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走劇のオッドアイ  作者: かさ
新生榛奈自動車部編成
64/121

ACT.60 カナ・リシャール

「現行のスカイラインは初めて乗ったけど、やっぱ高級車はスゴイや。軽快でも力強い走りをする・・・」


助手席に乗りながら、V37型のスカイラインの感想と分析してしまう


「車に博識な君でも、乗る車の傾向は偏りはあるか」

「まあ、Yガレージはもっぱらスポーツモデルか、チューニングされたコンパクトカーばっかりでしたからね・・・それより本題に入りましょう、小柳さん」


病院から出て、ドライブしながら話そうと小柳は提案してきたのだ。正直、信頼出来ない相手と二人きりの密室は危険だと思ったが、そういう提案をするということは誰にも聞かれたくない話なのだろう。移動する車ならなにか細工されない限り、第三者に聞かれることはない


「そうだな・・・まず、この話はアルカディア機関の人間は知らない、私が独断に計画したことだ。知っていても私の計画の協力者だけだ。鷹の再臨計画を利用して、加奈をアルカディア機関から決別させ、呪縛から解くために」

「・・・なんだって?」


耳を疑う事を言う小柳に思わず聞き返してしまう


「加奈をアルカディア機関から決別させる。それがホークマンが死後、最後に望んだことだ」

「ホークマンが?加奈と関係があるのか?」

「そうだな・・・そもそも、彼はこのSSR計画に賛同していたと思うかね?」

「・・・まさか、強制的に従わせたのか?」


自分のクローン遺伝子を使うおぞましい内容を、まともな人間が、ましてやホークマンのような人格者が賛同するとは考えづらい


「当時、ホークマンには娘・・・厳密に言えば養女がいた。その子を人質に囚われてしまい、ホークマンはやむ得ず計画に協力させられた」

「まともじゃないな・・・アルカディア機関がそこまで非人道な行いを行うとはな・・・しかし、ホークマンの娘か」

「ここからは順を追って話そう、ホークマンのこと、そして養女の娘、アルカディア機関を仕切る柳の一族を」


静かなエキゾーストで動く車内で小柳の話が始まる


「17年前、計画が開始され、ホークマンの子供達が作り出された頃だ」

「17年前・・・それって確か、リチャード・リシャールが事故死した頃だな?」

「そうだ。ホークマンのライバルであるイタリアのレーシングドライバー、リチャード・リシャール。ホークマンと彼はライバルであり、親しい友人。唯一ホークマンの素顔知るほどの親しい仲だった。だが17年前に激戦のレースの中、ホークマンのミスでリチャードは事故死し、帰らぬ人物となった。ホークマンは酷く落ち込んでいた、引退を考える程に」

「だが、ホークマンはレーシングドライバーを続けた・・・」

「・・・そして、リチャードには日本人の妻と生まれたばかりの子供がいた。だが、リチャードの死んだショックで心身とも病んでしまった妻は後を追うように病死した・・・その子供が残されてしまったんだ。名前はカナ・リシャール。加奈の本当の名前だ」


リチャード・リシャールの娘。どうにも超アグレッシブな走りが似ていると思ったら、娘なら納得がいく


「加奈がホークマンの養女になったのか?だがリチャードやその奥さんの親族は?」

「その辺りはどうにも複雑な事情というべきか、リチャード・リシャール夫妻共に実家から勘当されてたらしく、加奈は幼いながらにして身寄りがなくなってしまったんだ。ホークマンはリチャードの友人として、そして成長して、将来恨まれのを覚悟して彼女を養女として引き取った」


リチャードの事故死の原因は、ホークマン相手にオーバーテイクを仕掛けようとしたが、ホークマンがミスを起こして2台ともクラッシュ。攻撃的な走りのリチャードにも非がないわけではない

罪滅ぼしか、それとも責任か、それだとしても恨まれることをわかっていて娘として引き取るのはどういう気持ちだろうか・・・想像がつかないが、それは相当辛い筈だ


「ホークマンに娘か・・・そんな素振りもなくレース活動は続けていたような」

「実際は雇った世話役が主に教育してたらしく、ホークマンは時折、顔を見せる程度だったらしい・・・そんな生活が6年程続いた頃に、彼はSSR計画を知った・・・そして、加奈とホークマンの人生を狂わせた。きっかけは本当に偶然だったらしい、彼はアルカディア機関の施設で衰弱した子供を見つけた。金色と青色の瞳を持つ加奈と同い年ぐらいの女の子・・・ナンバー1、現在の鷹見結衣だ」


なまじ洞察力と、察しがいいのは自覚はあるが・・・ここまで聞いておおよそなにが起きたのかが検討がついた


「衰弱していた・・・随分穏やかじゃないな」

「当時のSSR計画の責任者の大柳家の当主は、結衣に様々な実験を行われていたらしい・・・薬物投与や精神操作とかな・・・」

「ここでまた柳か・・・上柳、小柳、白柳、そして大柳と・・・」

「ああ、アルカディア機関の運営を仕切るのが柳の一族。いくつかの家系ごとに部門がある。名前の上がった上柳家は運営と経営全般、白柳と大柳は研究部門、そして小柳は工作員部門・・・それ以外にもいろいろいるが・・・大柳家はその中でも問題家系でな、技術は優れた悦材の家系だが、倫理とかタガ外れて、目的の為なら手段を選ばない・・・培養槽で生まれる前に死んだ、生体実験中に死んだ子供は数知れず」


上柳の爺さんも大概だが・・・それ以上にタガが外れているなら、クローン技術を応用したデザイナーベビーを作り出すおぞましいことをやってのける連中なのか


「計画を知ったホークマンは、結衣を自分の弟である鷹見裕司に預け、計画を潰そうとしたが、大柳当主に先手を打たれてしまった」

「加奈を人質に取られた・・・」


小柳が言い切る前に、自分が検討が付いていた答えを言うと、小柳は静かに頷く。

怒りで手を思いっきり握り締める、爪が手のひらに食い込むほどに。自ら恨まれる覚悟で、亡くなった友の子供を人質に取るとは、もはや外道。そんな奴らにオレや結衣が生み出された


「大柳家に加奈を人質に取られたホークマンは、計画の協力をするしかなくなってしまった。ただ、計画で外された子供達は自由にするという約束で協力したようだがな」

「・・・ちょっと待て、ホークマンが死んだ現在。なんで加奈はアルカディア機関の工作員になってるんだ?」

「・・・大柳家はホークマンに加奈の所在をわからないように、機関の工作員の育成部門に入れたんだよ、戸籍を奪い、孤児という扱いでな・・・私が管轄する部門でな。それが判明したのがホークマンが死んだ後の話だ」


小柳がハンドルを強く握り締めていた。初めて、この人の感情そのものが見れた気がする


「加奈を人質に取られていたホークマンは、機関に所属し続けていたが、数年前にSSR計画の子供達の突然変異が発覚し、そして大柳家は計画から外された子供達を再調査することになった。結果、鷹見結衣に再び魔の手が来るとわかったホークマンは、この街に来た・・・6年前のあの日だ」


ハザードを炊いて、道路左沿いに止まる

見覚えのあるこの道路、6年前にホークマンが事故死した現場だ


「6年前、ここで彼は死んだ・・・いや、正しくは殺された。大柳家によってな・・・」

「事故死ではなく、殺害・・・!?一体どうやって!?どうして・・・」


ホークマンは殺された・・・その事実を言った小柳の体を掴んでしまう。驚き、頭を叩きつけられるようなショックの真実


「どうやってやったのかは君の得意分野だろ?」

「・・・一部警察や特殊な機動隊に装備されてる対自動車用電磁パルス・・・!凶悪な自動車犯罪に対するものだ。だが、あれは制御を失わせるだけで、暴走は出来ない。それに対自動車用電磁パルスは厳格な管理と限られた権限で使用される筈・・・」

「ああ、だが大柳家は事故死に見せかける為に独自改造した電磁パルスを使用した。R35内のナノマシンオイルを暴走させて、制御不能状態に陥らせた・・・丁度ここだ。電磁パルスを発動させて、ホークマンとR35ごと・・・」


車から降りだした、もう冷静を保てないぐらい、どうにもならないぐらい怒りが爆発しそうだ。走り出しかつて花束を置いた電柱に向かった

リシャール夫妻、ホークマン、加奈の人生を滅茶苦茶にし、尊厳を踏みにじったた挙句、もっとも許せないのが車を凶器に変えて殺した。そんな連中がオレを作り出した・・・認めたくない、嘘だと言って欲しい。だが、小柳が嘘を言うような感じや、表情でないのがわかる故、そして話の統合性も考えれば事実として受け止めるしかなかった。

電柱に思いっきり殴った。骨を折れる程ではない激痛、拳から血が流れた・・・いや、流した。抑えきれない怒りをぶつける為に


「徹也君!?大丈夫か!?」


駆け寄ってきた小柳は慌てて、血が流れてる腕をつかもうとしたが、それを払った


「・・・なあ、小柳さん。オレが今流している血・・・これを生み出した連中が死んでいても許しはしない。そしてオレ達の存在自体・・・存在しているだけであまりにも罪と業が深すぎる!!オレはこれからどんな顔して、加奈と話せばいい。結衣にも・・・母さんにも・・・」


まるで弱音を吐くなんて君らしくないとでも言いたげだろうな、だが、この姿を見てるだけで何も言えない小柳

実にらしくない・・・オレらしくないぞ山岡徹也。冷静になれ、まだ話は終わっていない。小柳はまだなにか話したいことがある筈だ

怒りでショート寸前の頭を切り替える。拳の激痛がいい薬になったかもしれない


「・・・・すみません小柳さん、話を遮ってしまって。アンタ、まだ話すことがあるんだろ?」

「いや、よくここまで抑えてくれたというべきか・

・・とりあえず、手を・・・」


小柳からハンカチを借り、手を拭きながら車に戻る

知らない方が幸せだっただろう、知らない方がいつもの日常のままでいられた。だが事実を知った以上、目を背ける訳にはいかない。耳を閉ざすことは許されない


「ホークマンが殺されたのは何故だ?」

「大柳家にとって、ホークマンの存在は目障りな存在になっていたということだ。人質を考慮せずに告発する可能性も否めないからな。そうなれば、大柳家どころか、アルカディア機関の存続に関わる。後は、SSR計画の子供達の突然変異により、ホークマン以上の実力になる者が現れたこと・・・用済みだったということだ」

「・・・だが、今こう話しているということは。大柳家によるホークマンの殺害は機関にはバレているということか?」

「ああ、極一部の柳の一族の当主のみにな。自動車の事故と殺害を見抜けない程、機関も間抜けじゃないし、大体ホークマンのような人間があんな事故を起こすヘマをするわけない。大柳家は責任としてSSR計画の責任者として解任及び、今後計画に関わることを一切禁じた」

「追放とかはないのか?随分、身内には優しいな」

「そう言われても仕方ないが、大柳家の技術力は確かだからな。現在のナノマシン技術を確立させたのも彼らだ。現在はどこかの研究所にいるらしいがな・・・私も詳しい所在はわかっていない」


使えるものは、毒でも使うというべきか・・・


「・・・そうなったら、加奈の所在はどうなっていたんだ?ホークマンが死んだ後に判明したって・・・」

「ああ、ホークマンが死んでから数ヵ月後に私宛に暗号化されたファイルが見つけてな。そのファイルにこれまでの経緯が記されていた・・・そして、自身が殺される可能性があること、死んだ後に加奈を見つけ出して欲しいという内容もあった。カナ・リシャールをただの女の子として、人生を送らせて欲しいと」


ホークマンが死後、最後に望んだこと・・・そういうことだったのか


「見つけ出すのは苦労した・・・なにせ手がかりがリシャール夫妻の子供であり、小さい頃の写真しかなかった。行方を知っているであろう大柳家の所在もわからない。アルカディア機関の携わる孤児院や、施設を探し回った。そして2年がかりで探した結果が、私が管轄する工作員の中に面影のある少女がいた。リシャール夫妻の親族のDNAパターンから一致して見つけ出させた、カナ・リシャールは81番という番号で、機関の工作員として完成されていた。リシャール夫妻のこと、ホークマンの養子であったことなんて覚えていない」


小柳の腕がプルプル震えて、言葉やトーンでは怒りを表していないが。明らかに怒り感情だ


「機関の工作員の育成所は、本来身寄りのない、居場所のなくなった子供達を教育と居場所を与える代わりに、自動車社会に貢献する人間を育てる場所だ。だが、加奈の場合は我々によって一方的に居場所を奪われ、育成所に隠すように入れられた・・・徹也君、私も君と同じように大柳家の連中を許さない。可能ならこの手で一族皆殺しにしてやりたいぐらいだ」


背筋が凍った。血の気も一気に引くほどに、小柳の殺気が本物だ。本当にこの人なら皆殺しに出来そうなぐらいに

そんなオレに気づいて、小柳は慌てる


「す、すまない・・・驚かせてしまったようだね」

「いや・・・ですが、今のであなたを信用できる人間だと確信しましたよ」


少し震え声気味で言ってしまった。だが、今の殺気でこの人は真っ当な心の持ち主であるのは間違いない。ただ一人の願い、ただ一人の少女の為に、この人は本気で怒り、そして本気で救おうとしてる


「このことは加奈も結衣も知らないということで、いいんですよね?」

「ああ。というより話せないというべきか・・・ここからは、私の計画の話をしよう。それを踏まえて、君に協力してもらいたい」


オレの存在そのものが、加奈に対してあまりにも罪と業が深すぎる・・・そんな、自分に何が出来るか・・聞き、見極めないといけない

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