ACT.29 SGT地区大会 予選タイムアタック戦1
SGT地区大会1日目 予選タイムアタック
5月上旬に行われる某県のSGT地区大会、集ったSGT参戦チーム、その数全35チーム
学校に所属する自動車部、もしくはアマチュアチームに所属する学生達のドライバーとメカニック達が全国大会出場権を得るため、または車好きとしての腕試しの場として参加するチームも少なくない
最大3日間かけて行われ、予選のタイムアタック戦、そして上位8位までのチームが1on1方式の本選のトーナメント戦
つまり、大半のチームが予選のタイムアタックでふるい落とされ、速い8チームのみが本選で戦える世界である
地区大会予選会場
SGT公式戦のオーバルトラックサーキット、前半は狭くタイトなコーナーセクションと後半速度が乗るハイスピードセクション
レース場のホームストレートの横には観客場、そしてピットインスペースと有名サーキットに比べ小規模ながら設備は完備
コース脇の柵の向こうには観客や関係者が立ち見や、テントやブルーシートを張って観戦している
予選会場 参加チーム専用待機駐車エリア
参加チームのタイムアタックの待機場になっており、アイドリングを掛けながら今か今かと出番を待つ者。集中する為に目を瞑って精神統一でもしている者。直前までコース攻略に集中している者と様々
ラッシーチーム駐車エリア
白いS660のタイヤ4つに、タイヤウォーマーを付けてタイヤを温めつつ、アイドリング状態で出番を待機する
運転席に乗りながら、ハンドルやアクセル、ブレーキ、クラッチの感触を確認する
レース場ではタイムアタックを挑んでいる参加車両のエキゾーストが少し離れたこの駐車エリアにも響き轟く
660ccとは言え、フルチューンの高回転域のターボを付けているのだからそれもそうだ
「調子はどうだ加奈?そろそろ出番だぞ?」
部長がこちらに声をかける。雰囲気が今までと変わって、かなりこの大会に意気込んでるのが伝わる
迷いがなくなったというべきか
「ええ、絶好調ですよ。それでタイムはどうです?」
「ああ、今の半数ぐらい終わってベストタイムが1分38秒台、8位までが1分40台ってところだ」
「本戦に出るなら1分35秒台叩き出せば、安泰かしらね」
「お前シュミレーター上のタイムは?」
「・・・1分35秒83」
「ならイケるな」
勝利を確信したのか、部長が口元がニヤける
「そういえば、商店街チームと会いました?」
「いや、こっちも準備に忙しかったからな、それもあっちも同じだろ。心配しなくとも本戦で否応なしに顔を合わせるからな」
「本戦に来ることは確定なのね」
「そりゃ、そうだろう。相手はあの徹也がいるんだ。予選落ちはないだろ」
〈23番、榛奈高校自動車部ラッシーチーム、S660。ピットゾーンでスタンバイして下さい。繰り返します…〉
S660のついてる無線機にスタンバイアナウンスが流れる、出番だ
「頼んだぞ、うちのエースドライバー」
「言われずとも」
タイヤウォーマーを外され、ピットゾーンに向かう
サーキット場 ピットゾーン
前走車のタイムアタックが終盤になると、入れ替わって走行出来る様にピットゾーンで待機させられ、前走車がグリッドライン到達後にピットゾーンを発進し、サーキットに入る
フリー走行1周、タイムアタック2周の計3周与えられる
1周目はフリー走行、そのまま2周目からタイムアタックスタートになるローリングスタート方式
しかし、フリー走行とは2周目のタイムに響くため、1周目の最終コーナーからホームストレートの立ち上がりから実質スタートと言ってもよい
1周目のホームストレート、S660の車体を振りつつ、加減速しながらタイヤをさらに温め、グリップ力を増すようにする
第3コーナーからブレーキングが必須なゾーンを突入前に加速させ、ブレーキングをかけタイヤに負荷をかける
そこからのタイトなセクションを8割ほどのペースで走り、シュミレーターの映像で感じたギャップを修正するように走り、第14から第16コーナーの中速セクションをクリアし、第17右コーナーを立ち上がり第18から最終上り坂のヘアピンコーナーまでフルスロットル高速セクション
ここからの立ち上がりから勝負が始まる。アウトインアウトで抜け、ストレートを伸びるグリッピングポイントを狙い、タイヤの食いつきが確認できるとアクセルをベタ踏みフルスロットル
約900m程のホームストレートを駆け抜ける、グリットラインを過ぎてストレートの半分までくる頃には速度メーターは190km/h越え、200・・・210・・・220・・・第2コーナーの緩やかなカーブなったタイミングでフルブレーキング、クラッチペダルを踏んでギアを6速から5、4、3速とギアを叩き込みヒール&トゥでエンジンブレーキも同時に効かせる
コース中にタイヤの悲鳴は響き渡り、フロントブレーキローターは真っ赤になってから、ナノマシンブレーキシステムが起動しブレーキローターは青白く輝いているのだろう
アウトインアウトでクリアするがそこからは厳しいタイトゾーンだが、S660の旋回能力なら難なくいける、タイヤのグリップの限界ギリギリのスピードで駆け抜け、オーバーステア傾向でややリアスライド気味に走る
傍から見ればどこか吹っ飛びそうな走りに見えているだろうか、S660というMR駆動の車を限界まで走らせるというのはそういうことだ
タイトセクション、中速セクション、そして高速セクションへ。前周よりさらに速度が乗った状態で上り坂の最終ヘアピンコーナーを駆け抜け再びホームストレート、そしてグリットラインをそのまま抜けて3周目
ここで部長から無線が入る
〈加奈、1分35秒53だ〉
手短にタイムを言う部長、どうやら目標タイムを越えたようだがもっとタイムを縮める為にさらにアタックをかける
そして3周目グリッドライン到達・・・タイムは1分35秒17。現在ベストタイムを更新したようだ
グリットラインを到達した所で徐々に速度を落としていきピットゾーンへ入り、そのまま待機エリアに戻る
ホームストレート側 観客席
見ていた観客は騒然としていた、ベストタイムから3秒以上削った走りを見て榛奈高校の凄さを再認識する者や偵察で見ていた他チームが愕然としている者がいた
「公立の学校のチームでこんなにレベルが高いのかよ・・・」
「それに今のドライバー、女の子らしいぞ」
「マジかよ・・・」
「しかも、かなり可愛い子らしいぞ」
女の子だと知ると、さらにざわめく観客達というか男性達
「まったく、男って下心丸出しなんだから。そう思わない?リリス?」
「いや、それ上村先生が言ったら説得力がありませんよ。いくら心が乙女でも」
観客席から各チームをホームストレートの様子を三角スタンドに立てたタブレットに録画していた
「しかし、やっぱり加奈は別格クラスのドライバーね。ベストタイムからここまでタイムを削るなんて」
「なんかチラホラ真っ白に燃え尽きたように愕然としている人達は、大方予選落ち確定か本戦で戦っても勝てないことを悟ってしまったのかしらね・・・ちょっと心配ね、こっちのアルトだとストレートのパワーに難があるから、いくら結衣といえどもね」
「いや、今の結衣なら大丈夫かと。加奈は別格だけど、あの子は人間業とは思えない走りをするようになっちゃいましたからね・・・セッティングを出す徹也次第ってところですね」
心配する上村先生だが、今の結衣の状態を知っているからそういう心配はないのだが
「人間業じゃないって随分な言い方というか、誇張表現なんじゃ?」
「言葉通りですよ、今まで結衣を正しく指導出来る人間がいなかったから速いドライバー程度だったんですけど、たぶんプロでもF1レーサーでも真似出来ないことをできるようになっちゃいましたからね・・・」




