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第29話 事案ですか?誤解だよ!

ストック切れでございます。

 再び陸へと乗り上げ一旦は子ゴブリンを降ろそうかと思ったのだが、どうにも抱きかかえられたままのほうがいいらしく、結局は腕に抱えたまま森の中を歩いていた。


 ……歩く、というか、泳ぐである。

 【水術】で集めた湖の水を【激流障壁】によって足元で循環させ、その上を泳ぐ事で陸地であっても水上と同じ速度で移動することが出来ていた。

 魚を収納した水は移動に使っている水とは別に足元に留めおいている為、魚達が目を覚まして暴れる心配もない。


『あっち』

「了解」


 時折、行き過ぎたり進路がずれているとこうして子ゴブリンが指をさして進路を示してくれるので、それに習って森の中、とりわけ大きい道を選んで進む。

 絶えず響く足元の水の音が珍しいのか、小動物が顔を出してはさっと逃げていくのが面白い。

 子ゴブリンも見慣れない高さを楽しんでいるようで、出会った時よりも表情が読みやすく感じられる。


 暫く進み、陽が真上に掛かるといった頃。不意に子ゴブリンが腕を引く。


『もう、そろそろ……』

「そっか」


 子ゴブリンの声から先ほどまでの元気が薄らいで、影を帯びる。

 まぁ、怒られるの分かってて帰らなきゃならないって大変だもんね。気持ちは分かる。

 それでも帰らないという選択肢はないし、帰れる場所があるというのも素晴らしい物なのだから、この子はちゃんと送り届けてあげたいと思う。

 ぎゅっと僕に抱きついてしまった子ゴブリンの背を軽くさする。


「ちゃんと謝れば許してもらえるよ。きっとね」

『う……ん』


 下の子が出来たみたいだなと思うのは束の間。

 発声に混ぜていた【索敵反響】が、この場に僕ら以外の存在がいることを告げる。


「誰だ!」


 下肢を打って後方へいくらか下がり、停滞。

 頭上、樹の上でこちらを窺っていた存在へと声を掛ける。


「降りて来い。こないなら撃つ」


 今は僕だけではない。子ゴブリンを守りながら戦わなければならないという気が声を荒げさせた。

 沈黙。水の音だけが、響く。


 ザザザッ!


 前方の木の枝が揺れて、直後に重い何かが着地した。

 ――ゴブリンだ。

 朝に見た大柄なそれとは別の個体。体躯としてはそこまで大きくはないものの、全身に目立つ傷がいくつもあること、さらに、こちらへと向ける眼光の強さが、このゴブリンは今までとは違うと感じさせる歴戦の戦士のような風格を醸し出している。


『そいつ、ワタしてもらう』

「嫌だって言ったら?」

『なら、シね!』

「お前がな!!」


 言葉に品がない。うん、やっぱりゴブリンだ。

 手に握られているのは、石を削りだした刃物らしきものが蔦によって巻きつけられた斧。ゴブリンの体躯からしたら大きめなそれを軽々と振り上げて迫ってくる傷ゴブリンに、僕も迎撃しようと――


「<水よ(アク)――>」

『ダメ!!!』

『「ッ!?」』


 至近で響いた声に思わず【水術】の操作がとまり、形を成そうとしていた水の弾丸が消える。


「……もしかして、知り合い?」


 子ゴブリンの掛けた制止でとまった傷ゴブリンを一瞥して、ふと思い至った疑問を子ゴブリンへと投げる。


『むらの、せんし、まとめて、る』

「戦士長……?」

『ナゼ、トめた。オサのムスメ』

『ぬしさま、たすけてくれた』

『ヌシ? ゲル・ガンガのか?』


 なにやら気になる言葉が飛び交っているが、どうにも僕が口を挟める内容でないことは分かるので黙って耳を傾けておく。

 というか、子ゴブリン女の子だったのか。おさって族長の事だよね? あれ、何気にこの子すごい重要人物?

 そりゃ消えたら騒ぎになるわ。帰ってきて誰かと一緒かつ村の人以外といたら警戒もするって。


「――あー。とりあえず、お互い武器を収めようか。どうやら誤解があるらしいし」

『……ワカった。だが、まずは、ムスメをカエしてモラう』

「うん。……それでいいよね?」


 小さく頷いて返してくれたのを見てから地面へと降ろし、躊躇うようにこちらを見上げる子ゴブリンの背を押して傷ゴブリンこと、ゴブリン戦士長のほうへと歩かせる。

 子ゴブリンが無事戦士長の下までたどり着けば、戦士長がこちらへと顔を向けて頭を下げてきた。


『ワルかった』

「ううん。こっちこそ、早とちりだったしね」

『レイがしたい。ついてコい』


 どこか口調が定まらないのは、【言語理解】の限界なのか、それとも単にそういう話口調なのか。

 まぁ、どちらにせよ敵意は感じられないし、子ゴブリンもついてきて欲しそうにしているので否やはない。


 もうすでに抱きかかえる必要もない……かと思いきや、


「気に入った?」

『うん!』


 子ゴブリンは現在僕の肩の上である。

 来る途中までと同じく機嫌がよくなったようだしまぁいいかな。


「気にしなくていいよ。苦じゃないし」


 先導役を交代した戦士長がこちらを一瞥して困ったような顔を向けてくるが、その纏う空気がどうにも、親戚の子供が手を掛けさせているようなニュアンスに聞こえてしまい思わず苦笑で返す。


『……すまない』


 そんな風に謝られるとますます僕の中での戦士長の印象が親戚のおじさん化してしまうんだけど、それで良いんだろうか。

 その辺りは僕が憂慮する事ではないし、そろそろ村らしきものが見えてきた。

 ……そういえば、ゴブリンの文明力ってどの程度なんだろう。

以降はある程度書き溜まり次第、連日での投下という形になるかと思います。

気長にお待ちいただければ幸いです。

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