ある男の恋
ある男の短い物語。重いかもしれません。苦手な方は回避をお願いします。
2100文字程度です。勢いで書いているので、前後で変なところがあるかもしれません。
初投稿ですので、いたらないところがあるかもしれません。ご容赦ください。
今日も美しい貴女に僕は、変わらず声をかける。
『おはよう、今日も貴女は、美しいね。』
『おやすみ、ぼくの愛しい人。良い夢を』
なんど朝を迎えても僕の愛しい人は、その柔らな微笑みで答えてくれる。
初めて合った時と変わらず、美しい笑顔で。
その度、僕の心は幸せに満たされる。
初めて会った時の貴女は絵本から飛び出したお姫様を具現化していた。
僕は、貴女の美しさに心臓が早金を売っていたのをよく覚えている。
でも、目の前の貴女は、絵本のお姫様みたいに歌が上手なわけでも、ダンスが上手なわけでもなくって、走る事や遠乗りに行く事が大好きで、中身の貴女は、男みたいだったから、僕は貴女の事、ずっと大親友だとおもっていたんだ。
でも、あの時、貴女に『男に生まれたかった』と告白されたとき、初めて僕は、貴女への恋心を自覚したんだ。
貴女と僕とでは、身分も立場も違いすぎて、公にはできないからって、秘密の恋人で居ることを貴女は楽しんでいたみたいだけど、僕は今でもあの時の事を思い出すと心臓が握られたように苦しくなるよ。
若い頃の僕らは、沢山言い合いも喧嘩もしたはずなのに、思い出すのはいつも貴女の笑顔だなんて、笑ってしまうね。
そして、今もこんなにも寂しい気持ちにしてくれる貴女に、恋人のときから、そしてこれまでも、きっと、これからも勝てそうにないなんて、本当にどうしたら良いのか分からないよ。
『一生、愛してあげる――。』って、僕がプロポーズする前に貴方が恥ずかしそうに言ったね。
君は知らないかもしれないけれど、あの時の僕は、随分、情けない気持ちになったんだよ。だから、誰もがわかるように、婚約指輪はピンクダイヤモンドにしたんだ―――。
『―――この幸せが、死が二人を分かつとしても、続く事をここに誓います―――。』
貴女の年を重ねた手を自分の年老いた皺だらけの手で握る。
寝室に太陽の光が指すと、若い頃と変わらず、美しい髪と白い肌を持った愛しい人の寝顔が、ハッキリと見える。
寝室のベッドの上に眠る貴女は、浅く呼吸を繰り返している。
苦しそうには見えないが、一向に目を覚まさない彼女を見ていると、不安に自身の顔が歪むのが理解出来る。
医者には、
『もう、長くないと思われます。』
―――夢でも見ているかのような現実味のない言葉を聞かされ、信じられないまま、日に日に目の前で眠る愛しい人が、明らかに衰弱していく様を見て、これが夢ではないのだと、絶望を刻んでいく。
貴女の愛した、すっかり大人になった私達の天使達は、時折僕に気を使って、休む様に声をかけてくれるけれど、離れられないよ。
何も出来ないと分かっていても離れたくないんだ。
お互い年を重ね、若い頃の様に無理が出来ないと分かっていても、僕は、君の傍を離れられない愚かな男なんだ。
僕たちの天使が、最初にこの屋敷にやってきてもう30年は経つんだね。
はじめての妊娠に貴女は、とても喜んでいたいたけれど、本当は不安に思っているのを知っていたよ。
少しでも不安を取り除きたくてその時から、目覚めのお茶を僕が入れる習慣ができたんだったね。
僕らの天使、アイヴィー、そして、息子のジェイソン。
振り返れば、彼らの成長は驚くほどあっという間で、二人とも知らない間に自分たちの愛する人を見つけてきて、とても驚いたよ。
貴女は、あの時も幸せそうに笑っていて、僕はそれだけで、少し悲しい気持ちを忘れることができたんだ。
あぁ、だから、僕の愛しい人、どうか、どうか、僕を置いて先に行かないでくれ―――。
僕はプロポーズも碌に出来ない情けない男だから、天国に向かう準備をしている君をみっともなく、留めておきたいと願ってしまうんだ。
まだ傍にいてほしいと、すがってしまいたいんだ。
『これからは、二人の時間をたくさん楽しみましょうね。』
と、思い出したかのように僕に言ってくれたよね。
あの時は、家業を息子に譲った暇を持て余していた僕に向かって、君は嬉しそうに笑ってくれたね。
少しずつ離れていく子供や責任に、複雑な気持ちになっていたのを、見透かしていたのかい?
いつも貴女は僕の気持ちを見透かして、僕の進む道の少し先を行くんだ。そして、はじめて会ったときから変わらず、僕は少しも貴女にカッコイイところを見せてあげることができないままなんだ。
僕のいとしい人、君の辛い姿を見たくないんだ。
でも、この愛しい貴女の手を離したくないんだ。
孫の顔を見て感動している僕を、『カールはいつまでも変わらず可愛らしいですわね。』って、日だまりみたいな笑顔で、僕の手を握ってくれた貴女。
今でも甘やしてくれるのは、世界で貴女一人だけなんだ。
我儘な僕を受け入れてくれる、愛しい人、どうか、どうか、僕を置いて行かないで―――。
その日の昼、冬の寒さを忘れるかのような暖かな日差しのなか、静かにその美しい女性は息を引き取った。
そして、その夫であった男も彼女の傍らで、彼女の手を握り、寄り添うように息を引き取っていた―――。
二人の顔はそれはそれは幸せそうな微笑みともとれる顔をしていた――――。
『それでは、最後に誓いの言葉を』
『この幸せが、死が二人を分かつとしても、続く事をここに誓います―――』
簡単な設定?補足的なものなので、読まなくても問題ないです。
ある男・カール 商人の息子。カールがお店を継いだあとは、どんどん事業拡大をしていくのですが、その影響力から一代限りの爵位を国王陛下から承ります。外貨獲得とかその他の政治的な理由があるのではないか?といわれておりました。
妻・ヴィクトリア 元伯爵令嬢結婚後、爵位は兄が引き継ぎ、貴族社会からはなれる。
もともと、伯爵家が懇意にしていた商人の息子だった、カールの一目ぼれから恋がはじまります。
はじめは好きだとか、そんな甘酸っぱい気持ちに気付かないでいるのですが、何年かしてお年頃になったカール少年はヴィクトリアお嬢様の秘密を打ち明ける、と言われ、高飛車にも告白されると勘違いしたカール少年は、ヴィクトリアお嬢様への恋をじかくするのでした。
身分差とカールにとっては、6歳も年上の雲の上のお嬢様に恋をして、かなわない恋のまま何年も悲恋に打ちひしがれていますが、その後、なんとか?恋が成就し、結婚し、二人のあいだには、一男一女のふたりの子供がうまれます。
老年は、二人で旅行にいったり、観劇いったり、結構自由に楽しくすごしていました。
もともとカールは、仕事以外の趣味という趣味がないので、婦人のお出かけについていくのが常でした。
「邪魔や!ついてくんな!」と元伯爵令嬢あるまじき暴言と共に何度も怒られた過去があります。
本文中の優しさは、カール現役時代、なかなか行く事の叶わなかった旅行をお強請りした時の文言です。
知らぬは本人だけ。
本文中は情けない駄目男ですが、本来のたちは狡猾で頭の回転が速いです。
商人ですので、愛嬌もある人柄であります。
婦人の前と婦人に関する事ではそのたちが発揮されることがほとんど無いため、婦人と他者との見解の相違が大いにあります。恋は脳内異常ですね。
若かりし頃、その愛想のよさにつられて集まってくる女の子に婦人は、ひそかに嫉妬していました。
三歳になる孫に会いに行くときだけは、強攻します。