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走劇のオッドアイ  作者: かさ
新生榛奈自動車部編成
72/121

ACT.68 機械は、人に憧れ、惹かれた

ピットゾーンのテント、複数のモニターや無線機が並ぶ机と椅子、千歳の目と顔を見ながら彼女の話を聞く


「私の父親は、斎藤智晶(さいとうちあき)・・・」

「斎藤智晶?」


千歳の父親の名前・・・斎藤・・・


「思い出した、10年ぐらい前までレーシングドライバーで活躍していた斉藤選手か!今は引退して、その後の活動は特に知らないが・・・」

「良くも悪くも目立ったないし、メディアの露出も少ないドライバーでしたから、徹也先輩の記憶に薄いの仕方ないですね」


たぶん、その世代のレーシングドライバーで目立っていたのがホークマンというのもあり、それに関連するレーシングドライバーは印象が強いが・・・メディアの露出も少ない人物となると、流石に名前を知っていても詳しくは知らない


「引退後、父は地元のレーシングスクールの教官になり、若いドライバーの育成・・・そしてその傍らにレーシングカートチームの監督を務めていました。そして私は父のチームに所属していました」

「プロの車関連仕事に関わっていた親だと、よくある経歴だな。現にオレも似たようなものだし・・・しかし、教える立場の人間が千歳の走りを教えたのか?」


口に出しては言わないが、千歳の走りを見るに、指導者としては無能どころか失格とも思える


「父は私に対して厳しかったんだと思います。他の子に対しては手を挙げたりとか、過度な叱責はありませんでしたし、成績は残していましたから指導者としての実力はあると思います。ですが、私には些細なミスも父は許さず、レースでよい成績で勝っても褒めることもありませんでした・・・父はプライドの高く、自分の娘が不甲斐ない走りをすることは認めない、許さないという感じでした」

「表向きは良き指導者で・・・親としてはふざけたことをしているな」

「父の理想のドライバーは、機械のような心、無の感情で車という機械を正確に動かす。ドライバーの持つ感情はミスを生み出す、父はそういう考え方でした」

「そして、その理想を千歳に押し付けたか」


千歳はゆっくり頷く

おおよそ理解してきた、何故ここ歪な走りになっているのか、あまりにも環境が恵まれなかった。そして、この機械のような心の走りには致命的な欠点がある


「周囲に指摘されることはなかった、千歳の走りに、その父親の理屈に」

「行き過ぎた叱責や、体罰には、楓や慎吾が言うことはありましたが、走りにここまでハッキリ指摘したのは徹也先輩が初めてです。父の理想を否定した人は」

「一見、機械のような心の走りというお題目は間違っていないように思えるが・・・これはオレの私見になるが、間違ってる。感情はミス生み出すが、人にもドライバーにも成長させるのに必要不可欠なものだ。闘争心と負けん気、勝利の美酒、敗北の苦渋・・・様々な経験に対してどう思い、どう捉えるかで人の成長力が試される。無の感情は言ってしまえば停滞、そこからなにも成長しない。千歳、お前は一定上のレベルのドライバーになってから、あまり成長しなかったんじゃないのか?」

「・・・徹也先輩なんでもわかるんですね」

「なんでもわからんが、走りを見て、そういう事情を聞けばな」


千歳は結構なレアケースだ。親の理想を押し付けられた子供は、反発するか道を踏み外すパターンはよく知っているだけに

それだけ、千歳の父親が力で押さえつけていたか


「徹也先輩の言う通り、私は徐々にレーシングカートで成績を残せなくなって、次第に父は私を見限るようになりました。「お前には才能がない」って・・・中学の頃に私にレーシングカートをやることを父は辞めさせました。でも、車競技を続けたいって言ったら、「恥をかかせない成績を残すなら」ということで、ジムカーナ競技をやることを許してくれました」


自分で才能の芽を潰して、見限る・・・そんなのが血の繋がった父親のやり方か?

話を聞けば聞くほど、千歳の父親は哀れな男なのかもしれないし、不器用な人間か・・・


「ジムカーナーだと確かにいい成績は残してるな・・・ちょっと待て、そこまでプライドの高い父親が、よく榛奈高校の入学を許したな?」

「許してもらっていません。父は猛反対し、私は家を飛び出す形で榛奈高校に入学しました」

「え?・・・家出してるのか?」


案外大胆な行動するんだな千歳


「母方の実家に住まわせてもらう形で、通学してます」

「うーむ?千歳なら強豪チームのスカウトの声ぐらいはかかっていたんじゃないのか?どうして家を飛び出してまで・・・」

「・・・結衣先輩がいたからです」


結衣・・・色々察しがついてしまった


「去年、結衣先輩の走りを見て、この学校に入ろうと思ったんです。人を惹きつけるような走り、今まで感じたことがない高揚した気持ち・・・そして、笑顔で楽しそうな結衣先輩を見て、この人と一緒ならって・・・」


結衣当人にも一種のカリスマ性があり、走りにもそういうものがある。千歳とは全くの正反対とも言える、楽しさある、感情豊かな走りをする。千歳が惹かれるのは仕方ない


「最初は、結衣先輩と一緒の商店街チームに入ろうと思っていました。ですが、結衣先輩にラッシーチームに入ることを勧められました」

「結衣が?」


意外だ、オレが来るまで大会参戦も危うい状態だったはずなのに・・・いや、そんな状態だからこそ、チャンスのあるラッシーチームを勧めたのかもしれない

商店街チームだった頃は、アルトワークス一台に対してラッシーチームはS660二台。練習機会が多くなる


「どのみち地区の前期大会が終わればチーム一つになるかも知れないし・・・加奈先輩の方が、面倒見がいいって・・・」

「それ、加奈に押し付けただけじゃないか?」


まあ、確かに結衣はドライバーの指導役には向かないし、加奈に任せる判断は正解だ

機械の心は、結衣に憧れ、惹かれたか


「しかし、そういう事情か・・・色々と疑問が解けた。しかし、千歳の走りのスタイルをどうするべきかな・・・」


長年染み付いたクセや、走らせ方は簡単には修正出来ない。しかもかなり歪んでいるからな

悩んでいるところに、千歳は質問してくる


「あの・・・徹也先輩。徹也先輩はドライバーはパーツということを結衣先輩に言ってましたよね?父の理想の考え方とは違うんですか?」


パドルシフトに対して、結衣に釘を刺した時のことか


「確かに、オレのドライバーとしての在り方は車のパーツ・・・だが、それは無機質な考え方じゃないないよ。機械と人は一定の距離をもって、共に歩むよるべき存在、人だからこそ機械に寄り添える、人が操ることで機械というう一つの意志をもった生命体になる。機械の心で機械を動かすなら、人である理由がないし、また、人が機械に操られることはあってもいけない」

「・・・父とは全く違う・・・でも、なんだか徹也先輩の考え方は暖かい」


オレの考え方に、感心をしている千歳を見て、これはいけない


「千歳、あくまでもオレの理想と理屈だ。考え方の一つとして参考にするのはいいが、千歳は千歳の理想を見つけるんだ。自分なりの車という機械にどう接していくのか、自分の理想のドライバーはなんなのか」

「私だけの理想・・・」

「そうだ、オレは安易に答えを出したり提示はしない。自分の理想は自分で見つけるものだ・・・お前が見つけ出した理想に可能な限りそれに尊重する」

「私に出来るのかな・・・」


自信なさげな千歳の手をそっと握り、彼女の顔を見る


「千歳、君なら自分の理想のドライバーとしての在り方は見つかる。才能もある、何よりここの先輩達は頼りがいのある人たちだ。無論、そんなことを言い出したオレも協力を惜しまない。自分を信じろ、君は才能のあるドライバーなんだから」

「わ、私が、才能のあるドライバー・・・?」

「ああ、機械的な走りに対しては否定的なことを言ったが、あのスムーズな走りは相当な努力したというのはわかる。努力出来て、その成果を出してるというのはちゃんと才能があるということだ。信じろ、千歳、君は強いドライバーになれる」


握った手を強く握り、力強く語る。彼女自身の可能性を信じさせるように・・・

驚きつつ、千歳は頬を染めていた


ここでもし、この光景を第三者視点から見れば、まるでオレが千歳を口説いているように見えるだろうか。うん、それが良くなかった

次の瞬間、首を締められた


「テーツーヤー?私というのをありながら、可愛い可愛い後輩を口説くとはどういう了見なのか聞きたいわね?」

「か、加奈!?ちょっと待て、誤解だ!!!というか、もう5周してきたのか!!?」


モニターを見れば、たしかに5周してる。ベストタイムに近いタイムを叩き出してる

というか、伊東先輩を抜いてきたのか加奈の奴


「いやー、テントで楽しそうにお話ししてるようだったから急いで終わらせたらねぇ?」

「ギ、ギブ!!結衣!助けてくれ!!」


近くに来ていた結衣に助けるを求めるが、結衣はまんえんの笑みを作りながら


「お兄ちゃん、浮気はダメダヨー」

「結衣ぃぃ!!」


棒読みで、見捨てられてしまう


「加奈先輩」


今度は、頬を染めたまま千歳が


「加奈先輩が徹也先輩の彼氏でなければ、私、本気で徹也先輩に惚れてました」

「ち、千歳ぇぇぇぇ!!!」


ここには味方がいないのかよ!?


何とか加奈達をなだめるのに数分要した・・・まあ、千歳の問題がわかったことと、彼女の信用を得れたことを考えれば、安い苦労か

結衣の走りは人を惹きつける、結衣の存在は榛奈自動車部の象徴であるのは、改めて思い知らされ

そして千歳の父親、斉藤智晶・・・話を聞く限り、オレとは相容れない存在であることを

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