ACT.41 重なる因縁 1
レース場 自販機コーナー
「なるほど・・・それで登録名が異なるチーム同士で戦うことになったのか。随分厄介な事情を抱えていたんだな、コーチが転校先に薦めたわけだ。そのおかげで積み重ねた過労に、先ほどの試合・・・相当思考を巡らせて走らせていたはずだ。気合で体を踏ん張っていたんだろうが、一段落したところに張り詰めた糸がキレてぶっ倒れたって所だな・・・アイツらしいというか、なんというか」
渉にこれまでの事情を話し、苦笑い気味に納得していた
「よ、よくわかりますね・・・」
「長い付き合いだし、散々テール・トゥ・ノーズで走りあったからな・・・互いに考えてることはわかってるもんだ」
ライバルと言うだけはあるというべきなのか
「さて、ここからが本題か。行衛のことだ」
「さっきのやり取りを聞く限り、あの人って明堂学園に?」
「ああ、行衛はオレたちの一つ上の先輩だった人だ・・・先輩とも言いたくないがな」
それで、呼び捨てで呼んでるいるのか
「狡猾で嫌味ばっかり言う、典型的に嫌な奴だが、実力は確かで、当時は1軍のレギュラードライバー候補だったんだ。徹也とオレが来るまではな」
「一軍のレギュラードライバーということは、その座を降ろされたから?」
「いや、あくまでも候補だ。部員の数が多く、実力主義と部員の自主性を要求する明堂学園は、SGT参加するメンバーを決める時は一軍の部員達でチーム編成し、学園内選抜大会で勝ち抜かないといけない」
「学園内で選抜大会って・・・なんというか、うちの自動車部とは別次元すぎる・・・」
SGTの有名校ともなると、そういうのが日常茶飯事なのか?
「話が脱線したな。座を降ろされた訳じゃないが、自分の立場が脅かされると思っていた行衛は、嫌がらせやとか陰湿なことをやっていた訳だが・・・それだけならまだよかった。あの野郎何人かと組んで、徹也をトラックで轢きやがったんだ・・・!それも、事故を装ってな・・・!」
「それで死にかけたって・・・!」
想像以上に腹に据えかねる話だ。話している渉も思い出すだけではらわたが煮えくり返る思いだったんだろう。口調に怒りを感じる
「徹也は奇跡的に重傷で済んだがな。調査結果、主犯が行衛ということがバレて、共犯諸共退学処分になったんだ。その後はどこかの学校に入ったとかという噂は聞いたが、今後関わることがないと思ったから気に留めなかったがな・・・まさか、こんな所で再会するとは思わなかったが」
「そうなると、時系列的にコチラの話になりますね。行衛は去年の後期SGTの地区予選で戦った相手なんです。その時は学校所属の部活ではなく、スポンサー契約しているチームに所属していましたが・・・」
話すのが辛い・・・手の震えが止まらない。あの時のことを思い出すとフラッシュバックしそうで・・・
「おいおい?大丈夫か?相当顔色悪いし、息も荒いぞ?」
その様子を見かねて、渉が心配する
「大丈夫・・・大丈夫です・・・」
「・・・もういい、悪かったな・・・行衛がやることは大体想像が付く」
話を聞かずとも、私のただらぬ異常に察しがついたのだろう
「でも、おかしいはずなんです。行衛はその試合後にライセンスを剥奪処分を受けたと聞いているので選手として出ているはずは・・・」
「SGTのライセンスの剥奪処分されても、一応再発行は可能だが・・・行衛みたいな奴にライセンスの再発行認定は相当難しいはずだ・・・確かヴェルサイ学園のチーム1だよな?試合を見ていたがそのチームのドライバーは女だ。確か行衛と一緒にいた奴だ」
安道真里だ・・・本当にドライバーとして参加しているのか
「メカニックとしてチームに?」
ライセンスがなければ、それで参加するしかない。というかそれしか考えられないが
「それにしては、随分偉そうだがな・・・行衛のチームの試合内容は見ていないのか?」
「はい、徹也が倒れてそういう対応とかで・・・いま、先輩達が情報を集めているんですが」
「・・・もしかしたら、行衛の奴は、徹也と同じオペレート・コ・ドライバーをやっているんじゃないか?あのドライバーの走りとパターンが行衛の走りに似ていたからな・・・あくまでも憶測だが」
「あ、それなら・・・でも」
「ああ、オペレート・コ・ドライバーは指示する方も、受ける側も相当な連携と打ち合わせ・・・そして信頼が必要になるし、指示する人間の頭の良さと判断力が要求されるからそう簡単に出来るもんじゃない。実質徹也専門の役割だ。実際にやってみてそう思っただろ?」
「知っていたんですか?」
「見りゃわかるよ。ブロックパターンとか土壇場の駆け引きとかアイツらしさが出ていたからな。それだけに徹也が抜けた穴は大きい。行衛の人間性はクズの一言だが、ドライバーとしては一流だ。そいつがオペレート・コ・ドライバーとして参加しているなら・・・」
厄介だろう・・・って考えていたら、渉は顔をニヤつききコチラを見る
「まあ、そちらの実力を見れば、徹也のオペレートなしでも苦戦する相手でもないだろうな。県立校のチームでとんでもない実力のドライバーがいるんなんてな・・・鳥肌立ったよ。是非とも、勝負したいものだな」
案外、楽観的な返答をして肩透かししてしまう。渉は缶ジュースを飲み干して立ち上がる
「負けるなよ。オレたちも勝ち上がって、全国大会の舞台で戦おうぜ」
「渉も660クラスに?」
「ああ、来週からコチラの地方大会だ。いろいろ話を聞かせてもらってありがとうな、徹也によろしくな」
そう言い、渉はその場を離れる
話で夢中で、全然手付かずの缶のミルクティーを握りながら見送る
「ユーイー?まだ着替えないで何をしてるのかしら?」
恐る恐る振り向くと、作業着を来たままの奈緒ちゃんがいた
「帰ってくるのが遅いから探していたら、他校の生徒と仲良くお話ですか?そうかそうか、私たちが必死にアルトのメンテナンスしてる時にねぇ?」
「ごめん」
眉をしかめながら、コチラを睨む奈緒ちゃんに咄嗟に謝るが。すぐに顔をニヤつかせ
「冗談よ。そうガチで謝られたらこっちが困る。あの男子生徒は知り合い?」
「徹也のお友達というべきかな、海王渉さん。ほら、明堂学園の・・・」
「・・・・・え?は?」
一瞬固まる奈緒ちゃんだが、こちらの両肩を掴んで
「結衣!何を話していたの!?というかサインとかもらった!?あの海王渉よ!SGTトップドライバーの!プロ業界が注目してる将来有望されたスターよ!」
私の身体を揺らしながら、言っくる奈緒ちゃん
「お、落ち着いて奈緒ちゃん!ただの身の上話しというか、情報提供というか、徹也によろしくとか、そんな話ししだよ!あ!そうだ!行衛のことで話していたの!」
その名前を出すと、パタリと身体を揺らすをやめて、驚いた表情をする奈緒ちゃん
「どうしてそいつの話題で話になったのよ!?」
「次の私達の対戦相手、私立ヴェルサイ学園にいるの、行衛が。もともと明堂学園のドライバーで、徹也とも因縁がある相手だって言ってたの」
「よりよって・・・でもアイツはライセンス剥奪されてるからドライバーでの参戦はないでしょ」
「いや、ドライバーとしてではなく、おそらく徹也と同じオペレートしているんじゃないかって・・・渉さんが・・・あと、それに・・・ドライバーは安道真里だよ、奈緒ちゃん・・・」
真里の名前を出すと、さらに驚く奈緒ちゃん
「ま、真里が!?なんで・・・」
「わからないけど・・・大体は想像はつくよ」
「結衣に対して嫌がらせ?・・・いや復讐・・・わざわざ自動車系の部活動に入ってまで・・・いや、真里の性格を考えればあり得るのか・・・」
「平然と車を蹴飛ばして、車を傷つける、中学の頃を真里を知っていれば、とても車が好きだなんて考えられない。むしろ嫌がらせの為なら周りを巻き込むことを躊躇わない・・・」
「行衛と真里・・・二重の過去の因縁が絡むか」
レース場 出入り口
「随分話し込んだみたいね、渉。陽葵は待ちぼうけて車の中で寝てるわよ」
出入り口前にハザードをつけて止まってる、槇乃コーチのセダンと腕を組んで待っていった明音
「不思議な人でしたよ、鷹見結衣。なんとなく徹也に似ているなーって感じてしまう。性別とか頭の回転とか全然違うのに・・・あと、行衛にも会いましたよ。相変わらずでしたね」
「そう・・・私が行かなくてよかったか」
「ええ、明音先輩が行ってたら血の雨が降ってましたね」
「どういう意味よ?」
拳を鳴らしながら、コチラに迫る明音
「いや、明音先輩だったら行衛を見た瞬間に拳が飛ぶでしょ?」
「時と場合による。一応、行衛は私達、明堂一族の被害者でもあるから、ホンの少しは同情と遠慮はする。ただレース以外で勝負に水を差すようなことをするなら、私と宗太で止める。それが、明堂一族の責任としてね」
「やはり、明日も残るんですか?」
「ええ、私達の参加する1200クラスの地方大会は一ヶ月後、時間に余裕はあるからね。榛奈自動車部の情報収集ついでに、行衛の暴走を止める。まあ、余裕があったら徹也の見舞いでもしておくかな」
「明音先輩が見舞いに行ったら、徹也の奴飛び起きるだろうな。なんせ、もっとも尊敬する先輩ですからね」




