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第9話 花より団子、遺跡より食事

◆1/2◆


クリスマスイブですので本日は2本立てです。投下時間は1時間後。

 いつも通りの朝を迎える。と言っても穴の中なので朝かどうかなんて分からない。

 とりあえず水に潜って外を確認すれば、既に水面が明るくなり始めていて朝が来た事が確認できる。

 朝日を見て、また一日多く生きる事ができたと安堵する。

 ……どこか懐かしい感覚を覚えるが、その理由を記憶に求める事ができない以上、ただの気のせいだと思いたい。


 ともあれ、今日は前日に見つけた遺跡の探索を続けるつもりでいる。

 倉庫と思しき場所で合計4つものスキルを頂いてしまったので、ほかにも有用なスキルがあるのではないかとちょっと期待しているのだ。

 どうにもこちらから先手を打って仕掛ける攻撃スキルに乏しいので、この辺で防御型か積極的な攻撃系スキルが欲しい所である。


 先日ミミックと遭遇したほうとは逆、つまりは最初に風が吹いてきていたほうへとふにふにと歩く。

 道中生えていた苔などももしゃもしゃと咀嚼しつつ歩く姿は、さしずめ粘着式掃除機と言った所だろうか。


「一家に一匹ポイズンゼリー。……嫌だなぁ」


 苔の味は、まぁ、普通。個人的には塩気が足りないと思うが、食べれないこともない。最近スライム生活が板についてきてしまったのか、おそらく生前だったら絶対に口にしないであろう類も、とりあえず食べてみるかという気になってしまう。

 元人間の適応力といおうか。それとも意地汚い食い意地が張ってるだけか。

 最初に【猛毒耐性】を手に入れた為、何を食べても体に害がないというのが大きいのだろうが、美味しいかどうかという判断基準が大部分を占めている事を考えると、やはり食い意地が張っていると見るべきか。

 実益を兼ねた趣味と言えば聞こえがいいし、別段困る事もないからこのままでいいだろうと開き直る事にする。

 うんうん。実益を兼ねた趣味。素敵な響きだ。今度からこれでいこう。


「っと、分かれ道か。どっちにしようかな」


 さて、益体もない考え事に耽りながら進んでいるうちに、行き止まり、と思いきや、通路が左右へと枝分かれした地点へと到着した。

 こういう時人間はどちらに行きたがるのだったか。その法則が異世界でも通用するかどうかはさておき、とりあえずは風の流れてくる方から先にすべきだろう。

 前日の探索でとりあえず中にはミミックのような無機物的なものしかいないとわかった以上、外へと通じる通路を早めに確認しておくに越した事はない。外へと通じるという事は、外から何かが入ってくるかもしれないという事でもあるのだから。

 風が流れてくるほうへと進み、さらに右へ。先は暗いものの、ずっと同じような壁が続いている事から、似たような構造が続いているようだ。


「……迷子防止に何かつけるとして、何にしようかな」


 少しだけ迷った後、結局はシンプルに数字を刻んでゆくことにする。

 数字を徐々に増やしてゆけば、帰りは少ないほうへと辿れば間違いない。


 曲がる曲がる。進む曲がる。右へ左へと風を追いかけて進み、刻んだ数字が二桁にのぼった頃だ。

 既に暗さに慣れてしまった視界が、微かな変化を感じた。

 それは光だ。仄かに見やすくなった遺跡は、均等に切られた赤茶色の石が積まれた壁に風化によって生まれた罅が縦横無尽に走っていて、割れた隙間を埋めるように生えた苔にどこからかしみ込んできたのか湖の水が時折滴っている。


 光源が入り込んできたおかげで漸く視認できた遺跡の内部だが、完全に光が差し込んでいるわけではないので隅の方などはまだ暗い。

 だが、暗闇を手探りで進んできた僕にとっては行動する分には十分すぎる灯りだ。

 灯りが近いということは外が近いということでもある。出ていきなりモンスターとエンカウントというのはご遠慮願いたいので、先ほどまでよりは慎重にこっそりと光へと向かう。


 角を曲がると出口の様で、光が差し込んでいた。短い時間だったはずだが随分と久しぶりに見た気がする日光に、僕は緩やかに外の様子を窺いに外へと這い出す。

 遺跡の出口――脇道から這入ってしまった為、正式な入口はこっち側なんだけど――は孤島の地表部分にある林の中、小さく盛り上がった洞窟と同化する様に半ば埋まる形で存在していた。

 長年の雨風によって自然洞と人工構造物の境目が崩落している様だった。


「あー。これは人が来てもわからないなぁ……」


 さすがに人間が入る事は不可能のようだが、このサイズならば僕の様な軟体生物や小動物ならば問題なく出入りが可能だ。


「中の探索終わって住めそうなら遺跡まるごと住居にするってのもアリっちゃアリかな?」


 もしその計画を実行するならば入口はこのままにしておいた方がよさそうだと考えていると、林の外のほうからバサバサと鳥の羽音が聞こえてくる。

 この孤島は当初湖の外周から見たとき、鳥型魔物の住処になっているのは確認済みなので驚きは少ない。

 気をつけるに越した事はないが……


 じゅるり。


 鳥といえば人間の頃にもよく食べた食材であり、巣があるという事は当然卵も期待できるわけで。

 この体になってから随分と食欲旺盛になった気がするが、ほかに娯楽もないのだから仕方がない。

 そう自分に言い訳をして、今日の昼食を鳥にする事を決め、そろりそろりと林のほうへと向かった。

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