ACT.10 深夜の喫茶店
現在の状況
・アルトワークス(HA21S)大破、再起不能
・エンジン、ミッション類は再利用可能
・資金 運用レベルの資金のみ
・代車なし
・ECUユニットは再利用不可
・SGT予選まで18日
「いや、これ詰んでない?」
言いたくないこと奈緒が言葉に出す
「資金関連とか車の用意ならそうだよなって思うが、まじで時間がないな制作出来てもセッティングとかドライバーに慣れさて必要最低限調整でも1、2ヶ月はかかるな・・・」
「車ならうちの店のツテで用意は出来そうだが、K6A型のエンジン搭載車両だよな」
SGTの改造基準の中にはエンジンスワップは同型のエンジン搭載車両に限る。つまりスズキのK6Aエンジン搭載した車でなければならない
「K6A大概のスズキの軽自動車に搭載してるけど、HA21型以降のアルト、後期型のカプチーノ、kei、ジムニー、ワゴンR・・・その中で使えるとしたらアルトかkeiあたり?」
「ジムニー、ワゴンRだと重心が高いからな・・・カプチーノだとFR故にミッションが使い回せないし、keiよりだったらアルト系21型か22型を選びたいけど・・・」
「スズキのアルト系かぁ・・・うーん」
顔をしかめる箱崎父、車屋としての観点として察してはいるだろう
「スズキに限った話じゃないんだがな・・・K6A時代の軽自動車で車体状態が良好なのってあんまりないんだよな・・・」
「あー・・・ホントどういう状態で保管してんのか、たまにうちに入ってくる軽自動車ってサビどころか車体が腐ってるのもあるよね」
奈緒は思い出したように言う、自動車屋としてもあまりいい印象がないのだろう
「大衆の軽自動車故もあるが、どういうわけか酷い扱いと管理していても公道で走るのに差支えがなかなか出ないせいか、もう売り物にならないボロボロ状態とか出回ってくるんだよなスズキの車って・・・良くも悪くも無知でも乗れる車」
箱崎父の評価に奈緒も「うんうん」と頷いてしまってる始末
「この辺りで出回ってるもので競技車両にするようなアテはないな・・・改造した所で競技走行に耐えきれるとは思えないし」
「そもそも改造にすら耐えきれないか・・・車体に溶接を入れるなら尚更か」
競技車両にとって車体、ボディの良し悪しは速さに直結する
チューニングに耐えきれいないものは真っ直ぐ走ることはおろかコーナーリングが曲がりきれないだろう
何か手はないだろうか・・・
どうするか考えていたところ、箱崎自動車の敷地に一台の軽自動車が入ってきてガレージ近くに止まる
〈榛奈商店街 坂崎酒屋店〉とドア横に書いてあった
23型のアルト・・・ん?んん??
「これだ!!」
数時間後 喫茶店たかのす
「なるほど・・・徹也はそれでも戦うことを選んだのね」
喫茶店には上村先生、勇気も合流しチーム全員揃った状態で今回の事件の原因を話した
「リリス先輩はどうします?あなたが一番被害を受けているんだから。警察沙汰に持ち込むか、泣き寝入りするか、SGTに出て勝つか」
「証拠がない以上、教頭を責めることが出来ない、だからって警察沙汰になれば自動車部そのもの存続が危うくなる・・・勝てば丸く収まる。徹也、勝てる見込みはあるの?」
「6割ってところかな、勝てるカードは揃ってる。後はチーム次第」
実際は4割程だが、そこは人次第だ
「・・・元々選択肢なんてなかったかもね。先生はどう考えてます?」
「ここまで聞いて先生としての立場はSGTの参加を止めるのが本来の役目なんだけど、個人的には負けたくないというのが本音。あなた達が戦うことを選ぶのを期待はしてたし」
上村先生は期待通りで安堵した表情をする
「SGTの運営委員には何とか言いくるめるわ、校長とか関係者には苦言が言われそうだけど」
苦笑いしながら上村先生は言う
「他の皆んなはどう?戦いたくないとか反対はある?」
リリス先輩は全員に尋ねる、反対意見はなくみんな戦うことを選んだ
「さて、徹也。戦うにしてもどうするつもり?車が無ければどうにもならない」
杏奈先輩が尋ねてくる
「ベース車両は調達済」
「外に止めてる23型のアルトね、あれって坂崎先輩のお店の車じゃない?」
坂崎先輩は一昨年卒業した、自動車部のOBでありリリス先輩や杏奈先輩の二つ上の先輩である。大先輩にあたる
自動車部ではメカニック担当であり、卒業後は実家の商店街の酒屋を継いだ
結構自動車部を気にかけており、ちょいちょい顔を出していることを奈緒から聞いた
アルトワークスが大破したと聞いて箱崎自動車に駆け込んできたということだ
「あれ以上にあの年代の極上車体のアルトはないですよ」
そう、坂崎酒屋のアルトは一見すればそこら辺の軽自動車に変わりないが車体そのものがしっかりしているのが一目でわかった。普段の手入れがいいのだろう
坂崎先輩は最初は困惑していたが、最終的に快く協力してくれた
「いい利き眼してるよ徹也、車屋の俺も長く見てたのになぁ・・・アルトにはサビは所々あるが腐りはない。大破前のアルトワークスより車体状態はいいのは間違いない」
車屋である箱崎父のお墨付きももらった
「改造ならうちのスペースと施設を遠慮なく使っていい、勿論俺も手伝うぞ!」
「でも箱崎パパ、お金どうする?」
「確かに車と施設、工賃は自分達がやるからいいとしてチューンアップするからにはそれなりの資金が」
杏奈先輩とリリス先輩の指摘はごもっともだ
出費はかなり抑えたが、改造にはお金はどうしてもかかる
「それが、実は坂崎大先輩がこれを」
「なにその分厚い封筒?・・・え?まさか!?」
封筒の中身はざっと100万円程入っている
どうやら商店街の会長さんが事故を知り、商店街の人からカンパしてもらったらしく箱崎自動車に行くついでに坂崎大先輩がこれを持ってきた
「箱崎さんに預けるべきかなっと思ったんですが、どうです先生」
「今の自動車部のガレージ作業するんじゃ手狭だし、箱崎自動車で作業するのがいいか・・・箱崎さんお願いできますか?」
「わかったよ先生さん」
封筒を箱崎父に渡す
「お父さん、その金で飲みに行ったらレンチで頭割るからね?」
「んなことするか!奈緒・・・お父さんそんな信用ないの?」
「徹也君、車が練習で使えない以上。全員で改造作業する?」
「そこだよな・・・メカはともかくドライバーはどうするべきか」
結衣の指摘もそうだが、実際に問題は山積みである
「・・・明日にしないか?もう時刻が」
「え?」
時刻はまもなく日付を跨ごうとしていた
「そうね、教師としてこれ以上は未成年が外出してるのはね・・・それに夜更かしは肌に悪いわ」
何気に女子の比率が高い商店街チーム
「わかりました。明日明後日は土曜と日曜、朝から箱崎自動車に集合で。ただ私はまだ病院行かないといけないから遅れるわ」
リリス先輩がそう言うとこちら目線を合わせてきた
「私はこんな状態じゃ役に立たない。徹也、あなたが代りにリーダーとして動いてもらえないかしら?」
「杏奈先輩に頼むべきなんじゃ?」
怪我してる状態ではチームを率先できないか、だがそれ以上に年上の杏奈先輩を差し置いてっと考えていたが
「いや、私も徹也がリーダー代理はありだと思う。今日の行動を聞けばね」
意外な回答が返ってきた、さらには
「私も賛成、車を見る目も知識も豊富そうだしチームを引っ張ってくれそう」
「お姉ちゃんがそう言うなら僕も賛成です」
姉弟揃って賛成意見
「徹也君、なんだか上に立つのが似合ってそうな。信用できるもん」
結衣までこれであった
「待て待て昨日今日知り合った人間をそこまで信用するか?」
「・・・人の上に立つものは天才的な優秀より、その人に従いたいと思わせる力が重要だからね。徹也にはそれがある。先生もそう思うもの、知り合った時間なんて関係ない」
そういえば明堂学園にいた頃も、似たようなことをアイツに言われたな・・・
しかしあの頃と同じポジションになるとは・・・
「わかりましたリリス先輩、リーダーの代役引き受けます」




