ACT.75 一年前の出来事2
喫茶店 たかのす
部活動終了し、解散した後、結衣、奈緒と阿部と私で店内を貸し切り状態にして集まった
徹也には女子会的なことを言って先にアパートに帰らせた。当人にも話したがらない出来事をAIのアイから聞き出す
アイに明堂学園時代の話を聞きたいと頼むと、彼女のAIユニットに入っているサブストレージのうちの一つを渡され、PCなどの端末に繋けば行けると言われた。電子機器に関連になると徹也以外だと阿部仁が適任であった
ノートPCにアイのサブストレージを繋げ、キーボードを打ちながら設定していた
「どう阿部?行けそう?」
「もう少しだ奈緒・・・よし、設定完了だ!」
黒画面のコマンド画面が消え、PCが再起動し、AIアイが起動した
〈サブストレージモード、PCスペックギリギリ・・・ロースペックモード設定中・・・〉
「なんか色々設定してるけど大丈夫なの?ノートPCの性能が低いんじゃない阿部?」
「いやいや、アイの要求するスペックがおかしいんだよ。一応これでも現行ハイエンドモデルのノートだぞ?」
「そんなに違うの?」
「たぶん、あのAIユニット本体だけで軽の新車一台買えるレベルの値段だぞ。CPU4つ積んでるAIユニットなんて聞いたことねーよ」
「阿部君、アイちゃんってその本体から切り離した部品だけ動くものなの?」
結衣の疑問、奈緒や私も同じことを思っていた。奈緒もメカニックでありある程度の電子機器は理解はあるが、そこまで専門的なことはわからない
「アイちゃんの本体はそのサブストレージ、もしくはメインストレージのデータのプログラム・・・まあ簡単な話そのストレージが人間である脳髄であって、AIユニットはただの体や器というべきかな?脳があればどんな端末であろうがAIアイとして成り立つ。ほら、AIロイドもそういう理屈なんだよ」
「つまりアイちゃんのデータをコピーすれば高性能なAIユニットは使いたい放題ってこと?」
「いや、AIユニットは基本的にコピーは出来ないし、アイちゃんもオレたち側ではデータプログラムをコピーすることはできない。ただアイちゃんは自らの機能を拡張させて、自分の意志でデータのコピーが可能になってるみたいだ。サブストレージにデータをコピーできたのはそういうことらしいな」
つくづくとんでもないAIね
〈設定完了、メガネ様の割にはいいノートを使っていますね〉
「それはオイラに対して皮肉として受け止めるべきかアイ?」
なぜか阿部に対しては辛辣なアイ
〈それより、明堂学園時代のマスターの話を聞きたいということですね皆さま?〉
「ええ、徹也が頑なに言いたがらない過去ね?」
〈奈緒様なんだか楽しそうですが、先に言ってしまえばマスターが話したがらないのも無理がないぐらい気持ちの良くない話であるのと、明音様のことを悪く人にしたくないということですね〉
「・・・以前、渉君から聞いたけど。お兄ちゃん以前トラックの下敷きになって話も関係あるのアイちゃん?」
〈そうですね・・・順を追って話す前に明堂学園と明堂一族の話をするところか始めましょうか〉
〈明堂一族は所謂名門財閥の一族であり、金堂宗太様の金堂家や銀堂家、黒堂等・・・古くから経済界や政治界に影響を与える人物は明堂学園出身、もしくは一族の親族ともされています。そして明堂一族には一族栄光主義というのかつて掲げていました〉
「一族栄光主義?何それ?」
「私も機関の会議でちょくちょく聞いた単語だけど・・・なんなの?」
〈学園内で明堂一族を文武共に活躍させるというものです。明堂一族は優れた人間であるべき、一族の人間は秀でた人間であることを証明しなければならない。どんな手段を使ってでも、他者であろうが仲間であろうが蹴落として、栄光をや手柄を奪ってでも・・・逸材呼ばれる人間も潰されるのも日常茶飯事だったそうです〉
「現代でそんな話があるものなの?」
〈かつての話です。現在の明堂一族当主はそれを快く思わず、自らの実力で栄光を掴み取れというお方になったのでそういう傾向は減りました〉
「減っただけで、廃れたわけではないということね?」
〈その通りです加奈様。特に黒堂家は未だにその一族栄光主義にすがってる傾向がありました。そしてこの黒堂家が問題でした〉
〈一年前の明堂学園は当主家系である明堂家から明堂明音様、そして妹の明堂明理が入学。明音様はレース活動における武に秀でており、明理は勉学や理系等に文に秀でた存在であり、黒堂家はもちろんほかの一族も彼女たちの活躍を期待していました〉
「姉妹合わせて文武両道ってか?でもまあ、見栄える姿かな?美人な姉妹で」
「いや奈緒、姉の明音さんはわかるが妹の方は美人かどうか見てないからわからないだろ?」
「いやいや、あのお姉さんの妹なら可愛いと思うわよ。女の勘って奴かしら?」
〈奈緒様の言うとおりですよメガネ様、分類的には美人です。美人姉妹合わせて文武両道。しかしそれ以上の人間が入学したことで事態は変わりました〉
「徹也って訳か」
〈その通りです加奈様。マスターは明堂学園の入試を主席で合格し、明里の立場を揺らぎさせ、レーシング部門でも1on1で当時のマスターに勝てるのは海王渉様ぐらいでした〉
「首席って・・・徹也ってそんなに頭がいいの!?」
「あー・・・クラスが違う奈緒はわからんかもしれないけど、徹也の奴かなり学力高い。小テストとかほとんど満点叩き出すしマジでなんなのって感じで」
〈学力うんぬんというより、頭の使い方がいいとも言えますマスターは。その知識と戦術と観察眼を持ち合わせたドライバーこれまでにいなかったドライバー故に、明音様含めた明堂学園に属する強豪達はマスターに1on1では勝てませんでした〉
「しかし何で結衣と加奈のような速いドライバーでもないのに、徹也って負けないのかな?」
「メカニック側から見ればその疑問はごもっともだし、データ上で測れない。これはドライバーだからわかるんだけど、徹也の後ろを追うのも前を走るのもやり辛いのよ。いつ仕掛けてくるかわからないし、ベストラインのアウト・インのラインを取れば間髪入れずに仕掛けてくるから速いライン取りは使えない、現に徹也と模擬戦をやるとタイムが落ちるのよ」
説明しても、奈緒は納得出来ていないようだった。レベルの高いドライバーであればある程、徹也との1on1はやり辛いし、対戦すればする程疑心暗鬼の陥る
高レベルのドライバー揃いであろう明堂学園でも、戦術を用いる相手は前例がないだろうし、対処しようがなければ徹也にとってはいいカモだっただろうか
〈明堂学園の1200クラスの前期大会出場メンバーを決める方法は学園内選抜を勝ち抜くことでした〉
「学園内選抜?」
「そういえば、渉君もそんなことをいっていたような」
〈明堂学園のドライバーだけでも100名を超えているのと、当時の銀堂監督は実力主義の掲げていました。自主性と協調性・・・チーム編成も車の仕様も改造もドライバーとメカニックの生徒同士決めていました。そしてマスターは渉様と椎名陽葵と1年生と2年生のメカニックでチームを編成していました。SGTをいどむ戦力としては最強のチームであり、明音様の1200クラス正式戦の参加を危ぶまれていました〉
「実力で決めるなら仕方ないことだろうけど・・・」
「・・・ちょっと待って、確かお兄ちゃんがケガをしたのって」
以前徹也から聞いたことがある、1200クラスの前期地方大会は開催は6月であり、その前に大ケガをしたということをということは
〈ええ、黒堂家当主の仕業です。彼は明音様を参加させるために、マスターを気に入らないメンバー。行衛康彰や他数名を利用しマスターをトラックの下敷きにしました〉
「徹也が半年以上の大ケガの原因は明堂一族によるもの・・・」
〈幸い命に別状はなかったものの、チームには不安と揺らぎが出ました。明堂一族に逆らえばどうなるかということを。戦力ダウン共にある種の見せしめもありました。ですが結果的にこれがより一層手が付けられない程チームを強くしてしまう原因にもなりました〉
「オペレート・コ・ドライバーか!」
〈マスターの戦術と観察眼による的確な指示とただでさえ速くて強いドライバーである渉様と陽葵様はもはや鬼に金棒とも呼べる存在。学園内選抜はマスター達の圧勝でした。この結果に流石に一族栄光主義派の連中も認めざる得ない事態になりました〉
「スポンサーも関わるから、確実に結果を残さないといけないからか」
〈結果的に、1200クラスの前期全国大会優勝という栄光を手にしましたが、一族栄光主義派と黒堂家が望む結果ではなく。当時明音様の評価もガタ落ちしました〉
「相手が悪すぎたとも言えるけどね・・・」
その頃か、アルカディア機関が山岡徹也、SSR計画のプロト0が存命していた事実と別の可能性を見出したのは
〈その後明堂学園は大幅に変わりました、まず当時の明堂学園の理事長であった明音様と明理の父親を追いやり、黒堂家当主が理事長になり、銀堂監督も解雇されてました。全ては明音様と明理を活躍させる為だけに〉
「とんでもない奴らね・・・あれ?明音はわかるけど妹ってモータースポーツ部に関係あったの?」
〈明理は電子機器の開発においては天才的であり、私を作ったのも彼女です。忌々しいことに〉
「随分嫌ってるわね」
道理で明理だけ呼び捨てだと思ったら
〈実力主義のモータースポーツ部は一変し、明堂一族の為の場所になってしまい、去っていく者もいました。新しい指導者は明音様や宗太様を優先し、それ以外をないがしろにした。ハッキリ言えば環境としては最悪でしたね、明音様も宗太様も苦言を言うほど〉
「それで辞めなかった徹也とか海王渉って・・・」
〈むしろマスターがいなければもっと辞める人が多かったかもしれません。ケガをして運転できないとは言え、人と車を見る観察眼の高さと故に人を教える能力は高く、これまでのノウハウと作り上げた戦術的な走りを教授を求める人は多く、黒堂家も彼を利用することにしました。結果的に一族の手柄になればいいのだから〉
「そしてその環境でも明堂学園は前人未到の2連覇を果たした」
〈かなり紆余曲折の出来事はありましたけどね、私にとっても・・・しかし、マスターの存在、山岡徹也という存在は黒堂家当主にとっては非常に目障りな存在ではありました。例のトラックの事故の件も行衛や関わった生徒たちを退学にし口封じしたものの相手はマスターやその親族です〉
下手に探られて大けがの原因になった事故の件を暴かられるかる可能性もある、そういう意味合いでは目障りなのだろう
〈それと、明音様と明理はマスターに好意を抱いていた。これが一番の原因でした〉
明音は知っていたが、その妹もかい
そして、なぜか三人とも私のほうに顔を向ける
「な、なによ?みんなしてコッチを見て・・・」
「いやー・・・彼女として、どういうものかとね?」
「奈緒、それでも私を選んだのは徹也よ?誰に好意を向けられたとかそんなのは興味は・・・無いわけでは無いけど、信じてるからね?」
「いやーそこまでハッキリ言うとは・・・そこの二人も見習って欲しいよね?ねえ奈緒ちゃんに阿部君?」
結衣の言葉に思わず赤面しつつ、目線を逸らす二人
〈まあ、奈緒様が思うよなことはないと思います。マスターも明音様も明理も、好意があっても決して相容れない同士であるのはわかっていますからね〉
「相容れない?」
〈明音様はドライバーとしての対抗意識、そして明理はメカニックとして、車という機械に人は操られるべきという思考の持ち主でした〉
「あー・・・なるほど、そりゃ徹也君と相容れないか」
「どういうことなのよ阿部?」
「徹也君もオイラが意気投合してる部分として、機械と人は共に歩むべき存在って考え方なんだ。しかしアイちゃんのようなAIを作った人がそんな考えの人とは到底思えないな?」
〈メガネ様の疑問はごもっともかもしれませんが、かつての私も製作者である明理の思考通りの設計でしたが・・・まあ少し話は長くなりますのねいつかの機会で〉
そういえば、今のアイを作ったのは徹也であり、それ故にマスターと呼ばれているという話は聞いていたが
〈黒堂家当主は厄介になりそうなマスターを排除しようと企みました、それも社会的に抹殺する手段を取りました・・・〉
なぜかここで話を止めるアイ
〈メガネ様、少し席を外してもらっても?この先は男性の方に聞かせるには少し・・・〉
「そんな内容なのか?」
「阿部、悪いけど・・・」
やれやれという感じで、席を立ち、喫茶店の外に出ようとする阿部
「ごめんなさい阿部、この借りは奈緒がデートするからチャラにしてちょうだい?」
唐突のデートの提案をされ、奈緒と阿部は驚いていた
「なんでそうなるのよ加奈!?」
「嫌なの?」
「い、嫌じゃないけどさ・・・その、心の準備とか」
案外乙女な奈緒である
阿部を喫茶店の外に出し、話を聞かせないようにした
「さて、アイ。話を続きを」
〈わかりました加奈様。3学期の頃、明理は黒堂家によって強姦されました〉
想像以上にぶっ飛んだ内容だった、なるほど男に聞かせられない話か
「な、なんで、そんなことに?」
〈言ってしまえば私のシステムを逆手に取られたというべきでしょうか、そしてマスターを誘い込む罠として。覚えていませんか奈緒様?私が地方大会の時にマスターが倒れたことを知っていたことを?〉
「あ・・・そういえばそうだっけ?」
〈私にはマスターと、そして明理のバイタルチェック機能がついており、事態や危機を把握できます。明堂学園内で起きた事件だと警察に通報しても手遅れか介入できない可能性がありました、そしてよりによって頼りになり得る明音様は海外にいた為に私はマスターに助けを求めました。結果的にマスターは明理様を救いましたが、黒堂家は明理に強姦した罪をマスターに擦り付けました〉
聞くだけではらわたが煮えくり返すような内容であった、しかし実に徹也らしくないとも言える。徹也がそれを罠と知らずに行動するとは思えないが
むしろ知った上で?考えてみれば彼は自分の夢捨ててでも行動を起こす人だ
「でも、明理という被害者の証言があればそんなでっち上げなんて・・・」
〈黒堂家は明理を軟禁し、そして私も封印して証言を封じました。奴らはそこまでありませんよ奈緒様〉
「そんなのお手上げじゃない!?まさかそれが転校理由なの!?」
「いやそれじゃ警察に逮捕されているんじゃないかな奈緒ちゃん?」
〈ええ、当然。マスターがそんなことをする訳がないと明音様、渉様を始めとする明堂学園の生徒ほぼ全員がマスターの無実を訴えました。結果的に明理の証言によって全て暴かれ、そしてこれまでの黒堂家や一族栄光主義派が行った悪事が暴かれ、黒堂家やそれに関わった者たちは逮捕、一族追放という結末になり、マスターの無実を証明されました〉
「とりあえず、徹也は前科持ちにならずに済んだのね・・・え?でもなんで転校する羽目になった訳?」
「まあ、そんな環境に居たくないのはわからない訳じゃないけど、それはお兄ちゃんらしからぬ理由だよね?」
〈その辺は加奈様がわかるんじゃないんですか?〉
「計画の実行もあっただろうけど・・・一番の目的は徹也の保護でしょうね。関わった者たちが復讐しないとは限らないから、明堂学園は徹也を追い出すように仕向けたんじゃないのかしら?」
〈アルカディア機関に守られている以上、下手な事をしないと思いますがね。黒堂家の最大の誤算は、アルカディア機関という世界規模の組織を敵に回したことでしょうね。黒堂家の悪事を暴いた背景に小柳という人物が関わっています〉
やはりというべきか、一財閥程度では表の世界、裏の世界でも組織力があるアルカディア機関には勝てない
「あの教頭、たまに不在の時期が多かった時があったけど、徹也の為に動いていたわけか。なんというか意外」
「奈緒達の敵役として演じていただけで、たぶん小柳父さんは根っこから善人だよ」
〈以上が私が記憶してるメモリーの内容です〉
「ありがとうアイ、何で徹也が話したがらないのかよくわかった」
「そんな内容かしら?確かに明里さんの件はアレだけど・・・」
「奈緒、徹也は尊敬している先輩を悪く言いたく無いという気持ちもあったんだと思うよ。私だって他人に結衣を悪く言いたく無いし」
「あと、お兄ちゃんは私にも気を遣っていたんだと思う。間接的とは言い難いけど、お兄ちゃんに関わなければ、行衛がこの地区に来ることはなかったし、私もPTSDを発症することはなかったかもしれない」
もしもの可能性かも知れないが、行衛康彰と結衣が対戦していなければ鷹の再臨計画は従来のまま進行していたかも知れない。そうなれば私はこの場所に未だに居ただろうか
徹也と今の形で出会わなければ、私は後悔する選択をしていたのだろうか
徹也が聞いたら、もしもの過去の可能性を考えるのは馬鹿らしいとか言われるか




