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走劇のオッドアイ  作者: かさ
榛奈自動車部騒動
27/121

ACT.24 鷹の再臨計画 1

アルト制作 16日目 大会まで残り3日


喫茶店 たかのす

喫茶店の扉を開くと待ち人とマスター以外は客がいない。本当に貸し切りのようだ


「久しぶりだね伊東君、半年・・・いや、それ以上かな?」

「ご無沙汰してます鷹見さん、んで待ち人達はいつもの奥の席か」


久しぶりに会っても変わらず接するマスター、ラッシーチームと商店街チームに分かれて以来だろう

待ち人がいる席に向かうと、険悪な雰囲気だった


「待ってましたよ伊東先輩」


何故か右頬が腫れてる徹也に、対面して座り、徹也に対して敵意剥き出しで睨んでいる涼の姿だった

とりあえず、涼の隣に座り徹也と対面する形に


「それで何の用だ徹也?」

「多田からメッセージよく読んでないんですか?ボロを出したって」

「お前!」

「涼、やめろ・・・ボロを出した、意味がわからないな」


徹也に食って掛かりそうな多田を制しながら、徹也の回答にとぼけた


「なら、今回の桜井先輩の件にリリス先輩も関わっていた。なんてどうです?」

「なんだって!?」


思わず口に出して驚いてしまい、徹也もニヤリ顔をする

しまった

リリスが関わっているだなんて思っていなかったことなのだから


「これは自分の憶測なんですけど。伊東先輩と多田は幼馴染の桜井先輩の家業、桜井商事ついて知っており、その事情も詳しい程ではないにしろね。桜井商事が教頭に支援で支えられていること、そして桜井先輩は教頭の言いなりであった。これはチーム分裂時かその前かはわかりませんが、そのことを引き合いに出されて二人はラッシーチームに付くこと命じら、商店街チームに勝つことを約束させられた。あくまで憶測ですよ?」

「・・・おおよそ、その通りだ。もっとも、その事情でラッシーチームに付いてるのは、俺と涼だけだがな。しかし鈴や涼の関係性や桜井商事までよく知ってるな」

「そりゃ、調べましたからね」


あっさりと言ってくれる、どんな手を使ったかわからんが徹也には隠し事は通用しない


「それで?ラッシーチームと商店街チームで揉めるのはやめろと説得する気か?」


開き直ってみたが、徹也は


「今更何を言うんですか?ここまで来たら徹底交戦しますよオレ達のチームは。たとえ桜井先輩の家族がどうなろうと知らんこっちゃないし、先輩と多田が守ろうとしているものを潰してでも勝利を目指す」


意外な回答に思わず呆然としてしまい、ふと隣を見れば多田は席を立ち、徹也の胸ぐらを掴んでいた


「ふざけるなよ徹也・・・!たかが勝負ごとで一人の人生を台無しできるのかよお前は!」

「桜井先輩の事情を知った上で勝負に手を引くとでも思っていたのか?」


徹也は、穏やかに、冷静な物言いをしつつ


「甘えるんじゃねーよ、多田涼・・・!」


徹也は涼の腕を力強く掴み、ドスを効かせた怒り口調と覇気を出し、涼は怯んで徹也を離してしまう


「SGTのドライバーは・・・いや、全力で勝負事に挑む人間はな、そのたかが勝負事に己の夢や野望、願いを掛けて戦っているんだよ。その思いを踏みにじって勝つ覚悟がない奴が勝負事に挑むな!語るな!負かした相手の思いを背負って勝つづける覚悟がない奴がオレ達の前に立ち塞がるな!」


冷静に物事見て、語る徹也とは思えない口調と口振り、そして言葉が突き刺さる

立ち上がっていた徹也はこちらを目を見る


「伊東先輩、いや、伊東悠一。お前は自分のチームに己の事情を巻き込むことを迷っている。あの時の走りはそれだな?」


以前、S660で徹也と勝負した時のことか、迷っているとは言われたが


「ふざけるな、お前はチームのリーダーなんだろ?事情を巻き込むぐらいなんだ、巻き込むなら勝利と栄光をチームに与える導くのがリーダーの責務だろうが!今更迷うことなんざ許されると思うな!戦え!オレ達に勝ってみせろ!」

「な・・・」


言葉が出なかった。徹也、この男は戦えと言うのだから


「それにオレだって、自分の野望の為にチームを巻き込んでいるんだ、その代わりに勝利と栄光に貢献する。それがオレなりのリーダー像であり、オレなりの巻き込んだ責務としての役割だ!」


勢いよく、そして堂々と啖呵を切る徹也

大切な人を守るために、チームメンバー、これまで支えてきた商店街の人達を騙し、裏切り、その後ろめたさの罪悪感や背徳感を吹っ切れてしまうような、そんな力強さを感じる徹也の言葉


「・・・なあ、徹也。お前の野望ってなんだ?」


顔をうつ向いたまま、思わず聞いてしまう


「・・・明堂学園のライバルに約束したんだよ、必ずSGTの花形の1200クラスで戦うことを。周りのスポンサーと大人達を1200クラスでも参加しても戦えるというのを証明する為に勝つ・・・オレにとってはアンタらはただの道端にある障害に過ぎない」

「1200クラスか・・・徹也、それがどんなに厳しいものかわかっているだろ?そのクラスで戦ってきたお前なら」

「現行生産された車種の改造車で戦う為に、資金的に車を用意するのは容易じゃない上に、メーカーが最も売れている主力大衆車だから注目されているクラスであり、そしてなにより全国屈指の強豪チームを揃っている・・・660クラスで参加も危ういチームで正気じゃないだろうしな」

「そうだな・・・くくく、アハハハハ!!!」

「ゆ、悠一?」


思わず、笑いを堪えることが出来なくなってしまい、その様子を見て困惑する涼


「いい笑い話でしょ?お互い己の野望の為にチームを利用する悪役同士だったって訳ですよ、走りのスタイルといい、似たものだったんですよ伊東悠一」

「・・・どこか求めていたんだろうな、鈴の為じゃない、俺自身の為に戦う理由を、勝つ理由を・・・ようやく見つけた、いや、気づかない振りをしていたんだ。山岡徹也、お前は俺の理想のドライバーに打ち勝つ野望を、この状況を」

「丁度いい機会だったじゃないか、オレは似たものはキライなんですよ。決めようじゃないか、互いにどっちが優れたタクティカルドライバーなのか」


吹っ切れた、迷うことを、何もかも


「涼、行こうか。これ以上話してたら、俺がおかしくなりそうだ」

「お、おい、悠一!?」

「じゃあな、徹也。必ず大会に出ろよ」

「まかせろ」


ふっと笑う徹也を置いて、席を立ち、店から出る。困惑しながら涼もついてくる

徹也の自身の野望と責務を語るおかげで、己の理想を越える為に戦う覚悟は出来た



伊東先輩と多田が喫茶店から出ると、席に座り、少し落ち着いてから制服の胸ポケットからスマホと小型のインカム取り出し、インカムを左耳につける


「ということですリリス先輩、詳しい事情は杏奈先輩に任せますが」

〈通話がかかったと思ったら、気づいていたのね徹也〉


通話相手はリリス先輩、自分と伊東先輩と多田のやり取りを聞かせていた


「想定外だったんでしょうね、リリス先輩を引き合いに出したら、驚いてボロを出した所を見ると。まあ、あっちは迷いを吹っ切れたことでリリス先輩のことを聞き忘れていましたが」

〈私に聞かせたのは、私から話させる為ね?〉

「・・・そうですね、自分はこれから会う人物に事情を聞きますが」


向かいの席に、榛奈高校の制服を着た女子が座る


〈・・・怒ってないの?私はみんなを騙して、そして大事な車を壊したのに〉

「怒った所でもう過ぎた事ですし、問い詰める気はありませんよ。オレも杏奈先輩も、そしてみんなも・・・ただ事情を聞きたいだけなんです、リリス先輩が何を抱えているのか・・・皆、リリス先輩が好きで、信用してるんですよ」

〈・・・ありがとう〉


感謝の言葉を呟いて、リリス先輩と通話を切った


「さて、こうして話すのは初めてね徹也君」

「桜井先輩、意図的に上手く避けるんでやっと話ができてよかった言うべきか、そこまで追い詰めたってことですかね?」


桜井先輩には事前に喫茶店に呼んで隠れて会話を聞かせていた。桜井先輩は余裕があるというか、穏やかな表情だ・・・というか元からそういう人なんだろう。リリス先輩や静恵さんの美人のカテゴリー中でも違うタイプの美人、桜井鈴なのだろう


「徹也君の言う通り、おおよその事情はさっきのやり取りとの通り。そして私は彼らを騙している。徹也君知っているんでしょ?今の桜井商事は経営は軌道に乗って支援の必要がないことを、どうして悠一達に話さなかったの?」

「ええ知っていますよ?知っていた上で話さなかったんですよ。元々迷いを振り切って、堂々と真正面から勝負を挑んで欲しかっただけなんですよ、迷った感情を抱いた相手を負かしても興が乗らないし、どうせならそちらのシナリオに乗ってやろうと思っただけですよ」


桜井商事の経営状態は、詳しく調査した結果、先日判明したことであり、結衣の「演じている」が確信を持てた


「・・・シナリオの黒幕もわかってるの?」

「そうですね、もしこのシナリオを書くとすれば敵対サイドからじゃない。むしろこちらの身内でしょうね。この状況を作り出せるネットワークを持ち、こちらの援助をしている立場」


そう答えると、さっきまでの表情がなくなり、驚いた表情になる桜井先輩

こっちはさらに聞いてみる


「桜井先輩、あの日、ガレージで結衣に遇ったのはワザとでしょ?結衣が誰よりも早く部活に来ることを知らないはずがない」

「ええ、早瀬教頭先生の指示でね」

「おそらく、教頭もこちらの手札(探偵)があることがわかった上で桜井先輩にそういう指示をしたんしょうね。俺に真相を暴かさせる為に」

「・・・なるほど、あの時の指示が今日の今の状況になっているわけね」


母さんの調査能力もあるが、たぶん、この行動がなければこんなに速く真相にたどり着くことはなかった


「桜井先輩がこのシナリオ?計画?に協力している、いや、役を演じているのは、教頭に恩があるからですよね?」

「教頭先生は私達家族を救ってくれた、その代償で私の青春をくれと頼んだの。両親は反対だったけど面白そうだったし、協力したの。悠一と涼ちゃんを騙しているのは気が引けたけど、それ以上に恩を返すほうが優先した」


桜井先輩は自分の事情を優先したけど・・・この様子なら事が終わっても、混乱が少なく済むか


「そういえば気になっていたけど、涼ちゃんと何かあったの?悠一が来るまで随分険悪な状況だったけど?」

「ああ、多田の奴をボロを出させる為にですね、桜井先輩に好きだって告白したいってみたないなことを言ったんですよ」

「・・・はい?」


そりゃ、唖然としますよね桜井先輩

喫茶店に来る前の話。放課後に多田を捕まえ、激情に駆られることを言ったのだ。結果的にボロを出させたのはいいが思いっきり殴られた

どうもここのメカニック達は暴力的というか


「えーと、徹也君ってそういうこと?」


顔を赤らめて、こちらの見つめる桜井先輩だが


「いや、そんな気はありませんよ。多田を怒らせるための嘘ですよ。確かに桜井先輩は魅力的ですけど、そういうポジションは幼馴染に」

「あら、少し残念というか・・・」


いや、先輩十分にモテる容姿だと思いますが。聞いた話だとファンクラブまであるぐらいだとか


「さて、聞きたいことは以上ですかね。ここからはこのシナリオの脚本をした人間に訪ねますか」

「あれ?いいの?」

「桜井先輩に聞きたかったのは事情だけだったし、本気の悪意がある訳がないというのがわかったから。ただ事が終われば皆に全て明かすという約束してもらえますか?」

「わかったわ、約束する」


観念したというより、元からそのつもりだったんだろうな。表情で読み取れる

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