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走劇のオッドアイ  作者: かさ
幕間の話
112/121

幕間.誰も安道真里は救わない3

私立ヴェルサイ学園は蒼鷹町から、車やバイクで約40分越えた場所に位置する蕾町と呼ばれる地域

蒼鷹町に住んでるものは、用事がない限りあまり来ることがないし、結衣達の年代の学生なら尚更であり、蒼鷹町の中学校から蕾町かつ、所謂上流家庭でなければヴェルサイ学園に入学する者はそうそういない

蒼鷹町で一部の人間には悪名で知れる安道真里には、彼女を知らない者がいない丁度良い環境ではあった

もっとも、中学時代に蒼鷹町から蕾町の学校に転校したのはそういう事情ではないが…


蕾町図書館

静かに本を読んでいる者、本を探している者、勉強か何かしらの調べものをしている学生等、老若男女様々な人がそれぞれここで静かな時を過ごしている

この場において高貴な美女が、図書館の奥の席に一人座って本を読んでいた

窓に映る夕焼け背景が、より彼女を引き立て…いや、彼女が夕焼けを引き立てているという方が正しいのかもしれない


「本当に居たわ…」

「行衛先輩が嫌がらせに嘘を言うと思ったか?まあ、正直オレもその可能性が否めなかったが」

「アンタねぇ…」


加奈に呆れてしまう。オレは確信があって行動をしていても、傍から見れば行き当たりバッタリな行動をしているように思われても仕方ない

オレと加奈は安道真里が本を読んでる席に近づくと、彼女もこちらの存在に気付いて本を閉じ、大きくため息をついていた


「…やれやれ、ホントにここに来るとはね。行衛のメッセージ通りだった訳ね」


どうやら行衛先輩と連絡は取り合っているようであった


「そのメッセージを知った上で、ここから離れていない所を見れば、こちらと話し合う気はあるようで助かる。初めまして安道真里さん。オレは山岡徹也、こっちが小柳加奈」

「知っているわよ、特にアンタに関しては行衛から嫌になる程聞いていたからね。聞いていた通り、頭の回転と察しがいいみたいね…ホント、その忌々しい眼がなければねぇ、いい男に見えるんだけどね」


彼女にとっては、このオッドアイの瞳はやはり気に入らないようだ。そりゃそうだが


「あーら?この瞳があるか、こいつはいい男なのよ安道真里」

「…もしかして、アンタら恋仲?そりゃいい事を言ったわ」


そんな所で対抗意識を出すなよ加奈


「…アンタみたいな女と口喧嘩するにはここじゃ迷惑だろうし…」


利用人数は少ないとは言え、ここは図書館である。話し合いには向かない場所だ

話し合いで誰も迷惑がかからず、そしてあまり聞かれたくない話をする場所に移動することになったが


「いや、これはおかしい…いやいやおかしい」

「この手を話をするには、うってつけの場所だと思うが?」


安道真里という女がツッコんでしまう程、シリアスな場面、これからシリアスな会話をするにはあまりにも、エキセントリックな場所


「カラオケって、仲のいい友人と行くものじゃないかしら?」


そう、カラオケ店である。オレと隣に加奈、そして対面するように安道真里


「いや、内密な話し合いという席というならうってつけの場所っちゃ場所なのよねぇ…利用目的も会議って言ってるし、何なら飲み物も出て来るからねぇ」


裏社会に通じる加奈にとっては、オレの選択肢は間違ってはいないような反応であった


「…さて、アンタ達は一体何の用で私に会いに来たのかしら?」


安道真里は、脚を組んでこちらに問いかけてくる。会話慣れしているというか、女の武器の使い方をよくわかっている。魅力的な脚と見えそうなスカート丈…この程度でこちらはぶれないがな


「別に、オレは貴女の才能が惜しいと思って説得しに来ただけですよ。安道真里、貴方はレースを続けるべき人だ」

「…意外ね、てっきり結衣とか奈緒と和解しろとかそういうことだと思っていたけど…」

「なんだ、そういうのを期待していたのか?」


安道真里の表情が険しくなる。彼女の失言だと思ったのか


「悪いがそんなハッピーな結末をオレに期待しないでくれ。和解した所で、貴方と結衣と奈緒は上手くいく関係を築けないのは火を見るよりも明らかだ。オレは、オレの自己満足とエゴの為に貴女を口説きに来ただけだ。レース活動を続けて欲しい、車好きであって欲しいという願いの為にだ」

「…意味がわからないし、理解できないわね。一体何のために?」

「言っただろ?オレのエゴだよ安道真里。オレは目の前で車好きの人間が車を嫌いになること、車から離れることを見過ごせない性癖なんだよ。知ってしまった以上、放っておけなくってな」


安道真里は呆れて唖然としてしまう、オレの行動理由。そりゃ理解される訳もない


「…ご生憎、私はもうレースもstGTでハンドルを握る理由がない」

「それ程の才能があって、今のヴェルサイ学園の自動車部の環境を作り上げたのにか?勿体ないと思うが?」

「高く評価してくれるのはいいけど、私がそもそもstGTで、蒼鷹自動車部の鷹見結衣を打倒してズタズタにするのが目的だった。それが打ち破れた以上やる意味もないし…まあ、巻き込んだ行衛とか部活の皆には少しは申し訳ないとは思っているけど」


安道真里は、この期に及んで本音を言わない、理由の半分しか言わない。だからここで言ってやる


「それは…結衣が奈緒の友人と相応しいかどうかを見定めたかったのが目的だったんじゃないのか?勝っても負けてもそれはあなたの目的が果される」


あちらの表情は強張った。こっちの推測はどうやらアタリのようだ


「彼女達の同じフィールド、stGTの舞台で結衣と戦うことが目的だった。何故なら奈緒が大事だから、袂を立った今でもその思いは変わっていない。独占欲が強すぎるかもしれんが…」


そこまで言った瞬間、安道真里は水の入ったコップを手に取り…たぶんオレにかけようとしたのだろう

が、手に取ったコップは瞬く間に弾き飛ばされ、床に落ちて零れる

加奈である、あまりにも早業過ぎてこっちも認識するまで少し間が開いてしまう

加奈は安道真里がコップに手を取った時点で懐からステンレス製のボールペンをコップにめがけて投擲したのだ、ダーツのように見事なジャイロ回転をかけて


「つぅぅぅ!!」


おそらく弾かれた際衝撃はなかなかのダメージだったか、安道真里は手を抑えなえながら少し悶えていた


「…あー、ごめんなさいね安道さん。反射的にやっちゃったや」


流石、アルカディア機関の工作員かつ特務機動隊員。一応オレの護衛という役目として、脅威から守るという反射的な行動を取ってしまったのだろう


「これは、完全にコイツ(徹也)が悪い。いくらなんでも無神経にズカズカ人の心に踏むのはどうなのよ」

「悪かったな」


実際、ここまでは予想された動きだった。加奈の反射的な行動を除けば


「だけど、ふーん…なるほどね。徹也が言ったことは図星だった訳か」

「察して欲しくないことぐらい、私にだってあるからね…アンタの彼氏、どうやら無神経に地雷を踏みぬくタイプなんじゃないかしら?」

「なるほどねぇ、今まで聞いてきた話であまりいい印象がなかったけど…ただ単に、こじれたツンデレな女の子じゃない」


わかりやすく大雑把な解釈ではあるが、おおよそその通りである


「徹也がどうしてアンタを気にかかけているのかなんとなくわかった気がする。私もこういうタイプの人嫌いじゃない」

「加奈、そこまでにしてくれ。話が進まない」


たぶん、これ以上続ければコップ以外のモノを投げつけかねない様子だった


「…悪かったわね、話を戻して頂戴。そこまで私の心情を察しているということは、私の身辺を調べたってことね…いいわ、こっちも腹を括って聞きましょう」

「切り替えて貰うのはありがたい」


これだと、安道真里の本性本音を暴くだけになってしまう


「貴方がこんな行動を取ったのには、ある出来事がキッカケがあったんじゃないかってオレは踏んでいる。独占欲が強すぎる人間は、諦めるたり切り捨てることが難しい…stGTの件は奈緒を諦めようと決意したかった側面もあったんじゃないかなって…それが誰より箱崎奈緒という唯一無二の親友として愛していた貴方なりの決別だったんじゃなかな?」

「…見事な推測すぎて、反論する気も起きないわね…アンタ、エスパーか何か?」

「仕入れた確かな膨大な情報をまとめて、対面してる相手の表情を観ればはな…オレに人の観かたを教えてくれた母のおかげでな」

「…母ねぇ…」


ある意味、わざとこのワードを出した。この後の会話のキッカケ、入り口の為のワード


「一人の母親である貴方も、何か思う所があるかな?子供は、2歳ぐらいになるかな?」

「え!!?」


加奈は驚く、そりゃそうだ


「ちょ!?ちょっと徹也!?そんな情報、華さんのレポートにはなかったじゃない!?」


そう、母さんはあえてレポートに記載しなかった情報だ


「そりゃ母さんは加奈が見ることを想定していただろうし、わざわざ記載する必要がないってぐらい、オレと母さんは真っ先に勘づいていたよ。安道真里には子供がいる。おそらく中学の頃の転校の理由は出産時期だったからじゃないかな?」


安道真里は蕾町の中学校に転校後、短いながらも休学期間があったのだ

おそらく出産の為の入院だと、母さんと意見が一致していた


「…少なくとも、私の親達はその事実をあらゆる手段で揉み消した筈…どうやって?」

「推測だよ、その様子なら正解だったか。あれだけの情報と、貴方の父親の噂を知っていればな…まあ、危険すぎて確信的な調査はしなかったが、これも正解だったか…正直、嘘か間違って欲しかったものだがな」

「ごめん徹也、説明してくれない?ちょっと唐突過ぎるというか…」

「構わないか?安道真里?」

「…ここまで来たら言うしかないでしょうし。アンタの口からどこまで知ってるか確認はしたいわ」


あまり浮かない表情ながら、何か期待しているようであった

ここからは、結衣と奈緒と優輝すら知らなかった安道真里の家庭の本当の真実…彼女が恐らく他人にすら話さなかったこと


「安道真里の家庭そのものは狂ってる上に崩壊しているというのは、知っての通りだと思うが」

「互いに高い地位に居ながら、互いに浮気をしている上に、浮気相手や関係者に実の娘を性的な暴行をさせている話よね」

「加奈、この行動には理解し難い…いや、理解してたまるかって話なんだかな…安道真里の父親、安道(しん)。地方議員を務め地位のある人物だかな…ある新興宗教団体の幹部であるんだよ、カルト系のな」

「ごめん徹也、わかった。そういうことか…貢物にしたわけか、自分の妻も自分の娘すら…!!生まれた子供も信者の子供として教育する為か!」


この手のカルト系事件やテロ組織があるせいか、裏舞台の世界に精通する加奈の推測はおおよそ当たっている


「安道真の浮気相手も、おおよそ信者か同様の幹部なのか…」


ここまでオレたちの推測を聞いていた安道真里は口を開く


「…驚いた、本当に驚いた。本当にアンタなんなの…それだけの情報と憶測で私が隠してきた事実を暴くなんて…その通り、私のパパはカルト系の幹部で私を妊娠させた男はその教祖様だとか」


親らしくしてないのに、それでも父の敬称を呼ぶあたり問題の根は深いか


「執着心が強い貴方が、今のヴェルサイ学園のチームを離れているのはこれ以上自分の大切な物を奪われたくなかった…どの道、中学時代で奈緒とも決別するつもりだったんじゃないかな。環境が環境なだけにな」

「うん…だけど、結衣のせい…いや、自分のしでかした最悪な形で分かれることになったから自分なりに確認と決着をつけたかった」


なんやかんや、やっぱり結衣は嫌いなんだなってことはわかる


「これ以上大切なものがあっても引き離されるか、弱みされる…なら一層自分から切り離なしたほうが苦しくない」

「…なにかあるのか?」


切り離される…つまり何かしらの事情があると考えて聞いたが


「私、どうやら教祖とやらの婚約者らしいのよ。まあ、確かにそいつの子供を産んだからね、必然か流か…」

「それは、貴方が望むことか?」

「…パパに関して言えば、もうどうにもならないと思うけどママは…私には拒む選択肢はないの、かの家族で生まれた以上、今は自由にする代わりに将来を約束されている…これはどうにもならない、一人の女子高生では成す術がない、どうにもならないのよ」

「…だからオレ達にこの話をしてくれたのかい?」

「…アンタって不思議な奴ね。結衣に似ているって印象があるけど、どうしてこんなに気兼ねくなく話せるのかしらね」

「オレの得意な分野は、交渉術と推測だからな。長所を十分に発揮できる」


まだだ、彼女の口から出ない。自分がどうして欲しいのか、どうありたいのか


「貴方にとって、今の状況は望まないことかい?」

「望む望まないにせよ、選択肢がない…」

「違う、オレが聞きたい…いや、貴方の口から出してほしい言葉それじゃない。ホントの願い、望み…本当の安道真里が望む未来は、一体なんだ?誰かに決められた枠組みじゃない、望む未来は?」


攻めた質問に、安道真里は返答に悩む…このカルト系の新興宗教団体はどうにも手強い存在であるのは、彼女が一番理解しているからこそ、その呪縛から逃れらる未来図は想像が付かないのだろう


「言っておくが、今の環境のままじゃ貴方は幸せになれない。必ず不幸になるとオレは確信して言える…やっていることがここまで非人道な組織なんざ関わってもロクなことはない」

「言われなくてもわかってるわよ!!」


ここで、やっと感情的な返答が帰ってきた


「わかっているわよ!!だけど、どうにもならないじゃない!!ママも私の子供も助けたい!!だけど現実はそうはいかない…どうにもならないから諦めるしかないじゃない…」

「…それが貴方の本当の望みか」

「どのみち、私達子供じゃどうにもならない相手なのよ…司法も警察も味方に出来ない」


この新興宗教団体、どうにもかなり曲者というか、政治家すら幹部にしている程だからかなり強大な組織であることは伺える

なら、もっと強大かつ超法的活動すら行う組織に心当たりがある


「…ということだがな加奈、どう見る?」


黙って聞いていた加奈は、色々考えていたようだが


「徹也、悪いけど自動車絡みの事件性じゃないから私達が動く理由がない」

「だろうけど、お前の父親ならこの話を快く受けてくれるんじゃないかな?あの子煩悩な人ならカルト教団ぐらい敵じゃないだろ?」

「…最初から、それが狙いだったわけね徹也…全くアンタって人は…だけど、この女がどう選択するか次第ね」

「どういうことなの?話が見えてこないんだけど…」


加奈やオレの素性はあまり人様にむやみやたらに話せるものじゃないが、そのあたりをはぐらかしながら納得してもらうしかないか


「安道真里、オレ達は貴方が望む将来に手を貸すことは出来る。騙されたと思って話を乗ってみないか?」

「どうしてアンタは私なんかに助けるのかしら、その辺が一番理解し難いというか…ここまでの私の素性を調べるのも、こうやって話に来るのも面倒で何一つメリットがあると思えない。何か見返りでも求めているのかしら?私に?」

「無論、ただで手を貸す気はない。見返りは要求させてもらう」

「見返り…金か、それとも私の心か体かしら?」

「確かにそれは魅力的な提案だな、特に体に関しては」


安道真里のスタイルは良く、容姿は美人であるのには間違いない。ちょっと隣の視線が怖いが


「最初に言ったが、オレはアンタにレース活動を続けて欲しいと説得しに来ただけだ。車を好きなままであって欲しい。オレが望むのはそういうことだよ」

「…本当に理解できない」

「かもな、だけど車好きの同志が減るのは見ていて気持ち良くない。オレは強欲なんだよ。他者の好き嫌いに干渉したがる」

「…なんというか、アンタと私って似ているのね。強欲な点で言ってしまえば」


強欲だからこそ、似ているからこそ放っておけなかったかもしれないし、感情移入している所もある


「本当に、私を助けてくれるの?アンタ達は」

「手を貸すが、オレ達が貴方を救う訳じゃない。貴方が望むか次第だ」





その後の話になるが、例の新興宗教団体は壊滅させられたようだ。安道真里がどう選択したかたはわからないし、連絡を取り合っている訳でもないが、風の噂でstGTの別カテゴリーで名をはしているという話は聞くことはあるが

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