フォトジェニック
原宿駅を出たら平日なのに人だらけ。
『遊びに行こうよ!』
そんな愛樹からのメッセージで起こされたサキは、ふわっと風に流れた長い黒髪を抑えるように掻き上げると、人混みの中をちょっと気だるげに見回した。
授業もないし、1日引きこもってようと思ってたらまさかのお誘い。
そんな誘い主はスタイリッシュにクリアな地下鉄の入り口に寄りかかってぼんやりと空を見上げている。
艶が綺麗な黒髪ショート。かわいい子はショートにしたってかわいいし女の子だ。ピンクの緩めのカーディガンに白がメインのワンピース。
これ着こなすかね。
声をかける前に、バッグから一眼レフを出してそっとファインダーを覗いた。
「アキ」
「おはよ」
ふわりと淡いピンクのカーディガンの裾を泳がせてきらきらの笑顔。サキは思わず目を細めてカメラの画面をタッチした。
「かわいく撮ってくれた?」
「どーやったら今以上かわいくなるのよ」
ありがとって笑顔にまた1枚。
「せっかくいい天気だからさ、ピクニックしたいなぁって思って」
ほら。とたぶんそこのコンビニで買った袋を見せる。
「お互いインドア派だからねぇ。こうでもしないとこんないい天気でも出かけないかなって」
「まぁねぇ」
見上げる空は秋の穏やかな青。秋色の風はちょっぴり冷たさ含んで、歩くにはちょうどいい。
確かに家にいるにはもったいない。
「行こ」
愛樹はサキの手を取ると公園の方に歩き出した。
のんびりゆったり昼下がりの公園は駅前よりも人通りは少ない。
散歩中に寄って来たチワワと戯れたり。
ひらひらと目の前を通り過ぎたチョウチョに驚いたり。
ふいに強くなった風に目を細めたり。
ベンチに座ると、愛樹はサンドイッチをあーんって笑顔で差し出した。
「ふふっ。真っ赤」
耳まで。
そりゃそーでしょーよ。
と、もぐもぐとサキ。
愛樹も残りを口の中に放り込むと、捨てて来るねーとベンチを立った。
その間に撮った画像を確認しようと、サキはディスプレイをタッチしていく。
「マジか!?」
気がつけばそれなりの容量のSDカードほぼ満杯。
まだ1時間も経ってなくない?
ほとんど連射と変わらない、間違い探しかよと言わんばかりにぎっしりと愛樹が詰まっている。
ダメじゃん! あたし…。
すき過ぎる!!
ふと足音が耳に入って立ち上がった。
にこにこと笑顔で戻ってくる愛樹。
なんだか眩しくて思わず目を細めると、
「ただいま」
と愛樹が下から覗き込んできた。
ちょっと大きめのよく笑う口。
くりっとしてきらきらした仔犬みたいな瞳。
ちっちゃくって華奢で、なんだよお手本みたいにかわいいじゃん。
サキは不思議そうに見つめる愛樹にちょっと困ったように微笑みかけた。
まいったねぇ。
「アキ、だいすき」
「サキ?」
うん。とだけ頷いて応えると、左手を愛樹の肩に置いた。
そっと触れた唇は、くすぐったくてやわらかい。
あーんとかやってきたくせに耳まで真っ赤に染まっている。
愛樹はサキの右手を取ると、カメラのモニタを見た。
「わぁ…!」
あたし、ぎっしり。
「そういうこと」
「すき過ぎ。あたしのこと」
まだ紅く頬を染めたままくすくすと笑うと、アキはちょっとだけ背伸びした。
ありがとう。
そしてふわりと重なった唇。
トン、と踵が地面打って、目があって、なんとなくくすぐったくて、なんか楽しくて。
「さて、どこ行こうか?」
「そうだねぇ。どうしようか?」
まだデートは始まったばかり。
どちらからともなく手を繋ぐと、ゆっくりと歩き始めた。
のんびりした穏やかな秋の午後も、まだ始まったばかりだった。