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走劇のオッドアイ  作者: かさ
幕間の話
111/121

幕間.誰も安道真里は救わない2

安道真里の家庭は狂っており、家族としてもはや崩壊していると言っても過言ではない

父親は地方議員、母親は医師という高給取り職種に務めており、表向きは仲良き夫婦かつ、人望の厚い人達…らしいが、裏向きはえげつないものである

まず、この安道夫婦は互いに浮気をしていること、しかも互いにわかった上であろうこともわかっている

この夫婦は既に互いに愛も情もなく、それは娘である真理も同様である

真理も当然、自分の親がお互いに浮気していた事実を知るが…それだけならあそこまで酷い人間になっていない

あろうことか、安道夫婦は…真理の体を売ったのだ、調査する限り真理が11歳になるかぐらいの時らしい、真里は不特定多数の人間に性的暴行を受け、それは中学卒業まで続いたらしい

父親は議員の何かしら交渉か何かで、そういう趣味の人間に

母親は浮気相手の親戚から、そういう趣味の人間に

安道真里の心と体は、あろうことか自分の肉親に間接的な手で汚されていたのだ

普通なら、こんな仕打ちされた人間は心が死ぬ可能性があるが、安道真里は学校生活でその精神のバランスを取っていた

箱崎奈緒という存在と、他者を傷つけることで、安道真里は精神のバランスを辛うじて保っていた

幼馴染であり、自分を裏切らない友達の存在…真理は奈緒を縛り付けることで平穏を保ち、家庭内の鬱憤を誰かを虐めることで晴らしていたと考えられる

誰にも言うことも、誰にも言えずに…安道真里はどういう心中だったのか、流石に直接話し合ってみないとわからない

もっとも、この話は根が深い問題があるのだが…それに関しては今は語るべき話ではない。何故ならあえて母さんが報告書に記載しなかった事実


学校終わり、本来なら部活動の時間だが、今日はそれを休み、蒼鷹町から離れた町にある私立ヴェルサイ学園へ加奈と一緒にバイクで向かう


「…ここがヴェルサイ学園…なんというか、全然うちの学校と違うというか」

「まあ、わかりやすいぐらい金持ち校だな」


広い敷地に、校舎も非常に綺麗かつシンプルながらも高級感あるような外見

校舎以外にも様々な施設があることが、校門に提示している地図でわかる


「んで、ここまで来てどーするのよ?安道真里と待ち合わせでもしているのかしら?」

「待ち合わせは間違っていないが、安道真里ではないな」


校門から、校舎玄関の所でこちらに手を振る中年男性が立っていた。この男性は加奈も覚えがあるようだ


「あれって…たしかヴェルサイの監督じゃない?」

「そうだ、事前に連絡を取ったんだよ。どうにもあの監督さんとオレには繋がりがあったからな、明堂学園の前監督、銀堂監督の繋がりでな」

「あー…なるほど。でもどうしてまた?」

「あの報告書は、安道真里の環境と過去は書いてあったが…このヴェルサイ学園ではどういう風に過ごしたまでは探れていなかったからな。まずはあの人から、ヴェルサイ学園の安道真里を聞いてみようってことだ。情報は多いほうが、話し合いには重要だし、案外違う視点が見えるかもしれないからな」

「アンタの得意分野ね…なるほど、わかった」


その後、ヴェルサイ学園の会議室で監督さんから安道真里についていろいろ教えてもらった。それは意外な内容であった、特に結衣や奈緒から安道真里という人間を聞いた加奈にとっては

30分の質疑応答した後に、ヴェルサイ学園に出る


「…信じられないって感じだな加奈?」

「うんまあ…結衣や奈緒、優輝から聞いた話とは全然印象が違い過ぎるというか、まるで別人の話を聞かされているというか」


監督から聞いた安道真里は、中学生時代とは全く違う振る舞いであったようで、残虐性は影を潜め…言ってしまえばこのヴェルサイ学園の自動車部の人望を持ったカリスマ的な存在であった

元々このヴェルサイ学園の自動車部は、大して強くないのだが安道真里が来てから僅か1年半でかなり立て直したのだ

stGTが運営する、1on1以外のレース活動で好成績を残し、どういう経緯かヴェルサイ学園に行衛康彰を編入させて引き入れた手腕、そして多方面からスポンサーを交渉も彼女の貢献だそうだ

部員や学校も、安道真里という人間を敬意を持っているようであった。このヴェルサイ学園は蒼鷹町の人間はいないのも、関係していたのだが…結衣達から聞いた話、調査報告で見た文面から想像する安道真里の中学生時代とは、全くと言っていい程の真逆の人間であった


「彼女の視点になって考えればなんとなくはわかる事情だったが」

「アンタ、まさかこうなっていたのを知っていた…いや、推測していた?」

「まあな…」


加奈が不思議がるのは仕方ないか、今まで結衣と奈緒の視点から語らる安道真里しか知らないからこそ、別の視点が狭くなっただろう


「だが、常人というか、ただの女子高生では出来るもんじゃないがな。安道真里は類い稀なる天才であり、行動力もカリスマもある。そしてドライバーとしても天性的なモノもあった。ホンの一年程のキャリアで”聖域”に至れるぐらいだ」

「万能の天才…というのは言い過ぎかも知れないけど、いるものなのね、だけど」

「そんな天才を喰い潰したのが、彼女の両親だ…そして……」


ここで、口を滑らせそうになったのを留まった


「…?どうしたのよ?」

「いや、オレの憶測の話だ。気にしないでくれ」

「そう言われれば気になるんだけど?…ま、いいけど」


ほとんど同棲に近い付き合いを数か月してきたせいか、言わんとしていることはわからないにせよ、深入りするべき所と、しない線引きは互いに理解している


「んで、肝心の安道真里の所在はわからない訳ね。一応学校に来てはいるけど、放課後は撒くように帰ってるって話で、顧問である監督さんも捕まえられないって話だけど…なにか心辺りはあるのかしら徹也?」

「いーや、そこまでは…だがな、もう一人安道真里に関して重要になる人物の居場所の心辺りはわかる」


安道真里という人間の物語に、重要な登場人物。結衣とオレにとっては因縁浅からぬ人物であり、向こうはオレの事を嫌っている人物


場所はヴェルサイ学園近くの駅前の商店街、そこに古めかしい雰囲気の喫茶店

結衣の父が経営している喫茶たかのすに似た喫茶店の隅の席に、その人物はいた。何かしら書物を読みながら、紅茶を啜っているようであった

おそらく、優雅に過ごしているであろうその人物に


「やっほー、行衛先輩」


優雅な時間をぶち壊すように、声をかける。行衛先輩は驚いたか、紅茶をむせていた


「ごほごほ!!…て、徹也!?なんでここに!?」

「オレが行衛先輩の居場所を当てるのに説明なんていります?紅茶好きなかつ、この静かな感じが好きな貴方が放課後ここで過ごしているだろうっと、行衛先輩の趣味趣向を理解していて、この付近で洒落て評判のいい喫茶店を探せば、この時間帯にどこにいるのかなんて、当てるのはさほど難しくないですよ」

「つくづく怖い奴だし、可愛げないな!!」


行衛先輩は諦めたのか、観念したのか、やれやれという感じで頭を掻く


「徹也、まさかアンタがこんな男に話を聞くなんてね」

「不満か?加奈?」

「そりゃ、一年前に結衣がコイツにやられた仕打ちを知っているでしょうが。それに、アンタもこの男に死ぬような目に遭わされているじゃない」


加奈が憤慨するのも無理もない相手だ、行衛先輩は加奈にとっては憎むべき相手であり、悪い印象しかないのだから


「やれやれ随分とご挨拶なことだ。徹也、まさかだと思うが、オレを罵倒しに来たのか?確かに、お前にオレをどうこう罵倒するなり、恨み言をいう権利はあるだろう」

「確かに、行衛先輩から受けた仕打ちについてはそれなりに恨みはありますが…あの事故は当時の明堂学園の環境と行衛先輩の周囲の大人達が原因ですからね。個人的に貴方にはさほど怒ってはいません」


行衛先輩はオレの返答に対して、特に反応することなく黙って聞いている。加奈は驚きを隠せていないのに対してだ


「むしろ、今でもレースに関わっていたことにホッとしているぐらいですよ。正直、行衛先輩が出るなら今度こそ正式戦で決着を付けたかったんですがね」

「…ちぃ、こういうことを嫌味なく言うから苦手なんだよお前は」


舌打ちをしながらも、オレの思惑を察したのか


「長くなる話なんだろ?話を聞かせるからには、ここのお代ぐらい奢れ」

「構いません、ありがとうございます行衛先輩」


行衛先輩はオレたちを同じテーブルに着くことを許可し、座る。加奈は相当嫌々だったが、小声で「堪えてくれ」と諭さなければならなかった


「さーて…お前がわざわざ蒼鷹町からこの町にオレに会いに来たとは思わないが…もしかして、真里のことか?」

「流石ですね行衛先輩。その様子なら、ある程度の事情はご存知で?」

「まあな、奴からは鷹見結衣に勝ちたい…いや、報復したいという話はな。わざわざオレをヴェルサイ学園に転入させてまで引き入れて、ネコを被って…いや、どっちがあの女の本性かはわからんが」

「そこまでやるぐらいに執念深いか、執着が強い傾向があるのはわかっていたが。わざわざ自分の走りのスタイルに合わないを選んでまでか」

「そこまで知っていたか…お前なら、わかるか」


安道真里の走りのスタイルは行衛先輩の走行技術を織り込んだジャマータイプの傾向だが、本来の走りのスタイルを追求するなら、安道真里は結衣と同類のディフェンスタイプのドライバーであるのは、何度か試合を見返して気付いたのだ


「あの女も、走りのスタイルを作っていく中で、鷹見結衣と同類の走りになるのはどこかで気付いたんだろう。それでまるっきりスタイルが違うオレの走りをモノにしたかったんだろうな」

「行衛先輩を引き入れたのは、経験豊富なドライバーでありスタイルも異なる…そして、結衣に対しての恐怖として刻まれた存在であると考えたわけだ安道真里は。まあ、レース中の不運な事故で、行衛先輩が図らずともそういう存在になってしまって…」

「ちょっと待って徹也」


オレの発言に待ったをかける加奈。何に対しては予想はつく


「徹也、この男は故意でぶつけてきたのよ?判定も、客観的に見てもそう判断せざるを得ないから、事故ではない。それに…その男はそれを認めている」


加奈はなるべく感情を抑えたが、それでも行衛先輩を許せないという感情は伝わってくるが…オレはやめない


「錯乱した状態で起こしたアクシデントは、故意か事故は判別が難しいしい…当人が認めないならさっきの事故の発言は撤回するが…」

「…錯乱?どういうこと?」

「ちぃ…」


加奈は半信半疑だが、行衛先輩の舌打ちでオレの推測は完全に確信に変わった


「まあ、行衛先輩を弁護する気ではないが…行衛先輩が置かれた環境と事情を知れば、あのレース中に何があったかはなんとなく…たぶん、あの時の結衣をオレと重ねた」

「結衣を…徹也に?」

「同様のオッドアイの瞳を持つ者に、再びレースで負けて居場所を奪われる…そんな状態だったんじゃないんですか?敗北に追い込まれた時に何も考えられなかった…行衛先輩、その時の記憶ほどんど覚えていないじゃないですかね?」


オレの推測を黙って聞いていた行衛先輩は、静かに頷き、口を開く


「…大方、お前の言う通り、気付いたらレース中に2台ともクラッシュして、オレは反則負けしていたという事実だ」

「冷静な判断を失ったという点では、オレも擁護する気はありませんがね」

「…どうして、そのことを言わずに?」


加奈の疑問に対して、行衛先輩は答えようとしないからオレが代弁する


「加奈、それはドライバーとしての責務、責任としてだ。さっきも言ったとおりに冷静な判断を失った行衛先輩に非があるからな。それに、情けない話だし、言ってもこういう背景を一々説明するのも面倒だったからだろうし…」

「よーし徹也、今ここで黙るか、力づくで黙らせたいか…選べ」


ホント、行衛先輩はツンデレである。恥ずかしいか…それともその時の自分を否定したくないほうか

力づくで黙らせるのはマズイので、流石に話を止めた。万が一、オレに手を出した行衛先輩が加奈に何されるか想像がついてしまう


「…話を戻すぞお前ら。そういう結衣に対する恐怖の象徴として、そして安道真里のドラテクの教授にヴェルサイ学園の戦力向上を目的であの女はオレをヴェルサイ学園に編入させた。オレは明堂の事件の時に父親からほぼ勘当当然の扱いされるようになったし、この地区でstGTのチームに入れる所がなかったオレにとっては、断る理由がなかったからな」

「まあ、そこは大体想像が付きますが…オレが聞きたいのは、最も安道真里長く接した行衛先輩から見て、どういう人間に見えましたか?」

「執着が強くて目的の為なら手段を選ばない女だが…うーむ、なんて言えばいいか」


表現する言葉が浮かばないのか、行衛先輩は腕を組んで考え込んで


「何かしらケリを付けたかったというのかな?アイツは鷹見結衣に復讐と報復が目的ということは言っていたが…多分、勝っても負けても良かったんだと思ってたんじゃないかなって」

「復讐という動機であるなら、わざわざ競技の舞台で復讐なんて方法は取らない」


直接的な暴力はともかく、法的に反することなく精神的に苦しめるという手段も、安道真里という女であれば可能な方法だ


「…だな、どういう心境か分からないがな」


それに関しては説明…というより、憶測は出来る


「あとな…妙に色っぽい、というかなんかエロい。あの性格じゃなければ手を出してたぐらいにいい女だと思うな」

「ヴェルサイ学園の男子は、高嶺の花のようで手が出せないようなことは言っていましたがね…なるほど、行衛先輩と安道真里は、オレから見ればお似合いだと思いますけどね?」

「冗談よせ」


案外、満更ではないようである


「オレから見た安道真里は、そういう人間だ。どうだ?何か役にたったか?」

「ええ、オレの憶測の大半が確信になりました。ありがとうございます」

「そうか…んで、お前達は安道真里をどうするつもりか?奴を救うのか?」


行衛先輩の問いは、ごもっともであり、加奈もその目的で来たと思っている


「いや?オレは安道真里に会って話をつもりですが…オレは安道真里を救わない、それは行衛先輩も同じ意見だから放っておいているんじゃ?」

「…あの女は救いたければ、ヤツ自身が立ち上がらなければならないという考えは間違ってはいなかったか」

「オレは、後押しするだけですよ。このままあの才能を腐らせるのはレース界隈において損失ですよ」

「やれやれ、お前の動機はやっぱりそれかよ…あの女に会いたければ、図書館に行ってみろよ。多分いると思うぜ」


行衛先輩は話が終わったと、オレたちをテーブルに退席するように、というか犬を追い払うかのような手振りをする


「ああ、そうだ。行衛先輩は紅茶に目がなかったですよね?丁度美味しい紅茶を提供する店が蒼鷹町にあるんですよ」

「…ほぉ?」


食いついてきた


「"たかのす"って喫茶店なんですがね、金色と蒼色のオッドアイの可愛い女の子がいるんですよ」

「さっさと消え失せろ」





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