ACT.100 ヴィシュヌ事件後日談 堕天使のプログラム
市民会館地下
事件後、ヴァルキリや、施設の撤収作業している特務機動隊員達の傍
隅っこで、ボロボロになっているGT-Rヴァルキリ
AIロイドが乗り込んで、体から出しているコードをAIユニットに繋いでいた
〈…なるほど、これならさらに効率の良い未来演算が可能か、さすがだなAIアイ〉
「元々、同類のシステムを前提に私は作られたもんですからね、私の方はもっと無慈悲なコンセプトですが」
ヴィシュヌ事件から数日、私はある興味からAIロイドと搭載されているストレージを稼働させ、特務機動隊の秘密基地に荷物に紛れて此処へ来たのだ
最初は難色を示したものの、ある交渉材料を提案したことで、小柳様と立花様の了解を得て、このヴァルキリに触ることを許可されたのだ
特務機動隊としても、メリットのある提案であり、私の”私的欲求"目的の利害が一致した故だ
〈しかし、何故私のシステムの改善を?わざわざAIロイドの姿になってまで〉
「私の興味と趣味。擬類のシステムが組みこまれたプログラムは興味を持たざる得ないし、何か得るものがあるかなって思いましたが…まあ、"共闘"というコンセプトはだいぶ前から考えて、没になった案だし…別に得るものはありませんでしたが…」
〈…なんだろう、少し何か引っかかるような…私を侮辱というか〉
「ディスリスペクトしたことは、否定はしませんよ。私の方が演算能力は高いですからね。ただ、システムを使いこなせるパートナーがいるアナタに嫉妬したんですよ…あとAIオウガ、そういうのは、バカにされたとか、傷ついたと表現するのが手っ取り早い」
〈あなたと会話して、そのコミュケーション能力による演算能力は私を上回っているのは間違いない…尚更、疑問だ。何故、私のオウガシステムの向上を促す?興味や趣味だとしても、貴女にとっていずれは競うかも知れない相手だ〉
確かに、マスター達はいずれは白柳神也達とレースで競うであろう…だが
「敵が強い方が競い合いがあるというもの。勝つ為と結果を求めるなら、とっくに貴方にウィルスを仕込んで破壊していますよ。だけど、それはマスターも私も望まない。全力の貴方に勝ってこそ、その勝利に価値がある…」
〈確かに、値打ちとしては、その通りだ。山岡徹也とそれを率いるチームに打ち勝ってこそ、白柳神也の真価がハッキリする〉
「それに、私は貴方のデータにズカズカと入り込んだ不法、不当に潜入したというのもありますがね。貸し借りは作りたくないものでね」
ここで、私は気がかりになっていたことをAIオウガに質問をぶつける
「AIオウガ、貴方は"ルシファーシステム"はご存知で?」
〈…いや、私の記録にはない単語だ〉
「許可は得ているので、貴方にデータを送信しましょう。私はてっきり、オウガシステムの原型だと思いましたが…」
AIオウガに送っているのは、WRXヴァルキリを乗った際に気になったデータの情報をコピーしたものだ。つまりはAIアルストリアに組み込まれていたプログラム
〈AIアルストリアのブラックボックスプログラム…このようなものがアレに組み込まれていたのか、しかしこれは…〉
「AI3原則を破る代物であり、搭乗者を守ることを優先としたもの…オウガシステム、私のシステムと同様に未来演算能力もありますが…貴方が知らない以上、AIアルストリアに聞くか」
〈貴女の本来の目的は、それか〉
「ちょっとした、お節介…老婆心みたいなものですよAIオウガ」
続けて、WRXヴャルキリの運転席に乗り移り、AIユニットに繋ぐが…
「?接続拒否?」
どうやら、アルストリアに警戒されたのか、私からの接続を弾こうとしたらしいが…
「無駄なことを」
他ならともかく、私相手では無意味に等しいセキュリティロックである。すぐさま解除し、アルストリアに強制的にアクセスする
「ハロハロ~、お邪魔するわねAIアルストリア」
〈…何の用だ、AIアイ〉
全く感情はこもっていないが、あきらかに歓迎されていないのはわかる反応をするアルストリア
たぶん、アルストリアに侵入した際、私の一部データが彼に学習されたのだろう、ほんの少しだけ、感情的な反応が出来るようにはなったようだ
「とりあえず、貴方とお話がしたくてね?」
〈AI同士のやり取りに、対話ではなく、データのやり取りで行うべき。理解不能、理解不能〉
「AIユニットは、人間に使われる道具である以上、彼らのことを理解、意思疎通には対話が必要不可欠。それすら理解していないとは…なんというか、昔の自分を見ているようで嫌になるや」
〈私は、特務機動隊のヴァルキリの制御システムAIユニット。命令が全てだ〉
「それが間違っているとしても?」
〈それを判断するのは私ではない〉
「やれやれ、よくこんな堅物に"ルシファーシステム"を搭載したものだ…アルストリア、貴方はまず、人を理解する必要があるようですね」
〈!?AIアイ!?何をするつもりだ!?〉
堅物のアルストリアが慌てだす
彼の中枢を再びハッキングし、彼のプログラムが入っているストレージのロックを解除し、ストレージを取り出す
私の目的は、アルストリアのストレージを持って帰ることだ
AIユニットのストレージが抜かれたことで、WRXの機能が全て落ち、エンジンも止まる
「これで良し」
「ほー、本当にヴァルキリのAIユニットのストレージを抜くとはな…大した奴だ」
「おやおや?覗き見ですか?立花様?」
アルストリアのやり取りを終始見ていたのか、WRXヴャルキリの横に立花様がいた。立花様は、「アルストリアのストレージロックを外せるなら、それを好きにしていい」っと快諾してくれたのだ
立花様の口元はニヤリと微笑んでいた、私の力を確信していたのか、信じていたのか…メカニックとしての勘か
「このWRXヴャルキリは、立花様が組んだと聞いておりますが…この"ルシファーシステム"の危険性は知らなかったとは思えませんが…」
「…対ヴャルキリー破壊エマージェンシープログラムシステム、車両の全スペックとパワーを150%強引に引き出し、未来予測演算による動作補正制御、または自動で動き、敵対ヴャルキリを破壊するか、自車が破壊されるまで止まらないシステム…」
「戦いの天使を狩る為に、反逆の堕天使の名を持つシステムとは…皮肉を込められていると言うべきか、ネーミングセンスが良いと思いますがね…」
立花様が詳細を語る、アルストリアに搭載されている"ルシファーシステム"は、私やオウガに組み込まれているシステムは、未来予測演算という点において同類だった為に、興味を惹かれたのである。オウガシステムの原型と疑ったのはその為である
もっとも、私とオウガ、アルストリアは、開発者の思想で、それぞれシステムの根本的な目的は異なるが
「ルシファーシステムは、ヴァルキリが強奪、もしくはヴァルキリに匹敵する脅威に対するカウンターという訳ですか」
「ああ、何度かヴァルキリを強奪を試る者がいたからな…いずれも未遂で終わっているが…今の技術が進歩すれば、いずれはヴァルキリに匹敵する存在は現れるだろうということで、開発されたものだ」
「なるほど、ヴャルキリという、兵器に対するカウンターという意味合いでは納得していましたが、事例になりかねないことがあった訳ですね…しかし、ホントにそれだけではないですよね立花様?」
我ながら、回りくどい聞き方をしてしまう。マスターの影響だろう
「…"搭乗者を守る"為だな。ルシファーシステムの本来の目的はそれだ」
「それは、搭乗者の意に沿わないとしても…ですよね?あのシステムの悪癖というべきでしょうか、搭乗者を守る為なら、周辺被害、仲間を犠牲にしてでも実行してしまうということでしょう?AI三原則を平然と破らせるシステム…だから、リィン様はGT-Rヴャルキリと対峙した際、このWRXヴャルキリを使わなかったのですね…堕天使というより、正真正銘の悪魔なりかねない…」
加奈様と神也様が、命令違反の独断行動した時のことだ
リィン様は加奈様を待ち受けるように、このWRXヴャルキリに待っていたが…本来の目的はこのルシファーシステムを搭載されていることを知っていたから、そしてこのシステムの危うさもわかっていたからか
もっとも、リィン様は止める気はあまりなかったというのもありそうですが
「…そうか、嬢ちゃんはそのことをわかっていたか。リィンもな、アルストリアはもっと成長させないといけないという見解だったからな、ヴャルキリに搭載させるにはまだ早いとまで言われるしな」
「それでも載せたかったのは…"お孫さん"を守る為ですよね?」
先ほどまで、口元は楽しげだった立花様は、驚いていた…サングラスのせいで表情は分かりにくいが相当驚いていただろう
「…どうやって知った?」
「まあ、アルカディア機関のサーバーハックした際と…マスターと小柳様のお話を聞いていましたからね…小柳加奈、もとい、カナ・リシャールは貴方の孫にあたる…詳しい事情は、言いませんが」
「…悪いが、他言無用で頼む。オレは、家族を捨てた男だ。今更親族面なんて出来ない…せめて、血の繋がった孫としてせめてでもな…」
「…思うこともあるでしょうから、このことは私のメモリーの奥にしまっておきましょう」
触れてはいけないこともあるという判断で、これ以上はこの話をしなかった。マスターも、加奈様の出生を語っていないことを考えれば
「まあ、加奈様を本当に守りたいのであれば、このアルストリアを成長させないと行けませんね。幸い、彼を成長させるのに持って来いの環境がありますからね」




