ACT.4 明堂最強の鉄心
榛奈高校 会議室
「上村先生、ありがとうございます。この方向でS660を作ってみます」
「いいのよ~悠一君、そっちに協力できるのはそれぐらいだし」
オネエ口調の細身の男性、上村礼司先生。商店街チームの顧問であり優秀なメカニックでもある
「本当はラッシーチームに協力すると教頭がうるさいでしょうに」
「そういう大人なのいざこざに生徒は関係ないわよ。そうだ、例の転校生どうだった?」
「嫌われましたよ、これで商店街とラッシーの戦力差は互角・・・いや、もしかしたら勝ち目がないかもしれませんね。彼が噂通りなら」
「それは信じていいわよ、明堂の友達に聞いたから間違いないわよ、なんだって彼は・・・」
上村先生が言い切る前に俺のスマホから着信がかかる、相手は鈴だ
「先生すみません、出ても?」
「いいわよ」
上村先生と話があるから、部活には遅れるとは話したがどうしただろうか
「悠一君!大至急練習場にこれる!?」
「どうした?随分唐突だな?」
電話口だが鈴が慌ててるのがわかる、相当な事がない限りはそう慌てるようなタイプではないんだが
「それが、例の徹也君!加奈と1on1をすることなって、今スタートするわ!」
驚いた・・・どういう経緯があったがわからんが大方加奈が煽ったか?
「撮影できるか?俺も今すぐ向かう」
「わかった!」
「あらら、さっそく彼やってくれるわね」
「俺が行くまでに終わらなければいいですけどね!明堂高校最強の走りこの目で見ないとな!」
榛奈高校自動車部練習サーキット場
スタートラインに先頭にS660、後方にアルトワークス。SGTのルールに通り先行後追いの交代をする
スタートラインに動かすまでに、アルトを動かしてみたが使い込まれているもののペダル、ハンドル、シフトに変な癖もなくよく手入れされているのが改めてわかる。クラッチも使い手も上手いのだろう悪くない
運転席側の窓を開け、杏奈先輩がアルトの仕様を説明をする
「クラッチの感覚は掴めた?レブリミットは9000、8500辺りでシフトアップするのがオススメするわ、最大ブーストは1.2kg」
「S660相手なら最高速度なら勝るか互角ってところか?加速勝負になると殆どアクセルを離さないで走るスタイルが求められるか・・・」
「うん、S660のようなコーナリングマシンだとかなり攻め込んだ走りを要求されるわ」
考える、考えろ・・・勝つ為の方法を・・・
考え込む徹也、そして一つの答えを出し杏奈にそれを言う
杏奈は驚くが、反対はしなかった
「なるほど・・・でもホントにやるならリリスはともかく、奈緒は怒るわよ。あの子この車好きだし」
「その時は受け止めますよ、勝つ為なら手段を選びませんよ」
ため息をついて、杏奈は口を開き
「なら、任せるわ。そのかわり必ず勝って、加奈の鼻を折ってやりなさい」
「ああ、任された。」
運転席の窓を閉め、杏奈が車から離れる
シグナルが赤に点灯し、黄色へ・・・青に変わり2台が一斉にスタートする
ホームストレートスタートから一気に加速し迫る第一コーナー、先行するS660がアウトインアウトの体制でアウトのラインを続くワークスが後ろに付きブレーキングポイント、ヒール&トゥをしシフトを二速に叩き込む加奈
「・・・・?ワークスの姿がいない!?」
バックミラーを見るとそこにいるはずであろうワークスの姿がない・・・いや、この外から聞こえるエキゾースト、まさか横に!?
ホンの一瞬姿を見なかっただけ、その僅かなブレーキング操作タイミングで徹也はS660加奈よりブレーキングタイミングを遅らせインに車線を変え一気にブレーキングをかける
S660より車体半分ワークスが頭を出す、傍から見ても加奈から見てもそれはオーバースピード、よりによってインのラインで曲がりきれるはずがない
「悪いなアルト、少し無茶に付き合ってくれ」
イン側のガードレールにワークスが当たる、接触の衝撃が徹也にも襲う
反動でバランスを崩すがに強引に立て直しインインアウトのラインで曲がり切る
S660はラインを潰されアウトアウトインのラインで走ることを余儀なくされる
「やられた・・・!まさかこう大胆に攻めてくるなんて・・・!」
一方ピットでは双眼鏡で見てた奈緒は「徹也ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」っと絶叫
「一応、SGTのルール上では問題ないのよね・・・?」
「うん・・・SGTのレースって国際、国内レースのルールと異なる独特なものだけど基本的に車対車の接触はどちらかにペナルティが課せられるけど自損なら走り切れれば問題はないわ」
杏奈はリリスにルールを確認をする
「徹也君、たった1コーナーで勝負を変えちゃった・・・でもなんで加奈ちゃん今のに反応できなかったの?」
「消えるライン、高等テクニックのオーバーテイクであり彼、徹也君が得意とする技術だよ」
走ってきたのか、息を整えながら結衣に解説する伊東
「伊東先輩・・・」
「悪いな結衣、加奈がなんかしただろまったくあいつは・・・」
結衣の表情で状況をなんとなく察する伊東、リリスはさっきの言葉に伊東に問う
「悠一、徹也のことなにか知ってる口振りだけど」
「知る人ぞ知る明堂の名将、一年生でありながら明堂を1200クラス史上初の二連覇に貢献し導いたチームの指揮官」
そこまで言うと、一年生の勇気が思い出したかのように言う
「い、伊東先輩・・・もしかして明堂最強の鉄心ですか!?」
そう言うと頷く伊東。リリス、他数名その異名に聞き覚えがあった
「最強であり最速であらず、明堂に鉄心あり」
とある車雑誌がSGT参加校の特集をした際、明堂のエースドライバーの一人をそのような評価を下し異名となった
「思い出した・・・公式戦には出てないけど頭脳明晰、勝負強さで練習試合では負け知らずの、あらゆるパッシングにも動じない堅固な精神を持つドライバーがいる」
「そう、それが加奈が今戦ってる相手・・・鉄心の徹也だ」
レースは前後が入れ替わり、加奈は果敢に攻めるものの徹也は動きを読み最適なラインを潰し走り、テール・トゥ・ノーズが続く
一見するれば互角の戦いかと思われるが、攻めてるいるのに全然手応えのないどころか思った通りのライン通りに走れず焦りとイラつきがS660の動きに現れる
最終コーナーに差し掛かり再びホームストレートへ
2週目、第一コーナーで勝負をかけようとする加奈だが僅かながら最高速度にはワークスが上でありブレーキング勝負を持ち込もうにも徹也がさらに深いブレーキングポイントで前を譲らず加奈のラインを潰す
「見事な適応力とブレーキングセンスと言うべきか、後ろに目があるのかってぐらい加奈の動きを完璧に読んでやがる」
感心する伊東、対しリリスは
「でも加奈がこんなことで終わると思えない、何か仕掛けてくると思うけど」
「ああ、だけど仕掛ける前に決着が着くと思うけどな」
思った以上にレベルが高い、伊達に660クラスで全国大会まで出ている訳じゃないか。単純なドラテクなら明堂や他の強豪校と互角だろう
こっちも全力で逃げているんだが離れない、抜かれないようにするので精一杯だ
今は心境はイラつきながら走っているだろう加奈だが長引けばこっちの手の内が効かなくなる可能性がある逆を言えば今がストレスのピークだとしたら?
・・・ここの周でケリをつけるしかないか
やることは同じだ、あの性格ならこの勝負に乗るだろう乗らなければ別の手だ
大きいヘアピンのコーナーをクリアすると、やや長い直線から45R以上ある第9右コーナーここで仕掛ける
このアルトを信じる、この車ならやれる・・・!
徹也は先程までとは違い立ち上がり重視のラインを取る、加奈も同様に同じラインに乗る
先程とラインが違う?ここでなにか仕掛けるつもり?乗ってやる・・・!このまま大人しく後ろに付くものか!
アルトワークスとS660に右コーナーが迫る・・・迫る、迫る・・エキゾーストと共にタイヤの悲鳴がコース上に響き渡る
見ていた場は凍りつく、それは明らかなオーナースピードのブレーキング。徹也はオーバースピードのブレーキング勝負を挑む
こっちは限界の高いMRで最高クラスのコーナリングマシンS660!ワークスで行けるならこっちが行けない理由はないはず!負けるものか!
アルトワークスとS660は限界を越え、グリップがほぼ効かない状態でコーナーに突入する
ほぼ同じライン、同じ速度・・・アルトワークスはそのままアウトに膨らんでいくがギリギリのところでコントロールしきる
対しS660はハーフスピン状態になり制御が困難な状況に陥いていた
嘘でしょ、同じ速度で同じラインで行ったのに・・・なんでアンタは曲がりきれるのよ!?ダメだこれは負けた・・・!
S660はそのまま180度にスピンし、止まってしまう。アルトワークスはそのままコーナーをクリアする
加奈は車の向きを変え復帰するものの、立て直してる間に徹也はゴールラインに到達し5秒以上経過し勝敗を決していた