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走劇のオッドアイ  作者: かさ
SGT地区大会編
49/121

ACT.45 箱崎姉弟と結衣 2

ピットガレージ


目を覚ますと、ガレージの中は明かりが消え暗く、時刻を見れば2時過ぎ。もう一度寝ようかと思い、目を閉じるがなかなか寝付けず、簡易的に作られたベッドから起きる

床の上にタオルケットや毛布を被せて、寝ている人や、おそらくギリギリまでデータと睨めこしていただろう勇気が、ディスプレイの前で座ったまま寝ていた

アルトの方に向かうと、タイヤを取り付け、リフトに降ろされ、いつでも走れる準備ができているようだった

アルトの運転席の扉をそっと開け、シートに座る

ハンドルやシフトノブを力強く握りしめて、不安を落ち着かせようとする

安道真里の走りを見てから、どうも落ち着かない。不安でいっぱいだ

周囲は気づかなかったのか、それとも自分だけがそう感じるのか。真里の走りには負の執念、負の感情で走っているしか思えなかった。楽しいとかそういうのは一切感じられず、まともじゃない

正直、逃げたい、戦いたくない。なんで、こんな時に徹也がいないのだろうか?そんなことを考えるらしくない自分が嫌で仕方ない

首にかけてる、ペンダントのエンブレムを両手で握りしめる


「怖いよ・・・」


情けなく、小声でそうボヤいてしまった

トントンと助手席のドアの方から叩く音が聞こえ、振り向く


「結衣先輩、室内とは言え、この時間帯は冷え込みますよ?せめて布団でも掛けてください」


助手席の扉を開き、心配そうな表情で布団を渡してくる勇気君


「ごめん勇気君、起こしちゃった?」

「うんまあ・・・ただ、なんとなく結衣先輩なら寝付けないでここにいるだろうなーって思って」


優しく、照れならが微笑む勇気君の姿を見ると、なんだか落ち着く


「よくわかるね勇気君」

「安道先輩と行衛・・・姉さんもなんだかそわそわしていたし・・・そして何よりも、結衣先輩の大丈夫って二回言う口癖はどうにもならないぐらい不安を誤魔化す為に言う、悪い口癖ですよ」


気づかれていたことに驚く。それなりに強がって見せたはずなのに


「一応、結衣先輩とはこの部では一番付き合いが長い方ですからね。6年ぐらいになるんですかね?」


普段は奈緒と仲良しで、高校に上がってからは一緒にいる時間が長いから知ったら周囲は意外と思われるかもしれない。実際は奈緒ちゃんより勇気君の方が知り合って、友達になってからの期間の方が長い


「6年・・・そういえばそうだったね。勇気君をイジメてた子達を懲らしめてやった時かな?」

「そうですよ、あの時は結衣先輩少々過激で強引でしたからね。僕をイジメてた連中をドロップキックを決めて、反省させるために僕まで商店街の手伝いをさせられたりとか、逃げようものなら鉄拳制裁も辞さないとか・・・徐々に柔らいでいきましたけど」

「あはは、そういえばそうだったね。いやー、今思い返すと恥ずかしいというか」


恥ずかしいが後悔はない、悪いことは正す。6年前に決めたこと、ホークマンが死んだあの光景を見て、しばらく考えた結果と行動だ


「・・・そのエンブレム、今も大事にしてくれているんですね」


勇気君は私が首に掛けているペンダントのエンブレムを見ながら、嬉しそうに言う

ホークマンのエンブレムのキーホルダー、盾型の金属に金色の鷹の模様の装飾の上に、クリアレジンを重ねたもの。限定品のレアモノだったりする


「うん、奈緒ちゃんと勇気君との絆の結晶・・・走っている時はお守りみたいな感じでつけているけどね」

「そう言われると、作った甲斐がありました」


実はこのエンブレムは奈緒ちゃんと勇気君が作った贋作であり、かつて大事に本物を持っていたが、今は何処かの川の底か、海の底か


「・・・そういえば、その頃まではロングヘアーでしたね。結衣先輩の髪」

「うん?・・・そう言えばそうだね、あの時に髪をバッサリ切っちゃったんだよね。そう考えると、このエンブレムは、奈緒ちゃんと真里の関係を決別させてしまったきっかけでもあるんだね・・・」


話は、鷹見結衣が中学生の頃になる

当時でも人助けやボランティアを進んでやり、容姿端麗、オッドアイの物珍しさ、そして当人の常人離れした身体能力があって、大概の男子や女子にも人気があったが。それを面白く思わない人がいるのも悲しくも現実だった。特に安道真里を中心にした複数の女子グループの中に、箱崎奈緒もいた

安道真里は自ら手を汚すことはなく、嫌がらせや、あらぬ噂を流したりしていた。特に噂の効果は強く、それを信じるもの達は結衣をこう呼んでいた。「偽善者」と


「あながち間違いじゃないような気がするけどね、余計なお世話とか言われたりしてたし」

「でも、その噂のせいで結衣先輩にはまともな友人と友達が離れてしまって・・・一時期同学年からは浮いた存在になって、他の先生からは厄介者扱いされてましたから。当時は悔しかったですよ、何を言っても小馬鹿にされたり・・・唯一の救いは商店街の人達や結衣先輩をよく知る人たちがそういう噂を一切信じなかったところですね」


真里のグループのターゲットになることを恐れ、少なくとも学校内で結衣を味方をするのは、勇気ぐらいだった


「真里先輩の父親が、偉い議員か何かで、それに真里先輩は自分から手を出さずに。表の顔は先生や関係者には良き優等生。裏では気に入らないものを虐げ、陥れるのを好む・・・昔はあんなじゃなかったけど」


箱崎姉弟と安道真里は幼馴染の関係であったが、真里と奈緒は仲は良かったが、勇気はどうしても真里のことが好きになれずにいた

真里と奈緒、結衣と勇気と姉弟で仲の良い相手が複雑な状況だった


「真里が悪い噂だけ流すだけなら、良かったけどね・・・決定打になったのが」

「冤罪事件ですね・・・」


冤罪事件。事の始まりは真里のグループの女子の一人の財布が盗まれたというのが事の発端だった

全生徒の持ち物検査を行った結果、結衣の鞄からその財布が出ててきたことで犯人とされた。いくら弁明しようが現物が結衣の鞄から出てきたことと、例の噂のせいで信じる人がおらず、結衣は出席停止という処分を喰らう羽目になってしまう


「ただ、事がそれだけで終わらなかったんですよね」


鷹見結衣という人間の人徳というべきか、榛奈町の商店街や小学校生徒、教員の関係者が猛反発し、事件の真相を求める署名まで集められ、さらに結衣を信じる人達が学校に押しかけるといった事態まで発展し、結果は冤罪の可能性があるが証拠不十分、だが教員の対処も不適切ということになり、結衣の処分は取り消しになった


「嬉しかったけどね、あれは皆やり過ぎだったよ・・・」

「その時は、真相や処遇も有耶無耶になってしまったけど。それが安道真里の逆鱗に触れた・・・」



アルトの車外では、雑魚寝していたリリス、杏奈起きてが近くでこっそり聞いていた


「あーもう、二人っきりの車内ならもっといい雰囲気で話すかと思ったら、随分陰気な昔話して・・・」


小声で杏奈がモヤモヤを言うが、リリスは深刻そうに聞く


「しかし、榛奈町の隣町に住んでる私達にも、当時の結衣の噂は聞くことがあったけど。いい噂とか、悪い噂とか」

「その悪い噂は安道真里が原因ってわけか・・・それにしてもとんでもない奴ね。よくそんな素行不良な人間がSGTのライセンスを習得できたもんね」

「まあ、話を聞く限りは、上面は優等生だから難しくないんじゃない?SGTのライセンスは基礎運転さえできれば後はその人の素行次第だからね」


小声で話し合うリリスと杏奈は、こっそり二人の会話を盗み・・・いや、聞き耳を立てるが杏奈は周囲を見て、近くにいた奈緒と阿部の姿が見えないことに気づく


「あれ?奈緒と阿部は?」

「そういえば・・・聞き耳を立てるのを夢中で気がつかなったけど・・・」



レース場 自販機コーナー

24時間ここは空いており、薄暗い照明を照らしながら奈緒は逃げるようにそこのベンチに座っていた


寝付けずにいたら結衣と勇気の会話が聞こえ、内容が内容なだけに逃げるようにその場を立ち去ってしまった


「最低ね・・・私は」


そうボヤいたら、頬に急に冷たいものを当てられ


「キャ!?」


驚いて悲鳴を挙げてしまう、振り向くと冷たいペットボトルを二つ持っていた阿部がいた


「お、意外と可愛反応するんだな奈緒」

「・・・おかげで眠気が覚めたわ」

「全く寝付けないでいたのはどこのどいつだ?ホラ」


私の好きなレモンティーのボトルを渡し、隣に座る阿部


「この時間帯にカフェインのあるものを渡すのはどーなのよ?」

「奈緒はそんなのお構いなしに寝れる、オイラの知ってる奈緒はそんな図太い女の子だと思っていたけど?」

「・・・流石にそんなこと言われたら、傷つくわよ?」


そう、返答すると。阿部はため息しつつ、返す


「やっぱり、らしくないぐらい落ち込んでる。口より先に拳が出る奈緒がそれを行わないなんて」

「・・・・ねえ、阿部は自分がメカニックをやっている資格があるとか、そんなことを考えたことがない?」

「考えてことないかな?好きだからやっているって感じだしな・・・」


割と即答で、余計こっちが落ち込んでしまう。心底を車が好きだから阿部は即答できるんだな


「昔を振り返るとね、私は車を好きだって言うことと、メカニックをやる資格なんてないんじゃないかて思ってしまってね・・・」

「・・・今思えば、奈緒は中学の頃以降とかまったく話したを聞いた事ないけど。オイラ相手でも話したくないこと?オイラ、徹也のように明確、明快な回答ができる訳でもないけど・・・聞き手ぐらいにならないかな?吐ける分、吐いてしまえば気が楽になったりとか」

「・・・知れば、嫌な女だと思うよ」

「オイラは今の奈緒が好きだから、そんなことはない」


さらっと、阿部が告白して・・・こちらも呆気に取られてしまったが、本人も失言だと思って、顔を真っ赤にして「違う!違うそうじゃなくって」っと慌てていて、思わず笑ってしまった。それもお腹を抱えて


「・・・そうか、今は今、昔は昔か・・・」

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