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ラプラスの魔物 第二魔物 8

「あー!待って下さいよ!『金華』!」


御手洗 蓮花はかびた匂いがする朧古書堂で走り回っていた。『精霊収集機』の『金華』を久々に召喚したら、どうやらかなり楽しんでいる様で古書堂をぐるぐる旋回している。


夏色のワンピースを着こなして、若干埃まみれになりながら、『金華』を追いかける。


「ちょっ…!捕まえった!ほら!もう暴れちゃ駄目ですよ!」


蓮花が『金華』の足を捕まえると、『金華』は鳥から犬に姿を変えて蓮花にじゃれる。その途端、がちゃんと扉が開く。


「おい。」


蓮花がその声に振り向くと黒や赤やのボロ着を来た青年がいる。ビジュアル系バンドのシンガーとった感じだ。

「はい、何でしょうか。」


恐らくこの青年も人間ではない。人間かもしれないが、何か異形の力を持っているかもしれないが。

「…店主は居ないのか?」


蓮花は奥にある扉をちらりと見て言った。

「申し訳御座いません。店主は今、少し体調を崩しておりまして、私が代理店主をしている状況に御座います。」


『朧古書堂』の店主、朧月夜 滄溟は魔力の使い過ぎにより高熱が出て寝込んでいるのだ。蓮花が犬の状態の『金華』を抱えて青年に言う。


「店主に御用なら私が伝言を預かっておきましょうか?」


いや、と青年は返答した。

「大丈夫だ。お前、名前は何て言う?」


蓮花は答える。

「御手洗 蓮花と申します。」


青年は微笑みながら言う。

「そうか、蓮花と言うのか。御手洗の家だから、霊力保持者の家だな。少し手伝って…というか、助けて欲しいんだ。」


蓮花は青年をカウンターの椅子に通した。


「俺の名前は土蜘蛛の久留米という。ここから遠く離れた霊山に住んでいるんだが、少々困ったことになってな。霊山は修行の場だったり、冥界に行く死者の通り道だったり。俺は霊山の整備を霊山の神に頼まれてやっているんだ。」


ふんふん、と蓮花は話を聞く。


「勿論、世の中には幼くして亡くなった子供もいる。そういう子を相手にして冥界に送り出すんだが、一人逃げ出してしまったんだ。母親に会いたいのかと聞いても、何も答えてくれない。答えない霊なんて初めてでな。困っていた所に黒髪の麗人が教えてくれたんだ。」


蓮花がこめかみを抑えて言った。


「……まぁあの人は何かと私達に押し付けてくる人ですね…。」

「知り合いなのか?」


蓮花がくすりと笑って言った。


「ええ。良い人ですよ。賢い、不思議な雰囲気を纏った人です。」


蓮花は蓬莱 蚩尤を思い浮かべた。朧の師匠で、闇の魔法を使うあの人を。ええっと、と蓮花が言った。


「私が霊山に行けばいいんですよね?でも…妖怪や魔物ならいくらでも相手をした事がありますが、幽霊は流石にありません。そんな私が行っても大丈夫ですか?」


なんのその、土蜘蛛が続ける。


「全く大丈夫だ。霊山と言っても山だ。それに、まず入るためには霊力が必要だしな。」


よし、と久留米が言った。

「今から行くぞ!」


蓮花は少し微笑んで了承した。

「はい、参りましょう。」









「何だか不思議な場所ですね。」


久留米の空間移転の能力で、一瞬で蓮花達は霊山に到着した。見たことも無い蝶や動物が闊歩している。草木や岩石からは形容し難い煙が溢れており、綺麗な物やら醜態極まった物もある。


「霊気が立ち込めているからそう思うんだろうな。さ、まずは探すぞ。」

「わかりました。」


にしても、と蓮花が続ける。


「山ですよね?幽霊を探すにしては少々広すぎやしませんか?」


久留米はくすりと笑って返した。


「一応俺はこの霊山の番人だぞ?大体の霊の位置は分かるんだが…その子は俺を見るなり直ぐに逃げ出すんだ。もう…こんな事初めてだよ。」


少し困った口調に、蓮花は優しく微笑んだ。

「子供がお好きなんですね。」


久留米は振り返らずに言う。

「そりゃあな。それに…あんな幼くして亡くなったなんて少し、な。」


その返答に蓮花が反応しようと思った瞬間だった。

「足が……!?」


途端、蓮花の足が動かなくなる。足元を見ると見るにおぞましい体が絡まっている。

「ひっ…。」


水子だろうか。落窪んだその眼球は、生を謳歌する蓮花の魂を睨んでいる。久留米がその様子を見て慌てふためいている。恐らくこんな事例は無かったのだろう。地を這う声が聞こえた。


『ねぇ、お姉ちゃん。行こう。逝こうよ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!』


合唱となって蓮花の体に響く。息を吸って、なるべく心を取り乱さないように蓮花は言った。


「私だって、逝きたいのは山々ですよ。」


久留米がその発言に驚きを隠せない。蓮花が更に付け加えた。


「だけど、私は行けません。死んでいませんから。」

『コロス!コロス!コロス!』


蓮花が世を響かす様な声色で言った。

「今すぐ、私の、周りから、去ね!」

一瞬で劈く様な悲鳴が当たりに轟くと、蓮花の周りには先程の風景が嘘のように当たりにまた霊気が立ち込める。久留米が立ち寄って言った。


「大丈夫か…!?済まない、こんな事は無かったからな。済まない、怪我は無いか?」


蓮花はニコリと笑って言った。

「はい、大丈夫ですよ。……あれは、水子ですか。」


そうだ、と久留米が俯いて言った。


「……中絶、死産、流産。そんな理由で死んだ子供達ばかりだ。最近は専ら中絶が理由でな。水子もこの霊山に増えている。それに、この世界だけで無く、子供の霊は増え続けているんだ。」


2人は山を登る。そして久留米は続けた。


「……どうして虐待なんかするのだろうか。親は選べない。あんなに可愛い子供たちなのに、何が気に入らないんだろうか。自分よりも才能があるからか?俺には測れない…!」


蓮花が久留米の独白に返す。


「これは、私の独り言です。聞き流して下さって構いません。……私は、親がいません。転々と親戚を渡り歩いていました。」


久留米が別段驚きもせずに聞いている。


「……1度、虐待にあった事があります。夕飯を出されなかったり、洗剤を飲まされたり。私はまだ発言する余力がありましたから、何とかその家から脱出する事が出来ました。けど、手をあげられている途中、何となく分かったんです。相手は母親でも無いし、ましてや養母。母親でも手をあげたくなる時があるそうです。なら尚更養母なら輪をかけて手を上げたくなる。」


少しの間の後に、蓮花が言った。


「きっと、虐待をする人も、最初はその子を愛していたんです。ただ、周りの環境やお金の問題。それで人って変わってしまうんです。人は、変わるんです。良い意味でも、悪い意味でも。」


久留米がその独り言に返す。

「…俺には、やはり分からないが…そんな心情があるのか?」


蓮花が言った。

「あると思いますよ。別に分からなくても良いです。こんな感情、わからない方が良い。」


途端、久留米の足が止まる。

「おい、蓮花。大変だぞ。」


蓮花は不思議そうに返した。

「何がです?」


久留米が雲の近くの人影を指さした。どうやら少女らしい。

「…死神だ。あの水子の騒ぎで降りてきやがった。くそっ…。あいつらが来るとろくな事が起こらないんだ……!」


蓮花が目を細めてその死神を睨む。

「あの…!死神って……!」


黒い本、黒い服に、黒い鎌。しかし目は紅く、髪は銀。間違いなく前、朧の魂を回収しに来たあの死神だ。久留米が狼狽した。

「おい…来たぞ!」


蓮花は軽く身構えた。ふわりと死神は蓮花達の目の前の巨石の上に立つ。

「土蜘蛛ですね。こんな所で何を……!?御手洗蓮花!?何故!こんな神聖なる霊山に居るのです!?」


きっ、と土蜘蛛を睨む。

「貴方が招き入れたのですか…!答えなさい!」


土蜘蛛はなんのその、当然のように返した。

「答えない。それが答えだ。」


鎌を一回転させると、死神の姿が変わる。白銀の髪に鴉の髪留め。白のワンピースに黒の手袋、靴、ベルトの様な腰飾り。軽く本を読むと、死神は言った。


「…御手洗蓮花。貴女は5回も死んでいる。肉体だけが、5回も。魂だけは時を超え、そしてあまりにも膨大過ぎる霊力を持っている。そして『緑珠の精霊収集機』。人間にしては大罪過ぎる。最早人間かどうかも怪しいくらいですが……私が、貴方を冥府へ送る!」


死神が鎌を振り上げた途端、蓮花は柄の部分に長い飾りが付いている刀を取り出す。蓮花は叫んだ。

「久留米さんは先に行っててください!」


久留米は頷くと走り出す。死神は弾幕を作り出した。

「つっ……!」


ギリギリで蓮花は避ける。耳を斬る風。一つの攻撃が終わった瞬間、死神は言う。


「冥土の土産に教えて上げましょう。私の名前は枙姫やくき。冥府の死神です。……貴女の出生を少し教えて差し上げます。貴女は生きているだけで罪だ。その業の深すぎる魂は、あまりに重すぎる。」


蓮花はにたっと笑って言った。

「そう言うのって、前世の罪が回ってきたとか言いません?」


枙姫は至極真面目な顔で言う。

「ええ。そうですよ。」


蓮花は目を見開いた。

「え…。どういう、事ですか…。」


死神は続けた。

「貴女の前世の罪は重すぎる。人殺しをした訳でもないのに、何故こんなにも重いのか?。」


蓮花は益々慌ててる。


「…私達は、その名を口に出す事は出来ない。その人の魂を回収しそびれたから。逃げられてしまったから。だから、私達はその人を裁けない。いえ、裁けない訳ではない。貴女には前世も無い。罪がただひたすら重いだけ。」


さて、と枙姫は続ける。

「もう終わりにしましょう。話が長引いてしまいましたね。」


すっと、死神は呪文を唱える。

「…常世の鴉、闇夜の雫。赤き契約によって、今開かれん!」


枙姫の背後に金色の切り込みが入る。そして、眼球がガチりと蓮花を睨んだ。

「な…何ですか…これ。ちょっと待ってよ。」


枙姫は幽玄に微笑む。

「これは、『冥界の瞳』。呑まれた物は永遠の闇を巣食う。さぁ、私の仕事の不始末を無かったことにしましょうか。」


ありとあらゆる闇が蓮花を捉えようとした瞬間だった。

「巣食うのは常世の我が龍だ。去ね、望まれぬ者よ。」


その聞き覚えのある声に蓮花は振り向いた。

「その声は……神無月白羽!去るべきなのは貴方の方です!」


神無月の傍には、息を切らした久留米が居る。訝しげに、そして相当面倒くさげに神無月は言う。


「さっさと帰れ。普通に邪魔だ。あと出しゃばり。取り敢えず、帰れ。」


その答えに枙姫は苛ついている。

「なっ…!この、私に!帰れと!?ただの払い屋如きに!煩い!黙れ黙れ!」


そんな様子を見て蓮花は片眉上げる。

「……そのテの病気ですかね?」


神無月の方を蓮花が見ると、その顔は明らかに憤怒の表情があった。眉間に皺を寄せる訳でもなく、ただ爛々と輝く緋玉の瞳で、相手を睨んでいる。恐らく彼に言ってはいけない禁句、『払い屋』を言ったのだろう。


「死神。」


枙姫の手には余りの怒りに血管が寄っている。銀の瞳は、何を考えているかももう分からない。神無月が続けた。

「……今から直ぐにこの場を離れたら、今の事は見逃してやる。今、直ぐにだ。」


しかし枙姫は否定を叫んだ。

「は!?嫌よ!こんな、こんな、糞人間如きに!払い屋に!」


神無月は俯いて言った。

「俺は忠告したぞ。」


容赦なく、神無月は一気に死神の首筋に刀を立てる。枙姫は全く動じることも出来ない。恐れ、戦きが彼女に訪れる。


「……今直ぐ、去れ。それか、俺が『払い屋』だと言ったこと、今直ぐ訂正しろ。俺はあんな下賎な職業では無いからな。」


枙姫は剥き出しの感情のまま、その場を離れる。久留米が蓮花に駆け寄って言った。


「俺の知り合いが見回りに来てたから、呼んだんだ。昔ちょっと罠にハマっているのを助けてもらってな。それで、だ。」


神無月が蓮花の近くに現れる。そしてキョトンとして言った。

「何故お前が此処に居る?」


蓮花が状況を簡易に説明した。

「幽霊を探していまして。久留米さんに連れられて探し回っているところです。」


久留米が困った様に神無月に問う。

「知らないか?女の子の幽霊なんだ。お下げの茶髪の女の子で……。」


神無月が腕を組んで言った。

「…違うかもしれないが、心当たりはあるぞ。」


振り返って雲の上近い山を指さした。小さな峠なのだろうか。

「彼処で、泣いていた少女が居た。俺が通り過ぎたのも気付かずにな。」








「本当に、居た。」


久留米が驚いた声を出す。神無月の言っていた通り、ざめざめと泣いている。茂みから蓮花と久留米は覗いていた。

「……蓮花、お前が行け。俺はどうしてか逃げられる。」


くすりと久留米は苦笑いすると、蓮花はゆっくりとその少女に寄った。

「ねぇ、其処で何しているんですか?」


なるべく優しい声色で、蓮花は問うた。はっとして少女は顔を上げた。


『…おねえちゃん、だあれ?』


蓮花は微笑んで答える。


「私は通りすがりのお姉ちゃんです。どうして泣いているか、私に教えてくれませんか。」


泣きべそをかきながら少女は言った。

『あのね、あのね、うっぁ…、お母さんに、会いたいの。』


その途端、少女の姿がブレる。蓮花の目に写ったのはばらばらの体だった。彼女は声に出さないように、深呼吸して少女に言った。


「お母さんの姿は知っているんですか?」


赤い目を擦りながら少女は言った。


『知らないの。暗くて、暖かくて、落ち着く場所に居たのに、いつの間にか黒い場所に出されて、歩いてたらこんな場所に……うぅ…うぇぇん…。』


蓮花は山の上を見た。雲がかかっており、彼処が恐らく冥界の入口だろう。ふと蓮花の傍に美少年が現れる。柔和な存在だ。

「蓮花。」


蓮花はぎりぎりその声を呼んだのが、変身した久留米だと分かった。不思議そうに蓮花は返した。

「どうしました?」


にっこりと久留米は少女を撫でながら言った。嬉しそうに少女は目を細める。


「…この子を冥界まで送ってやってくれないか。いや、送らなくてもいい。俺がこの子を飛ばすから、色々な事を話してやってくれないか?」


蓮花は微笑んで了承した。

「ええ、良いですよ。」


少女は蓮花見てにこにこと笑う。

「そうですねぇ……お母さん、ですか。お母さんはね、世界が敵になっても最後まで味方で居てくれる存在です。優しくて、それでいて怖い人ですよ。」


ふぅん、と少女は言った。

『…お母さん、に、会いたかったな…私、もうお母さんに会えないんでしょう?私が私でいる間の、お母さんには…。』


蓮花は若干目を逸らして言った。

「…そう、ですね。」


少女は続ける。

『…このお話も、もしあの山のてっぺんまで行ったら忘れちゃうんでしょ?…そんなのやだよ。私ずっと、ここに居たいよ。』


久留米が優しく言う。


「悲しいよな。だけど、行かなくちゃもっと辛い。それに、想い続ければ必ず会える。……俺はお前が此処に来るのを待っているから。」


少女はこくりとうなづいた。久留米が呪文を唱える。


「…安らぎの地へと、扉よ開け。古来より御座す冥界に、安寧の祝福を。」


少女の足元に水色の魔法陣が開く。少し悲しそうに、けれども幸せそうに言った。


『私、お姉ちゃんとお兄ちゃんに会えたの、ほんとに嬉しかった!じゃあね、また今度!』


そうして少女は一瞬詰まると、続けた。


『……ほんとはね、お兄ちゃんの事は怖くなかったんだよ。でもね、お兄ちゃんの事、大好きだったから…逃げてたの。』


今度こそ、と少女は言った。

『今度こそ、私の気持ちを伝えるから!それまで……待ってて。』


苦く笑って久留米は言う。

「待っているから。何時でもおいで。」


少女はにっこりと笑うと、光の粒となって消えた。蓮花が久留米に笑いかける。

「…とんでもない少女でしたね。」


久留米も釣られて笑う。

「ああ。そうだな。」


さて、と久留米は蓮花に向き直る。

「今日の事は本当に有難う。俺じゃこんな上手く解決出来なかった。礼と言ってはなんだが、これを持って行け。」


久留米は蓮花の手に拳大の透明な宝石を持たせる。そして言った。


「これは人間界ではかなり高値で売れる物だそうだ。それに霊山の霊力入と来てる。好きにしてくれ。じゃあ、送るぞ。」


蓮花に久留米はワープの魔法をかける。すると蓮花は元の古書堂へと戻っていた。少しの間、蓮花は今日の事を反芻していた。がちゃりとカウンター奥の扉が開く。


「……あぁ…お帰りなさい、蓮花ちゃん。」


寝間着を着た朧が蓮花を見据える。蓮花は慌てて朧に言った。

「駄目ですよ。まだ寝てないと。」


朧は苦笑いした。

「一応熱は下がったけど、また上がる筈だねぇ…それに、蓮花ちゃんが帰ってきたのに寝てるなんて無理だし。それは?」


朧は蓮花の手にある宝石を眺めた。蓮花が朧に差し出す。


「土蜘蛛の久留米さんに貰った物です。依頼の御礼として頂きました。人間界では価値のある物だそうです。」


それをひょいと朧はセピア色の電灯に当てる。そして小さく声を上げた。


「……うわぁ…。これ、金剛石ダイヤモンドだよ。霊力入りだから、高く売れるんだろうなぁ……そうか、霊山か…今度行ってみようかな。」


朧は笑顔で蓮花に返す。そして少し俯いて蓮花は言った。

「……私は、生きているだけで罪だと言われたんです。前世の、応報だと。」


訝しげに朧は返した。

「誰に?」


目線を逸らして蓮花は言う。

「昔、朧さんの命を取ろうとした死神に、です。」


朧は軽く笑った。

「……人間は須く(すべからく)罪を持っている生き物だよ。それに、今世の私の方が抱えている罪も重い。」


更に、と朧は続けた。

「そういうものはいつか裁かれ、真相は白日のものとなる。だから、気にしなくて良いよ。」


朧は笑顔で言った。

「じゃ、もう1回寝るね。今日はもう遅いし、帰った方が良い。……おやすみなさい。」


蓮花は微笑んで言う。

「…はい、おやすみなさい。」












世に御座す王は言った。

「あの子は聡明だと聞いたけど…少し測りかねる所があるね。本当に賢いんだろうか。」


時空の狭間にある空間で、滄助は玉座に足を組んで座っていた。


「罪自体にも気付いていない。うーん…これを僕が態々裁かなくちゃいけないのか?これは何とかなると思っていたんだがねぇ、『ラプラス』?」


朧の具現化した龍とは比べ物にならない程、巨大な龍が滄助の周りに居た。それが中性的な声で返す。


『……態々出向かれる方が早いかと。主も手を出さぬとこの先の未来が危うと言う事をご存知でしょう?』

「ま、そうだねぇ。」


滄助がぼんやりとして言った。にたりと口を歪める。

「いいね。面白そうだ。それが良い!」


くつくつと喉を鳴らす。そしてさも、さも、愉しそうに、残酷に王は笑った。


「さぁ、もう、遊戯は終わりだ!僕の遊びに暫し付き合ってもらおうか!」


その残酷たる、王たる目は、未来を弄んでいた。

どきどき…!続きが気になりますね!外伝、蚩尤と夕霧の過去も執筆しておりますので、お楽しみに!

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