ACT.20 眼鏡を外すのは眼鏡キャラの必殺技 1
アルト制作 6日目 大会まで残り13日
箱崎自動車 ガレージ
ボディ改造がここまで大変とは思わなかった。予定より進捗がよろしくないのは誰も口に出さなかったがやってる当人達だからわかる
平日の午前は学校で放課後の数時間しか作業が出来てない現状
徹也も作業に加わるが遅れを取り戻せるか焦りを感じながら溶接機を動かす
「奈緒、少し休め。焦りは怪我の元だ」
こちら動きで心情を察したのか徹也は
「いや、タダでさえ作業できる時間が少ないのに休憩してられないわよ。大体、作業時間を決めなくてもいいじゃない。徹夜でもなんでもするわよ」
「ダメに決まってんだろ、学校側から部活動は20時までって決まってるんだ」
「バレなきゃいいんでしょうが、ここは私の自宅よ?」
「バレたら部活動停止処分されるからやめろ、それにな女の子が夜更かして無理させたら、俺が上村先生にしばかれるし、お前は美容レッスン行きだぞ?」
上村先生は本当に健康とお肌と美容にはうるさいがメカニックの指導者としては文句がつけれない
女と車は美しく可憐にが、上村先生のモットー
「おーい、徹也来てやったぞ。すげぇ、本当にここまでバラしてやってんのか」
「お!やっと来たか。速く作業着着替えてくれ、奈緒と交代だ」
ガレージに久々に、まともに聞いたことがある声
ガレージ入口。声の主の方を向くと半年以上口を聞かない相手がいた
「阿部?」
「よ、よお奈緒・・・」
「どの面下げて、私の家に来てんのよ」
ぎこちないの返答をする阿部に対し、拒絶な回答をしてしまう
「俺が2日間かけて口説いた、阿部は今日からこのチームの一員だ」
「はあ!?聞いてないわよそんな話!?」
「話してないからな」
キッパリと堂々と言う徹也
「あー!もう!ちょっとこっちに来い徹也!」
徹也の腕を掴んで、ガレージの裏に連れ込む
「一体どういうつもりなのよ徹也!」
「やっぱり、阿部と一緒にいるのは嫌か?」
徹也はこちらが質問する前に、遮って返答してきた
「やっぱりって、知ってたの?」
「おおよそ、不仲になったおおよその事情ならな」
「じゃあどうして!?」
「優秀なメカニックだからな、上村先生も認めるほどにな…今は猫の手も借りたい状態だぞ?いちいち個人の事情を考慮していれるか」
ぐうの音も出ない正論で黙り込んでしまう
「…それともなんだ?未だに未練と後悔があるから阿部と一緒にいるのは居心地が悪いか?」
「!?ど、どうして、そ、それを!?結衣も加奈も知らないはず…」
「相手が悪かったな。素直になれよ奈緒。なんならオレが間を取り持…」
言い切る前に徹也にビンタしていた、思いっきりフルスイングで
徹也は倒れ込んで、頬を抑えていた
「い、痛ってぇぇぇ」
「バカ!」
そう吐き捨ててしまい、倒れ込んだ徹也をそのままにしてその場を駆け足で離れてしまった
「やれやれ、随分大胆なことをしたわね徹也。立てる?」
「ありがとうございますリリス先輩」
リリス先輩に手を貸してもらい、立ち上がる
「これも徹也の予想通りなのかしら?」
「ビンタの強さがそれを証明してますよ」
奈緒にビンタされた所を指をさす、まだジリジリ痛む
「やはり、こういうことかと思いましたよ。奈緒のあの態度と反応はどうやら当たってたみたいです」
「泣いてたわよ奈緒」
「あの時、怒ったことを後悔してるんだと思いますよ。まさか結衣や加奈の親友にすら話していない事情がバレて、混乱したんでしょう」
少し遡って3日間前、朝学校に来た阿部を捕まえ校舎裏で事情を聞き出そうとしてた
「…ということ加奈から聞いたんだが、これ嘘だろ?」
バッサリと、前日の加奈の話が間違いであることを言う
「ど、どうして?」
「お前の態度と行動だ、オレをチームに欲しかったのは奈緒に異性を近づけたくないという私情もあっただろ?お前は奈緒のことが好きなんだろ」
正解だったか、観念したかのように阿部は語る
「おおよそ合ってる、奈緒はオイラに愛想が尽きたんだと思う」
「愛想が尽きた?」
「あの頃も、今でも結衣に対してそういう風に言う人は学校内にチラホラいるし奈緒も耳に入っても仕方ないって割り切ってたんだよ」
「確か些細なことで口論になったって加奈から聞いたんだよな?」
「ああ、実はそこが重要なのか?」
「加奈に問い詰められたときははぐらかしたというか、なんというか言うのが恥ずかしいかったというべきか、ちょっと言いづらいというか」
なるほど、加奈の勢いに負けて咄嗟に言ったわけか
「それで、今でも奈緒のことが好きなのか?」
「!!」
あからさまに動揺した、優輝とほぼ同じ反応して顔が赤いていた。だが、愛想が尽きたということはつまり
「奈緒もお前のことが好き…いや、好意を持っていたって言ったほうがいいのか?」
「…うん、元々車好きの趣向も話が合うし、メカニック仲間として気兼ねなく言い合える仲だったし…それに奈緒可愛いし」
「いや、そこはお前の意見。外見が可愛いのは同意だが」
中身は暴力女…いや、よく言えば元気があって明るい性格でちょっと強引で容姿もいい女の子はそりゃ惚れるか、しかも話が合うなら尚更か
「奈緒がオイラに好意があるのわかったのは、その口論のときだったんだよ」
「そしてその口論以降、口を聞いてないと?それはそれで悲しいなオイ、つまり口論にキッカケの原因はお前の態度がハッキリしないからか?」
「う…徹也君、すげぇ洞察力」
「会話とお前の態度を見ればわかる。しかし、このままでいけないと思っているだろ?なんとかしたいと思わないのか」
「いやだけど…」
ハッキリとしない態度の阿部の背後に回り込み、チョークスリーパーをキメる
「がああああ、ギブギブ!というかなんでチョーククリーパー!?」
「口が聞かなくなっても奈緒に対する好意は変わってない?そんでいつヨリを戻すつもりだ?今日か?明日か?」
「いやいやそんな状況でどうやって元の関係に戻すんだよ!?があああ」
悲鳴をあげる阿部
「やれやれ、やめなさい徹也。阿部ちゃんがあっちの世界に旅立つわよ」
「おや?上村先生」
「う、上村先生…へ、ヘルプ…」
物陰から一部始終見ていたのか、上村先生が姿を現す。技を解いて阿部を解放する
「朝から校舎裏に人を連れ込んで、暴力沙汰でも起こすんじゃないかって心配してたけど、ちゃんと青春してるんじゃない」
いや、先生褒めるべき場面じゃないないと思うんですが、特にオレの行動
「なるほど、阿部ちゃんと奈緒随分仲が良かったなって思ったけどそこまで進んでいたのね。でも阿部ちゃんも容姿なら負けないじゃない?」
「い、いやこんなオタクキャラの容姿なのに」
「眼鏡外しなさい」
「え?…まあ、はい」
上村先生に言われて、眼鏡を外すと
どエライイケメンフェイスが露になった
「いや誰だおまえ!?お前の周囲の背景が煌めいて見えんぞ!?眼鏡外しただけでなんだその顔面スペック!?」
「いーや、一年生の頃からイケメンだと思ったけどさらに磨き上がってるわねー。眼鏡が邪魔になってんのよ。強いて言うならもっとセットを決めたいわね。本当阿部ちゃん原石なんだから」
話が進まないので、とりあえず阿部に眼鏡をかけさせる
「とりあえず、阿部。オレにまかせろ、その代わりお前はこっちのチームに入る。いいな?」
「うーん、今いるチームを抜けるとなると兄貴がどう言うかな」
「あー、阿部ちゃんのお兄さんおっかないからね。どうする徹也?」
「チーム脱退問題を解決して、奈緒のヨリを戻せば阿部は戻るんだな?なんとかしますよ」
「え、ええ…」
どうも阿部は優柔不断な性格だな、ならもっと逃げ場のないようにするか
「よーし、阿部今から言うことを復唱しろ、はい!僕は」
「え?…僕は」
徹「箱崎奈緒を」阿「箱崎奈緒を」
徹「愛しています!」阿「あ、愛して…って言えるか!!」
復唱しない阿部に上村先生がアームロックをかける、こちらの思惑がわかった上で乗っかるようだ
「あががが!?今度は先生!?なんで!?」
「はい♡阿部ちゃんもう一度♡リピートアフターミー?」
「あがが、僕は箱崎奈緒を愛してます!ぎゃぁぁぁこれでいいだろぉぉぉ!?」
「よし!」
アームロックから開放され、結構な声を出したせいか息を整えていた
「よし、阿部。今の会話を録画した。奈緒のヨリが戻せなかったらデータは消す。ただしヨリを戻すことに成功してこちらのチームに入らなければこれを編集したものを奈緒の親父に聴かせる」
「ふぁい!?お、おま!?」
「いやー乗っかった先生も先生だけど、それはえげつないわね徹也」
「ダメですか上村先生?」
「いや、面白そうだからOK♡」
「う、上村先生ぇぇぇ!?」
そして、様々な準備と細工をして現在に至る
「それじゃ、ほぼ脅して阿部をチームに引き入れたものじゃない徹也」
呆れ顔でリリス先輩がこっちをみる
「いや、でもこのカード結構絶大ですね。今日もここに来るのをかなり渋ったんですよ阿部の奴、さらに高度に編集した録音ファイル聴かせたら来ましたね」
「脅しじゃない」
ジト目で睨んでくるリリス先輩だが、すぐに表情は和らいで
「まあ、本当に嫌ならここに来ていないか阿部君…んで徹也ここからどうするのよ?奈緒を追いかけなくていいの?」
「オレはただの悪役ですよ、仕上げはヒーローがやりますよ」