ACT.69 蒼鷹のアルト、明堂一族の姉妹
舞台は榛奈高校から離れ、関東の都心の某県に店を構えるチューニングショップYガレージ
そのなかで隅の規模の小さいガレージにて、辺は真っ暗で月夜が真上に、時刻は深夜0時過ぎ
SGTの地区予選が終って早一週間、榛奈自動車部から半ば強引に預かったアルトとドライバーシートでノートPCを打つ少女が一人
「セッティング、動作プログラム、AIユニット最終工程クリア・・・テスト開始」
Enterキーを打ち、アルトの装着したパーツが動作する
「リアウィング、フロントスポイラーの可変機能、DRS正常に機能、リアモーターレギュレーター正常、モーター排熱システムオールグリーン、リアサイド排熱口開閉ハッチ正常、AIユニットの正常認知を確認」
〈マザー、全機構クリア。アルトのチューニングプログラムの全プロセスが完了〉
AIアイのお墨付きをもらう
「どうアイ?久々にAIユニットとして本来の姿になった気分は?」
〈あの愛らしい姿も良かったですが・・・悪くない、マスターのお役に立てるのであれば尚更〉
「そう・・・ECUユニットから引き継いだデータは?馴染むかしら?」
〈馴染みます、流石マスターが組んだデータなだけはあります。アルトのエンジン、駆動系・・・悪くないデータです〉
「流石、徹也君だね・・・」
データの組み方の指向は私と同じ、私が作ったアイが馴染むのも当然か
〈しかしマザー、こんなモニターではなく、どうせなら妖精みたいな感じとかが良いんですが?〉
「聖戦士の耳元で怒鳴る方って飛び回る的な?」
〈いえ、私は重戦機の大人しい方の妖精の方です〉
「あんなファンタジーなもの、現実で再現するとなればドローンで飛び回るしか・・・」
〈夢のない、現実的な答えですねマザー?〉
自分で作ったAIと、ここまで談笑して話せる日が来るとは思ってもみなかった。そもそもアイにはそんな機能を持たせた覚えがないし、想定していないスペック・・・周囲の影響、主に徹也君とアイの自らの意思でここまで成長した、彼には敵わないな
「満足に仕上がったのかしら?明理?」
ガレージに、聞きなれた女性の声・・・穏やかに私にかける
「・・・明音姉さん、こんな夜中に来て大丈夫なの?」
「今更、2年生になっても学校にも行かず、家出している妹に言われたくないわよ。まあ、お父様とお爺様は心配しているようだけどね。全く、「暫くは明理の好きにされる」とかなんとか言っておきながらね」
「もう少し、ここに居たい。もう少し徹也君のことを知りたいから・・・それに彼の力になりたい」
明音姉さんは、心配そうな表情で私を見る。哀れるように
「明理、あなたが徹也のことを好きでも・・・」
「わかってるよ。私と徹也君は同じ機械が好きで、話が合う、彼に対して好意がある。だけど、わかり合える部分があっても根本的な考え方が相容れないというのは思い知った。徹也君が育ったこのYガレージに居て、彼のことを知れた」
「徹也は、車という機械は人と共に歩むべき存在という考えた方・・・」
「対して私は、車という機械に人は操られるべきだと考えていた・・・今でもその考えは間違いでないと思ってる。だけど、徹也君の考え方も間違いではなかった、現に彼は明堂学園をSGT二連覇で証明してみせた。たけどあの頃の私は認められなかった。今なら彼のような考え方もあるんだなって、素直に受け止められる。もし、彼の考えをもう少し早く認めて、自分の気持ちを素直に伝えられる勇気があれば・・・だけど、今更それ以上の関係には戻れない」
「私達、明堂の一族は徹也、そして彼の周囲の人間に多大な迷惑と名誉を傷つけた。一族の騒動に明理を救ってくれた恩人に、明堂学園を退学まで追い込んだ私達一族は彼に償い切れない程の貸しがある」
〈マザー、それに明音様。マスターを明堂一族に巻き込む結果になったのは、私にもあります〉
「AIにも罪の意識があるなんてね」
〈機械にも予測できない事態もあるということです〉
明堂一族の罪、一族栄光主義のせいで彼と彼の家族や周囲の人たち名誉を傷つけ、冤罪で退学にまで追い込んだ。この明堂明理は例え明堂学園に不利益になっても徹也君の力になる。それがせめての償いだと思って
「しかし、勝手に改造した挙句に色までオールペンまでして・・・大丈夫かしらね?」
可変機構のあるGTウィングにフロントカナード、そして電磁モーターの可変排熱口、中も外も見た印象が変わっているが、大きく変更してるのは色。元々白い色だったのだが、塗装に時間がなかったのか粗があったので榛奈自動車部に似合う色に塗装したのである
「見事な塗装ね、サファイアブルーというべきかしら?まるで宝石のようね」
「あの二回戦の三セット目の走りを見たときに、この色だなって思って、徹也君も気に入ると思うし」
〈マスターの妹様、結衣様の瞳の色と同じですね、彼女も気に入るでしょう。個人的には白色と赤色のツートンカラーが良いんですが。これだとまるで夜間迷彩みたいな〉
「それは聖戦士か重戦機の主役機の後継機の色合い的な?」
AIのアイの話はともかく
宝石のように、輝くような美しさの色。そして外見もスペックも、とても市販の軽自動車とは思えない戦闘機・・・蒼い鷹のような、蒼鷹のアルト
このまま飾って置きたい程だ
「よくもまあ、数日でここまで仕上げられるものね」
「元々、このアルトの改造設計がこれらの装備を付けれるように拡張性を想定して作られていたから、取り付けと調整だけで済んだの」
「徹也の奴、そこまで想定していたというのかしら?」
「将来、もし改造をするならって、見込んでいたんだと思う。一度ボディ改造や補強溶接した後で、ボディを切り刻んだり、溶接の作業を行うと車体の剛性が落ちたり、バランスが狂う可能性がある。でもこのアルトはボディ改造の時点でそれを行なっている。バランスと耐久性と剛性も考えられて」
むしろ、徹也君の先見の明でアルトの車体改造の拡張性が無ければ実行していなかった
「明音姉様は、明日これを届けに?」
「ええ、レクチャーを兼ねてね。徹也でも教えることが出来ない、フローモードの使い方をね・・・鷹見結衣に小柳加奈・・・ものにすればとんでもない驚異になるかしらね。渉や宗太、明堂の後輩達には申し訳ないけどね。どう明理?一緒に来るかしら?」
明音姉様の提案に首を横に振る
「まだ、気持ちの整理がついていない。徹也君に会いたいけど・・・まだ時間が欲しい。いずれ、私の力が必要になる時が来れば・・・」
「やれやれ、ここに来ても消極的な傾向は変わらないわね」
「そういう明音姉様も、ハッキリと思いを伝えられないじゃないの?」
「・・・変なところで徹也みたいな指摘の仕方をするわね」
少し照れいるのがわかる。姉妹だからこそわかる、同じ人に好意をもっていることを。そしてその想い人とは相容れないということもわかっている
「私は、私なりに徹也との決着をつけた。明理も明理なりにハッキリ決着をつけないといけない・・・いや、ケジメをつけるというべきかしらね?・・・まあ、とりあえず明理・・・・・」
明音姉様はこちらをジト目で、まじまじと私を見る
「??どうしたの?」
「明理、とりあえずその容姿をなんとかしなさい。髪もボサボサで手入れもしてないし、肌も荒れ気味よ?しばらく寝てないでしょ?」
「いやー・・・そんな暇がなかったというべきか・・・」
〈マザー、折角の美人が台無しです。先ずはその牛乳瓶のような眼鏡をやめて、コンタクトレンズに変えましょう。いや、変えろ〉
「その眼鏡のせいで、表情がよくわからないって、徹也があなたが苦手って言ってたからね・・・そのなんでもお見通しのあいつが」
「う・・・これじゃないとまともに目が見えないのに」
生まれつき、私は目が非常に悪く、この度が強い眼鏡じゃないと全く見えない。だからと言ってコンタクトレンズもちょっと怖いというか
というか、まさかAIに命令口調で容姿を言われるとは
「どのみち、誰も言わずとも、このアルトを見ただけで徹也は明理が制作に関わっているのは気づくわよ?徹也の方から会いたいとか言い出して、そんなカッコじゃ台無しでしょうが」
「そう言ってもらえればいいと思うけど・・・だけど、徹也君ならこのアルトを見て、なにをすべきかぐらいはわかると思うし、どんなカッコになってるかは検討は付くと思う」
「あー・・・」
徹也君は察しがいい上に、博識だ。チューニング内容でどれだけ大変か、どのぐらい時間がかかるかぐらいはわかる
「まあ、明理の気持ちはわかった。後は姉ちゃんに任せなさい」




