ACT.61 徹也の異能
「まず、そもそもアルカディア機関の工作員の役目は、高ハイテク技術を導入した自動車社会に貢献。そして凶悪な自動車犯罪に対抗する人間を育成する為でもある。君はナノマシンとECUユニットが導入してからの自動車犯罪の凶悪性と凶暴性は知っているか?」
「まあ、数十年前に起きたハイウェイウィルスとかは最近思い出すハメになりましたがね・・・」
過去最悪の死傷者を出した、ハイウェイウィルス事件。商店街チームのアルトワークスは、フェイクディスプレイという効果で出したが、当時としては、どんな条件で、いつ、どこで車が勝手に暴走するのかわからない恐怖があったと聞く
「ハイウェイウィルスもそうだが、表では発表されない、表の警察機構では太刀打ち出来ない自動車犯罪に対抗する為に、アルカディア機関直轄、特務機動隊というのを独自に組織を持っている。私の管轄になるがね」
「特務機動隊!!噂で聞いたことがあったが・・・実在してるのか」
特務機動隊、あくまでもネットの掲示板や車好きの噂程度の情報であった。不可解な凶悪な自動車犯罪を解決、盗難された自動車やバイクを取り戻すこと出来るのは彼の存在があるからだとか。警察にも強い繋がりがあり、どうしても盗られた愛車が諦めきれないとかで、最後の砦として特務機動隊を紹介されるとかの噂もある
「将来、加奈も正式に特務機動隊に所属することなる。だが、特務機動隊は命を落とすこともある。所属する以上覚悟は来てるはずだが・・・それは真っ当な女の子の人生を送って欲しいというホークマンの願いではない」
「事実を伝えて、加奈をこれからまともな人生を歩ませることは?」
わかってる上で、一応聞いてみるが案の定、小柳は首を横に振る
もし、自分が加奈と同じ立場ならどうするか?という仮定をすれば、間違いなく世界も何もかも恨む。下手すれば凶行も辞さないかもしれない
「真っ当な女の子として人生を送るには、あまりにも機関の工作員の育成施設に居すぎた。アルカディア機関の工作員としてありとあらゆる教育をされている。情報収集する術や手段、軍隊仕込みの近接格闘術、そして一般人として溶け込むように常識も学ばさせている。その中でも、彼女は優秀だ。優秀すぎて、それ以外の生き方を知らない、わからなくなってしまっていたんだ」
事実を伏せて、まともな生き方を提示しても、難しいのでは
何かしらの余程のきっかけがない限りは
「そんな中に、鷹の再臨計画の話があった。私は好機と思い、彼女を計画に参加させた。計画以外の目的として、加奈に年相応の学生体験をさせる。そして、鷹見結衣と接触させること、これが一番重要だった。加奈に私の小柳の戸籍を与た、親子という関係となった」
「結衣と接触するのはそんなに重要なことなのか?」
「鷹見結衣の人間性もあるが、遺伝子的な相性だ。ホークマンとリチャードは親友とも呼べる間柄だが、遺伝子レベルで相性が良かったのがSSR計画の研究段階で判明していた。その子供たちも相性良い可能性が高かった」
「結果的に、加奈と結衣は親友とも呼べる間柄・・・共に大切な友人として、そしてライバルとして良好な関係になった」
加奈とほぼ毎晩話すと、必ず結衣の話題が出る。今の髪型は結衣が薦めてくれたとか、結衣がお人好し過ぎるから不安とか、紅茶を淹れるの上手いのに、コーヒーだとイマイチとか・・・たまに悪ノリに付き合ってくれるとか
そして、誰よりも結衣の心のトラウマから立ち直って欲しいと望んだ
「鷹の再臨計画の協力者は、私の本来の目的を伝えて協力してもらった。桜井鈴、上村先生、成海リリスは計画が始まったころから、そして真実を暴かれたことで赤石杏奈、全容は把握していないが察している伊東悠一にも協力してもらうことで円滑に事に進むことが出来た。そして君の母親、山岡華にもね」
「母さんもか・・・情報収集が早いと思ったらそういうことか・・・なるほど、そういう事情なら、あの人は協力するか。まあ、息子に騙していたのはいささか、引っかかるものだが」
杏奈先輩は、リリス先輩を問い詰めた時に知ったんだろうな・・・オレはあえて追求はしなかった。しなくて正解だったか
本当に、榛奈自動車部の先輩方はお人好しだ。頭が上がらない
「加奈に居場所と友達が出来たこと、工作員として生きる必要はないと説いてきた。彼女の心は揺れていた、小柳加奈として生きるか、工作員の81番として生きるか・・・板挟みの状態になってしまった。私は小柳加奈として生きる道を選ぶかと思った・・・」
「そうならなかったのか?」
「・・・加奈は、工作員として生きることを選択した。昨日、そう言われた。理由は聞けなかった・・・」
加奈にとっては、工作員としての道も重要ということなのか、それとも、本当にそれ以外の生き方がわからないのか、それとも両方か
「加奈は、明日にもでも榛奈高校を退学し、ここから去る。君達とは二度と会うことはないだろう」
「・・・それで、オレに何を協力しろと?」
「山岡徹也、真実を知った上で頼みたい。加奈を説得してくれないか?あの子の心は未だ迷っている、そのままだと工作員としても生きていけない」
「・・・・・あなたが諭してもダメな相手にどうしろと?加奈は選んだ以上、オレがどうこう言うのは筋違いでしょ?むしろ、真実を知ったなら尚更、加奈に合わせる顔がない」
少し、心が揺らだ、加奈に二度と会えない。だがそれはそれで良いのかもしれない。これ以上彼女に関わる資格は、オレという存在にはない
「迷ったな、徹也君。君や君の母親程ではないが、今のはあからさまにわかるぞ。先程から、君は自身の存在は罪であると思っている様だが、それは違う。生まれて来るものに罪があってはならない。加奈の人生を滅茶苦茶にしたのは君達の存在ではない、我々大人がやらかしたことだ」
小柳さんの言葉で、救われればまだよかったかもしれない。それで我に帰れれる程度の無責任な男なら、今の言葉で立ち直れたかもしれない。だが、オレはそんな人間ではない
「それに、加奈と結衣が遺伝子的に惹かれあう存在なら、君と加奈も同じ・・・いや、異性として互いに好意を抱いている」
「・・・知ってたんですか?」
「まあ、報告書を読めばな。それに部屋が隣とは言え、ほぼ毎晩会っていた。そして君は拒むこともしなかったし、夕食も一緒に食事しているのもね。それが好意がある以外何があるというか?私は最初は加奈から情報を聞き出そうとしていたのかと疑ったがね、そんなことはなかった。過去を詮索せず、傷を付けないように接していた。君なら、その気になれば聞き出すことも容易いだろう?違うかい?」
「・・・買いかぶりじゃないですか、そんな意のままに人から聞き出すようなことは・・・」
まさか、小柳さん。気づいているのか?
「出来るだろう。正直、私はSSR計画の子供たちの中で、君の力が一番恐ろしい。桁外れの空間認知能力を持つ鷹見結衣、数秒先の未来を視れる白柳神也。もはや異能と呼べる力、そして君にもある」
やめろ、やめろ・・・
「支配者としての資質、いわばカリスマ性とも言えるものか。君の言葉と声には人を従わせる力がある」
引き込まれた。小柳がオレの異能を指摘した瞬間にまるで後ろから体が引っ張られるような感覚になる
黒い腕のようなものがオレは掴んで離さない
(数年振りに呼ばれて起きたと思えば、なるほど、確かに我の出番だなテツヤ?我なら小柳加奈を従わせて、お前の女に出来る)
やめろ
(何を恐れる?我はお前だテツヤ、お前が支配者としての力を切り離した結果、形成された人格。それが我であり、お前だぞ?)
「うるせぇ!!お前は引っ込んでろ!!悪魔め!!!」
思わず怒鳴ったことで、小柳は驚いてしまっていた。小柳からしてみれば、オレの異能を指摘しただけでなぜ怒鳴っているのかわからないのだろう
「なにか・・・気に障ってしまったか?」
「いえ・・・小柳さん、いつから気づいていたんですか?母さんから聞いた・・・いや、母さんはこのことを言わないはず」
「私が君を見て、話して。加奈の報告書・・・そして商店街チームを束ねる力、明堂学園の活躍を知ればな・・・異質なカリスマ性と感じたが、どうやら訳ありのようだな」
「少し理解出来ないかも知れませんが・・・オレはこの力を抑え込んでるですよ。あまりにも手が余ると判断して。抑え込んだ結果、力そのものに人格が出来てしまった、言わば二重人格、オレは悪魔と呼んでいますがね・・・抑え込んでも、力そのもの片鱗は出てくる」
小柳の反応から、ゾッとしていたのは伺える。恐れていた力がただの片鱗に過ぎないことを、ならこの力の本来の力はどんなものかと思っているのだろう
悪魔の言う通り、その気になれば誰でも従わせることが出来る
「小柳さん、この力をもって加奈を説得しろ言いますか?彼女の意思も曲げさせるような力で、あなたが恐れるこの支配者の力で」
お互い、黙り込んでしまった。しばらく沈黙が続いた後、これはいけないと思った
「小柳さん、少し外出ていいですか。五分ほど考え込ませて下さい、答えを出します」
「・・・わかった」
車の外に出て、思考を巡らせる
加奈の説得、オレに説得する資格が有無はともかく、榛奈自動車部に居させる。それは賛成、彼女が抜けることで、榛奈自動車部の損失は大きい
彼女もあの場所に居たいと思っているはず、そうでなければ結衣にあんな事を言わないし、あんなに充実とした気持ちで車を走らせない
だが加奈は工作員の道を選ぼうとしている。何故か?それを知らないといけない
そして、事実を知ったオレが加奈を説得できるか?迷ってしまう。なら、親友である結衣はどうだ?彼女なら加奈を説得できるか?可能性は低いだろうから、小柳はオレに頼んだ。それに結衣がこの事実を知れば、彼女は加奈と親友関係を保てれない。加奈と結衣、どちらにも事実を伏せて説得する・・・
オレは何故、加奈の為にここまで考え悩めるのだろうか、加奈にとっては仇のような存在である自分が
榛奈自動車部の為か、加奈の為か、それとも
(そこで、自分の為に出ないものか、テツヤ)
悪魔め、オレの思考の邪魔をするな
(邪魔する気はない、お前自身だからな。だが自問自答で考えた方が手っ取り早い。お前はそう思ったから我はお前の思考に来た。もっと強欲に考えられないか、加奈が欲しいと)
否定はしない、だが、己の欲で彼女を好きになる資格はない
(過去は変えられないが、これからは変えられる。だからこそホークマンは、彼女を養子として受け入れたんじゃないか?どう思っていたのかは、もはやわからないが、小柳宛に残した願いは彼女の幸せだというのはわかるだろ。罪悪感があるなら、彼女の為に自分の全てを捧げる覚悟でもしないといけないだろ。関わらないという逃げる選択肢はもっと卑怯じゃないか?テツヤ?)
・・・自分自身の中でそう考えるてるから、コイツはそんなことを言うか。なら、何を捧げるか
(根本的な話、お前が本当に一番悩んでいるのは、説得に使える交渉のカードが不足していることだ。あれこれ資格がないだの、言い訳に過ぎない)
自分ながら、痛い所を突いてくるなこの悪魔は・・・説得に使うカードと情報が足りないのは事実だ。説得できる確信がなければ、やりたくない
(なあ、テツヤ。なんで小柳はこの力を恐れるか、気付かないか?小柳が恐れているということはアルカディア機関も別の意味で驚異に感じているんじゃないのか?お前が、我という力を抑え込んだ理由と同じだとしたら?)
お前を抑え込んだ理由は、手に余る力。そして、あまりにも危険極まりない力だから。万が一犯罪にでも使われたら・・・そういうことか!
(加奈の監視の目的がどういう人間というより、如何に危険な人間かどうかの判断。そして明堂学園を転校を仕向けたのも、加奈が隣の部屋であるのも、なるべく手元に置けるだと考えれば?)
住居も明堂学園の槇乃コーチの薦めだ。そこから繋がっているんだとしたら、辻褄は合う
(まだ、小柳に聞かなければならないことがあるな。後な、根本的に気に入らない問題もある)
気に入らない・・・もしかしたら同意見・・・そりゃ、自分自身の意見だからそうか
なぜ二択なんだろうな?どれも選んじゃいけないのか?
腹は括った、そして考えに確信が持てた。小柳が待つ車内に戻る




