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走劇のオッドアイ  作者: かさ
新生榛奈自動車部編成
63/121

ACT.59 それでも、結衣は父と呼ぶ

喫茶店 たかのす


地区大会が終わり、徹也が倒れてから2日たった。無事、決勝戦勝利し、地区大会優勝という華やかな結果になったが、その代償は少なかった

決勝戦終了後、アルトのギアが入らなくなった。どうも私の走りに対しアルトの駆動系のダメージが大きく、トランスミッションとクラッチの交換することになったのだが、山岡トオルさんのYガレージで面倒を見るということで、アルトは長期入院することになった

地区大会優勝、全国大会出場ということで、学校や商店街の人達は私をヒーローや、最大の貢献者と呼び。気持ちは嬉しいが


「はぁ・・・」


結果的にアルトを故障させてしまい、複雑な気分なまま、コーヒーカップやお皿を洗っていた


「ため息をついていたら、美人が台無しだぞ。結衣?」

「・・・からかわないでよ、お父さん」


にこやかに、落ち込んでる私の気を紛らす為にからかうお父さん

優しく、時には厳しく、良いことをすれば優しく褒め、悪いこと、やってはいけないことをすれば厳しく叱り、教える。それが私を10年以上男一人で育ててくれたお父さんだ


「結衣、ミルクティーを入れたよ。話しておきたいことがある」

「どうしたの?なんというか、かしこまって」


お父さんの顔見ると、いつもと違う真顔でコチラを見ていた。こんなお父さん見たことがない

カウンター席に置かれたミルクティーの席に座る。お父さんと私、カウンターを挟んで話すのことはよくある。それは他愛のない内容ばかりだが、お父さんがこんな神妙な面持ちで話をすることはない。私も何故だが緊張してしまう

そして、お父さんの口が開く・・・重く、悲しげに


「・・・結衣、11年前にここに来たのは覚えているかい?」

「いや・・・なんというか、よく覚えていないや。別に気にしたことがなかったけど・・・というか11年前になるんだね」


私はここに来ての初めの頃はあまり覚えていない、血の繋がりのないお父さんと一緒に暮らしていたことを認識し始めた頃あたりからの記憶はよく覚えている


「結衣、私はかつて、ここに上がり込んできた、名前も知らない人に託された・・・という話をした」

「うん、余程の事情があるらしいとか、お父さんは言っていたけど?」

「本当は、知っている人・・・いや、私の唯一の親族だった人に、結衣を託された」

「・・・・・え?」


お父さんが、私に嘘をついていた?信じられなことで、驚いて、カップを落としかける


「あれは、強い雨が降りしきる日だった・・・11年前、丁度店仕舞いしようとしたこの時間帯に、その男は女の子を連れてきた。男はずぶ濡れで、女の子はカッパを着せられていたが、虚ろな瞳だった・・・金色と青色の瞳を持つ女の子、お前だ結衣。そして男は私に結衣を託した・・・その男は私の兄、鷹見真司・・・兄さんはこう呼ばれていた」


唾を飲み、言うのを躊躇うお父さん・・・そして決心したのか、息を大きく吸い・・・静かに言う


「ミスター・ホークマン・・・私の兄さんはホークマンと呼ばれていた男。結衣、お前はホークマンに連れられてここへ来たんだ」

「・・・お父さん、嘘や冗談にしては・・・」


いや、こんな真剣な顔をして、嘘や冗談を言う人じゃない。それはわかる。わかるだけに、理解が出来ないなかった。私の憧れの存在がここに連れてきた?そしてお父さんのお兄さん・・・思考がグチャグチャになる


「・・・話をやめようか?結衣・・・こんな訳のわからないことをいきなり言われても」

「いや、続けてお父さん」


冷静になれ鷹見結衣、慌てて質問して話を遮るより、聞き手になることだ


「兄が、なぜあの日ここに来たのか。私でも受け要り難い話だ・・・だが、これは全て行われた事実・・・結衣の出生に関わること」


お父さんは、二つの書類の束を渡してくる。題材にSSR計画と鷹の再臨計画と書かれていた

そして、書類を見ながら、お父さんの話を聞いた。自分がアルカディア機関で造られた存在、複数の造られた兄弟がいること、そしてその兄弟の存在証明の為に利用されて、ここまで育てられたこと・・・榛奈自動車部も、いや、榛奈商店街や榛奈高校も利用されたこと、そして加奈ちゃんが私を監視していた事

おぞましい内容や事実、小難しい言葉や単語が出てくる話・・・到底信じられない話だ。だが、徹也が兄妹ということで納得出来てしまった。初めてあった時からの親近感は、私のお兄ちゃんにあたる存在だからだ。直感か、それとも血の繋がりなのか


「11年前、アルカディア機関は兄さんが知らない間に遺伝子データをクローン技術に使い、結衣達を作り出したことを偶然知ったんだ。相当怒っていた、自分の遺伝子をおぞましいことに使ったこと、そして作り出されたとは言え、人の命を粗末に扱う実験。正義感の強い兄さんには到底許せないことだった。兄さんは結衣を機関から連れ出し後、他の子供達の解放の為に動いていた」

「そんなことが・・・でも、お父さん。ホークマンが11年前にその事実を知った後も、アルカディア機関の所属したチームにいたよね?」


普通に考えれば、そんな組織に居たくないというのが普通だ


「その辺りはよくわからないんだ・・・兄さんと最後に会ったのは11年前のあの日。機関とどういう交渉したのかは不明だが・・・何かしらの取り引きがあったかもな・・・」

「取り引き?」

「子供達の安全の保障とか、かな・・・そうでなければ、兄さんが機関に従っていた説明がつかない」

「・・・なら、ホークマンがいない今は?いなくなったから今の計画が行われたの?」

「うーん・・・それもまた違う事情だろう。今の計画は、突然変異から始まった。丁度、結衣が9歳の頃、マラソンですごい記録を出しただろ?」

「そう言えば・・・」


渡された書類にも8年前、制作された子供達の身体能力が想定を遥かに超える変異が起きたと書かれており、私も同じ時期に今のような体の動きが出来る様になった


「その頃にアルカディア機関の研究員がここを訪れたことがあった。結衣がいない間にね」

「そんなことが・・・まさか連れ戻しにきたの?」

「いや、結衣を観察、監視をしたいって言われてね。その時はどの面下げて来たんだって、水をぶっかけて追い出したけどね。だけど、彼らは彼らなりに結衣を心配していたみたいなんだ」

「意外だね、お父さんの話やこの書類を見る限り、まともな方々じゃないって思ったけど・・・でも、一体何を心配して?」

「簡単な話、寿命だ。突然変異とも呼べる、人並み以上に高い能力に目覚めた人間が故に、何処かしら体の不調や病気になり得る可能性が否めない。それと、クローン技術で作られた故に初期の頃に作られた子供なかにはテロメア遺伝子の欠陥があって、短命であることも予測された」


思わずゾッと、寒気を感じてしまった。つまり、自分は長く生きられない?っと思ったが、私の表情を察したお父さんはすぐに否定した


「大丈夫みたいだよ結衣。そもそも結衣はそのテロメア遺伝子の欠陥はないとのこと、そして経過観察と診察調査の結果は、よほどの病にかからない限りは寿命は普通の人と変わらない。機関に人間の大半は信頼できないが、設備と技術は確かだ。さっきも言ったように、彼らの中には自分たちで作り出した子供達を心配してる人間もいる。生まれた生命には罪にはなく、人らしく生きるべきだとね・・・」


・・・憧れのホークマンを利用したこと、自分はともかく、ほかの人間を利用して巻き込んで実験したこと、自分達のような存在を作り出したこと・・・怒りはある。だが、彼らがいなければ私はいない、こんな思いも抱くこともなかった。そして、彼らなり私を作り出された人たちの中には、心配し、存在することを望む人がいる・・・


「恩義とか、そういう訳ではないが・・・結衣の健康を保証し、危害を加えることがないなら、私は計画の邪魔はしないし、関与をしないことにした。本当は結衣には車競技に関わらない方がいいということをわかっていながらね」

「お父さん、反対はしなかったけど・・・いい顔をしていなかったのは覚えているよ。私が自動車部に入りたいってい言ったときの事・・・計画の事で?」

「いや、結衣の心の問題だ。ホークマンが死んだ瞬間を目撃し、あの日以降からホークマンのような信念で動くようになったことから、結衣の心は壊れていたのは知っていた・・・いずれ、記憶がフラッシュバックを起こすのは目に見えていた。私がそうだから」

「お父さんが?」

「そうだ、結衣程ひどくわかりやすいものではないが・・・結衣が成長するたびに兄さんの面影を思い出してしまうんだよ・・・悲しみとか、怒りとかの複雑に入れ込んだ気持ちを湧いてくるんだ。結衣、お前のを車で走る姿を一度しか見たことがない、あまりにも兄さんに似ているん・・・似ているからこそ見るのが辛い、苦しいんだ」


・・・・・どうして今まで気付かなったのだろうか・・・いや、むしろ長く過ごしていたからこそ気づくことが出来なかったかもしれない、お父さんがこんな思いを抱いていたのことを


「幻滅しただろ結衣?こんな男が11年間も父親面してきたんだ。娘の顔見るたびに複雑な感情を持つ男が、父親であってはいけない。ましてや嘘や隠し事をしていたとんでもない奴だ」

「・・・お父さん、そんなに私はお父さんのお兄さん・・・ホークマンに似ているの?容姿も?」

「思考とか仕草と車を走らせる姿は似ているけど、流石に容姿は結衣のように綺麗で美人じゃないけどね」

「・・・なら別人だね。確かにホークマンの血や遺伝子を持っているかもしれないけど、私はホークマンでもなければお父さんのお兄さんでもない。私はこの喫茶店たかのすのオーナーの鷹見裕司の娘だよ。それ以外はない」

「結衣・・・こんな男をまだ父親として呼ぶのか?」


お父さんは驚いた表情だった。私が事実を知って怒ると思っていたのかな?そんなことはない


「良いことをすれば褒めて、やっていいこととやってはいけないことを優しく教えてくれる。悪いことをすれば叱ってくれる。私がやりたいことを応援してくれる。そして私の好みをよく理解している」


ミルクティーのカップを見ながら言う。私の好きな濃さと甘さに入れられているミルクティーは、私の好みをわかっている証明。それが11年間過ごしてきた信頼の証明


「確かに、嘘や隠し事をしていたかもれない。お父さんが辛いと思っていることはわからなかったけど、お父さんは私を嫌って接していた訳じゃないのわかる、11年間過ごしてきたんだよ?そんなことで11年間積み重ねた信頼は崩れない、11年間過ごしてきた事実は嘘なんかじゃない」


驚かされる事実と、それを隠してきたことと、11年か過ごしてきた信頼を天秤にかけた時にどちらに傾くか?私は後者に傾いた


「それにねお父さん、今更私がお父さんを嫌いになったら私の居場所がなくなっちゃうよ?それとも、お父さんは私が嫌いなの?」


お父さんをからかうよう、少し意地悪く言う。お父さんは驚きつつも、静かに目を閉じて、息を吸って落ち着かせていた


「・・・私が結衣を嫌うわけないだろ?好きに決まっている」

「そうだよね。私とホークマンの姿を重ねてしまって、複雑な気分になってもお父さんは向き合ってきた。なら私も向き合わなければならないよね。私が何者であれ、私の前に誰が立ちふさがろうと、誰かの思惑や計画や策謀に巻き込まれても、私は私らしく在り続けるだけ。それだけだよ・・・それに私には頼りになる仲間も友達、そしてお兄ちゃんもいる」


例え私がおぞましい計画によって生まれた存在であろうと、私なりに過ごしてきた人生や日々は変わらない、いや変えさせない


「・・・・そうか、そうだな・・・」


お父さんはも何かしら、納得したのか、悟ったのか・・・そんな表情だった


「結衣、この事実を知った以上、これから先、お前という存在を認めない者を現れるかもしれない・・・心無いことを言われるかもしれない」

「何を今更・・・今までも、正しいと思ったことを行って、散々心無い暴言なんて言われてきたよ。偽善者とか、変人なんて・・・今更だよ」

「・・・ふふ、そうだったな・・・それで揉めたり、奈緒ちゃんとも友達になったり、そしてそのエンブレムを作ってもらったんだよな・・・」


思わず、クスッと笑うお父さん。だんだんこの人らしいやりとりになって安心していた。ミルクティーに口に運んだ時から不安だった。実はいつもより不味いのだ。それだけ、私に事実を伝えることにお父さんは不安だったんだろう。だけど、今はらしくなっている。それでいいんだ。私のお父さんはこういう人なんだから

お父さんは伝えたい事実と、自分の出生の疑問についてはわかったが、新たな疑問がある


「ねえ、お父さん。加奈ちゃんはどうなるのかな?アルカディア機関の人間であることはわかったけど・・・鷹の再臨計画が終われば任務終了ってこの書類に書いてあるけど・・・」

「そこまで詳しくは知らないな・・・そういうのは小柳と加奈ちゃん本人が知っていると思うけど・・・もしかしたら、榛奈高校を去るかもしれないな」

「え!?それはダメだよ!?」


思わず感情的になって、カウンターから身を乗り出してお父さんに詰め寄ってしまう


「そう詰め寄るな結衣。もしかしてだぞ・・・だけど、あり得るかもしれない。アルカディア機関の工作員としての役目は果たしたらしいから、これ以上榛奈高校にいる理由がないというか」


加奈ちゃんは工作員として、私と徹也の監視。そして私のドライバーとしての才能を開花させる存在として送り込まれた。私と接触していたのはそういう任務なのだろう。だけど、それだけじゃない。それだけならあんなに仲良くなることはない。地区大会の時にメガホンであんな言葉を言わない

エプロンを脱いで、カウンターから立ち上がる


「お父さん!ちょっと加奈ちゃんの家に行ってくる!」


話さないといけない・・・私はこれからも加奈ちゃんと一緒に榛奈高校、自動車部に居たいのだから


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