ACT.22 調査報告
アルト制作 7日目 大会まで残り12日
喫茶店 たかのす
閉店間近の時間帯、お店の中はお父さんと私、そしてカウンター席に徹也
徹也から例の桜井先輩のことでわかったことがあるということでこの時間に話に来ていた。例の壁ドン・・・じゃなくて桜井先輩が置いていった端末の件の目撃者として気になっていた
徹也は鞄から書類を見ながら説明していく
「とりあえず、知り合いに色々調べてもらったって桜井先輩とラッシーチームのこととか特に教頭絡みとラッシーグループの黒い噂。結衣も聞いたことあるだろ?」
「確かラッシーグループの偉い人からお金をもらって、商店街のスポンサーを降ろそうとしていたという根の葉もない噂だよね。生徒達のホラ話だと思ったけど」
「これに関してはおそらくマジだ、コレを見てくれ」
書類には写真がクリップ留めされており、そこには学校の会議室の窓から教頭と若い女性が写っており女性が教頭にお金を渡しているところだ、それも結構な額
「教頭はわかるけど、この女性の人は?」
「ラッシーグループのエリアマネージャーだそうだ、ラッシーチームのここ最近の活動資金の簿記のコピーもあるんだが写真の写ってるような金額がどこにも記載されいないんだ。そうなると教頭の懐に入ったと考える」
「簿記なんて、そんなものまでよく手に入ったね・・・でも教頭が商店街チームが邪魔という理由はわかるね」
「そして桜井先輩の件だが、結衣は桜井先輩の家族とか父親がどんな仕事をしているかそういうのは知っているか?」
「いや、聞いたことがないよ」
「桜井商事って会社を経営してるんだよ。桜井先輩のお父さん」
「え?ということは桜井先輩って社長令嬢ってこと?」
桜井先輩の雰囲気と仕草でイメージ的に合う社長令嬢
「3年前、桜井先輩が中学三年生の頃に会社が倒産寸前の危機の時期があったんだが、教頭の資金援助でどうにか経営を立て直したようなんだ」
「え!?桜井先輩はこの学校に来る前から教頭と知り合いだったってこと!?」
「というか現在も支援されて、恩人というわけで・・・そして教頭の言いなりということだ」
意外な事実ばかり徹也の口から出てくる
「それでな、ここからは俺の憶測になるんだけどな。教頭の指示で桜井先輩がウィルスを仕込んだチェッカー端末を事故当日にスリ替えたか仕込んだだろう、そして杏奈先輩がアルトワークスに繋げたことでウィルスに感染しそしてリリス先輩が・・・」
「徹也、もういいよ・・・やめて」
「・・・悪かった」
気分が悪くなった、敵チームであっても同じ自動車部として信じていた・・・信じていたのに車も人を傷つけるなんて
「徹也、どうにかならないかな?この証拠があるなら教頭を・・・」
「いや、無駄だと思う。どうも教頭にも協力者いるみたいなんだがその詳細は掴めないし、証拠もいくつかが改竄されていたんだ、唯一の証拠のこの活動資金の簿記も次の日にはデータが書き変わっていたんだよ・・・つまりその気になれば証拠は握り潰せるぐらいにはあっちの方が情報戦は上だ」
「じゃあラッシーチームのみんなに、伊東先輩とか」
「全員かどうかはわからないが、もしかしてその事情をわかった上であっちに付いてるんじゃないか?特に伊東先輩と多田は」
そうか、あの二人は桜井先輩の幼馴染。事情を知っていて桜井先輩の為にラッシーチームにいるんだとすれば・・・
「つまり、桜井先輩は人質みたいなもの・・・」
「だろうな・・・だがな、ここまで調べてな腑に落ちないんだよな」
「腑に落ちない?どうして?」
徹也は不思議そうな顔をしていた
「いや、ここまで情報の改竄や妨害できるのになんでわざわざチームが分裂する状況になるんだ?教頭が本気なら息が掛かったメンバーだけで逆らう者は排除すればいい。なんでわざわざリスクのある賭けをしたのかが不思議でな」
「言われてみれば」
「それにこの7日間、なにも妨害とかなかった。俺なら再起する前に潰すが、全く放っておくのはなんでだろうなって・・・どうもこの教頭の考えがわからないんだよな。勝つ気が感じられないんだよ」
徹也は片手で頭を掻く
「なんというか、なにかに踊らされているって感じ?」
「そうだな、まるでなにかの劇場の上で踊らされているだな・・・例えばそもそも商店街チームとラッシーチームの対峙、対決そのものが目的だとそう考えるならこの状況が納得いくんだよ」
「一体何のメリットがあって?」
「なあ、結衣。悪徳な人間に妨害され、車を破壊されても諦めずにチーム一致団結して戦う商店街チームと幼馴染みの為、大切な人の為に戦うラッシーチーム。こういうドラマ的な展開ってどう思う?」
「王道的な展開で面白いだろうね、見てる側は」
「つまり、目的はこの茶番劇の状況を作るためなんじゃないかないかって考えるなら頷けるんだよ。教頭もただの劇の役に過ぎない。これを提案、脚本した奴がこの状況を楽しんでいる」
「一体何のために?」
「まあ、あくまでも俺の憶測に過ぎないからな?どのみち歩む道は一つ、勝つしかないということだ」
徹也の突拍子のない憶測だが、納得できる
「しかし徹也もよく調べたよね・・・まるで探偵に頼んだような」
「あら?まるでじゃなくて、本物の探偵よ?」
急に聴き慣れない女性の声がして、声の主の方を向こうとしたら徹也の視界がその女性に手で塞がれる
「はーい徹也?だーれだ?」
「か、母さん!?なんでここに!?」
徹也は相当驚いていたが、それ以上にこっちがビックリしてる
「え?徹也のお母さん?・・・え?えええ!?」
奈緒の母、静恵さんのように美人な女性が徹也の視界を塞いでお母さんって言ってるんだから驚きが隠せなかった
「おや、山岡さん。ご注文はいつものコーヒーかな?」
「いやいいですよマスター、うちの可愛い息子を迎えに来たんだから」
「ちょっと待てお父さん知ってるの!?」
「ああ、先週あたりから結衣がいない間にウチで昼食とコーヒーを飲みに来てるんだよ。もちろん徹也君の母親だってことは聞いてたよ」
「どうも初めまして結衣ちゃん、徹也の母、山岡 華よ。はい、これ名刺」
「とりあえず母さん、視界を塞ぐのはやめてくれない?」
徹也の隣に座る華さん、黒いスーツ姿でいかにも知的な女性というのがわかる
渡された名刺を見ると、[私立探偵ハナ] 本当に探偵なんだ
「今日の夕方にこの調査報告のデータを送ってたきた時点で、母さんがこの町に来てるのはわかっていたけどいつから来てたんだ?」
「え?頼まれてからすぐ?そりゃ可愛い可愛い息子の頼みだもの近隣のホテルで泊まりながら情報を得ていたのよ」
「わざわざ可愛い息子に来たことを知らせずにか?」
「いやーサプライズ的な感じで?でも助かってるでしょ?」
うんざりと呆れ口調で言う徹也に対し、息子LOVEで接する華さん
「さっき華さん探偵って言ってましたけど、これ調査したの全部」
「そう私は優秀な探偵よ?まあ、今回は相手が悪くて決定打に欠ける情報ばっかりでね・・・しかし私が数日掛かった説を徹也は数時間で説くなんてね」
「華さんも徹也と同じ考えなんですか?この状況が茶番劇みたいだと?」
「そうね、調べれば調べるほどそういう憶測に行き着くわね」
調べた当人ですらそう言うのか
「結衣ちゃん、徹也の言った通り進むべき道は一つ。勝つしかこのチームに未来はないということは変わらない。それに、あなたを応援する商店街の人達や子供たちがいるでしょ?その人たちの為に期待に応えなさい!」
「あ・・・」
華さんは立ち上がり、私の頭を撫でる
「恐れないで、怖くない、自分自信に信じてなさい。そしてうちの息子が信じてる人なら必ず勝てるから」
母親の愛情なんて、初めてかもしれない。華さんは席に再び座る
「なんというか、徹也の鋭い観察眼って母親の華さんの影響なんですね。先を見据えて相手の心情を見抜くあたりとか」
「まあ、オレの方がそっち方面に優れているけどな」
「確かにそんなんだけどねぇ、ただね、私の息子ながら徹也は探偵より詐欺師としての素質に優れいるから将来が心配で心配で・・・私の教育が悪かったかしら」
徹也の人を信じさせる力は詐欺師向けかも
「力の使い方は人それぞれ、大体母さんが言ってるじゃないか。言葉で人を傷つけたり、救うことだってできる。オレは親不孝者な職業に就くようなことはしないよ」
「親元離れた学校に通ってる時点で、寂しい思いをさせて十分親不孝者じゃない」
「いやいや、それは」
「だから、今日からしばらく徹也の部屋に泊まるからね!」
「ちょっと待てぇ!?今とてもじゃないけど人に見せられる状態じゃないよオレの部屋!」
「別にエロ本の何十冊でもDVDが散乱していても全然問題ないわよ!健全な男の子の部屋よ!」
「いや、そんなもん散乱してねぇよ!」
「それじゃ、結衣ちゃん、マスター、今日はこの辺でそれじゃ!」
徹也を引っ張って店を出る、華さん
「なんというか、あの母あって徹也って感じだねお父さん」
「そうだな、それになんだかうちと環境が似ているからな山岡さんの家族関係は・・・徹也君、山岡さんの養子、血の繋がりはないんだ」
そういえば、徹也は孤児院出身って言ってたや。私と同じ、本当の親を知らない
「同じ自慢の養子を持っている同士で話が合ってな、血と遺伝子の繋がりは関係ない。お互い自慢の子供をもって幸せだなって」
そう言いながら、私の頭を撫でるお父さん
「お父さん・・・照れるよ」




