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第24話 ゴブリンとかいう保存食

 ハーピーを食べてから数時間。

 高くなった日も徐々に傾き始めていたが、僕はいまだに森の中にいた。

 広がる森の中、僕の周りだけは静寂とは程遠い。


『みかけないやつだ!!』

『もってかえってくおう!!!』

『そうしようそうしよう』


 僕を囲むようにけたたましく鳴き喚く赤茶色の小人。

 王道の緑色をしたゴブリンとは違う様だが、どこをどう見てもゴブリンだ。

 ただ、僕の身長が――主に目線がだが――低い所為だろう、イメージしていたよりずっと大きい。

 ホブゴブリンとかいう奴だろうか。思えばゴブリンとは緑色の小鬼というイメージが強いが、彼らは赤色だ。

 赤いからといって三倍早いわけではないだろう。ゴブリンがハーピーより強いという気がしないし。


 何故僕が囲まれているのにここまで余裕かといえば、簡単だ。

 僕の周囲を包囲するゴブリンを阻むように展開されている()があるからである。


「――さて、僕としてはそっちからこないなら襲う気はないんだけど?」


 牽制するように新しく手に入った【狂乱の声(パニックボイス)】で話し掛けてみる。

 これで相手が尻込みする様であれば間違いなく僕よりも弱い事になるしね。

 そういう意味では丁度良い試金石でもある。


『なんかコイツ、やばくないか?』

『あいつつよそうだぞ』

『あっち、いっぴき。こっち、3にん、かてるかてる』


 なにやら相談しているようだが、明らかに威圧されている。腰が引けているぞゴブリン諸君……。

 なんだか弱いものいじめをしているような気がして気が滅入る。


『や、やるぞ!』

『『おう!!』』

「あ、やっぱりダメな感じ? なら――後は君たちに期待するのは味だけだね」


 敵対者(ゴブリン)に対して喰らうという意思を叩きつける様に声に威圧を乗せれば、ゴブリンたちのリーダー格らしい一匹の両肩がビクッと跳ねた。

 引くならそれでいいと思ったが、どうやら難しいようで、手に持った棍棒――おそらくは樹を石か何かで削りだした原始的なそれだ――を振り上げてこちらへと迫ってくる。


「――<水よ奔れ驟雨の如く(アクア・バレット)>」


 霧を構成する水分を、水滴へと変えて空中にとどめるイメージ。

 ハーピーを仕留めた暴雨の乱舞、ではない。

 今度はきちんと出力制御までイメージし、単発による一撃必殺を心がけてみる。


『ッ!?』


 僕の周囲を漂う霧が、一瞬で密度を上げてビー玉サイズの水の弾へと変わってゆく。

 僅かに霧が薄くなってゴブリン達の血走った目と合うが、


「おやすみ」


 次の瞬間には宙に浮かんだ水が矢の如くゴブリン達の眉間、胸、首へとそれぞれ突き刺さる。

 ゴブリン達の瞳から光が消えて、ぐらりと体が傾いでゆくのを見ながら薄くなった霧を戻すために再び【水術】を使う。


「<霧よ舞え胡蝶の夢に(ディープ・ミスト)>」


 唱えれば弾丸へと変えた水が霧散して、再び視界が白い水煙で満たされてゆく。

 これは、ハーピー戦の時に水を離れていても【水術】が発動した事で新たに考えた事だ。

 あれから少しばかり試してみたところ、術というのは触媒ともいえる起点――【水術】の場合、水や水分そのものが起点として使用できるようだ――さえあれば魔力次第で維持し続けることが出来るようだった。

 魔力といっても僕自身そんなものを感じ取れるわけではないから、暫定的にそういうものがあると仮定してるだけだけど。

 ともあれ、元々水があれば引っ張っていく事で何時でも水場を再現できると気付き、色々試してみた結果である。

 ただ、液体の水としてそのまま引きずるとお腹が空く感じがあるので、おそらくは燃費が良くないのだろうと工夫し、この形が一番楽だという事で落ち着いたのだった。


「ま、お腹空くって言ってもこれだけ動き回って小魚数匹くらいだし、ゴブリン達(こいつら)で十二分にお釣りがくるんだけどね」


 といっても、味が味なら別の獲物を探して口直しを考えなければならないだろう。もう蟹の二の舞は御免である。

 倒れ臥して動かなくなったゴブリン三体を一箇所にまとめ、心の内側で手を合わせようとし、ふと、ハーピーの腕――つまりは翼なわけだが――をはやして手を合わせる。


「命の恵みに感謝して、いただきます」


 別段、祈りと感謝、供養の心があれば形なんて関係ないとは思うけど。やはりこういうものは出来る部分はやっておくに限る。

 せっかく腕と声を手に入れたからには、しっかりと作法に則っていただきますをするべきなのだ。


 祈りを捧げ終え、そのまま翼で抱き込むように1匹目を体内へと収めて消化する。

 味で失敗したくないというなら別に口があるわけでもないし、部分部分で食べればいいと思うかもしれない。

 だが、僕の場合、噛み千切る器官があるわけでもない。欠片から食べようとすると、強酸で溶かしているようなえげつない断面図の大変グロテスクな光景になってしまうので自主規制している。


「むぐ。……ん、んー? ……お、おお!!」


 咀嚼し始める前までは蟹みたいにハズレだったら嫌だなぁなんて考えていた。

 けれど味が味覚を刺激し始める頃になればそんな考えはすぐになくなってしまった。


「美味すぎる!!!」


 そう、これはさしずめ、噛めば噛むほど味が染み出してくるジャーキーだ。

 肉質がやや硬いところも含めてジャーキーっぽくてそこもポイントが高い。見た目さえ気にしなければ上質なジャーキーで通る味だった。

 大変満足。塩気が素晴らしい。塩とは生命の源であり、ミネラルとは命の素だ。


「いやぁ、いやぁ、ゴブリンだと内心ちょっと侮ってた」


 これからはお腹が空いているか、向こうから仕掛けてくる限りにおいてはゴブリンも常食リストに加える事を心に決めた。

 あれよあれよという間に2匹、3匹と食べてしまい、気付けば軽い満腹感と味覚に残る微かな辛さが心地よく、ちょっと喉が渇いた気もするがそれもまたジャーキーっぽくてちょっと嬉しいななどと思っていると、いつもの感覚が頭にキーンと響く。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 新たにスキルを獲得しました。


 【身体強化:弱】


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 なにやら期待が高まる素敵なスキルを手に入れられたようだ。ゴブリン、侮りがたし。


 【身体強化:弱】

 力や敏捷などが上がる。

 効果は体感で分かるかどうかというほど微量。


 だがしかし、やはりゴブリンと言った所か。

 手に入ったスキルは今までで一番判断に困る微妙なものだった。


「うーん……これといった違いも分からないし」


 ……本当に意味があるんだろうか。

 Name:【-----】


 種族:アクアスライム・天恵種(てんけいしゅ)


 スキル:【●●の記憶】【言語理解】【無差別捕食】【消化吸収】【猛毒耐性】

      【毒素生成】【水中適性】【索敵反響】【高速鋭利化】【幽体特効】

      【呪術耐性】【擬態】【加速】【極彩鎧鱗】【激流障壁】

      【極寒耐性】【狂乱の声(パニックボイス)】【身体強化:弱】<New!>


 スペル:【水術】


 称号:【転生者】【哲学する軟体生物】【水陣の御手】

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