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走劇のオッドアイ  作者: かさ
新生榛奈自動車部編成
78/121

ACT.73 加奈vs明音 必殺ジェットターン

挿絵(By みてみん)

グリッドラインに2台前後に並ぶ、加奈が乗るアルトが先行、明音先輩が乗るS660が後追い


「加奈、スタンバイはいいか?」

〈ええ、いつでも〉

「明音先輩、お願いします」

〈わかった、私は後追いで抜かないけど、ガンガン後ろから煽るからか逃げ切りなさい加奈〉

〈随分ナメていらっしゃるようですね明堂明音さん?〉

〈別に、貴方程度なら後ろに突くぐらい簡単よ?〉


無線越しで互いに煽る二人、やめてもらえませんかねとか言えない雰囲気


〈徹也、貴方はオペレートはしないように。さすがにオペレート有りだと勝負にならない〉

〈なんなら、アルトの形態をサーキットモード固定かつ、リアモーターを封印しましょう明音さん、そのぐらいハンデがないと対等な条件とは言えない〉


加奈の言う通りに、いまのアルトとS660では車の戦闘力はフェアとは言えないぐらいの差がある。可変機構とリアモーターを封じて互角だろう

だが、明音先輩はハンデを与えて逃げ切れる程甘い相手ではないのはオレは一番知っているし、加奈もある程度は相手の実力はわかっているはず


「・・・いいだろう、アイ、その設定で頼む」

〈わかりましたマスター、オリジナル設定修正します〉


むしろ対等な条件だからこそ、言い訳が出来ない。不利な状況や逆境になればなるほどモチベーションが上がる典型的な強いドライバー、それが小柳加奈だ

そしてそれは、明堂明音という人も同じだ



グリットラインの前に停車していてもわかる、後ろのS660感じる相手を圧する威圧感、迫るような壁のようなものだ。思わずハンドルを握る手が強くなる


〈心拍数が上昇してますね、楽しみですか?〉

「そこは緊張しているとかじゃないのかしら?」

〈加奈様は強いドライバーですもの、緊張より先に強敵との戦いが楽しみで仕方ないと考えるのが妥当、あとは勝敗を背負うような場面ではないからでしょうか?〉

「あんたを作った製作者、相当な変わり者ね。AIにここまで人の考えと嗜好を理解させるとは」

〈いえ、この考え、理解する機能を作ったのは私自身。促したのはマスターです。製作者であるマザーはこんなことをなるのは想定外でした〉

「促した?徹也が?」

〈何日にも渡る、説得と説教の話し合いというべきか〉


AI相手に何やってんだアイツは

スタートシグナルが点灯し始める、ギアを1速に入れアクセルを煽る

シグナルがレッドからグリーン、クラッチを繋いでスタート、そして一気に加速していく

リアモーターを封じているものの元のアルトの性能が高い、S660と劣らない加速性能がある

第一コーナー、後ろのS660を操る明音はぴったりコチラの後ろに付いていた、そして彼女から通信が入る


〈小柳加奈、どうにも勘違いしているようだから先に言っておくわ。貴方達を楽しませる気は毛頭からないわよ、私は貴方達を追い詰める。例え、貴方達の大切な物を潰してでもね〉


背筋が凍るような、嫌悪感とそして威圧感。そして、後ろから押さたような衝撃・・・いや、押された、完全に意図的に

バランスを崩しながらも、第一コーナーを曲がり切る


「つぅ・・・何すんのよ!?」

〈嫌なら死ぬ気で逃げなさい、殺しはしないけど、そのアルトを破壊するぐらいなら造作でもない。私は貴方を殺す気で後ろにいるというのを忘れるないことね〉


ぞっとするような威圧感と殺意、そして圧倒する雰囲気、この雰囲気には覚えがある。フローモード、明堂明音はその領域に入っている

その領域に至っているからこそ、今のような芸当が可能だったのだろう。車体にダメージをほぼ与えずに姿勢を崩す程度のプッシング、この速度領域で一歩間違えればクラッシュする行為にも関わらずにだ



一方ピットテント


「徹也!今すぐやめさせてよ!!あんなやり方!」


胸ぐらを掴んで迫る奈緒、なんつー馬鹿力だよ。気持ちはわかるが


「無理!オレでも明音先輩は止められない!」

「何弱腰なってんのよ!?」


尊敬する大先輩にそんな畏れ多いことが出来ないとか、言えない


「やり方は賛同出来んが、加奈を追い詰めるというのであれば一番の手っ取り早いやり方かもな」

「悠一の言う通りね、加奈は追い詰めれば追い詰められ程モチベーションと集中力が増すタイプ、もっとも勝敗ではなく命懸けになれば、もしかしたら」

「それでアルトが壊されては元も子もないわよリリス、悠一。アレの板金作業するのだって、私達メカニックだからね?」


杏奈先輩達、メカニック達には本当に申し訳ないと思いつつ、レースを見守る


レースは2周目の最終コーナー、ここまで悪辣な幅寄せやプッシングを何度も仕掛けらているのにもかかわらず、何とか走りきっている加奈

ここのコーナーでも、プッシングされるが慌てるような動きを見せずに姿勢修正する


「加奈、かなり手馴れてない?」

「たぶん、この中で運転歴が長い上にそういう荒事に対する訓練してきたというのが大きいかもな」

「アルカディア機関での訓練ってこと?」

「そういうことだ、まあそもそもアルトも前輪駆動のFFだし、重心も低くしてるからな。姿勢を安定させるのは加奈にとってはそう難しくはないだろうさ」


加奈から聞いた話であるが、特務機動隊の配属されることを前提の訓練を行っているという話だ。体術や座学は勿論だが、車によるカーチェイスをやり合う可能性も考慮した訓練、車体をぶつけるの当たり前、日常茶飯事であり、いかに相手を制圧するか、そしていかに自分自身と車を守れるかというものだ


「その気になれば、加奈ってカースタントとか余裕でやれそうね。某ワイルドなスピードな映画みたいに」


割と将来の選択肢としていい提案してくれるな奈緒は



3周目中盤、タイトセクションを抜けてもビッタリ後ろについてくるS660。本気で逃げているのにも関わらずに・・・正直ここまでやるとは想像もしていなかった、名門明堂学園のキャプテンなだけはある

悔しい、悔しくてハンドルを握る手が強くなる


〈加奈様、もう少し優しく握ってください。気持ちはわかりますがハンドル潰れます〉

「そこまで握力ゴリラじゃないわよ!?」


茶化してくるアイに苛立ちつつも、それなりに返答をする。心に余裕がないとミスを起こす


〈残念ね小柳加奈、貴方はその程度であるなら。もはやこんな茶番を続ける必要はないわね〉


第8コーナー、そういうことを言い放った明音が乗るS660がイン側から仕掛けてきた

コチラもミラー越しに見えた動きでイン側を防ぐ反応した、そう、見なければよかった。後ろからこれまで以上の強い圧迫感と威圧感、もはや戦慄すら走った。その思った一瞬の隙が判断を鈍らせてしまう、イン側から、来ると思っていたS660は私の動きに合わせてアウトにレーンチェンジしながら第8コーナーに突っ込んでいく

2台横に並ぶ、実力が自分よりそれ以上の相手にサイド・バイ・サイド勝つのは困難である。しかもこの後はハイスピードセクションかつ、立ち上がりだとアルトでは不利である。幅寄せで壁際に追い込むようなプレッシャーをかけてどちら引かせる手段を考えたが、体がその通りに動かないというより、横のS660がまるで巨大な壁、しかも誰も引き寄せない、反発、跳ね返すような威圧感の壁だ


「これって、徹也が伊東先輩に仕掛けた時の・・・!」

〈プレッシャープッシング、明音様の闘走というのはそういう意味なんです加奈様〉


為すすべもなく、あっけなくオーバーテイクされ、前後が入れ替わる

ハイスピードセクション入るとブレーキングがより奥になるS660の走りに、離されていく。コーナーの立ち上がりならともかく、コーナーの進入速度負けるのは致命的

4周目に入る頃には、4秒差。このままだと負ける、なんとかしなければならないのだが、その差を埋める手段がない現実


〈小柳加奈、もっと意識を集中させなさい。鷹見結衣と試合をした時、フローモードに入った時何か頭の中に見た風景があるんじゃないの?あの時だけじゃない、何か物事に集中した時に見えているものがあるはずよ〉


前方にいる明音からアドバイスらしき言葉、見えている風景?心当たりがあった

偶に物凄く集中している時、そしてこの間結衣と試合した時もだ

砂塵が拭き荒ぶ荒野、だが今はそのイメージが湧かない。アレは結衣が相手だからこそ見えた風景、結衣に対しする対抗意識が無ければ・・・


〈・・・私はね、徹也に対して好意がある。好きなのよ〉

「え!?」


明堂明音から出た発言に驚いてしまう。こんな時に何を言ってるんだこの人は


〈好きだけど、同時に相容れない相手なんだとわかっている。だけど、貴方がそんな体たらくでどうするのよ?徹也ならこの状態でも勝ちにいくわよ?小柳加奈、徹也が選んだ女なら、それ相応の力を見せなさい。さもなければ、私が徹也を奪うわよ〉


頭の中で何かが切れたような音がした気がする。同時に風景が見えた、荒地の荒野に、吹き荒ぶ砂塵の嵐の壁

徹也を引き合いに出されたこと、そして徹也を奪おうとする恋敵として対抗意識がその領域に誘う

全てがスローモーションに見え、車がどうすれば速く動けるのか理解出来る

4周目のタイトセクション、タイヤがすざましいスキール音とともにコーナーを高速で抜け、S660との差を詰める

AIアイが、何か言っていたがお構い無しにアクセルを踏む


〈やれば出来るじゃない、小柳加奈〉


ハイスピードセクションに入る頃には、テール・トゥ・ノーズの接近戦まで持ちこめるほど近づく

同じフローモードで同じ技量、似たようなスタイルであるたらコースの熟練度はコチラが上である、4秒差があろうが挽回は不可能ではないが、ここまで上手くいくとは思わず、自分自身でも驚いてる

しかし、さすがに明音も手練れてるというべきか、S660のノーズがギリギリ当たりそうな位置にいるのにそのプレッシャーに怖気付くことなく、付け入る隙もない。それどころかますますドライビングが洗練されて速く、ストレートから速度が乗る高速ブレーキング勝負だとこちらが負ける

距離もさほど変わらず、最終ラップのホームストレート

さっきまでコーナー処理やハンドル操作で気づかなったが、後ろからなにか動いている音がしている、動いているだけで駆動はしていない、モーターが空回りしている?


「ちょっとアイ、さっきからリアモーターが空回りしていない?」

〈はい、さっきのタイトセクションの時から私が勝手にモーターを空回りさせて、いまオーバーヒート寸前です〉

「何やってんの!?」


いやマジでなにやってんだこのアホAI!?というかオーバーヒート寸前?リアモーターの構造は空冷、吸気ダクトから走行風を与え、排熱口から排熱されて冷却される仕組みだ。通常時、サーキットモードでは吸気ダクトを開いているのだが・・・センターパネルに取り付いてるコントロールタブレットの画面を切り替え状態を確認する、現在はダクトを収容して、そして排熱もしていない、そしてリアモーターが真っ赤で警告も出ていた


〈先ほど承諾してもらうかと思いましたが集中されていらっしゃたので、事後承諾ということで〉

「一体何のために?」

〈ええ、明音様に勝つために必殺技のようなものですよ。ただこれは賭けです、演算上可能と出ていますが、フローモードの領域に入った加奈様のドライビングコントロールを要求されます〉

「・・・何をすればいいのかしら?」

〈仕掛けるなら、次の第1コーナー。何が何でもアウト側から前に出てください・・・そうですね、あとは私を信じてください〉


AIは所詮プログラムされたもののなのに、このアイは信じてほしいと言う。機械で合成された声にも関わらずに、それは力強く、そして聞き慣れたモノ


「わかった、頼むわよアイ」

〈ええ、加奈様。タイミングはこちらでやります、コーナー中の姿勢制御を頼みます〉


何が何でも前に出るだけなら、やるのは一つ。オーバースピードで突っ込む。そういうことをアイは要求している



第一コーナーに迫る、S660とアルトの速度は220㎞台まで達したところからフルブレーキング、|nab≪ナノマシンブレーキング≫システムが作動し、一気に減速Gが襲う

しかし後ろのアルトはアウトから仕掛けてブレーキタイミングを大幅に遅らせる、遅らせるというレベルではなく完全にオーバースピードだ


「バカ!?そんな速度じゃいくら何でも間に合わない!しくじったか小柳加奈!!!」



やり方は徹也と同じく、車体を横にさせる必要がある。S660より前に出た時点でサイドを思いっきりかけてリアを滑らせ車体をコーナー出口に向かわせるが、速度を殺しきれずにアウト側のガードレールにアルトが向かっていく


〈ナイス角度です加奈様!!左サイドパネル排熱口強制開放!!姿勢制御、そして出口に向いたらフルスロットルを!!〉


アルトの左側の排熱口が開いた瞬間、まるでジェット噴射のような音とともに熱風が放出されアルトを押し出しアンダーを相殺し、ガードレールギリギリで踏ん張りアクセルを踏んで第一コーナーをあり得ない速度でオーバーテイクに成功する


〈おお、上手くいくものですね。貯めた排熱を一気に開放してアンダーステアを強引に相殺させる。名付けて必殺!ジェットターン!〉

「こんなのアリなの?」

〈アリじゃないかしら?しかし、見事なものね小柳加奈。アイの提案をドンピシャで成功させるなんてね・・・私の負けだし、目的を果たしたわね〉


負けを認めた明音はペースを落とし、バックミラーから離れていく


〈小柳加奈、誰かに期待される、期待されたいという思いは案外強く、フローモードに入るきっかけになりやすい。それを忘れないことね〉


期待されたい、今の自分は徹也の期待に応えたいという気持ちがあったのだろう。まあ、徹也を奪うとかそういう発言をした明音にキレたという動機が一番強いが、根底はそういうことなんだろう

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