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走劇のオッドアイ  作者: かさ
幕間の話
110/121

幕間.誰も安道真里は救わない

地区大会、中間テスト期間が終わりひと段落着いた頃に、住んでいるアパートに一通の書類一式が届いていた

分厚く、20枚以上あるか

学校と部活が終わり、テーブルに腰をかけて書類が見ていく


「やっほー徹也」


チャイムすら鳴らさず、もはや自分の部屋の如く加奈はオレの部屋に入る。ある意味堂々とし過ぎというか、図々しいというか


「…またシャンプーでも変えたか?」


風呂上りか、シャワー上がりの加奈の匂い方が違っていたので気付いた


「まあね、上村先生にオススメのね…珍しいわね、帰ってから着替えずにいるなんて、なんなのその書類は?」

「ああ、母さんから調査してもらったものだ。気になっていたことをな」

「へぇ、相変わらず息子であるアンタには甘いのね」

「いーや、流石に探偵が本職である以上、報酬無しでは頼むのは心苦しいよ」


まあ、息子に甘いというのは認めざる得ない事実なのだが


「だから、母さんに脅しをかけて働いてもらった」

「さっきの心苦しい発言はなんだったの?何を脅迫材料にした訳よ?言っちゃなんだけど、あの人相手にその手の脅しと脅迫の交渉が通用するとは思えないんだけど?」

「そりゃ、オレに黙って小柳さんとグルになって『鷹の再臨計画』を手を貸したことだな」


鷹の再臨計画、蒼鷹商店街の会長、そしてアルカディア機関の元会長である上柳鷹主の発案であり、SSR計画、オレや結衣の存在意義と存在価値を確かめる為の計画

オレの過去や出生を知りたいが為に、母さんもこの計画に手を貸した訳だが…


「『自分の息子を騙すとは、許さない』と『今年の夏休み実家に戻らない』って言ったら二つ返事…というか、かなり焦って返事してたか」

「あの人にとって、それが一番の脅迫になるとは…」


母さん、山岡華は息子である自分で言うのもアレだが、相当オレを溺愛している。というか男として見ているから、有能ではあるが色々残念な美人でもある

ただでさえ、オレが一人暮らしで色々堪えているらしいのに、夏休みに実家に戻らないとなるとあの人にとっては死活問題である


「んで、何を調べたのよ?わざわざ探偵を使って」

「安道真里の身辺調査…特に彼女の安道家に関する調査だ」


安道真里、その名前を聞いた瞬間に加奈の眼つきが変わった


「気になるか?」

「そりゃね、結衣と奈緒に因縁がある相手だからね」

「…加奈なら大丈夫か、かなりショッキングな内容だからな…想定以上に酷いもんだ」


加奈は渡した調査書類を読んでいき…数枚程読んだ時点でおおよその内容がわかったのか、書類の一部ぐしゃりと握してしまうほど力を入れていた


「…これ、ホントの話なの?本当なら、安道真理の家族は家族として」

「狂っているしか言いようがない。歪んだ人間というのは、環境で歪む。よくこの環境で精神が壊れずにいたものだ」

「私、結衣や奈緒…優輝にもこんな話を聞いたことないんだけど」

「知らなかっただろうな、優輝ですら気付かない…いや、想定と想像を超える悪意には気付けないか。付き合いの長いであろう、奈緒と優輝にも確認したんだけどな、真里の家族については、彼女は頑なに話さなかったそうだ」

「それもそうか…こんな壮絶な内容じゃ…血の繋がった家族がこんなことをするなんて」


耐性があると思っていたが、流石の加奈にとっても堪えるものだったようだ


「こんなのは家族とは呼ばないよ、少なくとも子供にこんな仕打ちするような奴らはな、親と名乗るの資格もない…まあ、程度はともかく、こういうロクでもない親はよくいるもんだがな」

「なんというか、私の知り合った大人というか、父親と母親って相当いい人だったのね」


箱崎夫婦や、結衣の父親やうちの母親…そして、小柳さん。加奈が接してきた親達は、いい人過ぎる人ばっかりである


「んで、どうするの?」

「うんまあ、安道真里の家庭をぶっ壊すことはそう難しくないし、一番手っ取り早い方法かもしれんがな…」

「さらっと言っているけど、そんな物騒なこと…アンタなら出来そうね」


加奈は、よくオレの事をお分かりになっているようだ


「どうにもならないと判断すればやるが、たぶんそれだと安道真里という人間は変わらない、彼女自身の手で、あの家庭と決別するという意思がなければならない」

「安道真里を救う為に行動するって訳?」

「いいや、オレは安道真里は救わない。オレは後押しするだけだ…加奈、協力してもらえないか?」


今回の件、どうしても加奈という女性が必要になる


「…一つ聞いていいかしら?この返答次第で、私は手を貸すかどうか判断する。どうして安道真里の為にここまでするのかしら?結衣と奈緒の為?」


ごもっともな質問、疑問だろう。正直ここまで苦労した所でオレには何一つメリットはないし、結衣と奈緒の将来にしても大して影響のない話である

何故ここまでやるのか、理由は一つ


「安道真里が車好きだから、それだけだ」


意外な答えだっただろう、加奈は目を丸くしてしまう


「え?え??いやいや徹也、それはないじゃない?あんな悪辣な走りをしてるというか、執念と憎悪で"聖域"に至った奴が?」


同じく"聖域"に入ることが出来る加奈にとっては、真里の走りのモチベーションを理解している


「極限の集中状態である"聖域"は、高い素質があり、闘争心と何かしらの高いモチベーションの感情のトリガーが必要になる。加奈の場合は結衣に対する対抗意識、結衣は沢山の人達の期待…そして、安道真里は結衣に対する憎悪によるもの…だがな、そもそもその領域に入れたところで、元々技量が備わっていないと話にならないだろ?」


ここまで聞いた、加奈も気付く


「安道真里が自動車競技を始めたは丁度一年前。たった一年でアレだけの技術を会得するとなれば、才能もあるだろうけど、並々ならぬ試行錯誤の努力も要求される。きっかけは復讐だったかもしれないが、それだけじゃ自動車競技なんて務まらない」

「自動車競技、車と触れ合っているうちに車が好きになっているってこと?それはちょっと飛躍し過ぎじゃ?」

「地区大会で、"聖域"に入った結衣と戦った時に、真里は戦意喪失して負けたが…あの時、グリットラインまでスローペースでアルトワークスRを走らせていた時、車をいたわる走り方をしていたんだよ」


このことに気付いたのは、オレと阿部と上村先生である


「オレは確信したよ、安道真里という人間の根本は、善い人であると」

「そんなんでわかるものなの?」

「車の運転は性格がもろに出るからな、特に普通に動かしているときとか特にな」


ちなみに、1on1におけるドライブスタイルも性格も反映されることもあるが、練習の過程で色々試行錯誤や環境によって形成されていくのだ


「…気づかなかった」

「あの時は、"聖域"に入った結衣の走りで圧巻していたからな、仕方のないことだがな…加奈、オレはなあの才能があり、車好きである人間を放っておくことは出来ないんだよ」


これは、海王渉も時もそうであった。彼も一時期自動車競技の世界から心を離れかけていた時期があったからだ


「誰かを、何かを好きになるというのは素晴らしいものであり。色彩溢れる人生を送る為には、一つでも多く、好きな人や事があっていい…私に告白した時に言った言葉よね」

「覚えていやがったか」

「そりゃ、あんな熱烈な告白、忘れないわよ」


話を戻す


「今の安道真里の状況は、学校には通っているものの、大会以降部活をサボっているということだ」

「復讐という目的がなくなった…というより、復讐が出来ないことを悟ったのかしらね?」

「どちらにせよ、このまま腐らせるのはオレの信条が許さない。車好きが車嫌いになるのは、悲しいことだからな」

「それで、私に何を協力して欲しいのかしら?」

「どの道、安道真里とは対面で話すことになると思う。その場に立ち会って欲しい。知らぬ男子と対面で話すから」

「その場に最低でも女子一人が必要な訳か」

「そういうことだ」


女子の付き添いであるのなら、別メンツでもいいのだが、少なくとも安道真里の家庭の事情をむやみに広めるわけにはいかないのと、万が一の時に、護衛として役割を務まるのは加奈ぐらいである


「この話って、結衣や奈緒には?」

「話さないでくれ、あの二人にはショッキング過ぎるし、下手したら暴走しかねん」


それに、もしかしたら、安道真里は、結衣と奈緒と関わることは暫くなくなるのではないかと思う

将来、どう転ぶかはわからないが、安道真里次第になるか




「んでね、さっきから凄く気になっていることがあるんだけ徹也?」

「ああ、何に対してツッコミたいかはおおよそ予想が付くが…どうした?」

「そこのAI二人は何やっているのよ?」


AI…というより、AIロイド二人がパソコンのモニターを凝視して、何かのアニメを視聴していた

一人?一体?はフリフリな服装を着た少女の姿をしたAIロイド、AIアイ。そしてもう一人?もう一体?は美少年という言葉が似合うAIロイド


「すみません、加奈様。今はこのブレイブなロボシリーズを視ることが最優先ですので、そうでしょう、アルストリア」

「その通りだアイ、このブレイブなポリスは実にいい!!なるほど、こうやってモニター越しで見るのはデータで見るより、何か熱いものを感じる!!」


90年代のロボットアニメに夢中になっている、アイとアルストリア

アルストリアとは、アイが唐突に連れてきた?持ってきたAIユニットらしく、加奈曰く特務機動隊のAIユニットということらしい

あまりにも、融通が利かない性格故に、アイが人間というのを学ばせる為に蒼鷹自動車部、自分の手元に置くことにしたらしい

その為にわざわざ美少年型のAIロイド取り寄せ、オレに組み立てをやらせた

アルストリアは、当初はこの処遇にかーなーり、不服だったようだが、アイによって、たった数日でロボットアニメにハマる有り様である


「なんというか、アルストリア…随分俗性に染まったというか」

「仕方ない、ブレイブなロボシリーズはAIと人間の友情を描いたものだからな。ああなるのは仕方ないし、オレもアイに勧めた作品だからな」

「アルストリアがアンタの好みに染まりそう」

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