ACT.40 榛奈自動車部騒動決着と新たな窮地
商店街チーム ピットガレージ
「フロントローターに異常が無ければ阿部と奈緒でブレーキパッドを交換!タイヤの取り外して寄せておいてくれ。杏奈先輩は端末でエンジンチェックを!勇気は次チームの偵察をお前さんの親とうちの叔父と協力して情報収集してきてくれ!急げ!すぐに試合は始まるぞ!」
「わかりました!徹也先輩!」
試合終了後、ジャッキスタンドにアルトは乗せられ各部のチェックと消耗品などの交換をするメカニック達と勇気に偵察指示をする。休んでいる暇ない、どんな相手だろうが次に備えないといけない
「試合が終わったというのに、息つく暇もなく忙しいな」
嫌味たらしく喋る声の主の方を手を止めて全員向く
「・・・何しに来たんですか?教頭先生」
敵意剥き出しの声のトーンを出す奈緒。阿部も勇気も教頭を睨みながら見る
「やめなさい奈緒、それが人に物を聞くテンションじゃないでしょうが?」
「けど、上村先生。この人のせいで私達の自動車部は・・・」
「箱崎奈緒君の言う通りだ。私の行動によって混乱をもたらし、チーム同士で存続を掛けて戦うなんて事態を引き起こした責任は取らなければならない」
先ほど嫌味たらしい口調を喋った人間とは思えない程、穏やかに、そしてまるで別人の変化する教頭
怒り口調で喋ろうとした奈緒が、不意を突かれたような感じの表情をする
「先ほど、学校側に自動車部顧問の辞表と私の退職届けが受理された」
「・・・騒動の責任を・・・ということですかね?」
「そういうことだ、山岡徹也君・・・上村先生、後はお願いします」
そう言われてた上村先生は軽い会釈をして、言いたいことを言った教頭先生はガレージピットから去る
「・・・なんというか、随分あっさり引き上げたというか・・・というか退職するって」
「というか、途中話してる雰囲気も、最初あった頃の教頭先生だった感じっすね、悪意が全くないというか優しいというかなんというか」
まるで別人のように変わる教頭に、困惑する奈緒と阿部
退職理由はスポンサーから個人的に受け取った献金による汚職が原因というのが筋書きだろう、あの会長ならそういうシナリオを描いていたというべきか
なんというか、一段落・・・終わったんだよなって思って、何かの糸が切れた感覚があった
「はいはい、みんな手を休めないで動きましょう!私はラッシーチームの方の様子を見てくるけど・・・後は徹也とリリスの言う通りに・・・」
手を叩いて、皆の気持ちを促すようにする上村先生だが・・・こちらの顔を見て手が止まる
「?どうしました上村先生?・・・というか皆どうした?」
上村先生だけじゃなく、全員コチラを向いていており、結衣が指摘する
「て、徹也、は、鼻が・・・」
そう言われると、鼻というかその周りがなんだか熱いようなって思って手を触れてみると手に血が付着していた
「あ・・・あれ?」
もう口の周りにも血だらけになっていることを認識すると、視界が歪んでいき・・・そのまま意識を失った
鼻血を出して倒れ込んだ徹也は、会場にいた山岡華さんと山岡トオルさんの付き添いで救急車に搬送され近くの病院に運ばれた
結論から言うと、過労だったらしく。数時間経過した今も意識が戻ってない
徹也が倒れてから数時間後のピットガレージ
第4試合、本日最後のスケジュールも終了され、バタバタしていた商店街チームは偵察や対策どころじゃなくチームの中核である人間が倒れたことで動きが止まっていた
「徹也、大丈夫かな・・・」
「考えてみれば車の制作計画や結衣の練習メニューとか、阿部を引き入れた時とか、裏でいろいろ動いたりして入部してから一切休む暇もなく動き続けていたもんね・・・しかも疲れた素振りも見せないで・・・」
奈緒ちゃんは思いついたように、この一ヶ月近い徹也の行動を思い出す
「そういえば、トオルさんが言っていたような・・・今にも倒れそうなのに無理をしてるって」
「・・・本当に倒れたら元も子もないじゃない」
奈緒ちゃんと勇気君と一緒に徹也の安否を心配していると、リリス先輩が声をかける
「過ぎたことを考えても仕方ないわ。奈緒は中断している作業を続けて、勇気もアルトのメンテナンスの方を手伝って。結衣は着替えてシャワーでも借りて少しでも体を休ませて。明日に影響が出ないようにね」
リリス先輩に言われ、奈緒ちゃんと勇気君はメンテナンス作業をし、RPスーツを着替えるためにレース場の更衣室に向かう
SGTの開催レース場には車からおおそよ1時間前後の距離にあり、予選や本戦に負けた場合はその日に撤収になるが2日目参加チームはそのままピットガレージを借りることが出来る
競技車両のメンテナンスの為にそのまま泊まり込むケースが多く、キャンピングカーやテントを駐車場に用意したり、ピットガレージに寝泊りするチームもいる。ちなみにうちのチームは後者である
その為に更衣室やシャワー室や飲食を販売してる販売店等の施設が用意されている
憂鬱ながら、更衣室向かう途中施設内の廊下を歩いていると声をかけられて足が止まる
「あらあら?鷹見結衣さんじゃないかしら?」
声の主の方を向いて、見慣れない制服で最初は誰だかわからなかったが覚えのある面影・・・あまり思い出したくない人物だった
「安道・・・真里さん、だっけ?」
「久しぶりね、中学を卒業して以来かしら?ふふ、会いたかったわ」
「・・・・・」
正直・・・かなり嫌い人種というべきか、人間性的に相反するタイプであり、過去のいざこざで仲は決して良くない。出来ることなら私が2度と会いたくのない人、それが安道真里だ
「なんでこんなところに?」
「あら?私も参加チームドライバーだからね?ヴェルサイ学園のチーム1、つまりあなた達の次の対戦相手よ?知らなかったの?」
意外だった。私が知る限り、この人はそこまで車が好きじゃないはずなのにSGTのドライバーだなんて
「おいおい安道、こいつらがそんなこと知るわけないだろ?なんでもそいつらのチームメンバーの一人がぶっ倒れて救急車に搬送されたんだからよ。それで慌ただしかったんだろう」
真里の後ろから、男子生徒が話に入ってきながらこちらに向かってきた。学生服の色合い的に同じ学校だろうか。そして安道真里以上にもっと会いたくない人物かつ、因縁のある相手
「行衛康彰!?」
「おお、覚えていてくれていたらしいな鷹見結衣。あの時は悪かったな、ククク」
まるで悪びれる気もない、不快な人間。去年も会った時と変わらない
「しかし、徹也も情けないな。大会中にぶっ倒れるとかアホかよ。まったく笑える」
この口ぶりは、徹也のことを知っている?知っているにしても随分辛辣な言い方で不愉快だ。無視して行こうとするが
「おいおい無視することないだろ?鷹見結衣」
私の腕を掴もうとして、止めようとしていたが
「やめろよ行衛さん。アンタに話すのが嫌いらしいぜ?その娘は」
見慣れない男子が、行衛の腕を掴んで阻止し、私と行衛、真里の間に立つ
「・・・どうしてこんな所にいやがる。海王渉!」
「いいじゃねーかよ、友人の活躍振りを見に来て不思議じゃないだろ?それよりも明堂学園辞めさせられた恥さらしが、まさか隣県の学校に転校してSGTに参加してるなんてな」
海王渉に掴まされた、腕を振りほどき彼を睨む行衛
「一体誰のせいでこんな目に遭っていると思ってるんだ・・・!お前ら、渉と徹也・・・そして明音の奴がいなければ!」
「アンタが徹也にやったことを棚に上げて被害者面するんじゃねーよ!アイツ死にかけたんぞ・・・!」
お互いに睨み合う、二人・・・相当な因縁でもあったような内容だが
「・・・いくぞ、安道!」
「ええ・・・明日が楽しみしてるよ。結衣」
しばらく睨み合ったあった後、行衛は舌打ちしてその場を去る二人
残されたのは私と海王渉の二人
「ふー・・・少しでも性根が良くなったかなと思ったが、あの様子じゃ全然か。悪かったな、話に割って入ってしまって」
「いえ・・・こちらこそ、ありがとうございます・・・えーと、海王さん?」
「渉でいい、ジュースでも奢るから。少し話しないか?鷹見さん」
レース場の自販機コーナーに行き、缶のミルクティーを渡され、そのへんのベンチに座る
「しかし驚いたな。徹也以外で、オッドアイの人がいるなんてな・・・」
こちらの顔と瞳をまじまじと見る渉、少し恥ずかしいというか。徹也と初めて会った時を思い出す
「渉さんって、確か明堂学園のエースドライバー・・・」
「そして、徹也の幼馴染の友人・・・いや、好敵手とも言えるかな」
徹也の交友関係とかすごく気になってしまう
「それより、行衛の奴と結衣は何か因縁でもあるのか?」
「コチラも、徹也とも因縁があるんですか行衛さん。明堂の恥さらしとか転校とか・・・」
渉は不思議そうな顔でコチラを見る
「徹也からなにも聞いていないのか?アイツが明堂学園の出来事とか?」
「いや、詳しくは・・・徹也はあまり昔のことか自分からは話すことはないし、それどころか、徹也が来てからこの一ヶ月、いろいろ忙しくて聞いてる暇もなかったというか」
「・・・おおよそ過労で病院送りだろうと思っていたが、アイツがそこまで動く事態ということは只事じゃなかった訳か?聞いてもいいか?」
渉にこれまでの経緯と今の状況を話した。次の試合は様々な因縁が交差する戦いになることを思い知らされる




