ショートショート010 願い
そいつは突然現れた。
「な、なんだ、お前は。人の家に勝手に現れやがって。何の権利があって、いや、そもそもお前はいったい誰なんだ」
「それにお答えすればよろしいんで?」
「ああそうだ。とっとと答えろ」
するとそいつは、「あいよ」と言って答えた。
「わたしは悪魔でさぁ」
「なに、悪魔だと。この世に、そんなものが存在するわけがない」
「そう言われても、実際にここにいるんだから、仕方ねぇでしょう」
「うるさい。ふざけるのもいいかげんにしろ」
「別にふざけているつもりは、ねぇんですがね」
「とにかく、その、人をばかにしたような口調をやめろ。どんどんいらいらしてくる」
「口調を変えればよろしいんですね。あいよ」
少しの間をおいて、そいつは再び口を開いた。
「では、他に何かご用はありますでしょうか」
「なんだ、てめぇ。口調はまともになったようだが、態度はふざけたままじゃねえか」
「私は、はじめからふざけた態度なんてとっておりませんが」
「もういい、たくさんだ。頼むから消えてくれ」
「消えればよろしいんですね」
「ああそうだ。消え失せろ」
「あいよ」
三つの願いを叶え終えた悪魔は、その言葉とともに姿を消した。
023『すれちがい』に続きます。