第7話 お宝に甘い罠までがワンセット
さらっと見過ごしてたけど、どうやらあの儀礼剣かマンゴーシュ、ミスリル銀という特殊な素材で出来ていたらしい。
ミスリルって言えばファンタジーで有名な架空金属のはずだけど、鑑定でそう出てしまったのだからこの世界では実在したということらしい。
ともあれ、スキルをいくつか得たので早速検証を始める事にする。
手に入れた選択肢は早めに検証して自身の手札にする事が、この世界で生きていく為に必要不可欠だと先日のサメイルカ襲撃事件で身をもって体験したからね。
その経験を無駄にしない為にも多少効率は悪くなろうが、宝箱をすべて見て回ってからよりも手に入れたスキルをひとつずつ確かめながら回収していった方が良い。
「って言っても、今すぐ検証できそうなのはひとつしかないんだけど」
新しく手に入れたスキルのうち【幽体特効】【呪術耐性】のふたつは現時点では検証のしようがない。
常時発動し続ける【猛毒耐性】と同じようなスキルであるため、検証する機会がないほうが良いと言ったほうがいいだろう。
というわけで、残るひとつであり大本命、【鋭利化】の検証を始めるとしよう。
「せいっ!」
突き出すように伸ばした触腕が鋭く、そして硬くなってゆく。
パキパキと音を立てて、まるで凍りつくように硬質化した僕の腕は、今や一振りの刃だった。
軽く振ろうとして、はたと気付く。そしてそれは僕の予想通りの結果になる。
「……遅い」
余りにも振り切るまでが遅く、これではどれほど切れ味がよくとも切れたものじゃない。
元々のゼリー種の陸での移動の遅さが完璧に仇になっていた。
最近は水中ばかりで、しかも【水中適性】のお陰で気にならなくなっていただけに、新たに手に入れたスキルが使いこなせないこの身体にショックを隠し切れない。
どこまでも足を引っ張るつもりか重力め。
「足になるようなものを手に入れるまで、しばらくは水中生活安定だなぁ」
一応水中では使えないこともなさそうなので、完全に死にスキルでないのが救いなのかな。
後は、全身から生やす様に使ってみた結果。見事にウニ状態でした。
おそらく傍から見ると白銀の巨大ウニに見えるだろう。
これは自衛の手段としていざというときに使えそうだ。訓練次第で展開速度も上げられるなら、刺突用にするのも良い。目指せ、ピンク悪魔の棘攻撃。
「よし、期待したほどではなかったけど落胆するほどでもない。検証終了!」
ひとまずの検証を終えたところで、宝箱の開封作業を再開する。他にも色々便利なものがあるかもしれないので回収を怠るつもりはない。
しかし、次々に手近な箱を開けてみるものの、最初の2個が当たりだった様で、4つ連続で空箱が続いたあたりで探索をやめるという選択肢が見え始めてきた。
収穫もあったが、今日はこの辺が潮時だろうか。
そう思い始めたときだった。8つ目になる箱を開けようと、そろそろ慣れ始めた鍵の消化が終わり、箱を押し開け――
……ギィィィィッ
箱の口に、今までの箱には無かった鋭利なギザギザが覗いていた。
それは圧し切る様な――そう、まるで歯の様な形の突起だった。
「――」
一瞬の事で惚けてしまっている間に、既に箱の中に伸びていた触腕が閉じる宝箱の鋭利な牙によって
――ブチン。
「うひゃぁあ!?」
何が起きたか理解するまでに数瞬。我に返り、咄嗟に陸上での最高速にて後方に離脱する。
直後、僕が立っていた場所へと再び開かれた宝箱の大口が地面を抉る様に閉じられた事でその判断は間違っていなかった事が証明された。
僕の目の前で食いちぎられた触腕が、宝箱の形をしたモノに咀嚼されてゆく。
咀嚼が終われば、箱は再び何事もなかったかのように沈黙し、不気味に僕の前に鎮座したまま動かなくなる。
「び、びっくりした……」
大した収穫も無く単調な作業が続いた所為で気が緩んでいたのだ。
僕は経験ではなく知識として、この存在を知っていたはずなのに、今の今まで全く考慮に入れずバカバカと宝箱を無防備に開け放っていた。
――“ミミック”。
頭によぎるモンスターの名前と、前世の知識から導き出された目の前の魔物を指すだろう情報に、改めて自分が油断している事を自覚する。
見慣れない遺跡や刀剣で浮かれていた。そんな事が許されるほど僕はこの世界に慣れていないというのに。
過ぎた事は仕方が無い、今はこの危機をどう乗り切るかを考えるしかない。
と言っても、すぐに良い案が浮かぶ訳ではない。最初にパッと浮かぶのは初めて格上とも言えるサメイルカことドンフィルを倒したときに使った【毒素生成】なのだが……問題はこいつが生き物かどうかという所だ。
無機物に効く毒など僕は知らない。仮にあったとしても、それを試す為にもう一度食われるというのは正直ごめんだ。
となると、次に浮かぶのはついさっき手に入れたばかりの【鋭利化】だけど、現在の【鋭利化】は武器化した触腕を自分で振るおうとすると致命的に速度が足りないという欠点がある。
さて、どうするかな。




