ACT.30 SGT地区大会 予選タイムアタック戦2
参加チーム専用待機駐車エリア 榛奈商店街チーム
「1分35秒17を叩き出したラッシーチームが現在のベストタイム、2位から8位まで1分38秒台でという感じだ。少なくとも38秒台を切れば本戦には出れるぞ結衣」
アルトのタイムアタックのスタンバイしながら、現状を伝える徹也
「ところで結衣、地区大会のコースのシュミレーターのベストタイム。何秒だったけ?」
「・・・1分41秒56」
「・・・・・」
わざとらしく、少し引きつった表情を作り、やたらに長い間を開けてから
「なら大丈夫だ!行けるぞ結衣!」
「もう少し上手い励まし方があるでしょうが!!」
励ます徹也に奈緒ちゃんのハリセンが頭にクリーンヒットする
「痛てぇ!?何しやがる奈緒!というかなにそのデカイハリセン!?」
「ラチェットやモンキーレンチよりマシでしょ?そんなことより、いつも口が上手いアンタがそんなんでどうするのよ!もっとマシな励ましとかフォローとかあるでしょ!?」
「まあまあ奈緒ちゃん落ち着いてよ」
「結衣も!なにヘラヘラ笑っていられるの!」
徹也と奈緒ちゃんのやり取りを見ていて、表情が緩んでいたんだろうか
「シュミレーターでも上位に入れないタイムはまずいでしょ・・・」
「あくまでもシュミレーターだからな奈緒、現実とは違う。それかなにか?自分達が作ったアルトと結衣を信じていないのか?」
「う・・・そう言われるとズルイよ徹也」
引き下がってしまう奈緒ちゃん
「だけど徹也、結衣ちゃんには実質アタックは最後1周だけなんだよな?他の2周はECUユニットのセッティングに充てる・・・」
タイヤの状態を見ながら心配そうに、徹也に尋ねる阿部君
「正直、結衣よりおれの方がプレッシャーがかかるよな」
「そうだな、ECUユニットのセッティング上手くいかず、それが原因で予選落ちで負けたら徹也の責任だな」
「そうね、ここで負けたら現リーダーである徹也の責任ね。結衣は悪くない」
阿部君と奈緒ちゃんは徹也に辛辣な言葉を投げかける
「お前ら、頑張れとか、信じているとか、もう少し応援とか励ましの言葉はないのかよ。なあ、そう思わないか結衣?」
私に同意を求めてくる徹也
「そうだよ阿部君と奈緒ちゃん。負けたら、悪いのは全部徹也だから私は心置きなく走ればいいんだよね?」
「結衣お前もかよ!?お前だけでもオレの味方だと思ったのに!?」
意地悪く言ってみると案外面白い反応が返ってくるもんだから、思わず微笑してしまい、阿部君と奈緒ちゃんも笑っていた
「・・・この様子なら大丈夫だな結衣?」
「当然、ワクワクしてテンションがおかしくなりそうなぐらいには」
「そりゃよかった。あんな冗談を言えるタイプじゃないからな結衣」
皆にして徹也をイジってからかううちに、大会運営から無線が入る
〈35番、榛奈高校商店街チーム、ピットゾーンでスタンバイして下さい。繰り返します…〉
ついに出番がきた。アルトのタイヤウォーマーを外され動かせるようになる
「結衣、当初の予定通り2周はセッティングに費やす。最適なECUユニットのセッティングデータは3パターン、今はパターン1を入れてる。タイトセクションは攻めなくていいが、ホームストレートと最終ヘアピンコーナー手前のストレート区間はなるべくフルスロットルで踏んでくれ。コチラでパワーグラフをモニターチェックしながらタブレットの遠隔操作でセッティングパターンを切り替える。その時の感じたフィールとか違和感とかあれば言ってくれ」
「わかった、それじゃ行ってくるよ」
サイドブレーキを外し、ゆっくりクラッチを繋げ、アルトを動かしピットゾーンに向かう
「そんで、実際どうなのよ徹也?結衣のシュミレータータイム、予選平均以下のタイムだけど」
やはり心配なのか、奈緒が聞いてくる
「まあ、シュミレーターに少し細工していたからタイムがそんなもんになってるんだよ」
「細工?何をしたのよ?」
「タイムを更新するか、秒数が同じタイムに到達すればマシンスペックが少しづつ落ちる仕組みにしてたんだよ」
「はぁ?なんでわざわざそんなことを」
思わず首をかしげる奈緒。まあ確かに理由を知らないとそんな反応だろうな
「元々シュミレーターと現実だとギャップとか感じ方が違うから、5%~10%程スペックの出力をあえて落とすことでギャップの修正に時間を短くさせるのと、徐々に落としていったのは車の持つ能力を引き出させるためにだ。そういうことで走行ラインと動きの無駄を減らさせることを狙ったんだ、おかげで41秒台からタイムを縮めれなかったけどな」
「あー・・・だけどタイムが縮まらないとか自信が無くならない?」
「いや、結衣もシュミレーターの仕組みに気づいていたようだし、今までの練習とは違う刺激だったみたいだから結構面白がっていたぞ結衣。それに41秒台ってそんなもんじゃないぞ」
そう言うとシュミレーターのタイムの結果をタブレットに表示させて見せる
「その赤い枠の所を見てみろ、驚くことをやってるんだよ結衣」
「1分41秒56・・・ってタイムが並んでる!?え?え?」
まあそりゃ驚くよな、オレも驚いたもんな
「まあ、やれるなら狙ってやってみろって言ったが、ここまで出来るのは驚いたな。秒単位で揃えようと思えばオレでも出来てるちゃ、出来るが、今の結衣はタイムをコンマ単位を狙って揃えれる、そんな体内時計感覚をもっているし、そんな風に自在に車を走らせることができる」
「いやいや、確かに凄いけど意味がないような・・・速く走るのが重要なタイムアタックじゃ無意味・・」
「いーや、狙ってタイムを揃えれるということはそれだけ車の能力を引き出して走らせることが出来て、なおかつコースを熟知していないと出来ないことだ。逆を言えば、いかに速く走らせる方法も攻略法がわかっているんだよ」
唖然と聞く奈緒
「以前の結衣って、めちゃくちゃ速いって印象だったのに、ここ数日の練習でこんな神業みたいなこと出来るもんなの?」
「出来る筈ないだろ。ただ結衣のドライブセンスが異常なだけもあるが、経験の浅さと、これまで結衣を正しく指導出来る人間がいなかったから速く走らせる能力のみに特化していただけで、元々備わっていた才能なんだよ」
「あ、そうか・・・結衣より速いドライバーがいなかったから先輩達も教えることが出来なかったし、上村先生はメカ専門だったから・・・」
ドラテクの指導者がいない学校は珍しい、大概はOB、OGとかが指導者になるケース、全国クラスになると元レーシングドライバーとかが指導者になる
「結衣にはどう車が動いているのか、どういう構造なのか、いかに効率良く走らせることが出来るかのかの理解力に乏しかったからな、そこを理解されることによってさらにもう一段階上の走りをさせること。そしてどのラインからでも速く走れるようなドライブコントロールを会得させたんだ」
「何というか・・・私が知らない間に結衣とんでもない存在になったというか・・・しかし、よく気づくもんね徹也も」
「いや、オレだけじゃないよ。結衣をよく見ていた勇気がいたからこそわかったことなんだよ。お前の弟、大した観察眼を持ってるよ」
「え?勇気が?」
姉としても、知らない才能だったのか勇気の観察眼は
「勇気のおかげでわかったことがある。結衣は本人以外では到底理解できないほどの異常に優れた空間認識能力を持ってるんだよ」
「空間認識能力って、運転の上手い下手の差がでるあれ?」
「まあ大体合ってる。大概SGTに参戦してる速いドライバーはそれなり優れているもんだが、結衣のはハッキリ言って異常だ。オレでも説明不可能なレベルだが、そのおかげで車の動きとか構造をあっさり理解しちゃった訳なんだがな」
「割と物知りの徹也でも、わからないことがあるのね・・・」
「わからないもんはわからんし、理解できないものは理解できないさ」
「しかし、空間認識能力か・・・さしずめ結衣のは超空間認識能力と呼称するべき」
「なんかシンプルで捻りが足りん気がするが、確かになんか呼び名はあったほうがいいかもな」
呼称 超空間認識能力、採用




