ACT.33 SGT地区大会 本戦準備 作戦会議
ピットガレージ 榛奈商店街チーム
大会運営からトーナメント表が発表された
1回戦1戦目
榛奈高校商店街チーム VS 榛奈高校ラッシーチーム
2戦目
私立ヴェルサイ学園チーム1 VS チームアバント
3戦目
私立流蘇高校 VS 私立ヴェルサイ学園チーム2
4戦目
私立小凛学院 VS 私立登里野高校
「1戦目でしかも1回戦から同じ学校同士の対決とはな・・・」
有難い組みわせだと思いながら、発表されたトーナメント表を見る。もっとも対策と戦略を練っていた相手だった為だ
もし他のチームだったら、先ほどのタイムアタックの結果と走りから情報収集するして対策するしかないからだ
本当なら本戦出場候補のあるチームの情報を収集すべきだったんだが、そんな時間がなかったからだ
ドライバーチームでラッシーチームの戦略を練る
「さて、対戦相手は本命なわけだけどどう出る?」
トーナメント表を見ながら、リリス先輩が聞いてくる
「あっちが1on1で出るドライバーは、加奈と伊東先輩。対戦カードとして結衣が加奈の相手、伊東先輩はオレで対決するカードが好ましい。結衣だと伊東先輩とはドライブスタイルとして相性が悪いし、加奈とオレだとスピード勝負に一方的に持ち込まれたら勝算薄い」
「相性が悪いとかそういうのってわかるものなんですか?」
「まあ、半年前とか伊東先輩と1on1やって練習してたけど、やりづらいの感じたから相性は良くないと思うけど」
首を傾げながら言う勇気に、結衣が思い出しながら答える
「勇気、覚えておけ。1on1レースの接近戦においてドライバーの性格と趣向によって主に5つのタイプがある」
・攻撃的かつ後追いで本領発揮する[アグレッシブドライバー]
・オーバーテイクを封じるの得意な[ディフェンスドライバー]
・アグレッシブとディフェンスの両方、もしくは中間の[オールラウンドドライバー]
・フェイントや相手の走行ラインを乱す[ジャマードライバー]
・戦略要素と駆け引きに特化した[タクティカルドライバー]
「おもにこんな感じだ、結衣は良くも悪くもどっちつかずオールラウンドなんだ」
「なんか、私あまり褒められてない言い方されてるような」
やや不貞腐れて言ってる結衣を放っておいて、話を進める
「伊東先輩がジャマー寄りのタクティカルタイプで、駆け引き勝負に持ち込まれたら厄介だ。一方、加奈は超攻撃的な走り、超アグレッシブというべき走りをするんだが良くも悪くも単純明快だから対処が比較的にマシ」
「でも徹也先輩、加奈先輩も結衣先輩に対しての対処はわかっているんじゃ?徹也先輩が来た時の1on1でも・・・」
この自動車部に来た、初日のことだ
1on1を仕掛けて来た加奈は結衣のトラウマを知っていながらサイドバイサイドに勝負に持ち込み結衣を錯乱状態にさせたことだ
「サイドバイサイド、もしくは接近戦に持ち込まれる危険性だろ?それなら対処法ならもうある、大丈夫だろ?結衣?」
「ブラインドアイだね?いけるよ。位置の情報と指示をもらえればできるよ」
「できるよ」か、やらせようとしているオレもやろうとしてる結衣も狂気だよな・・・人のことが言えないが、大概結衣も一種の執念みたいなものを感じる
「でも徹也、試合が始まるまで誰が走るかわからないのに、理想通りに対戦カード組めるの?」
リリス先輩の懸念はごもっともだが
「タイヤやブレーキのマシンコンディション万全な1セット目はエースドライバーが走るのセオリーパターン。変化球で来ないと思いますし、それより何よりも今のラッシーチームからしたら結衣が相当な脅威だと思ってる筈ですよ」
「そりゃ、結衣先輩速いですから・・・」
「いや、そもそもまともに走った練習をして上に乗り慣れてない車で同じタイムを叩き出すドライバーという、そういう認識をしてる筈だあっちのチームは」
そう言われた勇気はハッとなり、リリス先輩は感づく
「それに元々結衣に対して対抗意識がある加奈は同じタイムを叩き出されたことで余計に火がついてるはず、例えこちらの思惑どおりでも勝負に乗ってくる」
「つまり、タイムアタックも布石に過ぎなかったわけね?」
「そうですよリリス先輩、結衣には加奈と近いタイムをださせるように指示させてたんです。まさか狂いなく同じタイムを出すとは思いませんでしたが」
「あはは・・・」
結衣は照れくさそうな仕草をする
「・・・結衣先輩、あの走りで全力じゃないってことですか?!」
「たぶん後、1、2秒は縮めれたかも・・・」
結衣の発言に唖然とする、リリス先輩と勇気
そりゃそうだろうな
「とは言え、加奈相手にノックダウンを狙うのは難しい。結衣には2セット全力で走って耐えれば勝算がある」
「3セットの判定勝負に持ち込むつもり?」
「いや、リリス先輩。相手がS660の欠点を突いた上で確実に3セット目のノックダウンを狙います」
「S660の欠点?あの車の完成度は見ただけでも高いのは私でもわかるし・・・そういえば徹也ってあのS660に乗ってときも絶賛してたでしょ?」
「欠点というか、MR駆動の宿命なんでしょうね。速度が乗った状態だと重量配分が前輪1、後輪9になってトラクションがかかって加速能力は強力なんですが、それゆえにどうしてもブレーキング時に思いっきり前輪に重量をかけないと曲がっていないからブレーキングが強くかつ、長くなるんですよ」
「あ!もしかしてナノマシンブレーキングシステムのリカバリーモードの起動を狙うつもりなの!?」
リリス先輩は気づいたようだ
SGTで使用されるナノマシンブレーキングシステムは通常時は高性能のブレーキであるが100km/h以上からのフルブレーキング時に作動し、一時的にナノマシンによって摩擦力を増し制動力を大幅にあげる
この時ブレーキローターが赤から青白く発行するのが特徴である
ただしブレーキに多大な負荷がかかるために、ブレーキ全体、ナノマシンにも熱がたまってしまいフェード現象で制動が効かなくなるのを防ぐために、一定熱量オーバーすると数分程リカバリーモードが作動し、ナノマシンとローターを冷却する
その際ローターから煙が上がり、一時的にブレーキの制動力が落ちナノマシンブレーキが作動しなくなり、エンジンの出力が少し落ちる
「S660自体、こっちのアルトに比べたら重量は重い上に負荷がかかる・・・」
「ええ、だから加奈と結衣には全力で走ってもらいこっちがリカバリー寸前まで追い込む。後は・・・出たところ勝負ですね。戦術通り進めば、こっちのアルトもタイヤもブレーキもギリギリ一杯になっている」
「最後は出たところ勝負か・・・らしくない言い方ね徹也」
「それだけ相手の実力を評価してるんですよ。だけど面白いじゃないですか?伸るか反るかの勝負なんてものは」
「酔狂な考え方ね・・・だけど考えられる手としてはもっとも勝算のあるプランね」
やれやれみたいな感じでリリス先輩は納得する
「結衣、こっちのタブレットに走行パターン作ってある。試合中に細かなオペレートはするが、一応ざっと見程度でいいから試合開始まで見ていてくれ」
「わかった」
「勇気はメカニックチームと一緒にタイヤのローテーションとか手伝ってくれ」
「わかりました!」
それぞれの役割を割り振り
「それで、リリス先輩は・・・」
「・・・・・」
リリス先輩の右手首はギブスは取れているものの、包帯を巻いているので無茶はさせられない
「偉そうに堂々といてもらえれば・・・あ、そうだ。オレが走るときの無線のオペレートお願いできます?」
「まあ、することがないからね。そのぐらいしかねぇ・・・わかったわ」
試合開始まで後20分




