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走劇のオッドアイ  作者: かさ
浮上島編
120/121

ACT.108 聖域の代償

試合終了後、1on1レースで激しい走りをしたマシンはメンテナンスは欠かせない。駆動系、ブレーキ関連、エンジン、足回り、可変機構の駆動部確認…あげればキリがない

試合が終わればガレージはメカニックの戦場。疲労困憊なドライバーはさっさとホテルに戻って休めと言われてしまう程の始末


ホテルに戻ったのは覚えているが、そこからどう行動していたのかホテルのエントランスロビーのソファで、声かけられるまでうたた寝をしていたようだ


「あんまり関心しないわね。人目がつく場所でうたた寝、みっともないのもあるけど、アンタはなまじ容姿がいい女の子なんだから、悪い人に連れ去られたらどーするのよ」


その聞き覚えのある声、まともに会ったのは一度だけだが、その一度の出会いでそれだけ印象が残ってしまうような人物


「…明堂明音?」

「こうやって面と向かって話すのは初めてね、成海リリス。その様子だと、洗礼を受けている所ね」


明音は隣に座ってくると、缶ジュースを渡してくる

ピンクの桃と特徴的な女の子の顔のイラスト、桃味のネクタルな甘いジュースである

受け取って、かぶりつくようにそれを飲み干した。体があまりにも甘味なモノを求めていた故の反動


「どうもありがとう。なんか生き返った気がする」

「そりゃどうも。案の定というか、やはりこうなったかって思ったけど」


頭が冴えてきて思い出したが、なにか甘いものを求めて部屋を出たのは良かったものの、このロビーで力尽きたようだ…砂漠の中でオアシスを求めていた、というべきか

甘味が体全体に染みる感覚、回復したのが実感出来る


「まさか、アンタが聖域をモノにするとはね。とは言え、その体たらくじゃ、まだ体は慣れていないようだけど」

「そうね、単純に疲れるとかそういうモノじゃない。下手するとハンドルを握ったまま気を失いかねない。甘く考えてた」

「よくよく考えればわかることだけど、聖域は極限の集中状態って一言で言えばそうなるけど、聖域の集中力は、五感のうち特に視力、視野が異常に広がり、それを処理する脳が情報処理の為に体感速度を遅く感じさせること処理を間に合わせている。それも3桁台の速度が出るマシンを操りながらやるんだから、多大な情報処理に、神経が疲弊するんじゃないかって、うちの専属のドクターの見解だけど」

「聖域の洗礼…いや、聖域の代償というべきか」


明音が語る見解と、洗礼という言葉は納得をする。強い力には代償という名の負担がある。それは人もマシンも同じである。聖域は決して、都合の良い代物ではない


「聖域は莫大なエネルギーを消費する…つまり兎にも角にも体が甘味やカロリーを求めるようになる、私も今でも角砂糖を頬張るか、コップ一杯のガムシロップを飲んでた有様だもの」

「…そんな姿を想像したら笑えてくるわね。あの明堂明音がね」

「所詮、私はただの人間ってことよ。本物の天才は、生まれながら聖域に耐性を持っている。渉とか、陽葵。アンタらの所なら結衣や加奈、そして安道真里のような連中は聖域を使って、ここまで疲労することない」

「…以前も会った時も思ったけど、少なくとも私が知っている、女傑と呼ばれた明堂明音とは思えない発言ばかりね」


私の中の印象過ぎないが、同い年で同じ女性ドライバー。マスコミなどで取り上げられる程度には存在は認識はしていた


「あら?私の記憶が正しければ、成海リリスも相応に名の知れたドライバーだった筈だけど?ドイツと日本人の美少女ハーフ。容姿もさることながら、ジュニアジムカーナで成績を残し、さぞどこかのレースチームか、stGTに参加してる名門校、名門チームに属してるかなーって思ったら、全然まさか無名の県立校にいたとはね…道理でここ数年名前を聞かない訳だ」


どうやら、向こうも私を知っていたようだ


「光栄ね、あなたに名前を知ってもらえていたとは」

「どうして、あなたは蒼鷹高校に入ったのかしら?当時、かなり引くて数多だったとは聞いていたけど?」

「話す必要はあるかしら?さほど仲の良いとは思えない相手に」


わざと塩対応で返してみた。我ながら意地悪な…いや、なんというかこういうやり取りをすればどう返すのか。徹也の悪影響を受けているようだ


「そうね、少なくともそのジュース代と情報提供の代金替わりぐらいには。私だってただでモノと情報提供する理由はない。まあ、動機はあくまでも私の興味本位」

「…そうきたか。そう返されたら答えないわけにはいかないか。杏奈には話したし、徹也にはほとんど勘づかれてることだから、今更話すのはやぶさかじゃないけど…」


どこから話そうかと、考えを巡らせて、語る


「鷹見結衣が蒼鷹高校に入るって宣言していたから、私も蒼鷹高校に入った。私は鷹見結衣に憧れていた」

「ほう?…うん?」


明音は返答に困惑し始めていた


「んん?私が聞く、知る限りは鷹見結衣って確か去年からレース活動してるのよね?」

「そうよ。結衣がレース活動を始めたのは去年から、でも結衣は蒼鷹高校の自動車部に入るって、堂々と宣言していた。私はそれを信じて蒼鷹高校に入学した」

「全然話が見えてこないけど…」

「まあ、話の本題はここからね。結衣って、蒼鷹町の有名人で、隣町の学校にもその名は知られていたの。町の奉仕活動に積極的で、陰湿なイジメや暴力沙汰を解決しちゃう。グレた不良を更生させたり、時には万引き犯を捕まえたり…まあ根の葉もない噂が流れる程度には、正義のヒーローとして有名だった」

「へぇー…町内ヒーローって感じか。というかそれって本当なの?」

「いくつかは、話が尾ひれが付いてるらしいけど。中学の時に結衣と奉仕活動の時に出会って、一発で魅入られた。私が知らない強い意志を持ったあの宝石のような瞳。もし結衣がレースの世界にくれば、とんでもない逸材になる。そんな直感を感じさせるものだった。海王渉以上、私が出会った、知っているドライバーより、誰よりも凄いドライバーになる」

「…まさかそんな直感だけを信じて?」

「ええ、でも私の直感は間違っていなかった。結衣は僅か一年で私と互角レベルまでの実力を開花させた。私が大学に上がる頃にはもうバケモノようなドライバーになってる。私はその時の鷹見結衣と勝負がしたい。メイン級なら、大学と高校のチームで対決が可能だからね。なんならフラッグ級でも構わない。私は最強である鷹見結衣に挑みたい」


明音は私の会話をまとめて、要約した


「つまり…将来最強になり得るであろう、憧れの鷹見結衣に挑むが為に蒼鷹高校に入った訳?結衣の将来の可能性を信じて、将来的に自分がライバルとして立ちはたがる為に?」

「結衣がどう成長していき、どういうドライバーになるのかを観察しながら、先輩としての役目を果たしつつ、自分の野望の為に周囲を利用した…ホント、鷹の再臨計画を聞いた時はゾクゾクしたし、私の直感は間違っていなかったって思ったよ」


結衣がホークマンの遺伝子で作られた存在と知ったのは、計画に加担することを決めた時だ


「聞けば聞くほど、アンタはトンデモない狂人だった訳か…なるほど、アンタの聖域のトリガーはソレか。鷹見結衣に挑むという野望」


苦笑しつつ、私の感情のトリガーを言い当てる


「馬鹿馬鹿しいでしょ?問い詰められて杏奈に話したら、呆れられたし、なんなら責任を取れって言われた」

「でしょうね…だけど、気持ちはわからなくないか。私も徹也を倒したいってヤケになってた時があるし。偶然にも結衣の兄に当たる存在」

「案外、互いに似た者同士だったかもね、私達」

「まあー…友達になることはないわね。私、アンタを倒してみたいって思ってる」

「私は負ける気はしないけど?その望みは叶わないって、言っとくわ」


互いに挑発する言葉が出てしまう時点で、互い負けず嫌い。対抗意識…似た者同士だからこそ、反発してしまう

互いに天才ではないその身で、天才に挑む境遇


「面白かったわ成海リリス。おかげで長い間、片隅にあった疑問が解決した」

「構わないけど、後悔しても知らないわよ?聖域の事を教えて、ライト級で参加してる明堂のチームに恨まれても。なんで敵に塩を送ってるんだって」

「もう、決勝まで勝ち残ることがわかってる言い草ね。まあ、間違いなくライト級の決勝は、蒼鷹と明堂になる…だけど成海リリス。アンタ以上に、私は私のチームの事をわかっているし…それにね…徹也は勝てるって断言したのかしら?」


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