ACT.34 SGT地区大会 観客席にて
ホームストレート 観客席に向かう廊下にて
「まったく、槇乃コーチが迷わなければタイムアタックに間に合ったのに」
「いやー、面目ない・・・なにせ新設されたサーキットの場所なんて何年も地元に帰ってない人間じゃわからないよ」
性格のキツイ女子生徒にどやされている、ガタイがいい男性
「明音ちゃん仕方ないっしょ、試合には間に合ったようだし。テツちゃんがいるチームが予選落ちなんて有り得ないっしょ?」
ふわふわした雰囲気の女子生徒がその場をなだめるが
「でもナビを見て間違えるのはないでしょ陽葵先輩、明音さんが怒るのも無理ないっしょ?」
金髪の男子が追討ちをかけ、さらにへこむ槇乃
「まあ、陽葵の言う通り。徹也がいるなら予選落ちはないでしょうし、地区大会で負けることはない。そうでしょ?渉?」
「楽観するのは如何なものだと思うが、徹也のことだ。必ずオレたちの前に立ちふさがってくれるし、オレも陽葵先輩もその為にな・・・」
容姿が格好良い男子、渉のその言葉を聞いてニヤリとする明音
「いいよな渉も陽葵先輩も、オレもそっちのチームで戦いたいよ」
「宗太あんたはいいじゃない。まだ後期の大会も来年もあるんだから、私は個人的に決着はつけたし、陽葵は今回の大会で最後なんだから。というかアンタが抜けたら誰が渉の穴を埋めるのよ?私だけじゃキツイわよ」
金髪の男子、総司は渋々仕方ないという感じの表情をする
観客席に着くと、ピット側につけれていた巨大スクリーンに日程が表示されていた
「どうやら丁度いいタイミングできたようだ、1戦目、同じチーム同士の対決とは。わざわざ明堂学園から県を跨いで来たかいはあったようだ」
渉はニヤリとする
「ただな、明音キャプテン。わざわざ明堂の学生服を着てくる必要はなかったんじゃないか?こんなカッコじゃほら?」
渉がそう言うと、コチラに気づいた周りに報道陣とか関係者や野次馬がゾロゾロ近づいてきた
「まあ、徹也に対して宣戦布告みたいなものだけど・・・確かに鬱陶しいわね」
ホームストレート 観客席
「ちくしょー、関係者じゃないとピットガレージ立ち入り出来ないなんて歯痒いな全く」
「まあまあ~子供たちを信じるのも大人の役目でしょ?」
ピット反対側の最前列の観客席に座り、試合を待つ箱崎夫婦と山岡トオル
「1on1のバトルになるとメカニックなことならともかく、ドラテクや戦術のアドバイスとか徹也の方が詳しいから、居ても邪魔になるだけだろう」
「徹也のああいう知識とかはトオルさん教えじゃないのか?」
「いや、確かにカートとか走行会で走らせたり、運転の操作方法に関しては教えたがほとんど自分から学習したり研究しデータを作り、試行錯誤してた過程で知識を身につけたもんだし、ほとんど我流みたいなもんだ徹也の走りは。強いて言うなら参考にしている走りのベースはホークマンだな」
「やっぱりホークマンか~・・・だけどそれだけじゃない、徹也君には何かしら執念みたいなものを感じるのよね」
「・・・静恵さんはドライバー側の気持ちがわかるようだね。徹也を動かしているのは一種の執念、幼馴染の期待とそしてライバルに有り続ける為にだな」
「あら?幼馴染って、女の子?」
静恵は期待の眼差しで聞くが
「いや、男だよ。たぶん名前は聞いたことぐらいは・・・随分向こうの観客席騒がしいな?」
トオル達が離れた所の観客席がカメラのフラッシュや人が一部分に集まっている
トオルと箱崎夫婦がオペラグラスで騒がしいところを見てみると、引率者らしき男性と学生服の4人
箱崎夫婦は見覚えのない学校の制服だが、トオルはその服を着る学校を知っていた
「おいおいおい、なんでアイツらがここにいるんだ!?」
「トオルさんの知り合いなのか?」
「ああ、ついでに言うと徹也もつい最近まであの学校の制服の袖を通していたからな・・・あれは明堂学園だ!しかもその中の1軍レギュラードライバー達だ!」
「え!?・・・言われてみれば、雑誌とかで見たことある顔だわ、特に右端にいる男の子、海王渉じゃないかしら?」
「海王渉って、現在SGT最強最速と呼ばれてるヤツか!それに1軍レギュラードライバーと言えば、明堂四天王とも呼ばれる連中だろう?」
ピット側では取材陣とか関係者が集まっていたが、引率者の隣の女子が何か言って睨むと、すぐに引っ込んだ
「今の睨んでいた娘が明堂学園モータースポーツ部の部長だ ”闘走の明堂明音”」
ナチュナルショートだが綺麗な黒髪、ツリ目で4人の中で背丈が短いが堂々と手を組み足を組んで座っていかにも気が強い女の娘というのが傍から見ればよくわかる
「明堂学園って女の娘が部長なのか・・・いやまあ、榛奈高校もそうなんだが、なんつー威圧感あるんだよあの娘。というか明堂?」
「ああ、明堂学園の理事長の娘だ・・・そしてその隣に座っているのが親戚にあたる ”乱れ走りの金堂宗太”」
金髪でいかにもチャラそうな男子。なぜか隣の明音に顔面を裏拳でド突かれていた
「う~ん、私はタイプじゃないなああいう男の子。勇気のように可愛いぐらいが丁度いいのに」
「いや、勇気は男の子だからな静恵?あのぐらいチャラい方が結衣ちゃんにアプローチ出来るだろ?」
宗太を見ながら、息子の将来を案じる箱崎夫婦
「その隣の娘は、なんか静恵に似ているな。なんというかニコニコして穏やかな感じで・・・本当に明堂の1軍のドライバーなのか?」
「あれで明堂の二番手にあたるドライバーなんだぜあの娘?”ダブルフェイス椎名陽葵”見かけによらず、攻撃的なドライブするんだぜ?」
「ダブルフェイス?二つの顔ってことか?」
「その名の通り、二面性の性格を持ち娘なんだよ。ハンドルを握れば性格が変わるタイプなんだ」
「あー・・・昔の静恵に似ているな」
「静恵さんそうなのか・・・」
「いやね~、昔の話ですよ、昔の」
こういうおっとりな性格の人間は見かけによらないんだなってつくづく思ったトオル
「それで最後は、説明不要かな?SGT最強最速、その走りは速く風のように、激しく雷の如く”疾風迅雷の海王渉”随分な呼び名だが、それ相応かそれ以上の実力はあるからな・・・全く、フォーミュラカーに乗るのが相応しいやつなんだがな。今でもその話の誘いを受けているはずなんだが・・・徹也と戦いからってわざわざSGTに来たからな」
「なんだ?徹也と海王渉って昔馴染みか何かなんか?」
「そうだ、徹也とは幼馴染で小さい頃の海王渉をオレもよく知っている。幼少期のカート時代からのライバル関係かつ友人だ、現在進行形で・・・というか一方的にライバル視されてる」
「徹也君、すごい交友関係持っているのね~」
「というかそんなすげぇ連中がわざわざ県を跨いでこの地方大会見に来たんだ?徹也のいるチームを見に来たとか?」
冗談交じりに言う箱崎パパだが
「そうだろうな、今の明堂学園は徹也を最大の驚異として捉え、打倒、徹也を目標にしているらしいからな・・・」
「おいおい、去年SGT二連覇達成した覇者がただ一人のドライバーを標的にしてるっていうのか?そこは三連覇とかじゃないのかよ?」
「それに確か明堂学園をはじめとする1200クラス強豪名門チームはあまりの強さから、660クラスの参加は暗黙の了解として自粛してるはずよ?」
1200クラス強豪チームは資金力等の関係や、強いドライバーをスカウト、教育する環境を揃えてるが故に一つ下の660クラスの参加の暗黙の了解として自粛している。1200クラスレギュラードライバー以外の所謂2軍ドライバーの参加する場合はあるがほとんど参加はない
だが、あくまでも暗黙の了解での自粛にすぎない
「噂なんだがな、どうやら明堂学園660クラスに参加するらしいということを聞いたことがあるんだ。その為の車の制作をしているとか」
「暗黙の了解を破ってまでも徹也君を倒すとでも?そんなわざわざ・・・」
「そもそも明堂学園二連覇を達するのに徹也の貢献が大きいのもある、なにせ明堂四天皇を慕わせていたのは徹也だ」
「でも戦うのチーム同士なんだぜトオルさん?徹也一人を標的つってもな」
「正確には徹也がいるチームそのものだな。ここ最近商店街チームを見て思わないか?チームそのものが強くなっていることを」
「言われてみれば・・・徹也が率先してチームを動かしているからね、偶然とは言え前のアルトワークスよりスペックが高くなったアルト、そしてさらに速さに磨きがかかった結衣ちゃんの走り」
「徹也はドライバーとしては明堂四天王には劣るが、だがチームをまとめあげ、飛躍的に強くする。明堂学園が驚異と思っているのはその為だ。徹也がいるチームを倒せば、打倒は成り立つって訳だ。徹也はチームそのものを強くしてしまう」




