ACT.74 一年前の出来事1
奈緒にこっ酷く叱られた後、明音先輩のレクチャーは続いた。フローモードだけではなく、ドラテクや駆け引き、実戦形式の走りを結衣と加奈に叩き込んだ
時間が経つの速いもので、日が沈みかけ、辺りが夕焼けになって練習終了時間になった
「ふぅー・・・徹也」
「はい、明音先輩コチラを」
呼んだ意図を汲みこんで明音先輩にドリンクを渡すと、後ろから加奈にド突かれる。いやまあ、異性に仲良くしてる姿は気持ちいいものではないのわかるがな
「とりあえず、強制解放の使い方のコツを掴めたのは加奈だけか。わかってはいたけどね」
奈緒にこっ酷く叱られたのと過去のことを聞いていたので流石に結衣相手には、加奈のような荒療治は行わなわずレクチャーをしていたが、わかっていたという言葉で結衣は落胆していた
「やっぱり、加奈ちゃんのように追い込むべきだったんじゃ」
「いや、経験が足りないというべきかしら。結衣は自動車競技を始めたのは去年からでしょ?フローモードに入る為には感情のトリガーと強い集中状態になれる才能、そして長年の経験則も必要になる。偶発的ならともかく、強引に入るとなるとね」
「私では強制開放のフローモードは使えない・・・」
「だけど、落胆することはない。結衣はその経験をフォローするほど成長の吸収力と順応力が非常に高いのは、走っていてわかったわ。コツを掴んだ加奈と一緒に練習すればそのうち使えるようになると思うわよ」
明音先輩もよくこの短時間で見極めたものだ、結衣が持つ成長力と順応性・・・しかし、わざと肝心なことを言っていないのか?
「随分とまあ、曖昧なものね」
「加奈、フローモードはそもそも曖昧なものなのよ。まあ、あとはフローモードに入り慣れることかしらね。フローモードは二度目に入るのは難しいけど、コツを掴んで二度経験すればそれ以降は入れば入るほど慣れて入りやすくなる・・・あとは貴方次第よ加奈、結衣を活かすも殺すも」
「やれやれ、明音さんはプレッシャーをかけるのはお好きなようで」
「だけど、背負えるものがあるからこそ強くなれるのよ小柳加奈」
今更ながら、一年前の明音先輩ならそんなことを言うような人ではなかったのだが
変わるものだ
「ふぅー、レース後のシャワーはいつでもどこでもいいわね」
帰宅待ちに、榛奈自動車部のシャワー室を借りて汗を流す。公立校の割には設備は悪くない
「ねえ明音さん、聞いてもいいかしら?」
「なによ加奈、そんなかしこまった感じで」
隣の仕切りで同じシャワーを浴びてる加奈から、質問される
「徹也が明堂学園を退学になった原因って何なの?アンタの徹也との接し方といい、辞めた人間に対して友好的すぎるし、徹也も明堂学園を悪く言うようなことも聞いたことがない」
「何も聞かされてないの?」
「聞いてもはぐらかされる。強引に聞き出してもいいんですがね」
私や明里の名誉を守る為か、彼らしい。しかし今の仲間もにも、それどころか愛している人にさえ事情を話さないのいかがなものか
「参ったわね、話せば長いわよ?そんな時間もないし・・・」
もっと速く、その話題を出して欲しいものだ、メールや文字で起こす手もあるが
「詳しい内容はアイに聞いてみて、彼女も当事者で正確な内容を聞けると思う。私からは簡潔な事を言えば、明堂学園を退学になった経緯は徹也には非はない、それだけは安心して」
加奈達がシャワー室で汗を流してる頃、ガレージにアルトを入れ。各部チェック、メンテナンス作業を追われていた
「そういえば明音さんってこの車でここまで来たんだよな?帰りはどーするんだ?」
多田のさりげない疑問だが、確かにそうだ。明音先輩がここまで一人で来たとなると、迎えが必要になるはず
「ここから明堂学園まで、2時間近くかかる筈だ」
「案外考えなしに来たとか?」
「あの人はそういう間抜けな要素がある可愛げのあるタイプじゃないよ。あればいいんだけど」
「わかる、確かにああいう人でなにか抜けてる部分とかあるとなんか惹かれるよな」
絶対明音先輩や加奈の前では言えない話だ
ガレージのシャッター前で遠く彼方の夕暮れを眺めている結衣の姿に目が入った
「おーい?どうした結衣?お前も着替えて・・・」
「いや、お兄ちゃん。こっちに何か向かってくるよ?空を飛んで」
結衣が指を指す方向、彼女の所まで近づいてみると確かになにか黒い何かが飛んでいるのはわかるが
「向かってくる?」
オペレートレンズを付けて、望遠レンズシステムを起動させて結衣の指を指す方向に合わせると詳細な姿が見えた。ヘリだ
近づいてくるとそのヘリのローターの轟音がこちらにも聞こえてきた
「・・・まさかだと思うがこっちに着陸するんじゃないか?」
一応、コース上のホームストレートに障害物がなければヘリ一機ぐらいなら止めれるスペースはある
案の定そこにヘリは着陸した。ヘリの横にMEIDOUと書かれていた
「そういえば、明堂家っていわゆる財閥系の大富豪の一族だったな」
「まさか明音さんのお迎えがヘリって・・・」
結衣と唖然としていたら、ヘリのドアが開き猛スピードでこちらに駆け寄ってくると。結衣の手を掴む明堂学園の制服を着た金髪の男子
「おー!!やっぱり鷹見結衣ちゃんだったか!!ここから熱い視線で眺めていたの見えていたよ!!うんうん!!先週試合見てたよ!!やっぱこんな間近で見ると可愛いね!!」
「え、えっと・・・」
勢いに困惑してしまう結衣、金髪の男子は何かセンサーを感じたのかガレージの女性陣に各自にアプローチをかけていく。爽やかに自分らしく
そしてこっちに戻ってきて
「おのれ徹也!お前の環境が羨ましいぞ!!!こんな美人揃いのチームとかこんなハーレムをお前には勿体ない!」
「相変わらずだな」
変わらない彼に呆れも、懐かしさも感じる
「お兄ちゃん、この人は?」
「こいつは明堂学園の・・・」
「ちょっと待った徹也!自己紹介はカッコよくオレがする!」
軽く咳払いしてから、改まって
「オレは明堂学園2年、金堂宗太!明音ちゃんの従弟で明堂の四天王のうちのナンバー3、"乱走の宗太"とはオレのことだ!榛奈自動車部の皆さんよろしく!!」
自信たっぷりかつ、格好をつけて挨拶をする宗太に各々の唖然と驚きの反応をする。実質明堂学園の3番手と名乗る人物が目の前に現れたこと
おそらく、ドライバーである伊東先輩やリリス先輩は勘づいてる、こんなチャラチャラした男の実力とヤバさを
「自己紹介を済んだし、結衣ちゃん!デートしよう!」
「え?ええ??」
再び結衣の手を握りしめて、今度は口説きに入った宗太
「あの地方大会の時に見たときにビビッと来たんだ!こんな美人で可愛い子を口説かないのは失礼だ!デートがダメならまずはどこかの喫茶店でお茶でも!どうかな!!」
「え、えっと・・・」
こんな大胆かつ、直接的なアプローチされる経験したことがないのか。結衣はかなり困惑しているのがわかる。こちらに視線を送り助けを求めているが、オレはあえて助け船を出さない。何故なら
「うおぃ!?なんだなんだ!?」
勇気が宗太と結衣の間に立ちふさがり、結衣を宗太から遠ざける
「結衣先輩が困ってるじゃないですか!いきなり人をデートに誘うなんて!」
「一目惚れしたからしかたないだろう!!大体お前はなんだ!!まさか!結衣ちゃんの!?」
「僕は・・・僕は結衣先輩の・・・!」
いいぞ勇気!ここでもう一声!そんな期待をしながら自動車部全員で眉唾を飲んで勇気の一言を待つ
「僕は結衣先輩の・・・!」
もう一押し!もう一声だ勇気!!
「勇気君は私の大事な幼馴染の後輩だよ!」
一押しする前に結衣が返答してしまい、その内容にオレを含め自動車部全員ズッコケてしまう。おいおい結衣マジか
「後輩ってことは、オレの一つ下か?おいおい年上は敬えという言葉を知らないのか勇気君とやら?オレは惚れた相手を落とすならどんな障害であろうが容赦しないぜ?」
らしくもなく、宗太が勇気に迫る。コイツそんなキャラじゃないんだが・・・それでも勇気は一歩も引かずに結衣と宗太の間にいるから大した度胸・・・いや、勇気なら宗太の本質を既に見抜いているか?
勇気と宗太はどちらも引かずに睨み合うが、終わりは唐突に来る。背後から宗太は取り押さえるられる
「いだだだだだ!!?!?なんだ!?」
「私の目の前で結衣にちょっかいを出すとはいい度胸ね?」
加奈に腕をえげつない方向に向けられ、痛みで悲鳴を上げる宗太。なんとか振りほどこうと足掻いているが拘束が解けない。加奈から聞いた話だが、アルカディア機関の工作員は日本の警察及び自衛隊に属する特殊部隊に匹敵するかそれ以上の戦闘力と身体能力、そして体術を叩き込まれている
プロの加奈相手に、素人の宗太は為すすべもない
「折れる!腕が折れる!!?」
「大丈夫、その程度じゃ腕は折れないわよ」
冗談そうに言ってそうだが、顔は人殺す顔つきになってる。怖!
「まーた、他の学校の女子に手を付けているとはね?なにか弁明があるかしら宗太?」
「いやこれは、明音ちゃん。これは誤解というか・・・」
取り押さえられたまま、とどめに明音先輩のゲンコツが宗太の脳天を突きノックダウンさせた
失神してる金堂宗太を片手で引きずりながら、ヘリに乗り込む明音を見送る
「明音さん、練習のお礼というわけじゃないけど。一つ伝えておくわ」
「なにかしら加奈?」
「次の全国大会1200クラス、勝ち続ければ徹也と結衣の弟、白柳神也。そしてアルカディア機関に属する学校。白柳学院がアンタ達の前に立ちふさがる。ハッキリ言って勝てないわよ」
「ハッキリ言うわね・・・徹也と結衣並みのバケモノかしら?」
確かバケモノであるが、そんなレベルではない。白柳神也が持つ特異とも呼べる力、眼を持つ
徹也とも結衣とも異なる…いや、高速で動く競技においてほとんど絶対的な優位性を持つ
「白柳神也は優れた動体視力とドライブテクニックに共に、近未来視の眼…未来を視ることが出来る」




