ACT.38 SGT地区大会 一回戦 2セット目 インターバル
商店街チーム ピットレーン
ピットレーンに戻り、結衣がアルトから降りる所にドリンクとタオルを渡す
「よくやった結衣、お疲れ。交代だ」
「・・・・うん」
少し結衣の様子がおかしい、呆然としている
「どうした?」
「いや・・・私オーバーテイク出来たんだよね?」
「ああ、よくやったよ」
「私、公式の試合で初めて成功したから・・・なんというか、もう悔いがないというか」
「そんな、私の生涯に一片の悔いがないみたいなことを言うなよ。まあその様子なら、心配して損したな。結構無理をさせたなって思ったが」
そもそも、この作戦が起きることを想定していなかったから結衣のメンタルが不安で仕方なかったし、ブラインドアイで果たして出来るものなのか?という疑念もあったからだ
そういう方法でないと、加奈のフローモードを解くことが出来ないという自分の対策と情報収集の甘さに情けなさを感じる
「徹也どうする?タイヤは前後共に同じ状態だけど?」
「このままでいいぞ奈緒。阿部、チェッカーはどうだ?」
「問題なし、駆動、電装OKだ」
各部のチェックを素早く済ませ、アルトに乗り込み、内装に取り付けてるモニターを触りセッティングを自分向けのパターンにセットアップする
「さて、あっちの様子は・・・」
前のピットレーンにいる、ラッシーチームの様子をフロントガラス越しに見ると、後輩の千歳の肩を借りてS660から降りる加奈
「か、加奈ちゃん・・・大丈夫なの?アレ」
同じくあっちの様子を見る結衣
「心配ないだろう、単純に疲れているだけだ。本来引き出してはいけない潜在能力を引き出す集中状態を使えばああなる」
あの様子だと、加奈自身もまだフローモードを使いこなしてる訳ではないのだろうな
結衣と話をしているとリリス先輩もアルトに寄ってくる
「加奈があの調子なら、必然的に悠一が出るしかない・・・理想の対決カードになったわけね徹也」
「もっともお互いに代償はデカいですけどね。ほとんどタイヤのアドバンテージはないと考えていいでしょうし、こっちもナノマシンブレーキのリカバリーモードがいつ作動してもおかしくない・・・もう出たところ勝負ですね」
「随分らしくないことを言うわね・・・」
「それだけ相手が強敵な上に、同じタイプのドライバーかつ、オレの運転と戦術パターンはほとんどバレてますからね・・・」
この辺は情報提供した、上村先生を恨む
とは言え、全く手がないわけじゃない。あっちには知らない戦術をまだ残ってる
ラッシーチーム ピットレーン
椅子にもたれ掛かるように座り、傍から見ても疲労困憊なのがわかる姿の加奈
「部長ごめん、流石に追いかけるだけで精一杯だった」
「いや、そうなるまでよく頑張ったよ加奈。ゆっくり休んでくれ」
「・・・そう、させてもらう」
疲労しているのに加奈の顔は、本当にやりきったという満足した感じだった
S660に乗り込み、セッティングパターンを変更しながら涼とマシンコンディションを確認する
「悠一、タイヤコンディションは殆どアテに出来ない。リアタイヤとか相当ダレていやがる・・・加奈の奴、どんな運転すればこうなるんだ」
「それだけ、車を使いこないしていたということだ・・・フローモードをもってしても結衣を捉えきれなかった。先行されていたら、オレじゃ相手にもならなかったな」
「また結衣で来るかな?」
「・・・いや、後ろ見てみろよ涼」
S660のサイドミラーを見ると、アルトに徹也が乗り込んでいた
「ここで徹也が来るか・・・望んだ形だけど、てっきり勢いがある結衣が出ると思っていたが」
「涼、忘れたか?徹也がどちらが優れたタクティカルドライバーか、宣戦布告したことを」
数日前、鷹見さんの喫茶店のことである
「まさか、徹也の奴。わざわざ直接対決する為にこの状況を作り上げた?」
「それもあるだろうが、タイヤコンデションが落ちた状態だと、結衣は経験が浅いからリスクがある。それなら経験値が高い徹也が走るほうが無難なんだろうな・・・おそらく、タイヤは温存させる筈だっただろうが、加奈と結衣、お互いに人間離れした走りをしたもんだからアルトもS660も余裕が無い状態・・・徹也にとっては誤算だろうよ」
フローモードで車とは思えない驚愕の走りをさせた加奈に、目を閉じてコースをフルスロットルで走り回る神業をした結衣
「勝てるか?悠一?」
「どうだろうな、かなり徹也の走りや戦術パターンを研究したが、以前勝負した際にドリフトを使ってくるのは想定外だったし、自滅したが、あの状態からでもホークイリュージョンを仕掛けれることを考えればまだ、何かしら戦術的な手札はあるだろうな」
観客席
「とうとう、徹也がお出ましか・・・アイツが走るということはそれだけ厄介な相手か?」
渉は双眼鏡でアルトに乗り込んでいる徹也を見る
「相手チームも交代してる、私達と同い年ぐらいの人かしら?なんというか手慣れてる感じがある・・・槇乃コーチ、なんかデータとかないんですか?」
陽葵はおそらく情報を持っているであろう槇乃の尋ねてみる
「伊東悠一、あっちのチームリーダーで徹也と同じタイプのドライバーだ」
「テツちゃんと同じタイプ?なるほど厄介に違いなわね・・・」
「・・・同じタクティカルドライバー同士の戦いか・・・どういうものになるんかな?なあ明音ちゃ・・・明音さん」
言い直しながら明音に聞く、宗太
「タクティカルドライバーは情報戦が重要になり、いかに情報収集でき、戦術に適用できるかかが重要になる・・・まあ、ドラテクが互角ということを前提にだけど・・・」
ここまで言うと、顔をニヤける明音
「相手の方は気づいているのかしらね?徹也の闘走本能を用いた戦術を・・・伊達に私の後輩じゃないのよ」




