ACT.64 榛奈自動車部再編と課題
退院して数日、二つ分裂した榛奈自動車部の再編の為に動いた
まず、オレと結衣と加奈の事情、そして今回の騒動の裏にアルカディア機関の計画が関わっていたことを洗いざらい部員に話した
驚かれたし、信じられないとも言われた。そしてこれからもアルカディア機関の計画に巻き込まれることをわかった上で自動車部に所属するか、結果的に全員自動車部にいることにしたらしい。案外混乱は少なかった、オレと結衣が何者であっても受け入れる、まあ、奈緒や一年生組には質問攻めされまくったが・・・
そしてスポンサー関連、榛奈商店街とラッシーグループの両方から支援してもらうことになった。元々そういう腹積もりだったのだろうあの上柳の爺さんは
だが、設備関連がラッシーグループの提供が多いためにそれが使えるのは有難い話である
最後に現在の榛奈自動車部を引っ張るリーダー、新たな部長の任命。ラッシーチームに属していたメンバーは次の全国大会の参加資格がないために、伊東先輩や芝先輩、桜井先輩が部長をやるのは筋違いであるとのこと、リリス先輩や杏奈先輩は計画を知っておきながら騒動に協力したということで部長として相応しくないということで辞退
白羽の矢が立ったのがオレだ。商店街チームを勝利に導いた功績と、これまでの経歴、「徹也なら三年生の上級生相手でもハッキリ物事を言える」姿勢が評価されてしまった結果、榛奈自動車部の新たな部長として任命されてしまった
正直、適材適所だし、オレの目標の達成の為に悪くない。目標としている相手は明堂学園や名だたる名門強豪チーム、そして未知数な白柳神也・・・強敵相手に課題はまだまだある
SGTの660クラス前期全国大会まで、あと一か月余りの時間で再編したチームを動かせれれるかどうかで大会の勝敗が決まる
昼休み 校舎内 自動車部第二部室
奈緒、多田、阿部と共に昼食をとりながらこれからの課題について2年生だけで話し合いをしていた
「しかし、集まったメンツが2年生メカニック達とはな・・・阿部もまさか自動車部に戻ってきているとはな」
「まあ、オイラも色々あったんだよ多田。まあ、徹也の口八丁に騙されたというべきか・・・でもまあ、また一緒にやれるのは心強いや」
「えー・・・しっかり連携とれるかしらね?我が強いもん多田は」
「お前だけには言われたくないな奈緒?」
奈緒と多田で、視線で火花が散っている
「え?奈緒と多田の奴。仲悪いの?」
コッソリ小声で、阿部に尋ねてみるとどちらでもないという感じの反応だった
「奈緒と多田って、メカニックとしての得意分野と役割がタブってるというべきなのかな?要は似た者同士だから、お互いに反発する」
「あー・・・そういうことか」
「まあ、お互いにメカニックとしての技量は認めているからこそ、負けられないという感じだね・・・ほら、杏奈先輩と芝先輩もそうでしょう?あっちはここまでじゃないけど」
実はメカニックと言っても、得意とする分野が異なる。基本整備と各部品のオーバーホール技術、電子機器のメンテナンスは基本なのだが、ここにナノマシン技術、車体制御プログラム、走行パターンセッティング、モーターエンジンシステムの制御など、ある種センスが問われる分野も多岐にわたって要求されるのがこの世界のハイテク技術を組み込んだ自動車である
杏奈先輩と芝先輩はエンジンや駆動系の組むの得意な、ある種の職人
奈緒と多田は手先がかなり器用であり、ボディ制作や溶接、板金などの修理を得意とするタイプのメカニックであり、ピット作業も素早い
阿部とオレは電子機器を得意としているタイプのメカニックである
「いい加減本題に入れ多田。呼び出したのはお前だろうが」
「ああ、徹也・・・オレ自身はお前が部長であることは反対じゃないんだがな・・・今の3年生の先輩達の立場が少しな」
「話は聞いているよ、他の3年生達だけじゃなくて、いろんな生徒から影口をな。先輩たちが気にしていないとは言っても、やっぱり放っておくわけにはいかないよな。ここに先輩を呼ばなかったのはその為だろ?検討はついていたがな」
多田にしては、伊東先輩と桜井先輩が悪く言われるのが耐えられないだろう。先輩たちはそうなることを覚悟していたとは言えども
「詳しい内容は知らんが、誹謗中傷的なことも言われてる噂もあるからな・・・なんとかしよう」
「なんとか出来るものか?」
「まあ、少なくとも黙らせることは出来るかもな。これを言いまわってるの一部の影響力のある人間だからな。それされなんとかすればな・・・くくく」
「おーい、徹也。悪い顔なってるぞー」
思わず、悪い笑みにしてしまい、奈緒に呆れたように指摘される
「オレ達の部長って、割と腹黒いこと考えるもんなのか?」
「いや、割とじゃなくて、結構。オイラなんてやや脅迫まがい・・・まあ、結果的に悪くないけど」
好き勝手言ってくれるな、多田に阿部・・・まあ、確かにこの二人には騙したり、脅迫まがいなことをしたような
「そういう事情で、結衣と加奈を呼ばなかった訳ね。結衣なら変に首を突っ込みそうだし、加奈じゃ暴力沙汰になりかねないからね・・・口喧嘩なら悪知恵の回る徹也が適任ね」
「喧嘩はする気はないが」
どっちかというと奈緒の方が口喧嘩は強い気がするんだが、たぶんこの4人の中で口で奈緒で勝てる奴がいない
「上級生もそうだけど、一年生達もね・・・うちの弟の勇気ならともかく、ラッシーチームにいた一年生たちは訳のわからない計画に巻き込まれて、口には出してないけど不満はあるんじゃないかしら?」
「そういう雰囲気はあるな・・・問題は結衣の存在だろうな。チームとしては有難い存在だが、同じチームのドライバーとしては面白くない存在だからな」
「はっきり言うわね徹也・・・仮にも結衣の兄でしょ?」
「同じドライバーだからこそ言えるんだよ。作られた存在に、与えられた才能・・・嫉妬や妬みの対象になるのは仕方ないがな・・・ある意味、エースドライバーとしての宿命だ」
エースドライバーとしての宿命を背負う、重たいものだ
「一年生のドライバー斎藤千歳、同じく一年生のメカニックの石井信吾と佐藤楓・・・」
「多田から見て、その一年生3人はどんなもんだ?」
「そういうのを見極めるのは、徹也は得意だろ?」
「まあ、得意だけどな・・・ただ、圧倒的に接した時間が長い人物から見た視点というのも知りたいな」
「・・・徹也、わかってて聞いてるだろ?あの3人はオレ達、悠一と鈴と似た関係。所謂幼馴染って奴だ。千歳をサポートする、信吾と楓って関係かな・・・千歳と信吾は素直に奴なんだが・・・楓はなんというか、加奈と奈緒に似ているかな、気が強い」
どうにも、ここの女のメカニックというのは気が強く、負けず嫌いの女性ばっかりなのだろうか
「その三人とオレで話し合うか。将来的に榛奈自動車部を引っ張っていく存在になるし、不和、不仲なチームでは勝てるものも勝てなくなる。自動車競技は個人競技じゃなく、チーム競技だからな」
「もっとも、大会で使用出来る車が手元にないんじゃねぇ」
いいことを言ったのに、奈緒がふて腐るように水を差す
「徹也、これは私だけじゃなくて、メカニック全員が不満に思ってることよ。なんで修理と大幅な改造にYガレージが首を突っ込んできたのよ」
奈緒の不満の内容に、阿部も多田もうんうんと頷く。気持ちはわかるが、ハッキリ言うべきか
「そいつはオレだって同じだ。オレが存ぜね間にアルトが壊れてるし、叔父が改造するって言うし・・・それを許可したの上村先生だからな?まあ、事情を聞いたらオレだってそうしたかもしれんがな。今回の660クラスの全国大会では、今のアルトのスペックで負ける」
「私達の技術ではダメだってこと?」
返答に少し悩んだ。それはここのメカニック達のプライドを傷つける返答だから。だが、現実的なことをハッキリ言われて引き摺るようなら、この先は戦えない
「その通りだ。今回の660クラスの全国大会には明堂学園を始めとする名門強豪7チームのうち、明堂学園を含めて4チーム参加を表明している。1200クラスで使われている技術を盛り込んだ車を出してくる可能性があるとすれば、今のアルトとその手のノウハウも時間がないウチでは天と地の差がある。それに合わせて、資金力に余裕のあるチームも1200クラスに匹敵する仕様にしてる噂もある。おそらく今大会は660クラス史上最高平均のマシンスペックだろうよ」
可変リアウィング制御機構プログラム、モーターレギュレーター搭載と制御システム、シーケンシャルパドルシフト変換機構などをアルトに組み込むということを聞かされており、少なくともこれまでの660クラスではこれらの改造を施した車は出てきたことを聞いたことがないし、無論、これまでの榛奈自動車部にその手のノウハウはない
1200クラスの参加チームはこれらを搭載している
正論と現実を言われた3人は悔しい表情をしている、気持ちは痛いほどわかる、そういう思いにならない方がおかしいぐらいだ
「・・・出来ることはやらなければならない・・・私たちなりに、徹也がやったようにね」
怒りや悔しい思いを抑えて、奈緒は口を開く
「どのみち、アルト用に予備のミッションとエンジンを組まないといけないから時間が足りないのは現実だものね・・・」
「結衣ちゃんのあの走りじゃ、予備の駆動系とか用意しないと、また壊されても仕方ないし」
「結衣も好きで壊したわけじゃないと思うけど、メカニックのオレ達にもやらないといけないことやこれから覚えないといけないことが多いな・・・」
「悪いな、3人とも・・・」
メカニック3人に頭を下げて、頼み込む
「その代わり、徹也は先輩達と可愛い後輩達を頼む」
多田に念を押されて、二年生メカニックの昼食会が終える




