第6話 遺跡とお宝はワンセット
――ポーン。……ポーン……ポーン。
反響からするに、だいぶ奥まで続いている様子だ。
さすがに水中で使う前提のスキルでは陸上探知はおぼろげにしかわからなかったが、それでも動くものがないというのは理解できたのでよしとしよう。
感覚器官に集中すると微かにだが右側の方から風の流れを感じる事ができたので、あえて左側から先に探索する事にした。風があるという事は出口がそちらにあるという事で。
下手に出口などにでて鳥系モンスターに囲まれたら怖いので、先に内部を探索してからという非常に建設的な思考からの結論だった。
こまめに【索敵反響】を使用しつつ暗い石造りの床を歩く。それはもう慎重に。だって怖いし。
この暗さの所為なのか、ふと嫌な発想が頭に浮かぶ。
生き物はさすがにいないだろうが、もしかするとアンデット系はいるかもしれない。こんなファンタジーの世界で幽霊がいないというのも何とも都合が良い考えだ。世の中都合の良い事なんてそれほどない。
そして、もしスケルトンやゾンビみたいな実体のあるタイプでなく、ゴーストの様に非実体のモンスターが出てきてしまったら、僕は戦えるのだろうかという疑問だ。
今まではどんなに危険でも最悪毒を盛ってやれば何とかなった。しかし、物理攻撃も効かず、食べることもないアンデットではどうしようもない。
【捕食】が幽霊にも有効かなんて怖くて試せないしね。
……嫌な想像をしたせいでありもしない背筋がぶるっときてしまった。やれやれ、モンスターになってまで幽霊が怖いなんて、子供か僕は。
あるかどうかも分からないモノに震えるならば、さっさと探索を終わらせて帰ってしまえばいいのだ。ホラー映画を途中で中断する事ほど怖い事もない。
「おばけなんてなーいさ。おばけなんてうーそさ」
左側の通路が終わる。どうやら扉の様で、簡素な取っ手が付いた扉は見た事もない金属製でやや泥や苔などで汚れている物の、きっちり扉としての役割は果たしている。
触腕で取っ手を握って力いっぱい引っ張ってみたものの、僕程度の力ではビクともしない。
仕方がないのでいつものように扉に取り付き、【捕食】からの【消化吸収】で金属扉をがりごり消化する。
扉を溶かし終わり、自分一人が出入りできる程度の大きさの穴から室内へと入ってみると、中は箱が一杯の小部屋だった。
……これってもしかして宝箱ってヤツでしょうか。初めて見たよ。こんなテンプレ的な宝箱。
中身があるかは知らないが、宝箱と思しき長方形の箱が少なくとも10個以上、乱雑に置かれている小部屋。
慎重に一番近い箱に近寄ると、どうやら鍵が掛かっているようだった。
形状こそ初めて見るけど、どっちにしたって張り付いて溶かしてしまえば何も問題はない。本当に、この錠前を作った人には申し訳ない。だいぶ凝った装飾だったぶん、そんな思いが片隅によぎる。
「にしても、おいしくないなぁ。やっぱり」
便利だけど、味がいまいちなのが問題だよね。あまり美味しいとは言い難い。これで何も入っていなかったらどうしよう。
考えなしに開けてしまってからでは遅いとは思うが、慎重に蓋を押し開け、中を覗き込む。
「――か、かっけぇ!」
思わず声に出してしまったが、残念ながら僕の発声器官は【索敵反響】の為にしか存在しない。
つまりは無駄にソナーを発動させるだけに終わる。
だが、そんな事が気にならないほどに、僕は目の前のものに吸い寄せられていた。
そこにあったのは一振りの剣。
刀身の金属は何を使っているのか分からないが、このような古い遺跡の中で長年放置されていたにもかかわらず新品のように滑らかだ。
柄には美しい装飾で交差する剣と絡み合った龍が描かれ、龍の目は小振りの赤い宝石が据えられている。
初めて見る本物の刀剣。恐らく装飾的には儀礼剣なんだろう。こんな形状で戦えると思えないし。
それでも、触れたら切れてしまいそうな剣の魔力とも言うべき物に、僕は吸い寄せられるように触腕を動かして剣を取り出した。
触腕に掴まれた剣は物言わず、ただ、そこにあるというだけだが、それでも僕は満足だった。
他には何が入っているんだろう。一つ目で大きな発見をした僕は興味の赴くままに近くの二つ目の宝箱へと足を向ける。
今度の中身は短剣だった。マンゴーシュのように刺突に適した鋭く細い刀身は僕が突かれれば水風船の如く外皮が破けてしまうかもしれないほどに尖っていて、こちらも年代物のはずだが錆び一つ見当たらない。
2本を並べて置いて改めて観察する。その美しさはどちらも素晴らしく、真っ白な刀身は銀の様だがどこか非現実的な高貴さといえばいいのだろうか、ある種の神々しさすら纏っているように感じる。
もしかすると何か特別な物なのかもしれない。吸収すれば特性を獲得できる可能性もある。
「……」
喉はないが、気分的に生唾を飲み込む。悩みどころだ。もしスキルが得られれば食べるだけの価値はある。しかし、こんな素晴らしい刀剣を食べてしまってもいいものだろうか。
……悩むこと数分。
大いに勿体無い気もするが、結局おなかが空いて来た事もあわせて食べることを選択する。
勿体無いといっても、誰かがここに来る訳でもなければ、僕が使えるわけでもない。ならば少なくとも栄養になる可能性に賭けてみたほうが良いと思ったからだ。
という訳で、未だにやや未練が尾を引くが、決断が鈍らないうちに。
「いただきます」
今は亡き持ち主に合掌して2本ともすっぽりと取り込む。
……ハッカ飴にも似た爽やかな風合いと、凛とした舌触りが心地いい。
「おっ」
僕の中で消化されていく刀剣が混ざり合って、栄養になっていくのを感じる。
どうやらスキルが手に入ったようだ。
無機物でもスキルのある物は獲得できるらしいという発見もあって、今日は大収穫といえる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
新たにスキルを獲得しました。
【鋭利化】【幽体特効】【呪術耐性】
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
新たに3つものスキルを手に入れることが出来た。
しかし、名前を見るだけでは効果のわからないものもあるので、箱の開封を中断してスキルの確認を始める。
【鋭利化】
剣を取り込んだ事で、その身を刀剣のように鋭くすることが出来る。
【幽体特効】
聖別されたミスリル銀製の武器に付加されていたもの。
アンデット系モンスターに対して高い効果を発揮する他、実体のない存在に対して接触が可能になる。
【呪術耐性】
呪術に対して高い耐性を示す。
新たに獲得したスキルに目を通した所で、恒例の試運転だ。
特に、自分の体を刀剣のように鋭く出来る【鋭利化】は今後主軸に出来そうなスキルなので、色々試しておきたいな。
Name:【-----】
種族:ポイズンゼリー・天恵種
スキル:【●●の記憶】【言語理解】【無差別捕食】【消化吸収】【猛毒耐性】
【毒素生成】【水中適性】【索敵反響】【鋭利化】<New!>【幽体特効】<New!>
【呪術耐性】<New!>
スペル:
称号:【転生者】【哲学する軟体生物】




