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走劇のオッドアイ  作者: かさ
浮上島編
121/121

ACT.109 想定外の手札

波乱の一回戦後、優勝候補を倒した蒼鷹高校はその後も勝ち続けた。しかし勝ち方は決して実力で勝てたように見えない勝ち方だった為か、世間の評価は"運がいい"というものだ

それでも決勝まで勝ち進めて来た故に”何か”があるとという”期待"や"奇跡"を信じる者もいる

対する決勝の相手は、圧倒的な実力の走りで対戦相手を蹂躙した明堂学園

“奇跡“と“最強“という対戦カードの組み合わせは、この近年のライト級決勝でも稀に見る注目のカードとなり、観客席は即満席、動画配信サイトもかなりの視聴予約が入っている程であった

メディア、SNS、掲示板、どちらが勝つかの論争が起こる程の話題になる

現実は“奇跡“なんかではなく、全てオレが仕向けた勝ち方。駆け引きとデータに基づいて対戦相手を下していたのが事実だ。こちらの手の内をなるべく伏せた上でだ

それでもなお、勝筋があるかどうか…


決勝戦、前日ミーティングにて


「…そうね、確かに私達にとっても盲点だし、あっちも想定もしていないか。先生としては徹也の作戦はアリね」


今回のレースの作戦内容に、上村先生始め、概ね賛成の方向に向けることが出来た


「ただ、問題なのは。本当に初手のみ凌ぐことは出来る。確実に3セット目の長期戦まで持ち込むことになるとは思うが、そこからはどういうレース展開になるかは予測出来ん」

「徹也がそこまで言い切るとは…」

「相手が稀に見る天才級ドライバーなんだよ、加奈。海王渉に椎名陽葵、明堂学園…いや、現世代学生レーサー最強の二人って言っても過言ではない」


恐らく、その上を行ってるとすれば、白柳神也なのかもしれないが

少なくとも、ここにいる全員は明堂明音の実力は思い知っている。言ってしまえば、明堂明音よりこの二人は強い


「徹也、相手のマシンスペックってどんなもんなの?原型がとどめていないから初見だと全然わかんなかったけど、アレってダイハツのミラよね?5代目の700系の」

「ああ、そうだぞ奈緒。ちょっと珍しいかもな、stGTの1on1バトルで採用されるとしたら、初期のミライースが多い。あっちの方が元々空力設計が良いんだがな…たぶん相当突貫で制作したのか、一番ノウハウが構築されている700系を採用したんじゃないかなって思う。正直、あそこまで改造していればミラとミライースにさほど差は無いかもな」

「突貫って…その割にはかなりのクオリティーじゃない?」


奈緒の指摘通り、ミラは到底短期間で仕上げたとは思えない程の仕様なのだ


「可変エアロと、そして近年のプロで採用された新構想のバリアブルウィングを採用してることだな」


ホームストレートを走るミラの映像を再生する。フロント部分の可変と、そして折りたたむように変形するGTウイングが移る


「やはり名門なだけあって、資金力があるというべきかしら?」

「まあそれもあるがな奈緒、それを活かせるノウハウとスタッフがいるってことだよ。明堂学園はドライバーだけじゃなく、メカニックも相応のレベルって訳だが…そんな彼らでも、完璧には仕上げきれなかったようだがな」

「??何言ってのるよ徹也?ここまでのマシンが完璧じゃないですって?」


奈緒を始め、ほぼ全員が首をかしげる。確かに、最新の技術も投入して、決勝まで勝ち抜いてきたマシンにどこが完璧じゃないのか


「正確に言えば、海王 渉の走行セッティングパターンに、あの車が耐えきれないか、パターンを仕上げられる時間がなかったというべきか…あのマシンで、海王渉の走りを完全に引き出せないというべきか」


昨年のメイン級でも、渉のレース映像を映す

ホームストレートから、第一コーナーからのオーバーテイクを仕掛けるシーン。渉が操るヤリスのレーンチェンジ…映像ですらいつ動いたからわからない程の速い横移動をしているのだ


「これが話に聞く、海王渉の走行テク…」

「ええ、その通りですよリリス先輩。ライトニングチェンジ。超高速のレーンチェンジの走行パターンで、仕掛けるタイミング次第じゃ、防ぐのはほぼ不可能で、いつの間にか横に並ばされる」

「…疾風迅雷という通り名が付けられるわけね。フォーミュラ系のマシンを操る海王渉も知っているけど、まさか市販車ベースの車でもそんな芸当が可能なんてね」

「走行セッティングパターンさえ仕上がっていれば、どんな車でも渉なら出来ますよリリス先輩。もっとも、もう一つのアイツの技が今現在使用不可能な状態なんですけどね」

「ストームドリフト…確かに今回の大会で一度も使用していないわね」


昨年の前期のstGTのメイン級のレース映像を出す。その映像から最も速度が乗った状態からの第一コーナーのブレーキング勝負時に渉はライトニングチェンジで横に並んでから、アウトから侵入し、アウトに抜けていく高速のドリフトでオーバーテイクに成功させている


「…マジですげぇな、壁スレスレであの速度でなんで制御出来てんの?ってぐらいのドリフトまで使ってくるとはな…正統派なドライバーだと思ったらこんな曲芸まで出来るのかよ」

「ええ、伊東先輩。こいつが渉のストームドリフト、奴の切り札であるが複雑な走行セッティングパターンを要求されるから、おそらく構築しきれなかったのと、ミラの車体が耐えられるどうかまで手が回らなかった…ストームドリフトって、かなり車体に無理をかける技だから」

「それ故の不完全か…」


原因としてはそれだけじゃない。明堂学園のチームが新体制になったことと、急遽のライト級の参戦でマンシ製作にかける時間が少なかったとも言えるし、何よりも走行セッティングの要である電子系のスペシャリストが抜けているが大きい


「それでも、幼少から積み上げてきたキャリアとドラテクに駆け引きだけでも世代最強クラス…というかもっと上の世代でプロで第一線で活躍してる方々相手でも互角以上にやり合うですからね。それに結衣とは違う才能を持ってる」

「…”超反応”か、海王渉の反応速度はトップレーサー以上と聞いたことはあるが」

「よく知ってますね伊東先輩。予測するまでもなく、見てから反応出来る。オーバーテイクも防がれ、ブロックも躱す…」

「結衣の“超空間認知"による、コースや相手の車両を視えることによる守りの走りに対して、見てから反応で対応出来る故の守り…そういうことなのか徹也?」

「そして、オレの戦術パターンの大半も頭に叩き込んでもいる。マジで正攻法じゃどうにもならない…とは言え、今回はチーム戦で複数のドライバーを入れ替えることが出来る。それが唯一の突破口かと」


そして翌日、決勝当日

ピット内で蒼鷹高校と明堂学園のチーム、お互いに並んで挨拶となり、明堂側のメンバー全員がざわついていた。普段の彼らを知っているオレからしたら、そうそう動揺した緊張を表に出すようなメンツではない、全員オレの格好を見て驚いているのだ

そして一人、その手があったかって理解したヤツが口を開く


「そうか、その手があったか徹也。オレも監督もそればっかしは盲点だった。おまえ自身がレースに出てくるとはな」

「その言い方だと、それを想定していなかったようだな渉。随分甘く見られていたのか…それとも…」


明堂学園の監督、伊集院翠の表情は苦虫を嚙み潰したよう感じだ。本当に想定外だったのだろう

挨拶が終わり、お互いのピットに戻る


「どうやら、あちらの事前に建てた作戦と戦略は殆どパーになったかしら、徹也」

「少なくとも初手の作戦は挫いたと見てもいいでしょうねリリス先輩。あっちのピット、相当慌てていますね」


おそらく、伊集院監督はこちらの初手は結衣を出してくるであろうと想定していたはずだ。そしてそれに対抗するとすれば海王渉で一セット目でケリと付ける作戦を立てていたと想定していたと思われる

だが、オレ、山岡徹也に対する走行データは最新でも数か月前の伊東先輩と公式の1on1レース以降は存在していない

それ以前としても半年以上、事故が原因でハンドルを握れなかった時期も含めても現時点でのオレの走行データは皆無に等しい

ここまで来れば、ただのブラフがハッタリと考える者もいるだろうが、良くも悪くもオレの手口を知っている明堂学園のチームはそうは考えない。相当警戒もするし、動揺もする


「…出てくるとしても…やっぱり海王渉か」


明堂側のマシンに乗り込んだのは、渉であった。少々揉めていたようだが、こちらの想定通りである


「現時点でオレにまともに対抗できる、もしくは打ち勝てるのは渉だけ。椎名先輩でも厄介ですけど…短期決戦で仕掛ければ何とかなっちゃうぐらい、オレとの相性悪いですからね」

「それをサラッと言ってしまうのが恐ろしいわね…それで、後は昨日と打ち合わせ通りに」

「ええ、3セットまで引っ張って、結衣にバトンを繋ぎますよリリス先輩」



明堂学園側ピット


「…やられたな、ここに来て徹也自身がドライバー出てくるなんて」


うちの明堂の作戦は、あちらが先行であれば鷹見結衣、後追であれば勝負強い成海リリスが出てくると想定していた

伊集院監督やチームメンバーの作戦も、いくつものパターンを想定はしていた。ここまであちらのマシンスペックと最後まで手札を隠しているのはこれまでのレース内容で分かっていた。ヤツらしい作戦であるから、作戦としては様子見無しで勝負に出るというのは全員一致した意見だった、徹也ならその様子見してくる隙を付け入る…


「その筈だったんですがねぇ…伊集院監督」

「…様子見せざる得ないね。徹也のドライバーとしての能力が仮に一年前と変わらないとしても、この一対一のドックファイトの状態で彼とまともにやり合えたのは誰もいないって聞いてる」

「いや、たぶん全然違う。ドライバーとしての速さとしての技量なら負けることはないけど、車をコントロールする能力なら徹也に誰も勝てるやつはいないのと、それを引き出す駆け引きが多い。そしてここまで情報戦で優位に立っている徹也を出し抜くは無理。徹也の後ろから抜くのも、逃げるきるのも難しい、油断してたらこっちの車をスクラップしてくる」


徹也自身、そういうやり方は避けているが、意図的にミスを誘発させるホークイリュージョン等を使い方次第では相手をクラッシュさせる芸当も不可能ではない


「…あんまり楽観的な考えはしたくないけど、渉。あなたなら徹也の手の内を知り尽くしてるから、このノックダウンさせることは?」

「無理です」


即答である


「アイツは負けることがわかっている時って、わかりやすいぐらい全然乗り気じゃないんですよ。逆に勝てると分かっていれば全然乗り気。勝てる勝負だからこそ、徹也自身が出てきたって考えていいと思います。試合の行方はまだしも、この先行は確実に防ぎきれる自信があるから出てきた」


長い付き合いだからこそ、徹也のことはよく理解しているし、この1セット目の勝負の行方はもう分かっている


「とは言え、こちらもただで済ます気はありませんけどね。仕掛けられるならこの一セット目でノックダウンする気で行く…というかその気概じゃないと確実にこの1セット目で負ける」


思えば、公式なレースで戦うなんてレーシングカート以来か。まだお互いに何も知らなかった頃から、親友と呼べる関係になり、徹也となら自分のレース人生は面白い事になる…だが、やっぱり自分は強い相手に挑みたいという本能と喜びは抑えられない


「やべぇな…スゲェ手が震えてる」


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