ACT.66 斎藤千歳の二人の幼馴染
現在の榛奈自動車部の部室は、学校校舎内の部室と商店街チームが使用していた旧ガレージと、ラッシーグループが提供した新ガレージの三つである
ガレージの大きさはどちらとも同じであり、最大4台収容可能。設備そのものは新ガレージの方が最新の設備が整っている
旧ガレージは車両収容及び、メンテナンス。新ガレージはオーバーホール作業や大掛かりな改造の際に使用されることになった
そして新ガレージで、斎藤千歳、石井慎吾、佐藤楓の3人と話し合うことになった
集められた3人は、表情を強張らせていた。数日前まで敵だったリーダーと面と向かって話し合うような雰囲気だから、まあ気持ちはわからなくないが
「そんなかしこまれてもこっちが困るぞ三人とも」
「いやいや、徹也先輩。先輩とは言え、あまり親しい仲と言えない状態で私達三人と徹也先輩と対面して話すとなると、何かあるかな?って身構えてしまいます。ハッキリ言えば、私はあなたと結衣先輩は気に入らない」
「ちょ、ちょっと楓!?先輩に対してそれは・・・」
楓のハッキリとした意見に、千歳はなだめるが
「僕も楓と同じく、ドライバーとして、千歳に居場所が無いんじゃないかって、環境にも不満と不安はあります」
「慎吾も・・・」
案の定、二人は今の環境には不満がある。しかも明確に結衣とオレを存在が不満要素と来た
「まあ、お互いに相手のことを知らないから、こうやって話す機会を設けたわけなんだが・・・一応、君たち三人の簡単な経歴を聞かせてもらったよ。幼少期は千歳はレーシングカート、中学の頃にジュニアジムカーナーのチームを3人で組み好成績を残している・・・そして榛奈高校に3人とも入学・・・随分仲がいいんだな」
「・・・何が言いたいんですか徹也先輩?なんでこんな高校に来たのか言えばいいんですか?」
あからさまに敵意剝き出し、友好的に話す気がさっぱりない楓。それはそれでいいが
「別にオレや結衣が気に入らない、嫌いというのなら仕方ない。だがな、気に入らないだけでそいつを倒そうとか、越えてやるとかの反骨精神が伺えないのが気に入らないな。特に慎吾、千歳の居場所がないというのはおかしいだろ、ドライバーとしての居場所はレギュラーメンバーになることか?まるでドライバーとしての実力が千歳にはないと言っているようなものだろ?」
「う・・・そ、それは・・・」
慎吾を強く睨みながら言うと、自分の発言が迂闊だったことに気づいたのか、彼はこちらの眼をそらしながらうろたえた
「まあ、嫌われようがオレは先輩だ。君たちの良い先輩であるように努める。今、そして今後の榛奈自動車部に君たちが必要だ」
立ち上がり、頼み込むように三人に頭を下げる
「て、徹也先輩!?あ、頭を上げてください!?そんな、私達は・・・」
流石に頭を下げて、頼み込む展開は予想外だっただろう反応。狙い通りという訳じゃないが
先輩かつ部長という立場であっても、敬意と礼儀礼節をもって相手に接する、例え後輩相手だろうが、好かれていない相手でも
「・・・徹也先輩、それは人数合わせという意味ですか?」
頭を上げ、楓の質問に応える
「痛い質問だが、ハッキリ言えばそれもある。だけど自動車部に来たということは少なくとも車が好きという同志だ。拒む理由がないし、同じ学校で先輩後輩として会えたのも何かの縁だ。ドライバーとして、メカニックとして、チームメンバーとして共に戦いたい」
「・・・そ、そんなこと言っても・・・」
予想外の対応と言葉を言われて、明らかに動揺しつつ、楓は言い返そうとする
「私たちことをよく知らない、徹也先輩は私たちをよく知らないのに」
「お互いにこれから知ればいいじゃないか。オレは君たちの良き先輩になるように、そしてこの自動車部で共に活動、戦えて良かったって思わせてやる・・・いや、言わせてやる」
三人に対して指をさして、ニヤついたドヤ顔を決める
「・・・加奈先輩や伊東先輩の言う通り、とんでもない人たらしでですね・・・」
楓は呆れたのか、諦めたのか・・・さっきまでの敵意剝き出しの態度から軟化した
「楓・・・」
「大丈夫、千歳。頭を下げて頼み、お願いしてきて、そしてここまで言わせた相手に、どうこう強く言う気がない・・・というか、これで反発的な態度をとったら、まるで私がガキみたいでしょうが・・・私もそこまで子供じゃない」
「よく言うな、子供みたいに徹也先輩を嫌っていたのはお前だろ?」
「なんですって慎吾?」
余計な一言に言った慎吾を、睨み、喰ってかかる楓を千歳が「まあまあ」と抑える。ホントに仲が良いんだな
「言われてみれば、徹也先輩は転校して一か月程度であの状況のチームをまとめ上げた功績を考えれば、口から出まかせの理想論ではないことを実証してますからね・・・才能だけじゃなく、経験や培ってきた知識がなければできない」
「慎吾、それじゃ・・・」
「千歳がいいなら、徹也先輩を認めざる得ない」
一応、慎吾と楓はどうにかなったか・・・そして千歳だが
「さて、とりあえず聞く耳を持ってもらったところでだ。千歳、一応、一か月程同じチームにいた伊東先輩と加奈からドライバーとして実力を聞いたんだがな・・・二人とも困惑した回答してきたんだよ。共通して、走りはスムーズということと・・・特に加奈が興味深いこと言ったんだよ。まるで透き通るような無色な水って・・・なんというか、二人とも千歳の走りがよくわからないだそうだ」
二人ともかなりの走りの経験と、色んなドライバーを見てきているはずなのに、正直オレもこんな評価を出すのを不穏を感じていた
「加奈からは基本的なSGTのルールと走り方を教えてもらった程度だよな?あと練習相手していたぐらいか?」
「は、はい・・・もっとも、私じゃ実力不足で、加奈先輩や伊東先輩の相手になりませんが・・・」
あの二人相手だと、全国の強豪ドライバーでも手こずるレベルだから仕方ないが
「慎吾、楓。お前らは千歳の走りはいつから見ている?」
「僕達は、小学4年のカートから、中学時代のジムカーナーの千歳のマシンの整備をやってきたし、走りも見てきました」
「榛奈自動車部の先輩たちのように、千歳は突出した実力のドライバーではないのは認めますけど・・・走りは繊細かつスムーズ。まあ、この性格の通りに奥手で内気だから我が弱いというか」
「うう・・・楓の言うことに何も言い返せない」
SGTの1on1の対決において、特にサイド・バイ・サイドやオーバーテイクにおける超高速の接近戦の激しいドッグファイトは、我の弱さはと迷いは勝敗の命取りになる。如何にライン譲らないか、如何にラインを奪うか・・・精神的な強さも要求される
ドッグファイトに苦手意識のある結衣でも、我と強さと強い闘争心があるからその辺はあまり問題にしていないが
会話と、第三者から見た情報ではドライバーの実力は測れない。なら、手っ取り早いことをすればいいか
「やっぱり、千歳の走りを見せてもらうか、丁度、新しい練習方法を導入するついでだ」
「新しい練習方法ですか・・・?」
「もっとも、結衣や勇気には既にやってもらってるがな・・・ドライバーシート、ナビシート、ドライバー同士二人で乗って、お互いに走りを評価するというやつだ。まあ、最低レポート一枚書いてもらうけど。自分で気づけない短所とか、長所・・・自分の強みを正しく知るのは大事だからな。それにここ最近新しい仕様にしたS660、2台の試走も含めてな」
斎藤千歳、彼女の走りを見るのが不安を感じる。今までならどういうドライバーなのか、弱点と強み、走りを見てどこが参考になるのか、ならないのかを調べてワクワクするはずなんだが・・・どうにもオレの勘が千歳の走りを見るのを拒絶反応でも起こしているのか?
千歳をよく観察しても、楓の言うとおりに奥手で内気だと言うのはわかるし、言いたいこと言えない性格というべきか・・・勇気に千歳を観察させるべきだったか




