ACT.58 造られた子供達
「さて、どこから話すべきか・・・とりあえず順を追って話したほうがいいかな?兄さん」
「そうだな」
白薔薇の花束を花瓶に飾り、病室の机にチェスを挟みながら神也の話を聞く。チェスは神也の趣味らしい
「まずは、SSR計画について。ミスター・ホークマンを越えるレーシングドライバーを生み出す為に、アルカディア機関の上層部一部はあらゆる計画を立てた。素養のある子供達を集めて育成、鷹の雛計画や様々だが・・・その中で、ホークマンのクローンを生み出すという発案され、そして、ホークマンのクローン情報の遺伝子操作によるデザイナーベビーという結論に云ったた」
「ホークマン以上のレーシングドライバーは過去にいないからか・・・遺伝子ベースとしてもさぞ、優秀か」
「その通り。現在はSSR計画の方が有用性があると判断されて、アルカディア機関は僕たちの存在と、力を証明しようとしている」
冷静にチェスを打ちながら、神也は語る。こちらは怒りもあるが、興味もありながら聞いてしまう
「神也、お前は自分はナンバー5って言っていたな。そしてオレをプロト0と呼んでいた。制作されたデザイナーベビーは他にいるのか?」
「制作された人数は3桁を越える。制作途中で失敗して死亡した者や実験の薬物投与で死んだ者を含めれば・・・そして試作タイプのプロトシリーズ、そして正式ナンバーズの2種類。兄さんは一番最初に制作に成功された試作のプロトシリーズのプロト0。鷹見結衣が最初に制作された正式ナンバー1・・・そしてこの僕が正式ナンバーとしての到達点、現時点の最高傑作のナンバー5とナンバー6・・・このオッドアイの瞳はSSR計画で作られた者を識別する為のものだ」
「自分で最高傑作と呼ぶか・・・」
やはり、結衣も作り出された存在か・・・ということは、オレの妹になるのか。まあ、あんな可愛い妹なら歓迎であり、最初に会った時からの疑問が晴れた。道理で昔からあったような感覚があるわけだ
だが、神也の言葉に引っかかる。なぜオレのことは兄と呼び、結衣は呼び捨てなのか?姉として認めていないのか?
でも、それは今重要なことではないだろう。気になることはいくつもある
「ナンバー1からいきなりナンバー5・・・その間はどうしたんだ?」
「計画とアルカディア機関から関わらずに生活してる。正式ナンバーは身体能力と様々な育成方法のアプローチを目指して過ごしている、ナンバー2、3、4は計画に遂行する至って、能力不十分として計画から外された」
「なるほど・・・じゃあ、オレや結衣はなんだ?そもそもこの計画のことを知らせずに今日まで過ごしてきたんだ。どんな事情があってのことだ?」
少なくとも、結衣もこのことは知らずに育ったことは間違いないし、母さんもこのことは知らない
「制作後に、しばらくアルカディア機関で経過観察するんだが、兄さんは数年後の成長に問題ありとして判断されて計画から破棄。鷹見結衣は、僕も詳しい事情がわからないけど、彼女が6歳の頃に計画から破棄、後に鷹見裕司の養子になった」
「計画から破棄された・・・だが、今は計画に関わっている」
「そう、今は関わっている。8年前、僕や他のナンバーズ数名に突然変異とも呼べる事態が起きた。元々身体能力やある程度の知能面は、遺伝子操作で強化されていたが、それを遥かに上回る身体能力や人知を越えた能力を持つ者が現れた・・・兄さんも心当たりがあるんじゃないかな?鷹見結衣の身体能力と、人外とも言える空間認知能力・・・」
確かに、結衣の身体能力は常識で考えられないぐらい高く、超空間認知能力はもはや超能力とも呼んでもいいぐらいのものだ。ということは、目の前にいる神也も同じか、それ以上なのか?
「ちょっと待て、じゃあオレはなんだ?少なくとも結衣ほどの身体能力や超能力なんてないぞ?」
確かに頭の良さと観察眼には自信があるが、それはほとんど独学と努力や周りの教えのおかげだ。才能かも知れないが、明らかに後天的なものだ
「兄さんが計画から戻ったのは一年前。それまで兄さんの所在や詳しい事情がアルカディア機関でも把握していなかったんだ。僕も知らなかった。だが、兄さんは前代未聞のことをやった。明堂学園のSGT二連覇の達成・・・それが兄さんの存在を知ることになった、そして計画を大幅に狂わさせた元凶とも」
「ひどい言われようなだな・・・なるほど、表舞台に出ていなかったが、少し調べればオレの存在は簡単にバレたしな・・・それにこのオッドアイの瞳が、計画で作られた人間を証明してしまうわけか」
「SGTの二連覇はSSR計画の存在証明する為に、僕たちが成し遂げる筈だったのに、まさか計画から破棄したはずの存在に先を越されるとは思ってもみなかった。そして、アルカディア機関は僕たちとは異なる力を持つ、兄さんにも注目した。僕たちはドライバーとしての力に優れているが、兄さんのようにチームそのものを強くしてしまう才能はどのナンバーズにもいなかった」
「なるほど・・・計画が狂ったのそのせいか。しかし過大評価も大概な気もするがな。SGTの連覇はオレだけの功績じゃない」
「だけど、周りはそう思っていない。違うかな?」
神也の言う通りに、明堂学園内部もオレの功績を強く評価していた。評価せざるを得ない故に、明堂学園を追い出されるまでに至ったわけだが
「まあ、兄さんの能力に研究者の中に疑う者はいたからね。だから兄さんの能力を証明する為に、あの計画に便乗した」
「鷹の再臨計画か・・・元々は、結衣を主軸に置く計画だったらしいが・・・上柳の爺さんの道楽はともかく、SSR計画は一体何の目的で便乗したんだ?」
「そうだね、ここからは鷹の再臨計画の本当の目的を話そう。簡潔言えば、僕たちのナンバー5とナンバー6の脅威的な存在になるかどうかの証明実験のようなもの」
「脅威・・・」
こちらが考えならがチェスを打ち、神也は間髪入れずにチェスを打ちながら喋る
「SSR計画の子供達は、才能があるとはいえ、ドライバーとして、どんな教育環境がいいのかというのは予想は出来ても、不明確。だから子供たちは様々な環境アプローチで育てられることになった。僕やナンバー6は、アルカディア機関の整った環境でドライバーとしての英才教育を叩き込む。鷹見結衣の場合は、なるべく自然的な環境で育てられ、出来れば自らの意思でドライバーとしての才能に目覚めることを期待し、必要とあれば機関の工作員を送り込み、才能の目覚めを促す。もっとも、鷹見結衣の才能と成長速度は驚かされた。僕と同時期にドライバー英才教育を受け、送り込んだ工作員と同レベルかそれ以上になるのは、そう掛からなった。だが、あんな精神的な脆さがあるとは思わなかったけどね」
「・・・待て、その送り込んだ工作員ってまさか・・・」
小柳の名前を名乗った男がいた時点で、予感はしていた。だが聞かずにはいられない
「アルカディア機関工作員、81番。戸籍上は小柳の娘、小柳加奈として、榛奈自動車部に送り込み、鷹の再臨計画と遂行と、鷹見結衣の才能を目覚めを促す存在として」
神也の言葉に、冷静さを保とうするので必死だった
加奈とは部屋が隣同士、そして部屋に押しかけてくれば話したり、食事をしたりする。その会話には決して彼女の過去に関わることを聞き出そうとか、真意を聞こうとしなかった。本人が話したくない感じがあったのだが・・・正体を悟られないようにしていたということなのか?それなら、おかしい、なにかおかしい
「・・・兄さん、話を続けてもいいかな?」
「・・・ああ、続けてくれ」
チェスの動かす手と、思考してる様子を止まったことで、神也はオレを我を返すように話を続けるかと
「鷹見結衣がPTSDを発症したことで計画に狂いが生じた。数年かけた、鷹の再臨計画が水泡に帰する事態だ。だが、ここで兄さんの登場で計画は生きた」
「去年の明堂学園の功績と、SSR計画で制作された子供故に選ばれた訳か。それに結衣と教育環境アプローチは似ているか・・・まあ、ドライバーとしての才能は皆無な点を除けば」
「だけど兄さんはチーム環境そのものを強くする、他にない特異性を着目し、兄さんなら、使い物にならないと思われている鷹見結衣も使いこなせる可能性があった故に、鷹の再臨計画は兄さんに置き換えられた。そして、計画は実証された・・・成果は予想以上を越え、鷹見結衣にも僕たちの脅威となりうる存在になった」
なんとなくわかってきた、なぜ彼らは脅威となる存在を必要になるのか
「そして、お前達の英才教育アプローチのナンバーがオレたちに勝てば、お前の存在意義、存在証明となり、SSR計画は成功したということになるのか・・・」
「その通りだよ兄さん。兄さんと鷹見結衣をSGTの舞台で倒せば、僕とSSR計画の存在証明になる」
「オレたちへの過大評価はともかく、随分舐められたものだ。他の強豪名門チームや、明堂学園の天才達がいるんだ。そう容易く勝てるものか」
「勝てるさ、兄さんも僕の力を薄々勘づいているんじゃないかな?」
不敵な笑みを浮かべる神也は、チェスの駒を動かす。そしてチェスの勝敗は決した
「チェックメイトだ、兄さん」
「・・・チェスと将棋は上手い方でもないが・・・これは、勝てないな。お前の展開通りチェックメイトされたな」
神也は会話しながら、チェスを何一つ迷いなく指していた。おそらく、思考能力はオレなんかより断然に速いが、それだけじゃない
「僕から話すことは以上だよ兄さん。後は小柳に聞けばいいよ」
神也は席を立ち、部屋から去ろうとする
「兄さん。僕は白柳学院レーシング部門として、SGTの1200クラスで参加する。兄さんと榛奈自動車部で戦えるとしたら10月の後期SGT1200クラスだろう。それまで待っているよ」
「待て、神也」
部屋から去ろうとする神也を呼び止め、彼が振り返った時に、拳を上げる
「ジャン~ケーン・・・」
神也に、いきなりジャンケンを勝負を吹っかけてみた。彼も少し驚いた顔だったが、なまじ反応がいいのかジャンケンの構えになり
「ポン!」
神也はチョキ、そしてオレはパーを出した。この勝負で確信した、彼の人智を越えた能力の正体。チェスを打ってるときも薄々気づいていたが、今の神也の目の動きでわかった
「今、オレの手の動きを見たな神也?なるほど、その自信はそういうことか。お前はオレの手の動き見て、そしてその高い思考能力でオレが何を出すのかをわかった。尋常じゃない反応速度と動体視力を持っているから出来た技だ。チェスの時も、オレの手がどこに駒が置かれるのかを見えていたから、間髪入れずに駒を動かした・・・これが1on1の勝負なら、負ける要素がない。お前はホンの数秒先の相手の動きの未来が見える」
まさか、見抜かれると思っていなかったのか。神也は驚きつつも、笑みを浮かべていた
「ヒントを与えたけど、気づくとはね・・・まあ、いずれバレることだがら大したものじゃない。そうだよ兄さん。僕は数秒先の相手の動きが見える。予測じゃない、未来を視れる力だ」
神也が部屋から出て、再び小柳さんと二人になる病室。驚きと、信じられない事実を聞かされ、頭の中がぐちゃくちゃだった。だが、彼は嘘を言っていないのはわかる。嘘を見抜く自信はあるが、それ以上に神也はオレに対しての敬意を感じていた。それに信用を感じた
「・・・白薔薇か・・・」
白薔薇の花言葉は、”深い尊敬”そういうことなのだろう
そして、小柳加奈・・・正直、目の前の人物に聞くのは嫌だったが、そうも言っていられない
「小柳さん、加奈が工作員というのは本当なんですか」
「事実だ。彼女は今回の鷹の再臨計画で、鷹見結衣の才能の覚醒を促す存在、そして監視役。君の監視も含めていたがね」
「・・・まんまと騙されたわけか・・・なんというか、オレがアホらしいというか。まさか、そんな相手に興味を持つとはな」
嘘を見抜く自信があっても、嘘をつくのが得意なタイプや演じるタイプや目線を合わせない相手では、それが通用しない。興味と言ったが、実際は好意がある。オレ個人としては、魅力的な女の子として、加奈を見ていたから余計に情けない
「・・・加奈は、君に隠し事はしていても騙してはいない。彼女の言葉と行動は、彼女の本音だ、山岡徹也。君は間違っていない」
小柳さんから語られる言葉は意外なもので驚く。いや驚いたのはそこじゃない、彼の声の質がまるで優しさを感じたのだ
「どういうことです?」
「・・・山岡徹也、君に協力してもらいたい」




