることがあったのね」
神也と須田と共にヴャルキリのドックに急ぎ、整備員や柴田さんを実力行使で無力化し、それぞれのヴャルキリに乗り込もうとしたが
WRXヴァルキリに既に乗り込まれていた者に拳銃を向けられる
「…私がここに来ることを信じていたのかしら、リィン?」
「小柳指揮官とのらしくない会話と、これだけの騒ぎを起こせばね…手を挙げないさい加奈」
リィンは銃口をこちらに向けたまま降り、私と対峙する
〈加奈!〉
「神也、須田を連れて先に行って!必ず後を追う!」
〈…わかった、信じてる〉
激しいスキール音ともに、GT–Rヴァルキリがドックから飛び出す
「加奈、悪いけどGT–Rもここから出させないわ。気づかないかしら?残り3台のヴァルキリはどこにあるかって」
「…やっぱり、敵に回すと厄介な相手ねリィン」
この場にいないヴァルキリ3台、つまりは私達に立ちはだかる存在ということだ
「お互い様よ、一体どんな手を使ったのか知らないけど、監視カメラと一部システムをダウンさせるとはね。加奈、今すぐやめるなら、お互いに痛い目を見ることはない」
リィンの降伏勧告は、私達を絶対に止めることが出来るからこその言葉だ