ACT.63 お兄ちゃん
病院から退院して、計画や真実を知らされ、加奈を説得して・・・いろいろありすぎた、部屋に戻り疲れて倒れるように寝た
ベットの横の床に。ベッドは加奈が占領している
なぜこうなったか
「私物とか、生活用品の大半を郵送しちゃったからアンタの部屋でしばらく厄介になるわよ徹也。引き止めたアンタは責任は取りなさいよ」
「おいおい、それはそれでいろいろ問題あるんじゃ・・・仮にもオレは男で、加奈は女だぞ?」
「あら?将来約束した仲じゃない?私は抱かれても満更でもないけど?それともさっきまでの説得の言葉はウソだったのかしら?」
「ちょっと待て!今更ながらなんか色々と恥ずかしい!そうか!オレそんなこと言ってたんだよな!」
ニヤニヤしながら言う加奈に、オレは慌ててしまう。たぶん顔を真っ赤にしているだろう
「いやいや!自分で言ったことでしょうが!?」
「ああ!そうだけど!!思い返すとすげぇ恥ずかしい!!オレ女の子にどエライ告白しちまったんだって!!」
「好きだって、4回ぐらい言ってたような・・ぷっ」
「ああ!やめて!言わないでくれ!」
ゲラゲラ、腹を抱えて笑う加奈の姿に、やっとらしくなったというのを感じつつ、暫くこの告白ネタでいじられのが目に見えてしまった
加奈の私物は、最低限の着替えぐらいとスマホぐらいであり、家具、家電は既に配送済みで部屋にない
数日の寝床、住居がないといけないということになる。加奈の言う通りに、引き留めたからにはそうするしかない
深く考えず、加奈にベッドを貸し、オレは敷き布団で床に寝ることにした
「・・・バカ、押し倒すなりしなさいよ」
寝る前に加奈が何か小言を言っていたような気がしたが、気にも止めず眠りについた
目を覚まし、時計を見れば午前5時過ぎ。結衣と早朝練習に付き合っていたせいか、体が勝手に早起きしてしまう
加奈も同様の理由なのか、起きていた
「・・・お互い、早起きだな加奈」
「まあ、今日も結衣が朝練してると思うとね」
「・・・ん?今なんて言った?」
寝起きのせいか、頭が回っておらず、理解し難いこと言った加奈に尋ねてしまった
「いや、ほら、結衣が朝練で・・・」
「・・・確かアルトって、オレの叔父の所に修理してるって聞いたが?」
「S660が2台あるじゃない。もうチーム内の分裂する意味がないでしょ、今の榛奈自動車部は。それに大体当日にアルトを本番でロールアウトして、その間様々な車に乗せていたのはどこのどいつよ?その辺の軽トラでも練習出来るでしょ、今の結衣なら」
言われてみればそうだった
「朝練、行くのか?」
「勿論よ、アンタも当然来るわよね?」
「その言い方だと、オレには拒否権はなさそうだな。まあ、いいか。支度する」
それに結衣と話したいことはある。小柳さんの話だと、結衣も自分の出生や計画のことを育て親である鷹見裕司から詳細を聞かされているはず・・・とは言え、どっから話すべきなのか悩む。悩みながら通学の準備を済ます
アパートの駐輪場、ロードバイクを出そかと思ったら、見覚えのある青いバイクを加奈が引っ張ってきた
横に大きなSUSZKIと貼ってあるデカール・・・
「よし!後ろに乗りなさい徹也」
「いや、ちょっと待て!それオレのGSX!なんで加奈が乗ってんだ!?」
スズキのGSX250R、オレの2台目の愛車に加奈が跨っていた。スロットを回して、エンジンを吹かす、乗りなれてるやがる
「聞いてなかったかしら?あなたの叔父さん。トオルさんが置いていったのよ、書類とか整備とか終って通学で使えるようになったって」
「いや、全然・・・というか、昨日の夜目覚めて知るわけないだろうが・・・加奈、お前これ乗るの今日が初めてじゃないだろう?」
「うん、トオルさんが免許があるなら好きに使っていいって言ってたから」
「認証USBメモリーは!?確か、オレが持っていたはず・・・」
自分の鞄の中を漁る、ナノマシンオイルやハイテクデバイス技術を搭載したこの世界の車両やバイクにはキー以外に免許データ等のプログラムを入れている認証USBメモリーが必要になる。それがないとエンジンが掛からないはずだが、鞄の中に認証USBメモリーが見当たらない
「拝借していたわよ、昨日返すつもりだったけど・・・まあ、どうせ二人で通学するなら同じでしょうが。しかし250ccだと思って舐めていたけど、これいいわね」
GSXの性能を褒めながら、スロットルを吹かす加奈。一応エンジンとか改造してるから結構エキゾースト音が大きい、近所迷惑だろうな
たぶん、加奈にどう言っても運転を譲る気はないだろうと判断し、ヘルメットを被り、渋々後ろに乗る
「うーん、だが不満だ」
「そこは不安とかじゃないの?」
「いや、ドライバーとしての運転と走りを見てるし、そもそもSGTのライセンスをもってるドライバーだから無茶をする運転をする人間じゃあるまい」
まあ、ライセンスを剥奪処分を喰らうような、どこぞの行衛先輩のようなごく稀なドライバーを除くが
「後ろで加奈の腰感触と背中と、髪の香りを嗅ぎながら乗るのも悪くないがな。やっぱり、オレが運転で、後ろで加奈が乗って、背中から胸の感触を・・・」
言いかけた瞬間に、加奈はGSXをフルスロットルにぶん回し、ウィリーしながら急発進する
「うぉぉぉぉいいいい!!!?」
「しっかり掴まらないと、振り落ちるわよ!徹也!ははは!!!」
「人が話してるときにそんな危険な運転するんじゃねぇぇ!!」
舌を噛みそうになった。振り落ちそうになりかけながらも、加奈にがっつり掴まる
どさくさに紛れて加奈の胸を揉んでやろうかと考えたが、そんなことをしたら何されるかわかったもんじゃない。昨晩も手加減されたものの、一方的に取り押さえられたところを考えれば、加奈相手に腕っぷしで勝てる気がしない。とんでもない可愛い女性を口説いてしまったものだ
榛奈自動車部 練習場
移動手段がバイクなのものあるが、勢いが良すぎる加奈の運転で数分で到着したが
「2度と加奈の後ろに乗らねぇ・・・」
練習場では、S07エンジンのエキゾーストが轟かせながら白いS660が走り回っていた。アクセル踏む込む長さと走り方で結衣だとわかるが・・・
「あらら、やっぱ結衣は起きるのが早いわ」
「・・・加奈、あのS660ってお前の走行パターンセッティングか?」
「あ、わかるのね・・・そうね、S660の走行パターンセッティングは伊東先輩と私のしかないからね。新規で作るにしても昨日今日じゃねぇ・・・」
「やっぱりか、走りが少しぎこちないからな。ステアリングコントローラーとかで手動で細かく切り替え出来ればいいけどな・・・まあ、そのための走行パターンセッティングな訳だが」
S660がホームストレートに差し掛かると、徐々に速度を落としていきこちらに寄って来る。最初に結衣と会った時もこんな感じだったのを思い返す。そういえばそれから一か月・・・濃く、そして早く慌ただしい一か月だったような気がする
S660が目の前に停車し、浮かない表情をしながら結衣が降りてきた。結衣も同じことを考えてるだろうなってわかってしまう、どう話したものかって
「おはよう結衣。相変わらず早起きね」
「う、うん。おはよう加奈ちゃんに、お・・徹也」
察したのか、挨拶から話を切り出してくれる加奈に感謝したい。結衣の反応も戸惑っている感じだが、なんだが想像したような戸惑いを感じない。なにか、別の感じの
しばし、3人に沈黙が流れる。話を切り出した加奈がなにか言うかと思ったら何も言わなずに、こちらにアイコントタクトを送ってくる。オレに振るんかい・・・
「えーと、結衣・・・とりあえずおはよう。その反応だと、粗方事情が聞いているな?」
「う、うん・・・私とお・・徹也がホークマンのクローン。そしてアルカディア機関の計画に巻き込まれたこと、加奈ちゃんが私達を監視していたこと、あと・・・」
何か言葉を詰まらせる結衣、何か言いづらいことが?
「徹也が、加奈ちゃんに愛の告白をしたこと・・・好きって4回以上言っていたこととか」
顔を赤らめつつ、目を逸らしながら結衣は言った。そして、オレはすごく間抜けた声で
「・・・え??」
「いや、実は昨晩加奈ちゃんのアパートの部屋の前まで来てたんだよ。加奈ちゃんを引き留めようとして、説得しようとしたんだけど、先に徹也が加奈ちゃんを引き留めようと説得していたから、ドアの前で盗み聞きを・・・大好きとか、加奈ちゃんを幸せにするとか・・・」
「あああ!待て結衣!これ以上言わないでくれ!恥ずかしくてどうにかなりそう!」
「ははは!!いいわよ!結衣!もっと言ってやれ!!」
照れながら言う結衣に、恥ずかしかるオレの姿に加奈は腹を抱えて笑っていた
「でも徹也、加奈ちゃんを幸せにする役目を独占するのはダメだよ。私も友人として、加奈ちゃんの幸せにしたいもん!」
「結衣、こんな私でも友人と言ってくれるのね。盗み聞きしたってことは、聞いたでしょ。監視と護衛を含め、最悪、もしもの時は結衣を殺すかもしれないということを」
笑うのを止め、真剣に、そして物騒なもしものことを加奈は結衣に言う
そんなことを言わられたら、普通はいい顔はしない。だが結衣は戸惑う事なく加奈を真っ直ぐに見る
「加奈ちゃんに殺されるなら本望だよ。だけどそんなことにはならない、いやさせないよ。ここには、加奈ちゃんを幸せにするって本気で決めた人間が二人いるんだよ」
ハッキリと言う。恥ずかりもなく、本気、本音で鷹見結衣という人間は言葉を続ける
「私や徹也が何者であっても、変わらない。自分らしく在り続ける。この榛奈自動車部で、大好きな車と親友とも呼べる仲間と、尊敬出来る先輩と頼りになる先生がいるこの場所で。私達の居場所は此処にある。加奈ちゃんが後悔しない居場所は此処だよ」
「・・・本当、この一年近くで、私も随分涙脆くなったのかしらね・・・」
結衣の言葉に、顔を上にあげ、涙を堪えようとしてる加奈
「自分らしく在り続けるか・・・まあ、オレたちの存在を認めてもらえるかどうか、まだまだ課題とか時間は必要だが・・・その言葉、忘れないようにしないとな」
「そうだよ、お・・徹也」
さっきから気になっていた、何故か結衣がオレの名前を言うのを躊躇ってるように感じた
「て、徹也。私達って、関係上では兄妹になるのかな?」
「うーん?まあ、クローンというより、遺伝子操作で作られたデザイナーベビーとしての兄妹関係になるか?」
白柳神也も、オレのことを「兄さん」と呼んでいたところを考えればクローンの同一人物というよりは、兄弟という認識か
「今更、兄貴面するつもりはないが・・・」
「でも、私、徹也って呼ぶのに抵抗があるの。なんというかもどかしくて・・・だから・・・」
結衣は照れた仕草をしつつ、上目遣いで見ながら、破壊力抜群のワードを放つ
「お兄ちゃん・・・そう呼んだらダメかな?」
「・・・はい?」
またしても間抜けな反応をしてしまった。いや、確かに妹に当たるだろうが、元から可憐な容姿とこの仕草と声は色々と可愛さの破壊力がヤバい
「あー・・・考えてみれば、徹也ってSSR計画の子供たちの全ての長男に当たるからね・・・結衣がそう呼びたがるのはある意味本能かもね」
「・・・まあ、いいか」
「・・・ありがとう!お兄ちゃん!」
笑顔で兄と呼ばれる。うーむ悪くないか
「ということは、徹也がお兄さんなら、その恋人である私は結衣の義姉にあたるわけね」
「おーい、加奈。まだ籍も入れてないだろうが」
「将来を約束した仲でしょ?私に好き、大好きって・・・」
「それは反則だろ加奈!?」
涙が晴れて、完全に加奈が揶揄いモードに入る
「加奈ちゃん!いくら親しい仲でも言っていいことと、悪いことがあるよ!」
結衣が仲裁入ってくれる。流石は我が妹だ・・・困ってる兄を放っておけないということか!
「私が義姉で、加奈ちゃんが義妹だよ!」
「いやそっちかい!?」
結衣と加奈、お互いに近づいて、目線で火花が飛び散っている
「いやいや、結衣は妹ポジションでしょ?そんな可憐で心優しい感じは妹イメージが似合うわよ?」
「いくら加奈ちゃんでも、これだけは譲れないよ!」
いや、心底どーでもいい話でなんでこの二人こんな対抗意識してんだよ!?
「加奈ちゃん。私達はドライバーだよ?ここは走りで決着をつけるのが筋じゃない?丁度今回は同じ車種で、同じ条件」
「いい提案ね結衣。待ってなさい!こっちもS660を用意するから!」
バイクに跨り、黒いS660のあるガレージに向かう加奈
「なんつーくだらない事に勝負をかけてんだよ、お前ら二人は」
「重要なことだよ!」
「はあ・・・結衣、お前の認識USBを貸せ。走行パターンセッティングしてやる」
「え?でも時間が・・・」
「問題ない、すぐ終わるよ。結衣用にS660の走行パターンセッティングデータは作ってあるんだよ」
「本当に!?お兄ちゃん、お願い!」
結衣から認識USBメモリーを借り、データの入ってるタブレットに繋げてデータを入れる
「そう言えば結衣、大丈夫だと思うが、フラッシュバックの恐怖は克服したか?」
「うん、まだ苦手意識はあるけど・・・お兄ちゃんは大丈夫だってわかっていたの?」
「まあな、結衣のPTSDはフローモードの領域に入れれば、克服する可能性があったからな。フローモードに入れるというのは恐怖に負けない心の在り方に気づいるということだ。まあ、結衣の少し特殊だけど・・・よし!入力完了だ!」
入力し終わった認識USBメモリーを結衣に渡す
「いいのかな、なんかお兄ちゃんに贔屓されてるような・・・」
「いや、加奈の方がS660に乗り慣れてるからな?それで自分の走行パターンセッティングデータを持っていないんじゃ不平等だろ?それに、可愛い妹を贔屓にしない兄がいるか?」
「ふふ・・・ありがとうお兄ちゃん!行ってくる!」
S660に結衣は乗り込み、グリッドラインに並ぶ白と黒のS660の2台
そして、スタートし激しいデットヒートをする結衣と加奈
表情なんてわからない、たが走りあう2台の姿は間違いなく充実し、そして楽しく、そして互いに譲らず、お互いの全ての技量をぶつけ合う1on1
加奈、お前の居場所は間違いなくここだよ
蛇足になるが、可愛い妹に贔屓はするが、勝敗は別だ。愛する加奈が負ける訳がないから結衣にデータ入力をしたのだ
結果、加奈が勝利。義姉は加奈、義妹は結衣に落ち着いたらしい




