表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
走劇のオッドアイ  作者: かさ
浮上島編
119/121

ACT.107 stGTライト級一回戦 蒼鷹高校VS儀臥学園 3

挿絵(By みてみん)



儀臥学園に監督して就任して、10年…今年は最高の布陣、チームが最高のモチベーションである

優秀なドライバーに、最新の可変機構を採用したマシン。昨年メイン級の覇者、明堂学園が暗黙を破ってライト級参戦。そしての今世代最強とされる海王渉に挑める機会がチームメンバー達のモチベーションを上げた要因だった

だが、現在一回戦。予期もしていない状況に堕ちいていた…いや、マシントラブルはレースにはあり得る話、あり得るトラブルではあるが

コペンはエンジンのオーバーヒートを起こしていた、ピットクルー達に急いで冷却作業を急がせたが…レース中にオーバーヒートのまま走り続けたことで、既にエンジンには多大なダメージを受けている


「すみません監督…こんなヘマをやらかすなんて…」

「いや、マシントラブルを覚悟で走れと指示したのは私だ。相模、お前は悪くない」


むしろこんな状況でも、3セット目に持ち込んだ相模の手腕は凄いことである。マシンが万全であれば勝負がついていたかもしれない

先行と後追いのポジションが切り替わる。マシンをダメージを与えてしまったことで、相模は自責の念も感じてメンタルダメージも伺える。そうなれば、選択は一つ


「筱原、もう一度出番だ。用意しろ」

「わかりました監督」

「いいか、ノックダウンを考えるな。何とかポジションを守って逃げ切るれば判定ならこちらが有利のはずだ。判定勝ちなら確実に狙える」


筱原に指示を送り、そして直前まで相手と走った相模は筱原にドライバーの情報を教える


「たぶん、あのリリスってドライバーは守りに強いディフェンスドライバーだ。あそこまで攻めても手ごたえがなかったが…同じタイプ同士なら互いに均衡するんじゃないかな」



一方、蒼鷹高校陣営


「…ということを、相手は考えているんじゃないですかね。あの様子を見れば」

「徹也の策略に気付いていないってことかしらね?」

「策略だと思ってもいないのが正確かと。そしてドライバーを篠原に変えてきたということは、リリス先輩のタイプにも気づいていない」

「ここまで完璧に徹也の思惑通りに進んでる…私が逃げ切れないのも信用していたのかしらね?」


意地悪く聞いてくるリリス先輩だが、そういう軽口を言えるということは精神的に余裕があるということでもある


「リリス先輩、3セット目も頼みます。状況によっては、アレを使っても構いません」

「いいのかしら?なるべくこちらの手札を明かさないつもりだったんじゃないの?」

「2枚程度の手札なら、切ってしまっても問題はありませんよ」


タイヤのローテーションを終え、コペンとアルトは三度スタートラインに前後に並ぶ


「徹也、リリスと何悪だくみしていたのかしら?」

「悪だくみとは杏奈先輩、随分な言い方ですね…まあ、オレとリリス先輩の腹黒さに関しては否定出来ませんがね」

「そう…私としてはどんな手を使ってでもリリスには勝ってもらわないと。ワークスを壊した罪は帳消しにならない」

「奈緒は許したのに、杏奈先輩は許していないんですね」

「そうね、一人でも許さない役目はいないとダメだと思ったからね。そうじゃなければリリスも覚悟が決まらない」


”鷹の再臨計画”でリリス先輩が自らの手で、結果的にアルトワークスを破壊したのは、計画の一部というのもあるのだが、あのアルトワークスではどのみち勝ち抜けるのが難しいこと、そしてオレがライト級にいれば、明堂学園がライト級に参戦する可能性があった

コレばかりは、オレも予想していなかったが、リリス先輩は可能性を読んでいた…というかそうなることを希望をしていたか。そうなれば周囲も明堂学園に対抗したマシンスペックせざる得ない

一刻の猶予もなかった。あのアルトワークスはこの蒼鷹自動車部に愛着があり過ぎたから、手放す話し合いをしている暇がなかったからリリス先輩は破壊することで、未練というか、執着を断ち切った

自らの野望もあるが、チームを勝たせる為に、例えば恨まれても


「リリスには、ドライバーとしてケジメをつけさせてもらう。ドライバーとして勝って責任を取れ…私もリリスに酷なことを要求した気がする。こっちも罪悪感が感じるぐらいにリリスは、この短期間鬼気迫る勢いで練習してた」

「それに付き合わされたオレと加奈は、堪ったもんじゃなかったんですがね。正直、アレを身につけるとは、想定外でしたがね」


シグナルが点灯し始め、ふと観客席の人達を見る。1セット目の時より人が増えていたのだ

目玉のレースである明堂学園を見ていた観客が、こちらに流れ込んだのだ

儀臥学園と蒼鷹高校のレースを誰もがこう思っていた筈だ

「儀臥学園が圧勝する」という面白味のないレースになると、SNSや記事でもそのような下馬評ではあった

だが、下馬評を覆し、全くの予想し得ない状況、レースが3セット目までもつれ込んだ

現在進行系でSNSは、儀臥学園のコペンがマシントラブルを抱えているという情報。なまじ事実な分、ますますこちらが仕掛けたということに観客ですら気づかない

観客と儀臥学園陣営はまだ勝負はわからないと踏んでいる。だが、こっちは既に勝利を確信している優越感が、思わず口元が緩んでしまう

シグナルがレッドから…ブルーへ、コペンとアルト、儀臥学園と蒼鷹高校の最後のレースが始まった

第一コーナーから、オレ達のチームメンバー以外が誰もが異変を感じた。アルトがまるで別人のように攻め込んだ走りをし出したのだ、リアスライド気味に、コペンに接触寸前になるぐらいに

少なくとも2セット目のような基本に忠実な守りの走りではない、アグレッシブな走りで戦闘が落ちているコペンを煽る



〈オイ!?相模!?言ってる情報と全然違うぞ!?コイツ滅茶苦茶攻め込んだ走りしてくるぞ!?〉

「オレも見て驚いてる。本当にオレと対戦した相手か?入れ替わったんじゃ…」



儀臥学園陣営は、更に慌ただしくなっていた。リリス先輩の走りが変化、変質したからだろう


「まさか、アレが同一人物とは思えないよな…実際に見るまでオレも半信半疑だった訳ですが」

「ハンドルを握ると性格が変わる。そんな言葉がお似合いだからねリリスは。リリスは先行と後追いで、走りの性格が変わる」

「ドレス効果…というのは違うか。ドレス効果は誰でも持つポジティブでもネガティブなモノ」


高級車に乗れば攻撃なドライバーになったり、カスタムすることでテンションとか上がるというのがドレス効果として例えられるが、リリス先輩のはそれとは少し違う


「一定環境化のみに現れる二重人格に近いタイプのドライバー。先行はディフェンスドライバー、後追いになればアグレッシブドライバーに切り替えられる、デュアルドライバー。相手からすれば、全くタイプが違う二人のドライバーと対戦しているようなものだ。まったく、結衣といい、加奈、伊東先輩に、千歳…うちチームのドライバーは逸材揃いすぎだですよ」



相手は困惑しているのが、手に取るようにわかる。というより私、成海リリスと初見で対戦したドライバーは誰もが同じリアクションをする

この状況を利用出来るのはせいぜい、2周までだ。相手が混乱している状況なら、速攻で仕掛けるしかない

1周目の最終コーナー手前、AIアイに指示を送る


「アイちゃん、2周目の第一コーナー。走行パターンOLDで行くわ。サポートをお願い」

〈了解!リリス様も私を信じて踏み込んでください!〉


最終コーナーを抜け、コペン、アルトもホームストレートをオーバーロードシステムと最高速形態で駆け抜ける

シートが張り付いて、MAXスピードで第一コーナーのブレーキングポイントを…過ぎた。アウトにラインを取ったコペンに対してインからけただましスキール音を鳴らしながら、車体を斜めなりながらコーナーへ進入した


〈トラクション制御オフ!オーバーロードシステム再作動!〉


明らかなオーバースピードから、慣性でイナーシャルドリフト、オーバーロードシステムで無理矢理、四輪ドリフトに持ち込みコーナー出口へ向ける

コーナーを見ると、その近くで見ていた観客の表情は驚き、そして巻き沿いを食らいたくないのか逃げている者までいる。客観から見れば完全に、オーバースピードでミスをした、確実にクラッシュすると思われている

なら、その期待を見事に裏切ってやろうではない


〈トラクション制御フルドライブ!リリス様!踏んでください!!〉


アイのタイミングでフルスロットル、アウトギリギリの壁際からアルトが態勢を戻し、一気に立ち上がり鋭角に第一コーナーを抜けた。コペンをオーバーテイクしながら



レースの展開が大きく変わり、リリス先輩の常識破りかつ、見事なオーバーテイクに観客達の驚きの声援が飛び交う


「オーバーロードドリフト。本来は最高速から追加速で使用されるオーバーロードシステムを使ったドリフトテクニック。慣性ドリフトからキッカケを作り、弧を描くコーナリングに対し、鋭角なコーナリングでオーバーテイクを狙う…よくこんな荒技を思い付くものね徹也?」


この技を教えたのは、オレである


「元々はホークマンが使っていたイナーシャルドリフトを今の技術に落とし込んで、オレと渉で編み出したコーナリングなんですよ。もっとも、複雑かつ状況に応じて走行設定を変えないといけないから、マトモなECUユニットじゃ手動で設定しないと難しいんですが、AIユニットで演算能力に優れているAIアイだからこそ出来ますが…」

「だけど、ハンドル操作を誤ればバランスを崩してしまうリスクもあるから、かなりの集中力を要求されるよねお兄ちゃん」


先程まで横になって寝ていた結衣が会話に挟まってくる


「結衣、起きたのか」

「うん、肌になんというかビビッてきたような感覚でね。リリス先輩、"聖域"に入ってるね」


もはやニュータイプか何かか、同じ"聖域"に入った者だから雰囲気というか、その空気で気付くのか

成海リリスは、確かに極限状態の"聖域"に入っている。結衣の言う通り、リスクが大きいオーバーロードドリフトを使いこなす為には、その聖域の力を使わざる得ない

リリス先輩が聖域を使えるようになったのは、大会の数日前。加奈をオレが付き合わされた練習はまさにそれであった。元々素質はあり、キッカケやコツを明音先輩が教えに来たこと、そして精神状態のトリガーも決まっていたから、"聖域"を自在に使える加奈と練習しまくって、ひたすら大会までに場数を踏みまくって大会前ギリギリに習得したのだ

リリス先輩が"聖域"に入る為のトリガー、アルトワークスを自らの手で破壊した罪とその責任をとる覚悟がリリス先輩のトリガーとなっていた

マジで精神的な強さなら、オレが見てきた近い年代のドライバーの中でも一番強い。そんなものをトリガーに出来るのだから


そしてレース展開は、オーバテイクされたコペンだが、やはりドライバーは一流である。すぐに切り替えて逃げるリリス先輩が操るアルトを追うが。ジリジリと離されていく

"聖域"に入ってるリリス先輩とマシンに余力が残っているアルトに、エンジンにもタイヤにも致命的なダメージを追っているコペンにアルトを追う力は残されていないはずだが、ドライバーの技量でコペンにムチを打つように走る


〈徹也、いいかしら?〉


2周目のタイトセクションを抜けた頃に、リリス先輩が無線を送ってくる


「…後ろのコペンですか?」

〈ええ、流石に壊させるのは気が引けるわね。見立てじゃ後一周も持たないんじゃないかしら?〉

「でしょうね」

〈どこかでホークイリュージョンで、トドメをさせないかしら?〉

「…逃げ切れば、確実に勝てるのにですか?」

〈そうね、確かにこのレースは勝った。これは油断でも傲慢でもなく、ここまで策を使い切って追い詰めた確信。そして、このままだとこのレースは彼らのコペンの自滅という形で幕が閉じる、彼らの高校生活の大舞台の最期のレースはそういう形で終わり、きっとそれは、一生引きずるかも知れない〉

「…かも知れませんね、オレなら後悔しきれない終わり方ですね」


当初の勝ち方として、それを狙ってはいた。コペンの自滅という形までレース展開を組み立てていたのだから


〈いっそうのことテクニックで引導を渡した方が、彼らにとってダメージが少ない形での負けにさせることが出来る。徹也、どうかしら?〉


甘い…そう言葉をかけるのは簡単である。同情をかける必要性はない、これは勝負のなのだから、勝ちたいのであれば鬼になって、冷徹かつ冷酷であれ

だが、ドライバーがそういう勝ち方を望むであれば叶えるのも司令塔として、オレの役割でもある


「リリス先輩、最終コーナー、オーバーロードドリフトを併用してホークイリュージョンで相手のミスを誘導させます。タイミングはこちらで指示します」

〈ありがとう徹也〉



マシンを壊して、後悔する負け方をさせるか、実力でねじ伏せるか…前日の作戦を聞いてからずっと考えていた

マシンを壊す後悔は身に染みてわかるからこそ、他の誰かにそんな想いをさせたくないという心情と温情。脳裏に昨夜の結衣と奈緒の表情を思い出す。あの場は加奈、徹也に説得され、二人も覚悟は決めてはいた…が、やはりマシンを大事にしたい二人の気持ちも理解は出来る

それに、今の私ならホークイリュージョンを成功させる確信があった。なら、互いにより良い結末、マシな結末でこの勝負を終わらせたかった


ハイスピードセクション、やや相手の距離を詰めらせるようにペースを変えながら、ストレートから迫る最終コーナー。行けるタイミングを待ちながら、ギアをオーバートップに入れてアクセルを踏み続ける

後ろのコペンも追撃してくる、焦りも感じさせるような雰囲気はミラー越し、後ろの気配から感じる

そしてその時が来た


〈1…2…3!!今だ!〉


徹也のタイミングでオーバーロードドリフトで横にしながら、コーナーに突入する。そして相手のコペンもこちらのオーバースピードのコーナーの進入に釣られてしまい、2台とも激しいスキール音を響かせながら最終コーナーが駆ける

壁際ギリギリで、踏ん張ってコーナーをクリア出来た。そしてオーバースピードでコーナーに突っ込まされたコペンはアンダーステアで到底曲がり切れないと判断したか、その場でサイドターンで壁にクラッシュするのを避けたが、完全に回ってしまい、止まってしまう。この時完全に勝負がついた

ホームストレートのチェックポイントを通過し、5秒後にコペンは通過しなかったことで、チェッカーは振られた


3セットまでもつれ込んで、無名と優勝候補の対決の行方は、誰もが勝つと思わなかった蒼鷹自動車部のノックダウン勝ちという大番狂わせであった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ