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第26話 どこの世界でも暴漢は一緒らしい

ヒロイン登場回。

 日も上がり、翌日。

 ぐっと身体を伸ばしては縮め、心ばかりの準備運動と、生簀から何匹か取り出しての朝食を済ませて湖へと出る。


「ああ、今日もいい天気だ」


 東からやってくる太陽は水面をキラキラと照らし、水中に幾筋もの光の帯を、さながらカーテンのごとく揺らめかせてその存在を主張していた。

 【索敵反響】の使用を兼ねた鼻歌を交え湖の南端を目指す。


 急いでいるわけではない。普段どおりのペースでそろそろ岸へとたどり着くかという時だった。


『――』

『……、……!!』

『――!?』


 水面越しに聞こえた声に、思わず鼻歌を止めて耳を澄ます。


『や、やだ、こないで』

『うるさい、はやくこい』

『やだ、やだ、やだぁ!!』


 聞くに堪えない。というのは、こういうのを言うんだろうか。

 水面から乗り上げ、水を巻き上げる。

 暫定、僕の湖の傍で不埒な事をしようとしている阿呆の顔を拝んでやろうじゃないか。


「――僕の家の傍で、朝っぱらから何をしてるんだい?」


 【激流障壁】によって突如湧き上がった水の柱。その上に身を預け、見下ろすように視界を向ける。


『グゲッ!? な、なんだオマエ!』

『ひっ!?』


 見つめ返してくる、2対の瞳があった。

 右手に太い棍棒を握り締めた大柄のゴブリンと、今にも湖に落ちんばかりのがけっぷちで座っている小柄なゴブリンがそこにいた。

 ゴブリン同士のいさかいに首を突っ込んでしまった形になるが、そこはそれ、種族が人間から置き換わってみたところでやることは変わらない。


「何って。ここを住処にしてる者だよ。それで、お前こそ、ひとの家の庭先で何のつもり?」


 【狂乱の声】を向けて威圧すれば、不埒者――大柄なゴブリンがじりっと後退りする。

 動かずにいる小柄なゴブリンのほうへと意識を向ければ、僕が見ているのが伝わったのか、大柄なほうよりも大きな反応で小柄なゴブリンが目を見開いていた。


「……助けは必要?」


 昨日食べたゴブリンの声帯を利用して、普通の発声を心がけて声をかける。

 何も一方的に介入するなんて事をするつもりはない。もしかしたらこれがゴブリン流の逢引かもしれない。そんなことを考えてしまったがゆえの問いかけだった。

 これが逢引ならすっげぇ迷惑だななんて、思ってないったら思ってない。


『た、たすけて!!!』


 小柄なゴブリンの悲鳴にも似た懇願。それを聞いて大柄なゴブリンが棍棒を振り上げ、


『オマエ、シャベるな!』

『きゃあ!?』

「――あっ」


 小柄なゴブリンの身体が逃げようと後ろへと引いた拍子、湖へと落ちる。

 ドポンと沈む音が響く。


「ああ、もう」


 後を追って湖の中へともぐれば、小柄なゴブリンは突然水没したことでパニックを起こしているようで、ばたばたと無思慮に手足をふってもがいている所だった。


「暴れないで、水面まで運べないから!!」

『ッ!?』

「一瞬でいいからじっとしててね」


 言いつつ、上半身を巨大魚のものからゴブリンのものへと【擬態】させ、小柄なゴブリンを抱きかかえてぐんと尾びれを叩いて【加速】する。


『っ!!!』


 【激流障壁】によって邪魔な水流がよけられ、迅速に水面へと飛び出せば、数秒ぶりの空気に小柄ゴブリンがむせ返る感触が腕を通して伝わってきた。


「大丈夫?」

『え、だ、だれ……?』

「さっきまで話してた魚類もどきだよ。抱きかかえるのには魚の姿は不向きだからね」


 あわてて擬態したからか、ちょっと中途半端感が否めないのは事実である。

 なにせ巨大魚こと、バルハムルドの下半身に、ゴブリンの上半身、そして解除をわすれた額の白銀剣だ。おまけに色合いは透けるような水色とくれば、純粋なゴブリンからしてみたら訳が分からないだろう。


『ぬし、さま……』


 小柄ゴブリンが気になることをつぶやいているけど、それよりまずは聞くべき事を聞いておこう。


「さて、改めて問うよ。僕の助けは必要?」


 腕の中のゴブリンはこくこくと、何度も首を縦に振る。

 肯定はこの世界でも共通らしい。


「さて、この子は僕に助けを求めた。その上で、僕はこれに応じるつもりでいるが――お前は僕の敵か(・・・・・・・)?」

『ッ!!』


 問いかければ、僕に見下ろされる形になった大柄なゴブリンはだっと踵を返して木々の向こう、森の中へと走り去って行く。

 どうやら戦わず済んだようだ。

 威圧しておいてなんだが、もし戦いになったら加減ができる気がしない。さすがに同族の前で同族を殺すというのはどうかと思うしね。


 当座の危険も去った事で僕がこのゴブリンを抱きかかえる理由もなくなったわけで、【激流障壁】による水の足場を湖の岸辺まで伸ばし、腕の中のゴブリンの足を陸地へと乗せてやる。


『……、……』


 地に足が着いたことを確認するように、何度か地面を足踏みして確かめていた小柄なゴブリンがこちらへと振り返る。


『あ、ありがと、ぬしさま』


 短く、素朴な言葉だ。だが、僕の頬は自然と緩んでいた。


「いいえ。どういたしまして」


 この世界へと転生してから初めてお礼を言われた。そのことが、今は何よりも嬉しかったのだった。

幼女ヒロインです。これで読者人気も間違いないですね。


……誰がなんと言おうと幼女ヒロインです。

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