ACT.12 方針2
アルト制作一日目 大会まで残り18日
メカニックチーム
[ボディ製作担当] 箱崎父 奈緒
[オーバーホール担当] 杏奈
ドライバーチーム
[練習、練習補佐] 結衣 リリス 勇気
[セッティング及びチーム指揮] 徹也
「結構人数ギリギリね・・・というか勇気は練習補佐担当なの?」
チームの役割を説明して奈緒が首をかしげる、勇気も疑問に感じているのかこちらを見る
「制作に回そうなかと思ったが、リリス先輩の怪我を考えれば車を動かすにも男手がいるだろうし。この様子なら勇気もメカも結構いけるだろ?」
「まあお姉ちゃんとお父さんに鍛えられてるから・・・」
小声で、特に結衣に聞こえないように勇気に言う
(それにな勇気、結衣に近づける時間が増えるチャンスだろ?)
(!?!?)
そう言うと急に顔が赤くなる、もう湯気が出るんじゃないかってぐらい。その様子を見たというか、聞こえた奈緒と杏奈は悪い笑顔になってこちらに近づく
地獄耳かお前ら
(ははあ、そういえばあんた結衣が好きだったわね?なるほど、徹也ナイス人材配置!)
親指でGJっと、奈緒
(よく気づいたわね、徹也)
(そりゃ勇気が結衣を見る目を見りゃ、それなりに察しはつく)
もう湯気どころか沸騰するんじゃないかなってぐらい勇気の顔が真っ赤になってる
「え、えーと?・・・勇気君?嫌なら・・・」
「い、いえ!そ、そんなことないです!!よろしくお願いしまう!」
聞こえていないが勇気の様子を見て、困惑気味に聞く結衣に即答で答える勇気
噛んで、「お願いします」すら言えてない
「結衣の練習もあるが・・・勇気にはドライバーとしての適性があるからな。将来的な事を考えてな」
「え?そうなんですか?徹也先輩」
「まあ、おいおい話す・・・話を戻そうか」
気を取り直して役割について話す
「奈緒と箱崎さんの仲の良さを見れば、同じ作業での連携もいいだろう?」
「よくわかってるじゃないか、徹也。我が愛娘の仲の良さは町一だぞ」
「年頃の女の子にしては変わってるかもねぇ・・・」
この歳の女子だと結構父親を嫌う傾向がありそうだが。珍しいのかレアなパターンなのか
「おそらく一番時間が掛かる要素だと思う、俺も時間を見て手伝う。なるべくは図面通りに事は進める」
「次はオーバーホールね・・・徹也、なんで私なのかしら?」
「気になります?」
「そりゃ、確かにエンジンもミッションもバラせるし、数ヶ月前に一度オーバーホールしたのも私だけど。そんな話してないと思うけど?誰かから聞いたかしら?」
確かにドタバタして、メカに関しても先輩達についてあんまり聞いていないのだが
「そんなの手を見ればわかりますよ。奈緒もそうですが、杏奈先輩も手もメカニックの手。特に杏奈先輩の手は擦り傷にやや指に黒ずんだ痕、それも結構最近なのは初日で会った時点で気づきましたよ」
そう聞くと杏奈先輩は目を見開き驚いた表情になり、そして少し呆れ顔になる
「・・・思ったけど凄い観察眼ね徹也。初日の加奈との対決、アルトを選んだ車の利き眼、そして人の力量を的確に測り最適な采配をする・・・敵に回したら恐ろしいわね」
観察眼か・・・最善を選んで考えてただけだが
「采配はわかった、妨害対策はどうする?またウィルスのようなものを仕込まれたら・・・」
「ウィルス対策はウィルスが通用しない代物が用意できますが、根本的な対策になってないんですよね。正直、物理的手段とか策謀的な手段で来られたら学生で対応できるもんじゃないですよ」
こうなるともはや学生という子供ではやれることが限られる
「物理的ね、うーむ・・・おれなら腕ぷっしなら自信あるぞ?」
「お父さん、暴力沙汰になったらそれこそ廃部になりかねないからやめて」
マジでそれだけはやめてください箱崎パパ
「牽制・・・妨害できないような状況を作り出す」
「そんなことできるの?」
「少なくともこのチームでそんなことできる人はいないですよね・・・知り合いに頼んでみます」
頼れるものは親でもなんでも全て頼る、自分が打てる最善の手は全て打つ
箱崎自動車 応接室
リリス先輩と上村先生が合流し、それぞれの役割に付く
ドライバーチームは箱崎自動車の応接室を借りる、今のガレージじゃ騒音でそれどころじゃないだろう
「提案として明堂学園と同じ戦法をやる」
「明堂学園の戦法・・・具体的にどういうなの?」
「インカムを使って、俺がドライバーにダイレクトに戦術を指示する。車のカメラと中継のドローンから指示し、相手の車の位置と特性や弱点を突いたオーバーテイクとブロックをしてもらう」
「指示を聞きながら・・・様子を聞かれることがあるけど、そんなことできるかな?高速動く車内でそんなこと・・・」
それをホントにやったのが去年の明堂学園なんだよな・・・
「指示を聞きながらは確かに運転に集中しづらくなりそうだけど・・・ああ、なるほど。だからこのコース攻略なのね」
予選で使用されるコースのレイアウトにマーカーとナンバーを付けてるプリントを見るリリス先輩
「あらかじめコースを理解して、攻略法を覚えておく・・・単純な指示なら・・・」
「ええそこまで複雑な事は言いませんよ、例えば「12のコーナーをイン」って感じ。あとはペース配分とかの指示ですかね」
「なるほど戦術面で徹也が戦う、表にいなくてもあなたは裏で戦っていたのね・・・どうりで明堂学園が強いって言われるわけね。速いドライバーなら強豪チームにゴロゴロいるけど戦術を伴う速いドライバーとなるとね・・・」
「勿論これはドライバーの力量があってこそ成り立つやり方です。だが、ここには結衣という天才的に速いドライバーならできる。前例があるから保証してもらっていい」
そう言われると照れくさくなったのか、顔を赤らめる結衣
「もっともこの手は勝負が接近戦になった時ぐらいですね、予め戦略を組んで勝負に挑むのがメインになる。だからこのドライバーチームには速さではなく戦術的な走りを叩き込ませる」
「・・・なるほど、わざわざ速い車を用意しなくても出来ることなのね」
・・・リリス先輩もかなりの観察眼なんじゃないないか。こちらの思惑をよくわかっている
「徹也先輩、お姉ちゃんが言ったよう結衣先輩には激しいテール・トゥー・ノーズとかサイドバイサイドに持ち込む勝負は・・・」
「なにも接近戦をやらせるつもりはない、結衣にはスピードによる駆け引きをさせる。特にペース配分」
「ペース配分?」
結衣と勇気は首をかしげる、リリス先輩もイマイチピンと来ていない
「要は速く走るだけが1on1の戦いじゃない、あえてペースを落として走る。理想はセクションタイムを自在に操れるような走りだ」
「そんなこと出来るものなの徹也君?」
「・・・結衣、なんか勝負の切り札になるようなものが欲しいって思ってだろ?俺を信用してみないか?こいつはもう一つ強力な武器になり得る」
正直、こんな手段は取ったことない。だが結衣にはこの方法が一番で現在できる有効な練習がこれぐらいしかない
「・・・思ったけど、徹也がメインドライバーで戦うのってダメなの?」
ここでリリス先輩がごもっともな疑問を言う
「確かにパッシングとオーバーテイクの駆け引き勝負は得意分野ですけど、それは接近戦に持ち込まないといけない。先行されて速さで一方的に突き放されたらどうにもならない」
「徹也君、速く走るのは苦手とは言ってたけど・・・」
「でもあの時、加奈先輩に勝てたじゃないですか?」
「あれは不意を突けてオーバーテイクできてポジションが変わったことでできたものだし、こっちが前に出ていればブロックでラインを潰して思い通りの走りをさせないようにするのは可能なんだ。意図的に接近戦に持ち込んで駆け引き勝負もできる・・・だが2度目になるとあのレベルの乗り手に同じ手は通用しない」
「それなら速さに実力がある結衣の方が先行、後追いでも一方的に負ける可能性は低いわけね」




