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走劇のオッドアイ  作者: かさ
新生榛奈自動車部編成
71/121

ACT.67 酷く、あまりにも機械的すぎる走り

榛奈自動車部の練習場、白と黒のS660の2台が慣らし走行している

コーナリング進入時と立ち上がりが2台ともシフトチェンジがスムーズ・・・いや、ほとんど駆動が途切れていない、2台のS660に改造したのはそれである


「トランスミッション電子変換機構と、パドルシフトは問題なく動いているみたいですね杏奈先輩」


RPスーツを着込んで、ピットレーンのテントでモニターしていた杏奈先輩に声をかける


「徹也、思ったより早く話し合いが終わったみたいね。悪いけど全開走行での練習はもう2周ぐらい様子を見ていいかしら?」

「徹底的に調整したいなら、丸一日慣らし走行に使っても構いませんが?」

「いや、そこまでしなくてもいいや。組んだ私たちも自信もプライドがあるもの、メカトラブルで壊すようなへぼな整備やパーツを組んでいないってね」


トランスミッション電子変換機構、従来のトランスミッションを電子化させて、パドルシフト操作によるシーケンシャルミッション化

従来の競技用のクロスミッションがそのまま使え、強度も信用できる利点があるが、搭載させるとなるとそれなりに大掛かりな改造かつ、知識と技術が必要になる。後はかなり高額でコスパが悪い

ラッシーグループの提供で、S660に搭載することに決めた。元々あの2台のS660は変化機構を組みことを前提で作成されていた為に作業自体は短時間で済んだ


「白いS660は結衣で、黒いのは加奈か・・・もしかして、2台とも他に誰か乗ってます?」

「よく気づいたわね。結衣の方には悠一、加奈の方には勇気が乗ってる。結衣と勇気はパドルシフトは初めてだから、レクチャーしながらね」

「なるほど・・・」


2台の車の減速時の沈み込みで、何人乗っているかはわかる。最もS660は二人乗りだが・・・インカムをつけて、結衣にチャンネルを合わせる


「結衣、どうだ?パドルシフトの車に乗った感想は?」

〈お兄ちゃん?なんだか、変な感じだね。クラッチを踏まなくてもシフトチェンジ出来るのって、楽かもしれないけど・・・〉

「今の高級スポーツどころか、大半の大衆CVT車にも装備されているし、1200クラスだとほぼ標準装備だからな?ただな結衣、勘違いしちゃいけないのはそれはドライバーに楽させる装置ではないからな、速く走らせる為の装備だ」


結衣に釘を刺すように言う。電子トランスミッションで、クラッチを使うのは発進か停止時のみで、あとはクラッチレスで走り切れる、確かにドライバーの操作の手間と負担は減るが、楽させる訳ではない


「操作の負担を減らしたことで、より一層のアクセルとブレーキのペダルワークとハンドル操作に集中してもらい、車と人をより一心同体にするツールなんだ」

〈車と一心同体・・・まるでロードスターのコンセプトみたいだね〉

「人馬一体か・・・そもそも、車に限らずに機械という道具は一種の人工生命体みたいなものなんだぜ?体を動かす心臓、エンジンを持ち、そして血液、ナノマシンオイルが車の中で流れている。だけど、車はそれだけでじゃ動かない、ドライバーという重要なパーツがないと息吹を吹かない」

〈お兄ちゃんにとっては、ドライバーはパーツなの?〉

「これは様々な考え方の一つだから、結衣が思った受け方をすればいい。だけど、車にとってはドライバーは所謂脳髄にあたる存在だと思ってる。相応の使い方をしなければ、どちらも身を滅ぼす。道具やパーツ扱いで不服を思うなら、それは道具を過小評価、そして道具という存在を舐めている・・・忘れるな結衣、パドルシフトを楽させる装置だと思えば痛い目を見るということだ」

〈・・・肝に銘じておくよ〉

「まあ、そう重く捉えるな。結衣なら使いこなせる」


S660の2台がコースを2周し、ピットレーンに入り止まる

そしてドライバーチームを集め、練習プランを説明に入る


「S660に二人一組で乗ってもらい、後程お互いの走りに対して評価レポートを記入してもらう。勇気と結衣はわかっているな?」

「もちろんだよお兄ちゃん」「わかってます、一か月の練習そればっかりでしたからね」

「とりあえず組み合わせは、結衣と加奈のペア、伊東先輩と勇気のペア、そしてオレと千歳のペアだ。2周フリー走行でそこから全開走行だが・・・オーバーテイクなるべく控えてくれ、遅い場合は後続車に走行ライン譲ってくれ」


練習指示を聞いて、5人は頷いて返答する


「よし、勇気を乗せるのは初めてだな」

「よろしくお願いします伊東先輩」

「勇気、お前を伊東先輩とペアにしたのはドライバーのタイプとして似ているからだ。いかに参考に出来るか、技術を盗め。お前ならモノに出来る」


似たタイプを組ませることで、勇気をドライバーとしての形を育成する目的


「そういえば、加奈ちゃんと一緒に乗るのって久々だね」

「あの頃の結衣はまだまだ初心者だったからね・・・今じゃ手こずるほど強いドライバーになったけど」


たぶん、このペア揉めるだろうな・・・タイプが正反対同士の結衣と加奈のペア


「さて、とりあえず初めに千歳の走りをみせてもらうか」

「よ、よろしくお願いします」

「はい、深呼吸だ千歳。そこまで緊張しないで、いつもどおりに走ればいいんだからな?」

「は、はい・・・スゥー・・・ハァー・・・」


いくらなんでも緊張しすぎな気もするが・・・それか、そこまで他人に心許していないのか


「まずは、白いS660に千歳とオレのペア。黒いS660に結衣と加奈のペアから始める。各自、準備次第コースに入れ。伊東先輩達はモニターして、待機してください」


各自それぞれ持ち場につき、千歳と共に白いS660に乗る


「さて、操作方法はわかってるな千歳?」

「は、はい。シフトレバーをP(パーキング)からN(ニュートラル)、そしてクラッチを踏みながらD(ドライブ)に入れれば自動で1速に入ってギアが入った状態、発進時はクラッチを繋げる。シフトチェンジはパドル操作で行う・・・だ、大丈夫です」


白いS660のHパターンのフロアシフターには、ATやCVTのようなD(ドライブ)N(ニュートラル)P(パーキング)R(リバース)のIパターンのフロアシフターに変えられている

シフトチェンジの際にクラッチ操作が不要なだけで、操作方法はMT車と殆ど変わらない


こちらの白いS660が先にスタートし、続く形でこちらの黒いS660が続く

フリー走行の2周、千歳のドライブをよく観察する。やはり経験者であり、慣れもあるだろう。速さに関して言えば一歩足りないが、操作も車の動きもスムーズであり、加奈達や伊東先輩の言う通りだが・・・どうやらオレの不安と勘の正体がわかってきた

そして、全開走行になると千歳の走りの特性・・・いや、彼女の闇がわかってしまった。だが、確証は欲しい

2周目のホームストレートに差し掛かった所で、結衣達の無線にチャンネルを合わせる


〈いや!結衣!!今のはもっと突っ込んで行けたわよ!!〉

〈いやいや!加奈ちゃん、それはないよ!私のブレーキングタイミングであってたよ!!〉


案の定揉めていた


「あー、結衣と加奈、いいか?」

〈お兄ちゃん?どうしたの?〉

「・・・次の第一コーナー、仕掛けろ。少し強引でも構わない」

〈え!?ちょっとどうして???〉


流石にらしくない指示に、結衣は驚き、千歳は表情を変えないもののコチラにチラ見した、動揺しているのだろう


「千歳は全力で逃げ切るか、結衣のオーバーテイクを防げ」

「・・・わかりました」


冷静に、表情一つ変えないで指示を承諾する千歳だが、結衣はそうはいかない


〈いやいやお兄ちゃんどうしたの急に指示変更するなんて〉

〈結衣、ここは徹也の言う通りにしよう。あいつなりになにか確かめたいんじゃないかしら?〉


加奈は察してくれたのか、結衣を諭す

2台のS660が臨戦態勢に入いり、第一コーナーへ200kmオーバーで近づく

結衣はイン側のライン取りの動きに、対しに千歳もイン側を防ぐブロックのラインに入りブレーキングに入るが


「外だな」


千歳の視覚のタイミングと死角を突いて、結衣はアウト側に並び、サイド・バイ・サイドに持ち込む

僅かに結衣の方がノーズが前に出て、イン側のラインの優先を奪われ抜かれる


「流石に指導した甲斐はあったか・・・千歳、追えるか?」


千歳は無言のまま頷く

そのままタイトセクションだが、無情とも言える程の実力差を思い知らされる

結衣に先行して逃げ切る状態になれば、同じスペックとレギュレーションのある勝負で結衣を追うのは至難である

コーナーを抜けるたび、一方的に離され、3周目に入る頃にはフロントガラス越しの視界から見えなくなった

普通なら悔しいとか、対抗意識なり、何らかのリアクションがあってもおかしくない

千歳は一切顔色変えず、運転操作にも力が入る様子もない、ただ機械のようにS660を操る

勘の正体はこれだ、これは伊東先輩も加奈も気がつかない、そしてオレがもっとも嫌悪する走らせ方を千歳はしている


「千歳、ペースダウン。次の周でピットレーンに入れ、伊東先輩達と変わる」

「わかりました」

「結衣と加奈は、5周したらピットレーンに入って、ドライバーを交代だ」

〈了解お兄ちゃん〉〈了解、徹也〉


ピットレーンに入り、伊東先輩達に交代する。交代の際に伊東先輩に問われた


「徹也、お前なりに何かわかったのか?」

「ええ、少し千歳と二人で話したいですね。ありゃ、結衣より酷い闇を走りに反映してしまってる」

「そんなにか?」

「加奈や先輩達が気づかないのは仕方ないと思いますよ。車の操るとしたら間違っていないスタイルですが、在り方とやり方が間違ってる」

「わかった、練習指示はオレがやる。千歳を任せる」


伊東先輩達がコースに入り、テントで千歳と二人きり


「千歳、お前の走りを教えたのは誰だ?」


静かに諭すように千歳問う、その問いに千歳は動揺する。動揺するだけで何も言わないが


「ハッキリ言う。千歳、お前の走りはオレは嫌悪し軽蔑するに値する。あまりにも酷く醜い走りだ、走りが機械的すぎる」

「・・・そ、それが、どうして・・」

「千歳は走っていて楽しいと感じたことはないのか?悔しいとか、負けたくないとか・・・結衣に抜かれた時も、追いつけないときも何一つ感情的なリアクションがなかった、何かしらハンドルを強く握ったり、操作に力が入るものだ・・・走りに反映させなくてもな」

「・・・・・」


千歳は唖然としたまま、おそらく自覚がないのだろう


「感情を抑える、コントロールして機械的に走るのは間違いじゃない、というかレースをやるドライバーは感情をコントロール出来ないと務まらない。ましてや激しいドックファイトをやるSGTの1on1なら尚更だ。だがな、千歳・・・お前は感情を殺して走っている、その在り方は間違いだ」

「・・・感情を・・・殺してる・・・」

「感情を殺してしまうのは、闘争心も殺してしまう、そして勝ちたいという思いすらな・・・そんな走り方と在り方だとお前はドライバーとしても、人としても成長することはない・・・人が強くなれるのは闘争心があればこそ、勝ちたいと、強くなりたいという思いがあればこそだ」


怒鳴ってわけでもなく、静かに諭すように言っていたのだが・・・千歳は涙目になって、体を震えていた

オレは千歳に対してに怒り持っていない


「千歳、オレはお前をそういう走りにさせるように追い込んだ状況と教えた人間に怒り、嫌悪、そして軽蔑している。悪い言い方をさせてもらうが、千歳に車の走りを教えた人間は人でなしだ」


千歳の師匠たる相手をハッキリと・・・流石に言い過ぎたか、コチラを見開いたまま千歳は泣き出してしまった


「・・・すまない、言い過ぎたか」

「いえ・・・違うです徹也先輩・・・」


千歳は涙を拭いながら、否定する。まるで嬉しそうに


「いたんだ・・・お父さんを否定してくれる人が・・・私の走りを理解してくれる人が」


千歳の内気な性格と、これまでの態度と父親のワード・・・薄々勘づいていたが


「教えていたのは父親か・・・まさかと思うが、かなり行き過ぎた指導していたな?暴力を振るわれていたか?」

「・・・その通りです・・・私に車の走りを教えたのは父です・・・そして私が才能の無さに、父は私に期待しなくなった」

「・・・話してもらえるか?力になるにも、原因や事情を聞きたい」

「わかりました・・・徹也先輩、父を否定したあなたなら」


千歳のこれまでの経緯、そして榛奈自動車部に来たのか・・・S660の2台のエキゾーストとタイヤスキール音が鳴り響くコースで、斎藤千歳の過去の物語を聞く

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