ACT.72 蒼玉色のアルト、駆ける
ピットレーンからスタートし、コースに出る
ピットレーンからコース合流ポイントからフルブレーキポイントの第一コーナーまでおおよそ400m近く、フルスロットルした際以前のアルト、アルトワークス、そしてS660とは段違いの加速性能であった。一定に加速してから車体からなにやらエキゾーストと駆動音以外の動作音が聞こえた、ウィングとフロントからというのはわかったが
〈ハイスピ―ドモード形体、一定加速後にウィングを下げ、フロントカナードで空気抵抗を減らしモーター排熱口を閉じて最高速を叩き出します。結衣様、フルブレーキタイミングはいつもよりワンテンポ遅くしてみてください〉
「ワンテンポ?結構ギリギリだけど?」
〈行けます、お二人共。減速Gに備えてください〉
時速180km/hから、いつもより遅らせて、フルブレーキングした直後、素早い動作音と減速のGが一気に来る、今までとは比べものならない程の減速性能、あまりにもブレーキが気が過ぎて第一コーナーのレコードラインを外すが、そこからの加速の立ち上がりで帳消しされる
後方のモーターの駆動音がさらに激しく、リアタイヤが駆動しアルトを押し出すように加速のアシスト、それは後輪駆動かつMRのS660を上回る立ち上がり加速である
〈フルブレーキングモード形体、エアロパーツを最大ダウンフォースになるようにし、空気抵抗を大幅に引き上げ、減速性能を引き上げ、さらにコーナーの立ち上がり加速をリアモーターアシスト〉
「驚いたわね。660クラスの車がまさかここまで減速G感じる時が来るなんてね・・・」
感心してる加奈をよそに、続けて緩やかな第2コーナーから始まるタイトセクション
コーナーのたびに微妙にエアロパーツが駆動しているのがわかる
リアモーターが駆動してる恩恵なのか、コーナーリングさらに自在に動ける
〈基本形体のサーキットモード、センサーと私の演算でコーナー一つ一つ、状況応じて空力とリアモーターの駆動配分を調整しています。どうでしょうか結衣様?〉
「もう少し、フロントがグイっと入って、立ち上がりは少しフワッて柔らかいほうがタイム出せるかも」
「いやいや結衣、機械のAIがそんな抽象的な言い方で伝わらないでしょ?」
走りながら考えるとそこまで言葉をまとめている余裕がない、わかる相手ならともかく、機械の相手に伝わらないか
加奈ちゃん言うことはごもっともだと思っていたが
〈なるほど、データ修正します〉
「今のでわかるの!?」
〈私はそこまでガチガチなAIではありませんよ加奈様。むしろ結衣様の可愛いらしい言葉のほうが好感を持ってます、可愛い相手に頑張ろうとモチベーションが上がります。可愛さ正義です、つまり可愛さを理解できる私は正しく、絶対です〉
「AIってなんだっけ?」
〈修正完了、攻めてみてください〉
タイトセクションから、第9コーナー。攻め込んでコーナーに進入すると、アルトの動きが変わっていた。私の望んだ動きに変化し、アクセルを踏んでいける
第10、第11コーナー手前の高速セクション、アルトはハイスピード形体になりトップスピードを稼ぐ、200㎞/hから第11コーナーにフルブレーキング、強烈な減速Gが再び体を襲いながらも望んだラインにアクセルを踏んでいける
そしてホームストレートに突入する
<結衣様とコースの特性は理解しました。データ修正。結衣様、次からタイム計測しますので本気でドライブしてもらえますか?>
「わかったよアイちゃん、こっちもこのアルトの仕様とアイちゃんの性格がわかったからね。タイム叩き出していくよ」
<いいですね結衣様は。私と気が合いそうです>
結衣が乗ったアルトは、2周目に入る。オペレートレンズからアルトの状態の様々データがモニター出来る。アクセルの踏み込み、ブレーキの踏み加減も
モニターのデータを見ずとも、エキゾーストでわかるが走りが完全にアタックモードだ
横に、S660の座席で仕様を確認している明音先輩もエキゾーストの音で勘づいたのか
「もしかして、アンタの妹、もうあのアルトに慣れたの?」
「・・・そうでしょうね、そういう練習をしてきたのもありますがね」
明音先輩の言葉に引っかかりを感じつつ、話の流れを遮らないように会話を続けた
「さすが、ホークマンの子供の一人って訳ね」
「知っていたんですか?」
聞く手間が省けたが
「まあね、それにしてはリアクションが薄いわね?」
「転校を促し、仕向けたところを考えれば、明堂学園側も事情を知っていたと考えるは妥当だと思いますし、明堂一族である明音先輩が知っている可能性はあるでしょう?」
「相変わらず察しがいいわね。そうね、うちの父とおじい様に転校した事情を問い詰めたのよ。事態の収拾の為とは言う理由だけじゃ納得出来ないからね」
アルカディア機関と計画、ホークマンのデザイナーベビー・・・明音先輩は大方の事情を知っていた
「知ったのは貴方が転校してすぐね」
「オレより先に知っていたんですか」
なんというか、当人より先に知るとは、複雑というか
「このことって、渉も?」
「無論、学園で貴方と親しく関わっていた連中はそのことを教えたわよ。可能な限り口外無用でね」
「そうですか・・・」
「?なによ?そんな引き攣ったような顔をして」
渉もオレの出生を知った、表になるべく出さないようにしていた悩みがあった
「オレの出生を知った上、オレは明堂学園の連中と戦うのは果たしてフェア・・・いや、資格がないんじゃないかって思っていたので、受け入れてもらえないんじゃないかなって」
「それは、造られた存在。そして与えられた力だから?」
「与えられた力だと思ったことはありませんが、事実遺伝子操作されている存在だから、そう思われていて快く思っていないんじゃないかなって」
正しくない存在に与えられた力、以前から思っていたがこのことを嫌悪し軽蔑、才能を妬む者が現れても仕方がない
そんなことを考えいたら、明音先輩にデコピンされた
「あだ!?」
「全く、そんな小さいことで渉や私、そして貴方の周囲の人間が見る目が変わないわよ。というか自惚れにも程があるわよ」
加減を知らない明音先輩のデコピン、デコを抑える
「才能なんて結局は開花出来るかどうかだろうし、大体、才能とか、そんなので負けた理由にしてるのは本物の弱者で愚か者だ。生まれや出生なんて関係ない、今に至った山岡徹也という人間として、そして最高の好敵手として認め、期待し、挑みたい」
今の明音先輩らしい言い方、そして普段とは違うニッコリとした笑顔・・・相変わらず、この人の笑顔は美しい
「それに大体、貴方は才能があるとは思えないし」
「その笑顔でひどいこと言いますね!?」
「でも、強いドライバーだ。速さではなく別のベクトル、別のアプローチの強さ、同じ土俵で強い相手だからこそ挑みたい、挑む闘志、目標があるから進んでいける。まあ強ければ天才でも、クローンでも、サイボーグだろうがAIでも構わないけどね」
「なんかハッピートリガー的な好戦的な・・・いや、明音先輩は元々そういう人でしたね」
「渉も陽葵も宗太も、強いドライバーとの対決を望んでいる。まあ、元々貴方という人間が好きというのもあるだろうし」
「明音先輩もオレのことが好きなんですか?」
少しからかうつもりだったが、即座に裏拳で顔面をド突かれた
「バーカ、そんなことを言ってやるものか。というか大体、小柳加奈という人がありながらそんなこと異性に聞くんじゃないの、殴るわよ?」
「殴った後に言うことですか!?」
相変わらず、暴力性は変わらない
結衣が操るアルトは2周目のグリットラインを越え、一回目のアタックとは思えないラップタイムを叩き出す。完全にアルトをモノにした結衣。2回目のアタックはさらにタイム縮める
「アイ、どうだ?」
〈アルトの実走データは十分取れました。あとは個々のドライバーの走行セッティングパターン次第ですかね〉
「了解だ。結衣、加奈、どうだった?」
〈もう少し走らせたい〉
「結衣、それはお前の欲求だろうが?まあ、楽しいそうで何よりだ」
〈横乗りだけど大体走りの癖と、ブレーキタイミングはわかったし、どういう好みすればいいのかわかった〉
「横乗りでそこまで把握できていれば上等だ」
アルトと二人のドライバーは、準備万端のようだ
「明音先輩はどうですか?」
「いつでもいける。さあて、誰から私の相手にしようかしらね?」




